本物の夜空とプラネタリウムの星空は、よく似ているように見えます。しかし、じっくり比べると、いくつもの小さな違いがあります。その一つが、星の輝き方です。
第89回雑学調査レポートでは、そんな「プラネタリウム」に関する雑学をご紹介していきます。
プラネタリウムの星が静かに輝く理由
実際の夜空に見える星は、明るさが細かく変化し、揺れるように輝いています。一方、プラネタリウムのドームに映し出された星は、多くの場合、ほとんど瞬きません。小さな光の点が、同じ位置で安定して輝いています。
この違いは、投影機の性能が低いことによるものではありません。
実際の星が瞬いて見える主な原因は、星そのものではなく、地球の大気です。恒星は基本的に安定した光を放していますが、その光が地球の大気を通過するときに進む方向や届く量が乱されます。その結果、地上からは星の明るさや位置が短時間で変化しているように見えるのです。
プラネタリウムの星の光は、投影機からドームまでの数メートルから数十メートルほどを進むだけです。実際の星の光のように、地球を包む厚い大気の層を通過しないため、夜空で見られる不規則な瞬きは自然には発生しません。
この点では、瞬かないプラネタリウムの星空は、大気による揺らぎの影響を受けにくい宇宙空間からの見え方に近いといえます。国際宇宙ステーションのように、地表付近の濃い大気よりもはるかに高い場所では、大気の乱れによる星の瞬きは基本的に見られません。
ただし、すべてのプラネタリウムで星が瞬かないわけではありません。投影装置や上映作品によっては、地上から見た夜空に近づけるため、人工的な瞬きが加えられています。
本物の星が瞬いて見える仕組み
遠くの恒星から出た光は、長い時間をかけて宇宙空間を進み、地球へ届きます。宇宙空間には地表付近のような濃い大気がほとんどないため、星の光は地球の大気圏に入るまで、比較的安定した状態で進みます。
しかし、地球の大気は均一ではありません。
大気中には、温度や密度の異なる空気の層や塊が存在します。暖かい空気と冷たい空気では、光の曲がり方がわずかに異なります。さらに、これらの空気は風によって絶えず動いているため、光が通過する環境も短時間で変わり続けます。
星の光が状態の異なる空気を次々に通過すると、光の進む方向や観察者へ届く量が細かく変化します。その結果、星の明るさや見える位置が小刻みに変動しているように見えます。
大気の乱れによって星の明るさなどが変化する現象は、「大気シンチレーション」または単に「シンチレーション」と呼ばれます。

星の瞬きには、主に次のような変化が含まれます。
- 星の明るさが変わる
- 星の位置が揺れて見える
- 星の色が変化して見える
- 星の形がわずかに崩れて見える
恒星が短時間に何度も点滅しているわけではありません。恒星と観察者の間にある大気が、星の光の見え方を変えているのです。
プラネタリウムが星空を映す方法

プラネタリウムでは、施設内に設置された投影装置からドームへ光を送り、人工的な星空を作ります。
星空を投影する方法は、大きく分けて光学式とデジタル式があります。両方を組み合わせたハイブリッド方式を採用している施設もあります。
光学式の投影装置
光学式または光学機械式と呼ばれるプラネタリウムでは、星空投影機から細い光を出し、ドーム上に小さな点として星を映します。
代表的な仕組みの一つが、恒星の位置に対応した小さな穴を投影機の内部に設け、その穴から光を通す方法です。光ファイバーを使って、一つひとつの星へ光を送る方式もあります。
ZEISSの光学式投影機には、光ファイバーやLED光源を使い、小さく鋭い星を投影する機種があります。
光学式は、明るく細い点状の星を表現しやすいことが特徴です。暗いドームの中では、針で開けた小さな穴から光が漏れているような、はっきりとした星に見えます。
デジタル式の投影装置
デジタル式では、コンピューターで作った星空や宇宙映像を、1台または複数台の映像投影機からドーム全体へ映します。
星の位置や明るさだけでなく、惑星の動き、銀河、星雲、宇宙旅行などの映像を連続して表示できます。観察地点を地球から別の惑星や宇宙空間へ移動させるような表現も可能です。
デジタル式では、星の明るさを時間とともに変化させられます。実際の大気による瞬きに近い表現を加えたり、音楽や物語に合わせて星を点滅させたりすることもできます。
光学式とデジタル式を組み合わせる方法
光学式とデジタル式を組み合わせた設備は、「ハイブリッド方式」と呼ばれます。
ハイブリッド方式では、光学式投影機が作る鋭い星空と、デジタル式の立体的な宇宙映像を同時に使用できます。
例えば、地上から夜空を眺める場面では光学式の星を映し、地球を離れて宇宙空間へ進む場面ではデジタル映像を重ねる、といった使い方が可能です。
光学式とデジタル式の長所を組み合わせることで、星の見え方を保ちながら、自由度の高い映像表現を実現できます。
室内の空気では星がほとんど瞬かない理由
プラネタリウムの室内にも空気は存在します。しかし、投影機からドームまでの距離は、一般的に数メートルから数十メートル程度です。実際の星の光が地球の大気を通過する経路と比べると、影響を受ける範囲は非常に限られています。
室内では、空調や人の移動によって空気が動くこともあります。投影機の周辺とドーム付近で温度差が生じる場合もあるでしょう。
それでも、室内の短い距離を光が進むだけでは、夜空の恒星と同じような、肉眼ではっきり分かる瞬きが生じることは通常ありません。
また、プラネタリウムの星は、投影装置によって決められた明るさで出力されています。投影機や映像システムが光量を変えない限り、ドーム上の星の明るさはほぼ一定です。
こうした理由から、ドームに映る星は不規則に揺らぐことなく、安定した光の点として見えます。
プラネタリウムの星が瞬かないのは、人工的で不自然だからではありません。大気による揺らぎが加わる前の、安定した星の光に近い見え方と考えることもできます。
瞬く星は投影装置が作った演出
プラネタリウムによっては、星が細かく瞬いて見えることがあります。
この瞬きは、室内の空気によって偶然発生しているのではなく、投影装置や映像システムによって意図的に作られている可能性があります。
ZEISSは、投影された星を瞬かせるシンチレーション機能の導入例を公開しています。
韓国・ソウル科学公園のプラネタリウムに導入された投影システムでは、制御命令によって投影された星を瞬かせる機能が採用されました。ZEISSは、この機能を、地球の大気によって起こる自然な星の瞬きを再現するものと説明しています。
デジタル式のシステムでも、星の明るさを短い間隔で細かく変えれば、瞬いているように見せられます。
システムによっては、次のような項目を調整できます。
- 瞬きの速さ
- 明るさの変化量
- 色の変化
- 星ごとの瞬くタイミング
- 星の高度による瞬きの強さ
- 場面に応じた瞬きの有無
地上から星を見る場面では瞬きを加え、宇宙空間から見る場面では瞬きを止めると、観察地点による違いを分かりやすく表現できます。
ただし、瞬きの作り方や再現できる範囲は、投影装置やソフトウェアによって異なります。星が瞬いて見える施設が、すべて同じ機能や仕組みを使っているわけではありません。
地平線に近い星ほど強く瞬く理由
実際の夜空では、空の高い場所にある星よりも、地平線に近い星のほうが強く瞬く傾向があります。
頭上に近い星の光は、地球の大気を比較的短い経路で通過します。一方、地平線付近の星の光は、大気の中を斜めに長く進まなければなりません。
通過する大気の量が増えるほど、温度や密度の異なる空気の影響を受けやすくなります。その結果、地平線に近い星では、明るさや位置、色などの変化が目立つようになります。
主に見られる変化は次のとおりです。
- 明るさが大きく変わる
- 星の位置が揺れて見える
- 赤や青などの色が入れ替わる
- 星がぼやけたり広がったりする

特にシリウスのような明るい恒星が地平線近くにあると、赤、青、緑、白などの色が短時間で入れ替わるように見えることがあります。
これは、シリウス自体が急激に色を変えているためではありません。
光は色によって屈折の程度がわずかに異なります。大気の状態が変化すると、観察者へ届く色の割合も変わるため、星がさまざまな色に点滅しているように見えるのです。
プラネタリウムで地平線付近の星だけが強く瞬いている場合は、実際の大気を通して見た星空を細かく再現している可能性があります。
反対に、ドーム全体の星が同じ速さや同じ強さで点滅している場合は、自然現象の再現ではなく、簡略化された映像効果や作品上の演出かもしれません。
恒星と惑星で瞬き方が違う理由
夜空に見える明るい光が、恒星なのか惑星なのか分からないときは、瞬き方が見分ける手がかりになります。
恒星は地球から非常に遠く離れています。そのため、肉眼ではほぼ一点の光源として見えます。
一点に集中した光は、大気の小さな乱れによる影響を受けやすくなります。光の進む方向が少し変わるだけでも、明るさや位置の変化が目立つためです。
一方、金星、火星、木星、土星などの惑星は、恒星よりも地球に近い天体です。肉眼では惑星も点のように見えますが、実際には小さな円盤状の広がりがあります。
惑星の表面にある異なる場所から届く光は、それぞれ少しずつ異なる大気の影響を受けます。ある部分から届く光が弱くなっても、別の部分から届く光が強くなる場合があります。
複数の場所から届く光の変化が平均化されるため、惑星は恒星よりも安定して見えやすいのです。

NASAも、恒星は点光源として大気の影響を受けやすく、惑星は小さな円盤として見えるため、明るさの変化が平均化されやすいと説明しています。
ただし、「恒星は必ず瞬き、惑星は絶対に瞬かない」という決まりではありません。
惑星が地平線の近くにある場合や、大気が激しく乱れている場合には、惑星も揺れたり瞬いたりして見えることがあります。そのため、瞬き方だけで天体の種類を完全に判断することはできません。
星図アプリで位置を調べたり、数日間の動きを観察したりすると、より確実に見分けられます。
プラネタリウムで確認したいポイント
プラネタリウムを訪れたときは、上映開始直後の星空を注意深く観察すると、投影方式や演出の違いを見つけられます。

星が小さく鋭く見えるか
星が針の先のように小さく、はっきりと見える場合は、光学式投影機による星である可能性があります。
光学式投影機は、小さく明るい点状の星を表現することを得意としています。映像投影機で表示する星と比べて、輪郭が鋭く見えることがあります。
ZEISSの小・中型ドーム向け投影機「SKYMASTER ZKP 4 LED」は、北天と南天を合わせて約7,000個の星を投影します。およそ6.3等級までの星を対象とし、一つひとつの星が光ファイバーによって照らされます。
ただし、投影できる星の数や明るさは、投影機の機種、ドームの大きさ、施設の設定によって異なります。すべての光学式投影機が、同じ数や明るさの星を映すわけではありません。
瞬き方が不規則か
自然な星の瞬きは、大気の状態に左右されるため不規則です。
星ごとに異なる速さやタイミングで細かく明滅している場合は、大気の揺らぎを再現した演出である可能性があります。
一方、すべての星が同時に明るくなったり、同じ間隔で点滅したりする場合は、自然現象の再現というより、映像作品としての演出と考えられます。
地平線付近と頭上で違いがあるか
地平線に近い星だけが強く瞬き、頭上の星が比較的安定している場合は、光が通過する大気の量まで考慮して再現している可能性があります。
ドーム全体で同じ強さの瞬きが使われている場合は、簡略化されたシンチレーション表現かもしれません。
星の高度によって明るさや色の変化に違いがあるかを確認すると、演出の細かさが分かります。
場面によって星の見え方が変わるか
地上の夜空では星が瞬き、宇宙空間へ移動すると瞬きが消える場合は、観察地点による見え方の違いを表現しています。
ハイブリッド方式のプラネタリウムでは、地上の星空を光学式投影機で表現し、宇宙旅行や天体解説の場面をデジタル映像で表示できます。
星が瞬いているかどうかだけでなく、星の大きさ、鋭さ、色の変化、瞬いている場所にも注目すると、投影装置や制作者の工夫をより深く楽しめます。
まとめ
- 実際の星が瞬いて見える主な原因は、星そのものではなく地球の大気にある
- 大気中の温度や密度の違いによって、星の光の方向や届く量が細かく変化する
- プラネタリウムの光は短い距離しか進まないため、夜空のような瞬きは自然には発生しない
- プラネタリウムで星が瞬いて見える場合は、投影装置や映像システムによる演出の可能性が高い
- 地平線付近の星は通過する大気の量が多いため、頭上の星より強く瞬きやすい
- 恒星は点光源に近いため大気の影響が目立ち、円盤状の広がりを持つ惑星は比較的瞬きにくい
- 光学式投影機は小さく鋭い星を映しやすく、デジタル式は瞬きや宇宙映像を自由に表現できる
- 星の瞬き方を観察すると、投影方式や演出の細かさを見分ける手がかりになる
夜空の星を瞬かせているのは、遠く離れた恒星ではなく、私たちのすぐ近くにある地球の大気です。プラネタリウムの静かな星空と本物の夜空を見比べると、普段は意識しない大気の存在が見えてきます。
星の瞬きは、宇宙の光と地球の空気が一緒に作り出している現象なのです。
参考文献
- NASA StarChild「Why do stars twinkle?」
- NASA Science「What’s Up: June 2024 Skywatching Tips from NASA」
- European Southern Observatory「Adaptive Optics」
- European Southern Observatory「Twinkle twinkle little star」
- European Space Agency「Starstruck」
- ZEISS「Star Projectors」
- ZEISS「Hybrid Planetariums」
- ZEISS「New projection technology from ZEISS for planetarium in South Korea」
- ZEISS「SKYMASTER ZKP 4 LED」

