Wi-Fiが遅くなる原因には、回線の混雑、ルーターの設置場所、端末の不具合など、さまざまなものがあります。そのため、特定の家電を使っているときだけ問題が起きていても、原因に気づかないことがあります。
第76回雑学調査レポートでは、そんな「Wi-Fi」に関する雑学をご紹介していきます。
電子レンジとWi-Fiは同じ周波数帯を使っている
電子レンジを動かしたときに、動画が止まったり、オンライン会議の音声が途切れたりすることがあります。この現象は、主に2.4GHz帯のWi-Fiを使っているときに起こります。
日本の2.4GHz帯Wi-Fiでは、おおよそ2,400~2,483.5MHzの周波数が使われています。一方、一般的な家庭用電子レンジが食品の加熱に使う周波数は、2.45GHz、つまり2,450MHz付近です。
2,450MHzは、2.4GHz帯Wi-Fiが利用する範囲の中に含まれています。そのため、電子レンジから外部へ漏れた微弱なマイクロ波が、Wi-Fi通信に影響することがあります。

電子レンジの内部は金属で囲まれており、扉の窓にも細かな金属製の網が取り付けられています。マイクロ波が外へ出にくい構造になっていますが、外部へ出るエネルギーを完全にゼロにできるわけではありません。
電子レンジから外へ出るマイクロ波が安全基準を下回る程度であっても、非常に弱い電波を使うWi-Fiにとっては、無視できない雑音になる場合があります。
2.4GHz帯はWi-Fi専用ではない
2.4GHz帯は、Wi-Fiだけが使用している周波数帯ではありません。次のような機器も、同じ周波数帯やその周辺を利用しています。
- 電子レンジ
- Bluetooth機器
- 一部のコードレス電話
- ワイヤレスマウスやキーボード
- 一部のRFID機器
- 一部の産業・科学・医療用機器
- アマチュア無線機器
このように多くの機器が利用しているため、2.4GHz帯は比較的混雑しやすい周波数帯です。
特に集合住宅では、周囲の家庭で使われているWi-Fiルーターの電波も通信に影響します。近隣のWi-Fiによってすでに混雑しているところへ電子レンジの雑音が加わると、通信がさらに不安定になることがあります。
電子レンジが2.45GHzを使う理由
電子レンジが2.45GHzを使う理由について、「水分子が2.45GHzで共振するから」と説明されることがあります。しかし、この説明は正確ではありません。
水は2.45GHz以外の周波数でも電磁波を吸収します。また、2.45GHzは、水による電磁波の吸収が最も大きくなる周波数ではありません。水による吸収の強さは、周波数だけでなく、温度などの条件によっても変化します。
食品には、水分だけでなく、脂質、糖質、たんぱく質、塩分なども含まれています。そのため、電子レンジによる食品の温まり方は、水分量だけで決まるものではありません。
電子レンジの内部では、変化する電界によって、食品に含まれる極性を持つ分子やイオンが動こうとします。その過程で電磁波のエネルギーが熱へ変わり、食品が温まります。この仕組みは「誘電加熱」と呼ばれます。

2.45GHzが家庭用電子レンジで広く使われている背景には、次のような事情があります。
- 産業・科学・医療用途に利用できる周波数帯として制度上割り当てられている
- 対応する部品や技術が広く普及している
- 家庭用の加熱装置を製造しやすい
- 食品内部への届きやすさと加熱効率のバランスがよい
- 製造コストを抑えやすい
- 世界各国で関連する設備や規格が普及している
したがって、2.45GHzは単に「水が最もよく電波を吸収する周波数だから」という理由だけで選ばれているわけではありません。
電子レンジのマイクロ波がWi-Fiを遅くする仕組み
Wi-Fi通信では、ルーターから送られた電波を、スマートフォンやパソコンなどの端末が受信しています。受信側の端末は、届いた電波の中から必要なWi-Fi信号を見つけ、周囲の雑音と区別しなければなりません。
この区別のしやすさを表す代表的な指標が「SNR」です。SNRは「Signal-to-Noise Ratio」の略で、日本語では「信号対雑音比」と呼ばれます。簡単にいえば、必要なWi-Fi信号が、不要な雑音よりどの程度強いかを示す値です。
Wi-Fi信号が強く、周囲の雑音が少なければ、端末はデータを正しく読み取れます。ところが、電子レンジを動かして2.4GHz帯の雑音が増えると、Wi-Fi信号と雑音の差が小さくなります。
その結果、端末は必要な信号を判別しにくくなり、データの一部を正しく受信できなくなります。データを正常に受け取れなかった場合、Wi-Fi機器は同じデータを送り直さなければなりません。

この「再送」が増えると、同じ量のデータを届けるために、より長い時間が必要です。そのため、通信速度が低下し、操作に対する応答の遅れも大きくなります。
さらに、Wi-Fi機器は周囲の電波状況を確認し、ほかの通信が行われていると判断した場合には、送信を一時的に待つことがあります。この待ち時間が増えることも、通信が遅くなる原因です。
Wi-Fiマークが消えなくても通信は遅くなる
電子レンジによる干渉が起きても、スマートフォンやパソコンのWi-Fiマークが消えるとは限りません。端末とルーターの接続自体は維持されていても、内部では次のような処理が繰り返されていることがあります。
- 正しく届かなかったデータの再送
- 電波が空くまでの送信待ち
- 通信速度の自動的な引き下げ
- 一時的なデータの損失
- 接続先や周波数帯の切り替え
そのため、画面には「接続済み」と表示されているのに、ウェブページが開かなかったり、動画が止まったりする場合があります。
電子レンジによる干渉では、次のような症状が起こりやすくなります。
- 動画の画質が急に下がる
- 動画や音楽が途中で止まる
- ウェブページの表示が遅くなる
- オンライン会議の音声が途切れる
- 通話相手の声が遅れて聞こえる
- ライブ配信の映像が乱れる
- オンラインゲームの遅延が増える
- ゲームから一時的に切断される
- スマート家電が反応しなくなる
- ネットワークカメラの映像が止まる
特に影響を受けやすいのは、オンライン会議、音声通話、ライブ配信、オンラインゲームなどのリアルタイム通信です。これらの通信では、単純な通信速度だけでなく、わずかな遅延やデータの欠損も品質に大きく影響します。
家庭によって影響の大きさが違う理由
電子レンジを使っても、Wi-Fiにほとんど影響が出ない家庭もあります。影響の大きさは、使用する周波数帯、機器同士の距離、Wi-Fi信号の強さ、電子レンジの構造や状態などによって変わります。
使用しているWi-Fiの周波数帯
電子レンジの影響を主に受けるのは、2.4GHz帯のWi-Fiです。
5GHz帯のWi-Fiは、電子レンジが使う2.45GHz付近とは異なる周波数を利用しています。そのため、電子レンジによる同じ種類の干渉は受けにくくなります。
ただし、5GHz帯は2.4GHz帯と比べて、壁や床などの障害物を通過しにくい傾向があります。ルーターから離れた部屋では、5GHz帯の信号が弱くなり、電子レンジとは別の理由で通信が不安定になることもあります。
電子レンジと機器の距離
電波は、一般に発生源から離れるほど弱くなります。そのため、電子レンジとWi-Fiルーターが離れていれば、干渉の影響は小さくなる傾向があります。
ただし、確認すべきなのは、電子レンジとルーターの距離だけではありません。スマートフォン、パソコン、ネットワークカメラなど、実際に通信する端末と電子レンジの距離も重要です。
ルーターが電子レンジから離れていても、通信する端末が電子レンジのすぐ近くにあれば、端末側で強い雑音を受け、通信が乱れる可能性があります。
もともとのWi-Fi信号の強さ
ルーターの近くではWi-Fi信号が強いため、電子レンジの雑音が加わっても、通信を維持できる場合があります。
一方、ルーターから遠い場所や、複数の壁や床を挟んだ場所では、端末に届くWi-Fi信号が弱くなっています。そこへ電子レンジの雑音が加わると、必要な信号を判別しにくくなり、通信速度が大きく低下します。
電子レンジの近くでは問題がないのに、離れた部屋で通信が止まることもあります。この場合、電子レンジとの距離だけでなく、ルーターから届くWi-Fi信号がもともと弱いことも、問題を大きくしている可能性があります。
電子レンジの構造や状態
電子レンジは、製品によって筐体、扉、接合部分、電波を遮る構造などが異なります。そのため、正常な製品であっても、構造や設置環境によってWi-Fiへの影響が変わることがあります。
また、扉、蝶番、ラッチ、扉の周囲などが損傷している場合には、外部へ漏れるマイクロ波が増えるおそれがあります。
ただし、電子レンジが古いという理由だけで、危険な量のマイクロ波が漏れているとは判断できません。使用年数だけでなく、扉や部品が正常な状態かどうかを確認することが重要です。
電子レンジが原因か確認する方法
電子レンジによるWi-Fi干渉は、専用の測定器がなくても、できるだけ条件をそろえて通信状態を比較することで確認できます。
Wi-Fiの周波数帯を確認する
最初に、端末が2.4GHz帯と5GHz帯のどちらへ接続されているかを確認します。使用している周波数帯は、機器によって異なりますが、次のような場所で確認できることがあります。
- スマートフォンやパソコンのWi-Fi詳細画面
- Wi-Fiルーターの管理画面
- ルーターメーカーの専用アプリ
- ルーターに接続している端末の一覧
- Wi-Fiのチャンネル情報
2.4GHz帯と5GHz帯でSSIDが分かれている場合は、ネットワーク名から判断できることがあります。SSIDに「5G」や「5GHz」と付いているネットワークは、一般に5GHz帯用として設定されています。
ただし、Wi-Fiの5GHz帯と、携帯電話回線の「5G」は別の技術です。また、SSIDの名称は利用者が自由に変更できるため、名前だけで判断できない場合は、ルーターの管理画面などで確認してください。
電子レンジを止めた状態で確認する
スマートフォンやパソコンを同じ場所に置き、電子レンジを使用していない状態で通信を確認します。動画再生、オンライン通話、通信速度測定、オンラインゲームなど、普段問題が起きる操作を行ってください。
通信速度は、インターネット回線の混雑状況や測定先の状態によっても変化します。一度だけで判断せず、できるだけ同じ条件で数回確認することが大切です。
電子レンジを動かして比較する
端末の場所や通信内容を変えずに、電子レンジを運転します。電子レンジには水や食品を入れ、必ず取扱説明書に従って使用してください。何も入れずに空の状態で運転してはいけません。
運転中に動画が止まる、通信速度が落ちる、音声が乱れるなどの変化が起きるか確認します。電子レンジを止めると通信が回復し、再び動かすと同じ不調が起きる場合は、電子レンジによる干渉の可能性が高いと考えられます。
5GHz帯でも同じテストをする
同じ端末、同じ場所、同じ通信内容のまま、Wi-Fiを5GHz帯へ切り替えてテストします。
2.4GHz帯では問題が起こり、5GHz帯では問題が起こらない場合は、電子レンジと2.4GHz帯Wi-Fiの周波数帯が重なっていることが原因である可能性が高まります。
ただし、5GHz帯の信号が弱い場所では、電子レンジとは関係なく通信が不安定になることがあります。比較するときは、5GHz帯の電波が十分に届いていることも確認してください。
電子レンジによるWi-Fi干渉の対策

5GHz帯へ切り替える
ルーターと端末が5GHz帯に対応している場合は、5GHz帯へ切り替える方法が有効です。電子レンジが使う2.45GHz付近から離れられるため、干渉を受けにくくなります。
2.4GHz帯と5GHz帯のSSIDが分かれている場合は、5GHz帯側のSSIDを選択します。
ルーターに「バンドステアリング」機能がある場合は、電波状況に応じて端末を適切な周波数帯へ自動的に誘導します。ただし、ルーターから離れたり、5GHz帯の信号が弱くなったりすると、端末が2.4GHz帯へ戻ることがあります。
電子レンジの干渉を確実に避けたい場合は、5GHz帯専用のSSIDへ手動で接続すると、使用する周波数帯を固定しやすくなります。
Wi-Fiルーターを電子レンジから離す
Wi-Fiルーターを電子レンジの上や、すぐ隣へ置くことは避けてください。
キッチンには、電子レンジだけでなく、冷蔵庫、金属製の棚、調理器具など、Wi-Fiの電波を遮ったり反射させたりするものが多くあります。ルーターをキッチンの奥や金属製品に囲まれた場所へ置くと、家の中へ電波が届きにくくなる可能性があります。
ルーターは、次のような場所へ設置すると、家の中へ電波を届けやすくなります。
- 家の中央に近い場所
- 床から離れた高めの場所
- 周囲に大きな金属製品がない場所
- 家具や壁で囲まれていない場所
- 電子レンジやコードレス機器から離れた場所
ルーターの設置場所を変えて端末に届くWi-Fi信号が強くなれば、同じ程度の雑音が発生しても、通信を維持しやすくなります。
端末を電子レンジから離す
スマートフォンやパソコンを電子レンジの近くで使っている場合は、端末を離すだけで改善することがあります。
ネットワークカメラやスマートスピーカーなど、設置場所を変更できる機器についても、電子レンジの真横や真上は避けたほうがよいでしょう。
また、ルーターと端末を結ぶ経路上に、電子レンジや冷蔵庫などの大型金属製品が入らないようにすることも重要です。
アクセスポイントやメッシュWi-Fiを追加する
5GHz帯へ切り替えると、ルーターから遠い部屋まで電波が届きにくくなることがあります。その場合は、次のような方法を検討してください。
- Wi-Fiアクセスポイントを追加する
- メッシュWi-Fiを導入する
- パソコンやゲーム機を有線LANで接続する
- 有線LANで接続したアクセスポイントを別の部屋へ設置する
中継機を利用する場合は、中継機がルーターから十分に強い電波を受信できる場所へ設置します。すでに電波が弱くなっている場所へ中継機を置いても、弱く不安定な通信を中継するだけになり、十分に改善しないことがあります。
また、中継機とルーターの間でも2.4GHz帯を使っている場合は、その区間が電子レンジの影響を受ける可能性があります。可能であれば、5GHz帯や有線LANを使って接続してください。
Wi-Fiチャンネルを変更する
2.4GHz帯しか使えない機器では、Wi-Fiチャンネルを変更することで、影響を軽減できる場合があります。
ルーターに自動チャンネル選択機能がある場合は、管理画面や専用アプリから無線環境の最適化を実行します。機種によっては、再起動したときに周囲の電波状況を調べ、利用するチャンネルを選び直します。
ただし、電子レンジによる雑音は、特定のWi-Fiチャンネルだけでなく、複数のチャンネルへ広がることがあります。そのため、チャンネル変更だけで問題が完全に解決するとは限りません。
チャンネルを変更しても改善しない場合は、5GHz帯への切り替えや、ルーターと端末の配置変更を優先してください。
Wi-Fiが遅くても危険なマイクロ波漏れとは限らない
電子レンジを使うたびにWi-Fiが遅くなると、「危険な量のマイクロ波が漏れているのではないか」と不安になるかもしれません。
しかし、Wi-Fiは非常に弱い電波を使って通信しています。そのため、安全基準を下回る程度の微弱なマイクロ波であっても、Wi-Fi通信にとっては無視できない雑音になる場合があります。
Wi-Fiが遅くなるという事実だけで、電子レンジから安全基準を超えるマイクロ波が漏れているとは判断できません。
反対に、Wi-Fiへの影響がないからといって、電子レンジに損傷がないと確認できるわけでもありません。Wi-Fi機器は、電子レンジの安全性を検査するための測定器ではないためです。
使用を中止して点検を依頼したほうがよい状態
電子レンジに次のような異常がある場合は、使用を中止し、メーカーや専門の修理業者へ相談してください。
- 扉が確実に閉まらない
- 扉が曲がっている
- 扉に大きな隙間がある
- 蝶番やラッチが壊れている
- 扉の周囲やシール部分が傷んでいる
- 扉の周辺に落ちない汚れや異物が付着している
- 扉を開けても運転が停止しない
- 本体に目立つ変形や損傷がある
- 落下や強い衝撃を受けた後から扉が正常に閉まらない
扉の周辺は清潔に保ち、安全装置を改造したり、無効にしたりしてはいけません。
安全性が心配な場合は、Wi-Fiの通信状態だけで自己判断せず、メーカーや専門業者による点検を受けてください。
まとめ
- 電子レンジと2.4GHz帯Wi-Fiは近い周波数を使うため、電波干渉が起こることがある
- 電子レンジの微弱な漏れ電波でも、Wi-Fiにとっては強い雑音になる場合がある
- 電波干渉が起きると、データの再送や送信待ちが増え、通信速度や応答速度が低下する
- Wi-Fiマークが表示されたままでも、動画停止や音声途切れなどの通信障害は発生する
- 影響の大きさは、周波数帯、機器の距離、Wi-Fi信号の強さ、電子レンジの状態によって変わる
- 電子レンジが原因かどうかは、運転前後の通信状態と2.4GHz帯・5GHz帯の違いを比較すると確認しやすい
- 最も有効な対策は、5GHz帯への切り替えと、ルーターや端末を電子レンジから離すこと
- Wi-Fiが遅くなるだけでは、電子レンジから危険な量のマイクロ波が漏れているとは判断できない
- 扉や蝶番などに損傷がある場合は使用を中止し、メーカーや専門業者へ点検を依頼する
Wi-Fiが遅くなる原因は、回線やルーター、端末だけではありません。特定の家電を使用しているときだけ不調が起こる場合は、家庭内の電波環境にも目を向ける必要があります。
電子レンジの使用中に通信が乱れるときは、5GHz帯への切り替えや機器の配置変更から試してみましょう。原因を正しく見分けることが、余計な機器の買い替えを避け、安定した通信環境を整える第一歩になります。
参考文献
- 電波産業会(ARIB)「SECOND GENERATION LOW POWER DATA COMMUNICATION SYSTEM/WIRELESS LAN SYSTEM ARIB STANDARD」
- J-STAGE/日本電磁波エネルギー応用学会「JEMEAワーキンググループ(WG)活動紹介 900MHz帯ISMバンド調査WG」
- Apple Support「Optimize your Wi-Fi networks for Apple devices」
- Cisco「Cisco Catalyst 9800 Series Wireless Controller Software Configuration Guide — Cisco CleanAir」
- Cisco Meraki Documentation「Signal-to-Noise Ratio(SNR)and Wireless Signal Strength」
- U.S. Food and Drug Administration「Microwave Ovens」
- Health Canada「Microwave ovens: Everyday things that emit radiation」
- International Telecommunication Union「Frequently asked questions」

