サウジアラビアの砂漠には巨大な「緑の円」がある!?【約2万年前の水によって成り立つ農業】

サウジアラビアと聞くと、どこまでも続く砂漠や、厳しい暑さを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

しかし、その広大な大地には、私たちが想像する砂漠のイメージとは大きく異なる、驚きの景色が存在しています。

第161回雑学調査レポートでは、そんな「サウジアラビア」に関する雑学をご紹介していきます。

目次

サウジアラビアの砂漠に現れる「緑の円」とは?

サウジアラビアの砂漠を人工衛星から撮影すると、茶色い大地に緑色の円がいくつも並んでいる場所があります。

円はほぼ同じ大きさで、きれいに並んでいるものもあります。まるで巨大なコンパスで地面に描いたような、不思議な光景です。

こうした景色が見られる場所の一つが、サウジアラビア北部にある「ワディ・アス・シルハン盆地」です。

アメリカ航空宇宙局の『NASA』は、2024年3月5日に人工衛星から撮影した、この地域の画像を公開しています。そこには、広大な砂漠の中に緑色や茶色の円が数多く並ぶ様子が写っていました。

実は、これらの円は人間が造った農地です。

サウジアラビアでは、雨がほとんど降らない砂漠でも農作物を育てられるように、地下から水をくみ上げて農地に供給しています。

緑色に見えるのは、小麦などの穀物や野菜、果物といった農作物が育っているためです。

ただし、農地が丸くなっているのは、見た目を美しくするためではありません。農作物に水をまく設備の仕組みが関係しています。

なぜ農地が円形になる?巨大な散水設備の仕組み

サウジアラビアの農地が円形になっている理由は、「センターピボット灌漑(かんがい)」と呼ばれる農業技術にあります。

「灌漑」とは、農作物を育てるために、人工的に水を供給することです。

センターピボット灌漑では、農地の中央に回転の中心となる設備を設置し、そこから横方向に長い散水装置を伸ばします。

散水装置には、水をまくためのスプリンクラーがいくつも取り付けられています。また、長い装置を支えるため、途中には車輪付きの支柱が設けられています。

この車輪がゆっくり動き、散水装置全体が農地の中央を軸に回転する仕組みです。

分かりやすく例えると、時計の針と同じような動きをします。

時計の針は、中心を動かさずに、先端が円を描くように回ります。センターピボット灌漑の散水装置も、これと同じように回転します。

その間、スプリンクラーから水がまかれ、円形の範囲にある農作物へ水が届きます。

つまり、散水装置が回転して水をまく範囲が円形になるため、上空から見ると、丸い農地が現れるのです。

この方法では、広い農地に水を供給する作業を機械で行えます。また、水をまく量やタイミングを調整できるため、農作物の成長に合わせた管理もしやすくなります。

『NASA』によると、センターピボット灌漑には、従来の地表を流れる水で農地を潤す方法と比べて、水や肥料の使用量を管理しやすいという利点があります。

水を必要なタイミングで適切な量だけまくことは、日差しが強く、水が蒸発しやすい砂漠で特に重要です。

円形農地の直径は約1km!どれほど大きい?

サウジアラビアの円形農地には、直径が約1kmもある巨大なものが存在します。

『NASA』が2012年に公開したワディ・アス・シルハン盆地の写真でも、直径約1kmの円形農地が紹介されています。

直径1kmということは、円の端から反対側の端まで1,000mあるということです。

仮に直径がちょうど1kmの円であれば、その面積は約78万5,000平方メートル、約78.5ヘクタールになります。

これほど広い範囲に水を届けるため、農地では長い散水用の配管と、それを動かす車輪付きの設備を組み合わせています。

散水装置はゆっくりと回転しますが、広い範囲にある農作物へ順番に水を供給できます。

人が農地全体を歩き回って水をまく必要がなく、大規模な農業にも利用しやすい仕組みとなっています。

砂漠で使う水はどこから来る?地下に眠る約2万年前の水

サウジアラビアの円形農地には、もう一つ興味深い特徴があります。

それは、農作物を育てるために使われている水が、非常に古い地下水だということです。

砂漠は雨が少なく、地面も乾燥しています。しかし、地下まで完全に水がなくなっているわけではありません。

サウジアラビアの地下には、大昔に蓄えられた大量の水が存在する地域があります。

こうした古い地下水は「化石水」と呼ばれています。

化石水とは、はるか昔に地中へ入り、長い年月にわたって地下に蓄えられてきた水のことです。

『NASA』によると、ワディ・アス・シルハン盆地の円形農地に使われている地下水は、約2万年前のものと考えられています。

約2万年前は、地球が現在よりも寒かった「最終氷期」と呼ばれる時代です。

当時は現在と気候条件が異なり、雨などの水が地中へ浸透して、地下深くの地層に蓄えられたと考えられています。

その水が長い年月を経て現在まで残り、砂漠の農業を支えているのです。

地下水はどこに蓄えられている?

ワディ・アス・シルハン盆地で利用されている地下水は、主に「アル・ディシ帯水層」と呼ばれる地層に蓄えられています。

帯水層とは、地下水を多く含んでいる地層のことです。

地下水というと、地面の下に巨大な湖が広がっている様子を想像するかもしれません。

しかし、地下水の多くは、砂や岩石にある細かな隙間などに蓄えられています。

例えば、水を吸い込んだスポンジの中には、たくさんの小さな隙間があります。地下の地層も、これに似た仕組みで水を蓄えている場合があるのです。

アル・ディシ帯水層は、主にサウジアラビアの地下に広がり、一部は隣国のヨルダンにも及んでいます。

農地では、こうした地下の地層から井戸を使って水をくみ上げ、散水装置へ送っています。

地下水が深い場所にあるため、井戸を掘る作業も大規模になります。

『NASA』によれば、サウジアラビアでは地下水を確保するため、深さ約1kmに達する井戸が掘られた例もあります。

砂漠に並ぶ緑の円は、地上の農業設備だけでなく、地下深くに蓄えられた古い水によって成り立っているのです。

緑色の円と茶色の円があるのはなぜ?

サウジアラビアの円形農地を衛星画像で見ると、すべてが緑色になっているわけではありません。

濃い緑色の円もあれば、薄い緑色や茶色の円もあります。

この違いには、農作物の成長や収穫の状況が関係しています。

例えば、小麦などの農作物が成長して葉が茂っている畑は、上空から緑色に見えます。

一方、収穫が終わった畑では、農作物の葉がなくなり、地面の土が目立つようになります。そのため、茶色に見えることがあるのです。

また、しばらく農作物の栽培を休んでいる「休耕地」も、茶色に見える場合があります。

つまり、緑色の円は農作物が育っている場所、茶色の円は収穫後や休耕中などの場所であることが多いのです。

『NASA』が公開した2024年3月5日の衛星画像でも、農作物が育っている円は緑色、休耕中の円は茶色に見えます。

同じ農地でも、種をまいてから収穫するまでの間に、色が変化することがあります。

衛星画像では農地が赤く見えることもある

衛星画像の中には、緑色の農地が赤色で表示されているものもあります。

これは、画像の色の表現方法が異なるためです。

一般的な写真は、人間の目で見た色に近い形で表現されています。一方、人工衛星では、人間の目には見えない光も観測できます。

こうした光の情報を、見やすい色に置き換えたものが「疑似カラー画像」です。

『NASA』が2026年5月6日に公開したサウジアラビアの農業に関する映像では、2024年から2025年1月までの衛星観測データが使われています。

この映像では、近赤外線という目に見えない光と、赤色や緑色の光の観測データを組み合わせています。

その結果、元気に育っている植物は鮮やかな赤色で表現され、元気のない植物や休耕中の農地は黒色や灰色などで表示されます。

実際に植物が赤く変色したわけではありません。

植物の成長状態を分かりやすく観察するため、通常の写真とは異なる色を使っているのです。

このように、衛星画像では、農地の色を見ることで農作物の状態を調べられます。ただし、色の意味は画像の作り方によって変わるため、どのような方法で表示されているかを確認することが大切です。

サウジアラビアの円形農地はいつから増えた?

現在、ワディ・アス・シルハン盆地には多くの円形農地が広がっていますが、数十年前から同じ景色だったわけではありません。

『NASA』によると、1986年に撮影された衛星画像では、現在のような緑色の農地はほとんど確認されていませんでした。

当時は、砂や小石が広がる乾燥した土地が大部分を占めていたのです。

その後、地下水をくみ上げる設備やセンターピボット灌漑が導入され、農地が少しずつ増えていきました。

『NASA』が2012年5月12日に公開した資料では、1987年、1991年、2000年、2012年の衛星画像を比較できます。

画像を年代順に見ると、初めは数が少なかった円形農地が、時間の経過とともに増えていく様子が分かります。

さらに、2024年3月8日に公開された資料では、2000年3月6日と2024年3月5日に撮影された画像が紹介されています。

同じ地域を撮影した2枚の画像を比べると、約24年間で農地が広がり、それまで砂漠だった場所にも円形農地が造られたことを確認できます。

このような変化は、地下水を利用した農業がサウジアラビアで発展してきたことを示しています。

砂漠ではどのような農作物を育てている?

サウジアラビアの円形農地では、さまざまな農作物が栽培されてきました。

『NASA』が2012年に公開した資料では、ワディ・アス・シルハン盆地で小麦や野菜、果物などが栽培されていると説明しています。

また、2026年に公開された『NASA』の映像では、サウジアラビアの主要な農作物として、トウモロコシ、大麦、ソルガム、小麦の4種類が取り上げられています。

このうちソルガムは、日本では「モロコシ」とも呼ばれる穀物です。乾燥に比較的強い種類があることでも知られています。

農作物は種類によって、種をまく時期や収穫する時期が異なります。

そのため、同じ時期に撮影した衛星画像でも、ある農地では作物が青々と育ち、別の農地ではすでに収穫が終わっていることがあります。

『NASA』が公開した2024年から2025年1月までの映像では、季節の移り変わりとともに、円形農地の色が変わっていく様子も確認できます。

砂漠の農業には問題も?約2万年前の地下水が減る可能性

センターピボット灌漑は、雨が少ない砂漠でも大規模な農業を行える技術です。

しかし、この農業を長く続けるうえで、大きな課題となっているのが地下水の減少です。

サウジアラビアの円形農地で利用されている化石水は、長い年月をかけて地下に蓄えられた水です。

雨が多い地域では、地面に染み込んだ雨水によって地下水が補給されることがあります。

一方、サウジアラビアの乾燥地帯では、雨が非常に少なく、地下水が十分に補給されにくい状況にあります。

そのため、地下水を大量にくみ上げ続けると、蓄えられている水の量が減っていきます。

化石水は、短い期間では補給が追いつきにくいため、限りある水資源として考える必要があります。

地下水位が年間最大約6m下がった地域もある

地下水の減少は、サウジアラビアの別の農業地域でも報告されています。

『NASA』は2019年12月14日、サウジアラビア南部の「ワディ・アド・ダワシル」周辺で、農業による地下水の利用が地下の水資源に大きな影響を与えていることを紹介しました。

この地域でも、センターピボット灌漑による農業が行われています。

農地では主に小麦やアルファルファ、野菜などが栽培され、地下からくみ上げた水が利用されています。

アルファルファは、牛などの家畜の飼料として使われる植物です。

『NASA』によると、この地域で利用されている地下水は、3万年以上前のものとされています。

北部のワディ・アス・シルハン盆地で紹介されている約2万年前の地下水とは、場所も年代も異なります。

また、『NASA』が紹介した国連の報告では、ワディ・アド・ダワシル周辺で、1980年代以降に地下水位が年間最大約6m低下したことがあるとされています。

地下水位とは、地下に存在する水の水面が、地面からどれくらい深い位置にあるかを示すものです。

例えば、地下水位が地表から50mの深さにあった場合、さらに10m低下すると、地下水位は地表から60mの深さになります。

地下水位が下がると、これまで使っていた井戸では水を確保しにくくなったり、より深い場所から水をくみ上げる必要が生じたりします。

地下水の減少が進めば、農業に使える水そのものが不足する可能性もあります。

なお、年間最大約6mという数字は、ワディ・アド・ダワシル周辺で報告されたものです。サウジアラビア全体の地下水位が、毎年同じ速さで下がっているという意味ではありません。

農業を続けるには水をどう使うかが重要

センターピボット灌漑には、広い農地に水をまき、使用量やタイミングを管理しやすいという利点があります。

一方、広大な農地で農作物を育て続けるには、まとまった量の水が必要です。

特に、雨による補給が少ない化石水を使う場合は、地下水をどれだけくみ上げるかが重要になります。

限られた水を有効に使う方法としては、植物の根元に少しずつ水を届ける「点滴灌漑」や、温室を利用した農業などもあります。

『NASA』も、より持続可能な農業の方法として、温室栽培や点滴灌漑への転換に言及しています。

砂漠で農作物を育てる技術が発展したことで、これまで農業に利用しにくかった土地でも、多くの作物を生産できるようになりました。

その一方で、農業を将来にわたって続けるには、地下水の残りの量や補給される量を調べながら、水の使い方を管理していくことが重要になります。

サウジアラビアの「緑の円」はどこで見られる?

サウジアラビアの円形農地は、現地へ行かなくても、公開されている衛星画像や宇宙飛行士が撮影した写真で見ることができます。

特に分かりやすいのは、サウジアラビア北部のワディ・アス・シルハン盆地です。

『NASA Science』では、2012年2月21日に国際宇宙ステーションから撮影された写真が公開されています。

この写真には、茶色い砂漠の中に、濃い緑色や薄い緑色、茶色の円がいくつも並んでいる様子が写っています。

一つひとつの円の形が分かりやすく、農地がどれほど大きいかを実感できる画像です。

また、『MODIS Web』では、2000年3月6日と2024年3月5日の画像を比較できます。

約24年間で円形農地がどのように増えてきたのかを調べるのに適しています。

さらに、『NASA Science』が2012年に公開した「Crop Circles in the Desert」では、1987年、1991年、2000年、2012年の4つの時期を比較できます。

サウジアラビア南部のワディ・アド・ダワシル周辺にも円形農地があり、『NASA Science』では2000年と2017年の衛星画像が紹介されています。

一方、農作物の成長による色の変化を見たい場合は、2026年5月6日に公開された『NASA Scientific Visualization Studio』の「Saudi Arabia’s Desert Agriculture」が参考になります。

この映像では、2024年から2025年1月までの観測データを使い、季節によって農地の様子が変わることを確認できます。

普段、畑は地面の上から眺めるものですが、宇宙から見ると、その形や広がり方がよく分かります。

サウジアラビアの砂漠に並ぶ緑の円は、農業技術によって土地の景色が大きく変化したことや、地下深くの水が農業を支えていることを教えてくれる光景なのです。

まとめ

  • サウジアラビアの砂漠に見られる巨大な緑の円の正体は、人工的に造られた農地
  • 円形になる理由は、中央を軸に散水装置が回転する「センターピボット灌漑」という農業技術
  • 円形農地には直径約1kmに達するものもあり、非常に広い範囲で農作物を栽培している
  • 農業に使われている水は、約2万年前に地下へ蓄えられた「化石水」
  • 緑色の円は農作物が育っている農地、茶色の円は収穫後や休耕中の農地であることが多い
  • 1980年代以降、地下水を利用した農業が発展し、砂漠の円形農地は大きく拡大した
  • 大量の地下水をくみ上げることで水資源の減少が進み、一部地域では地下水位が年間最大約6m低下した時期もある
  • 砂漠で農業を続けるためには、限りある地下水を適切に管理することが重要

何もないように見えるサウジアラビアの砂漠にも、実は人間の技術によって生み出された驚きの光景が広がっています。

宇宙から見える巨大な緑の円は、砂漠でも農業を可能にする工夫の一つだったのです。

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