秋になると旬を迎える柿。甘くてみずみずしいものもあれば、そのままでは食べにくいほど強い渋みを持つものもあります。同じ柿なのに、味に大きな違いがあるのは不思議ではないでしょうか。
第136回雑学調査レポートでは、そんな「柿」に関する雑学をご紹介していきます。
渋柿が渋いのは「水に溶けるタンニン」があるから
渋柿をそのまま食べると、口の中がキュッと締まるような強い渋みを感じます。この渋みの原因が「タンニン」という成分です。
ただし、タンニンが含まれているだけで、必ず強い渋みを感じるわけではありません。重要なのは、そのタンニンが「水に溶ける状態」になっているかどうかです。
『農林水産省』によると、柿の渋みのもとは「水溶性タンニン」です。水溶性とは、その名前のとおり水に溶ける性質を意味します。水溶性タンニンが口の中で溶けると、強い渋みを感じます。
では、なぜタンニンが口の中に入ると渋く感じるのでしょうか。
『農研機構』では、水溶性のタンニンが舌などのタンパク質と結びつくことで渋みを感じると説明しています。『東京農業大学』も、タンニンが舌や口の中の粘膜にあるタンパク質と結びつくことで、口の中が締め付けられるような感覚が生じるとしています。
つまり、渋柿を食べたときの独特な感覚は、タンニンが口の中のタンパク質に作用することで生まれているのです。
干し柿にしてもタンニンそのものが消えるわけではない
非常に渋い渋柿でも、干し柿にすると渋みをほとんど感じなくなります。
ここで起きている大きな変化は、タンニンがなくなることではありません。水に溶けていたタンニンが、水に溶けにくい状態へ変化しています。
『東京農業大学』では、渋抜きをしたり干し柿にしたりしても、タンニンそのものがなくなるわけではないと説明しています。水に溶ける「水溶性タンニン」が、水に溶けにくい「不溶性タンニン」へ変わることで、渋みを感じにくくなります。
『農林水産省』も、甘柿や渋抜きをした渋柿では、タンニンが水に溶けにくい状態になることで渋みを感じなくなると説明しています。渋柿を干し柿にした場合にも、同じように渋みが抜けます。
そのため、干し柿の変化は「渋い成分が消える」というより、「渋い成分は残っているものの、口の中で溶けにくくなる」と考えると分かりやすいでしょう。
タンニンを水に溶けにくくする「アセトアルデヒド」
タンニンの状態を変えるうえで重要な役割を持っているのが「アセトアルデヒド」という物質です。
『農研機構』によると、タンニンはアセトアルデヒドによって凝固し、水に溶けにくくなります。渋柿に炭酸ガスやエチルアルコールを使って渋抜きをすると、果実の中でアセトアルデヒドが生じます。それによって水溶性タンニンが水に溶けにくくなり、渋みを感じにくくなる仕組みです。
干し柿でも、このアセトアルデヒドが重要になります。
『静岡県立大学』では、皮をむいて柿を干すと、果実の内部でエタノールが生じ、それがアセトアルデヒドへ変化すると説明しています。できたアセトアルデヒドがタンニンと結びつくことで、タンニンが水に溶けにくい状態になります。
外から見ると、干し柿作りは「柿の皮をむいて干しているだけ」に見えます。しかし柿の内部では、タンニンの性質を変えて渋みを感じにくくする変化が進んでいるのです。
「渋抜き」は渋い成分を柿の外へ出すことではない
「渋抜き」という言葉からは、柿の中にある渋い成分を外へ抜き取っているようにも聞こえます。
実際には、一般的な渋抜きでタンニンそのものを取り除いているわけではありません。
アルコールや炭酸ガスを使って果実内にアセトアルデヒドを生じさせ、水溶性タンニンを水に溶けにくい状態へ変えています。
つまり「渋を抜く」とは、実際の仕組みに近い言い方をすれば「渋みを感じるタンニンを、渋みを感じにくい状態へ変えること」です。
干し柿も方法こそ異なりますが、最終的にはタンニンが水に溶けにくくなり、強い渋みを感じなくなる点では共通しています。
干し柿が甘くなる大きな理由は「水分が減るから」
渋みを感じなくなっただけでも、柿が持つ甘味は分かりやすくなります。しかし、干し柿が生の柿より濃厚な甘さになる理由は、それだけではありません。
もう一つの大きな変化が「水分の減少」です。
柿を干すと、果実に含まれていた水分が少しずつ蒸発します。一方、柿の中に含まれる糖の多くは果実に残ります。その結果、水分に対する糖の割合が高くなり、甘さが濃くなります。
砂糖水をイメージすると分かりやすいでしょう。同じ量の砂糖が入った砂糖水でも、水だけを減らせば味は濃くなります。干し柿でも、これに近いことが起きています。
1954年に発表された干し柿の糖に関する研究では、乾燥によって干し柿の甘味が増す主な理由は、水分の蒸発によって糖の濃度が高くなるためだと報告されています。乾燥中、糖の絶対量には大きな変化がみられなかったとされています。
そのため、干し柿については「干すことで大量の糖が新しく作られる」と考えるより、「水分が減り、もともと含まれていた糖が濃縮される」と考えるほうが仕組みを理解しやすくなります。
渋みが弱くなることで、もともとの甘さも感じやすくなる
渋柿という名前から、「渋柿は甘くない柿」と思われることがあります。しかし、渋柿にも糖は含まれています。
『東京農業大学』では、渋柿にももともと多くの糖分があり、水溶性タンニンによる渋味や苦味を感じなくなることで、甘さが際立つと説明しています。
つまり、生の渋柿では強烈な渋みがあるため、糖による甘味を楽しみにくい状態になっています。
干すことでタンニンが水に溶けにくくなると、その強い渋みが感じにくくなります。同時に、水分が減って糖が濃縮されるため、甘味そのものも強くなります。
干し柿の濃厚な甘さは、「渋みを感じにくくなる変化」と「水分が減って糖が濃縮される変化」が重なって生まれているのです。
干し柿の表面に付く白い粉も糖に関係している
干し柿の表面を見ると、白い粉で覆われているものがあります。
一見するとカビのようにも見えますが、伝統的な干し柿に自然に現れる白い粉は、柿に含まれる糖が表面へ移動し、結晶化したものです。
『農林水産省』は奈良県の「つるし柿」について、柿に含まれる糖分が果実の表面へにじみ出て結晶化すると、白い粉になると説明しています。品種によって粉の出やすさは異なり、表面へ均一に粉を出すためには製造上の技術も必要です。
福井県の「今庄つるし柿」についても、表面の白い粉は糖分が結晶化したものとされています。
また、山形県の「紅柿の干し柿」では、乾燥させた柿を手でもみ、さらにタワシをかけることで、糖の結晶である白い粉を出やすくする伝統的な工程があります。
1954年の研究でも干し柿の白い粉が調べられており、その研究では白粉の甘味成分としてブドウ糖が確認されています。
白い粉は、柿の中にある糖と水分の状態が、乾燥によって大きく変化したことを目で確認できる特徴の一つといえます。
甘柿も小さいうちは渋い
普段そのまま食べている甘柿は、最初から渋みがないわけではありません。
『農林水産省』によると、甘柿も果実が幼い時期には渋みがあります。成長して収穫時期を迎えるころには、タンニンが水に溶けにくい状態へ変わるため、渋みを感じなくなります。
『農研機構』も、柿の渋みのもとは水溶性タンニンであり、タンニンが水に溶けない状態になると渋みを感じなくなると説明しています。
そのため、甘柿と渋柿の違いは、単純に「タンニンが入っているかどうか」ではありません。
食べごろになったときに、水に溶けるタンニンがどの程度残っているのかが重要です。
甘柿では、果実が成長する途中でタンニンが水に溶けにくくなっていきます。一方、渋柿では成熟しても水溶性タンニンが残るため、そのまま食べると強い渋みを感じます。そこで、渋抜きをしたり干し柿にしたりして、タンニンを水に溶けにくい状態へ変えてから食べるのです。
まとめ
- 渋柿の渋みの原因は、水に溶ける「水溶性タンニン」にある
- 干し柿にしてもタンニン自体が消えるわけではなく、水に溶けにくい状態へ変化する
- アセトアルデヒドがタンニンを水に溶けにくくし、渋みを感じにくくする
- 「渋抜き」は渋い成分を取り除くのではなく、タンニンの性質を変える仕組み
- 干し柿が甘くなる大きな理由は、水分が減って糖が濃縮されるため
- 渋みが弱くなることで、渋柿がもともと持っている甘味も感じやすくなる
- 干し柿の表面に付く白い粉は、柿に含まれる糖が結晶化したもの
- 甘柿も幼い時期には渋く、成長とともにタンニンが水に溶けにくくなる
同じ柿でも、タンニンの状態や水分量が変わることで、味わいは大きく変化します。
普段何気なく食べている干し柿も、その甘さの裏側を知ると、少し違った見方ができるかもしれません。
参考文献
- 農林水産省「甘柿と渋柿「しぶがき」の違いについて教えてください。」
- 農林水産省「18年10月号 文字情報」
- 農研機構「今が旬の「カキ」のお話」
- 東京農業大学「大人の味、親の味 渋柿は甘い」
- 静岡県立大学「薬草園歳時記「22」柿 2022年9月」
- 農研機構「渋ガキ「太天」および「太月」の脱渋特性」
- CiNii Research「Food Chemical Studies on Persimmon Fruit 「1」」
- 農林水産省「干し柿「ほしがき」|にっぽん伝統食図鑑」
- 農林水産省「つるし柿「つるしがき」|にっぽん伝統食図鑑」
- 農林水産省「紅柿の干し柿「べにがきのほしがき」|にっぽん伝統食図鑑」
- 農林水産省「今庄つるし柿「いまじょうつるしがき」|にっぽん伝統食図鑑」

