ラーメン丼の渦巻きは、ただの飾りではない!?【3000年以上続く模様の正体】

ラーメン丼には、なぜ似たような模様が描かれているのでしょうか。

店も地域も異なるのに、どこか共通した印象を持つ器が使われていることがあります。単にラーメンらしさを演出するための飾りなのか、それとも何らかの理由があるのか、気になったことがある人もいるでしょう。

第78回雑学調査レポートでは、そんな「ラーメン」に関する雑学をご紹介していきます。

目次

ラーメン丼の四角い渦巻き模様は「雷文」

昔ながらのラーメン丼には、縁の部分に四角い渦巻き模様が描かれていることがあります。この模様は、一般に「雷文」と呼ばれています。読み方は「らいもん」です。

雷文は、一本の線を直角に折り曲げながら、四角い渦巻きのように構成した文様です。一つだけを単独で配置することもありますが、同じ形を横方向へ繰り返し、帯状につなげて使う例が多く見られます。

辞書や百科事典では、雷文の特徴として、主に次の点が挙げられています。

  • 正方形や長方形を思わせる角ばった渦巻きである
  • 同じ形を連続させて使うことが多い
  • 器や建物などの縁飾りに用いられる
  • 大きな文様の背景を埋める地文としても使われる

ラーメン丼に描かれた雷文は、現代になって考案された単なる飾りではありません。古代からさまざまな器物に使われてきた、非常に長い歴史を持つ文様です。

雷文の歴史は3000年以上前の古代中国にさかのぼる

雷文の歴史は、現在のラーメン文化よりもはるかに古く、古代中国にまでさかのぼります。

中国では、商(殷)・周時代の青銅器をはじめ、陶器や骨角器などの工芸品にも雷文が使われていました。商は、おおむね紀元前16世紀ごろから紀元前11世紀ごろまで続いたとされる古代中国の王朝で、その後に周の時代が続きます。

この時代に作られた青銅器には、龍や鳥、動物、想像上の生き物などを表した大きな文様が施されています。その主文様の周囲や背景を、細かな雷文で埋める装飾が多く見られます。

大英博物館が所蔵する商代の蓋付き青銅酒器にも、雷文とみられる角形の渦巻き模様が使われています。この酒器は、2羽のフクロウを背中合わせにしたような形を持つ祭祀用の器で、製作年代は紀元前1200年から紀元前1000年ごろとされています。鳥や龍などの文様を囲む背景には、細かな角形の渦巻きが連続して施されています。

古代中国の青銅器と現在のラーメン丼では、用途も材質も製造方法も異なります。それでも、現代の食堂で見かける模様と同じ系統に属する装飾が、3000年以上前の工芸品にも使われていたことは確かです。

身近なラーメン丼の模様は、古代中国の美術や工芸につながる長い歴史を持っています。

雷文はなぜ「雷」の文様と呼ばれるのか

「雷文」という名前から、空を走る稲妻をそのまま図案化した模様だと思うかもしれません。しかし、雷文がどのような過程で生まれたのかは、完全には明らかになっていません

雷文の起源については、主に雷や稲妻に由来するという説と、龍の文様から変化したという説があります。

雷や稲妻を表したという説

一つは、雷の光や稲妻の動きを図案化し、角ばった渦巻きへ変化させたという説です。

雷は空に突然現れ、大きな音や雨を伴います。古代の人々にとって、雷は人間の力では制御できない、強大な自然の力を感じさせる現象だったと考えられます。その力を器物の表面に文様として表した可能性があります。

ただし、実際の稲妻は直線や枝分かれした形に見えることが多く、雷文の四角い渦巻きと完全に一致するわけではありません。長い年月の中で形が整理され、装飾として使いやすい文様へ変化したとも考えられます。

龍の文様から変化したという説

古代中国で使われていた龍の文様が次第に簡略化され、雷文へ変化したとする説もあります。

中国文化における龍は、水、雨、雲、雷などの自然現象と深く結びついた存在です。長い体を曲げた龍の姿や、その動きを表す文様が単純化され、角形の渦巻きになった可能性も指摘されています。

ただし、雷や稲妻に由来する説と龍に由来する説のうち、どちらが正しいのかは確定していません。「古代の人々が稲妻を見て、その形をそのまま四角い模様にした」と断定できる資料も十分ではありません。

そのため、雷文は、雷、雲、雨、龍などと関係して成立した可能性がある古い文様として理解するのが適切です。

雷文が繰り返し描かれる理由

雷文は、一つの渦巻きを単独で置くよりも、同じ形を連続させて使うことが多い文様です。これは、雷文の形が器や建物の縁を飾るのに適しているためです。

直線を直角に折り曲げて構成するため、同じ模様を一定の間隔で規則正しく並べられます。線を連続させることもできるので、細長い場所を帯状に飾る装飾に向いています。

ラーメン丼は円形ですが、雷文の数や一つひとつの大きさを調整すれば、器の縁を一周するように配置できます。丼の内側と外側のどちらにも使いやすく、中央に描かれた龍や鳳凰などの図柄を囲む枠としても機能します。

古代中国の青銅器では、雷文は主役となる動物文様の背景を埋める地文として使われました。現代のラーメン丼では、主に器の縁を飾る帯状の模様として用いられています。

使用される場所や目的は変化していますが、同じ形を繰り返して配置しやすいという特徴は、古代から現代まで共通しています。

雷文には雨や豊かさの意味があるとされる

雷文には、雷や雨の力と関係する意味が込められていると説明されることがあります。

国立国会図書館のレファレンス協同データベースで紹介されている『こども文様ずかん』では、雷文は中国で3000年以上前から使われており、雷の力によって天の水があふれ、大地を潤すと考えられていたという趣旨の説明が掲載されています。

農作物を育てるためには、雨が欠かせません。雷は恐ろしい自然現象である一方、雨の到来を感じさせる現象でもあります。そのため、雷を表すとされる文様には、次のような意味が重ねられた可能性があります。

  • 雨の恵み
  • 大地の豊かさ
  • 農作物の成長
  • 自然の力
  • 生命力

ただし、古代から現代まで、すべての雷文に同じ意味が込められていたとは限りません。

雷文は非常に長い期間にわたり、広い地域で使用されてきました。時代、地域、工芸品の種類、使用する人によって、文様の意味や受け止め方が異なっていた可能性があります。

古代の祭祀用青銅器に施された雷文と、現代のラーメン丼に印刷された雷文を、まったく同じ意味のものとして扱うこともできません。現代の食器では、伝統的な意味よりも、中華料理らしい雰囲気を表す装飾として採用されている場合が多いと考えられます。

「雷文は魔除けの模様」とは断定できない

ラーメン丼の四角い渦巻き模様について、魔除けの意味があると説明されることもあります。しかし、「雷文には必ず魔除けの意味がある」と断定するのは適切ではありません

国立国会図書館のレファレンス協同データベースで紹介されている児童書の一つには、ラーメン丼の模様を「雷文」ではなく「八卦(はっけ)」と呼び、クモの巣を描いた魔除けの模様だとする説明があります。

このように、資料によって模様の名称や由来、意味が異なる場合があります。ラーメン丼に角ばった模様が描かれていても、すべてが同じ文様を表しているとは限りません。雷文によく似た別の幾何学文様や、複数の文様を組み合わせた図柄である可能性もあります。

また、模様が雷文であったとしても、食器の製造者や使用者が魔除けの意味を意識していたとは限りません。単に中華料理らしさを表すための装飾として採用されることもあります。

雷文は、雷、雨、自然の力、豊かさなどと関連づけて説明される文様です。一方で、その意味が一つに固定されているわけではなく、あらゆる雷文を魔除けの模様とする根拠も十分ではありません。

雷文がラーメン丼に使われた正確な経緯は不明

雷文が古代中国の工芸品に使われていたことは、現存する青銅器などの実物や、辞書・百科事典の記述から確認できます。

一方、雷文がいつ、誰によって日本のラーメン丼に取り入れられたのかについては、広く認められた定説がありません

ねとらぼの記事では、東京のかっぱ橋道具街にある陶磁器専門店「小松屋」の話として、同店の先々代にあたる店主が、雷文を中華料理向けの食器に取り入れたと紹介されています。古くから中国で使われていた文様を採用し、食器の見た目から中国らしい雰囲気を伝えようとしたという見方です。

ただし、これは一つの店舗に伝わる話をもとにした情報です。日本全国で使われている雷文入りのラーメン丼が、すべて同じ人物や店舗を起点として広まったと確認されているわけではありません。

同じ時期に、複数の食器メーカーや販売店が、中国風の意匠として雷文を採用した可能性もあります。そのため、小松屋に伝わる話を、ラーメン丼における雷文の唯一の起源と断定することはできません。

ラーメン丼に雷文が定着したと考えられる理由

雷文がラーメン丼に取り入れられた正確な経緯は不明ですが、代表的な模様として定着した理由はいくつか考えられます。

中国らしい雰囲気を表現しやすい

日本でラーメンや中華料理が広がっていく過程では、料理の味だけでなく、店内装飾や食器の見た目によっても、中国らしさを伝える必要があったと考えられます。

雷文は、古代中国の青銅器や陶器などに使われてきた文様です。器の縁に雷文を描けば、料理が運ばれてきた瞬間に、中国文化を連想させる視覚的な印象を与えられます。

現在では、赤い雷文が描かれた白い丼そのものが、昔ながらのラーメン店を象徴する意匠の一つになっています。

丼の縁に配置しやすい

雷文は、同じ形を連続させる文様なので、円形の丼を一周するように配置できます。模様の大きさや間隔、繰り返す数を調整しやすく、器の内側にも外側にも描けます。

模様を帯状に配置すれば、器の中央部分を空けたまま、縁だけに装飾を加えることも可能です。スープや料理が入った状態でも模様の一部が見えやすく、食器の特徴を保てます。

龍や鳳凰などと組み合わせやすい

雷文は、器の縁を飾る枠としても使えます。

丼の中央や側面に龍、鳳凰、漢字、花などを描き、その周囲に雷文を配置すれば、異なる図柄を一つの器の中にまとめられます。幾何学的な雷文と、曲線の多い龍や鳳凰を組み合わせることで、全体に変化を付けることも可能です。

遠くからでも模様を認識しやすい

角ばった線を繰り返す雷文は、比較的単純で分かりやすい形をしています。細かな絵柄が見えにくい場所でも、帯状に連続する雷文は認識しやすく、中華料理用の器らしい印象を作れます。

印刷や絵付けの方法に合わせて線を太くしたり、模様を簡略化したりしやすいことも、食器の装飾に適した特徴です。

こうした条件が重なり、雷文はラーメン丼を代表する模様の一つとして定着した可能性があります。

ラーメン丼に描かれる雷文以外の文様

昔ながらのラーメン丼には、雷文以外にも、中国文化を連想させるさまざまな図柄が描かれています。

西山製麺株式会社は、ラーメン丼に使われる代表的な図柄として、龍、鳳凰、雷文、双喜文の四つを紹介しています。

龍は、中国文化に登場する想像上の生き物です。一般には、角、長い体、鋭い爪、うろこなどを持つ姿で表されます。

水、雲、雨、雷などを操る存在として描かれ、中国では強大な力や権威の象徴として扱われてきました。皇帝を象徴する意匠として用いられた歴史もあります。

ラーメン丼では、細長い体をくねらせた龍が、器の内側や外側に大きく描かれることがあります。雲、炎、波、宝珠などの図柄と組み合わされる場合もあります。

鳳凰

鳳凰も、中国文化に登場する想像上の生き物です。鳥に似た姿をしており、長い尾や華やかな羽を持つ姿で表現されます。

鳳凰は、平和、繁栄、幸福などを象徴する存在とされています。資料によっては、龍を皇帝、鳳凰を皇后に対応させて説明することもあります。

ラーメン丼では、羽を広げた姿や、長い尾をなびかせる姿で描かれます。龍と鳳凰が同じ器に配置される場合もあります。

双喜文

双喜文は、「喜」という漢字を二つ横に並べたような文様です。「喜びが二つ重なる」という形から、中国では特に結婚に関係する縁起のよい文字として使われています。

新郎と新婦、二人の喜びを表すものとされ、結婚式の飾り、贈り物、家具、衣服、食器などにも用いられます。

ラーメン丼に描かれる場合は、結婚という本来の用途に限らず、幸福や祝い事を連想させる中国風の装飾として使われています。

ラーメン丼の雷文を見分ける方法

雷文を見分けるときは、色ではなく、「角形の渦」と「模様の繰り返し」に注目します。

線が直角に曲がっている

典型的な雷文は、線が丸く曲がるのではなく、直角に折れながら渦巻き状に進んでいます。全体として、四角い迷路や、角張った「の」の字のように見えることもあります。

線が滑らかな曲線を描いている場合は、波文、雲文、唐草文など、別の文様である可能性があります。

同じ形が連続している

雷文は、一つの渦だけで終わらず、同じ形を横方向へ繰り返していることが多い文様です。ラーメン丼では、内側または外側の縁に沿って、帯のように描かれています。

一つひとつの渦が独立して並ぶ場合もあれば、一本の線が途切れずに続いているように見える場合もあります。

色だけでは判断できない

雷文の色に決まりはありません。昔ながらのラーメン丼では赤色がよく使われますが、青、緑、黒、金などで描かれたものもあります。

同じ赤色の模様であっても、雷文ではなく、花、雲、波、唐草などを表している場合があります。色だけで判断せず、線の曲がり方や繰り返し方を確認する必要があります。

別の図柄と組み合わされることがある

雷文の間や内側には、龍、鳳凰、花、漢字、店名などが配置される場合があります。

器全体に多くの図柄が描かれていても、縁の部分に四角い渦が連続していれば、その部分は雷文である可能性が高いでしょう。

一方、渦が丸い曲線で描かれている場合、同じ形が規則的に繰り返されていない場合、八角形など別の図形が組み合わされている場合は、雷文以外の文様である可能性があります。

まとめ

  • ラーメン丼の四角い渦巻き模様は、一般に「雷文」と呼ばれる
  • 雷文は、直角に折れ曲がる線を連続させた帯状の文様である
  • 雷文の歴史は3000年以上前の古代中国にまでさかのぼる
  • 古代中国では、青銅器の主文様を囲む背景や縁飾りとして雷文が使われた
  • 雷文の起源には、雷や稲妻を図案化した説と、龍の文様から変化した説がある
  • 雷文は、雨の恵み、大地の豊かさ、自然の力などと関連づけられている
  • 雷文に必ず魔除けの意味があるとは断定できない
  • 雷文が日本のラーメン丼に取り入れられた正確な時期や経緯は分かっていない
  • 中国らしさを表現しやすく、丼の縁に配置しやすいことが定着の理由と考えられる
  • 雷文は、線が直角に曲がり、同じ角形の渦が連続しているかどうかで見分けられる

普段は何気なく見過ごしているラーメン丼の模様にも、3000年以上前の古代中国につながる歴史があります。

現代のラーメン店で使われる雷文と、古代の青銅器に施された雷文では、用途や受け止められ方が同じとは限りません。それでも、長い時間を超えて似た形の文様が残り、現在も身近な食器を飾っていることは興味深い点です。

一杯のラーメンを食べるとき、その丼には料理の味だけでなく、遠い時代から続く文様の歴史も添えられています。

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