毎日のように浴びているシャワー。体をきれいにしたり、気分をさっぱりさせたりと、私たちにとって非常に身近な存在です。しかし、そんな何気ない時間には、意外と知られていない話があります。
第115回雑学調査レポートでは、そんな「シャワー」に関する雑学をご紹介していきます。
シャワー中にアイデアが浮かぶ「シャワー効果」とは
仕事中には何も思いつかなかったのに、シャワーを浴びていると急によい案が浮かんだ。そんな経験がある人もいるでしょう。
シャワーや散歩などをしているときに創造的なアイデアが浮かぶ現象は、英語で「shower effect」と表現されることがあります。日本語にすると「シャワー効果」です。
2022年には「The shower effect」という言葉をタイトルに含む研究論文も発表されました。この研究で注目されたのが「マインドワンダリング」です。簡単にいえば、目の前のことから少し意識が離れて、頭の中でいろいろなことを考えている状態を指します。
たとえば、散歩をしている途中で「今日の夕飯は何にしよう」と考えた直後、「そういえば昨日見た動画が面白かったな」と思い出し、そこから仕事のアイデアへつながる――こうしたように、考えが一つの話題から別の話題へ自然に移っていくことがあります。
2022年の研究では、特にこのような「自由に動く思考」が調べられました。研究では、明確な目的に向かって一直線に考えるのではなく、思考が一つのテーマから別のテーマへ移っていく状態として説明されています。
シャワーを浴びているときも、髪を洗ったり体を流したりしているため、何もしていないわけではありません。ただし、普段から繰り返している行動なら、難しい仕事や勉強ほど頭を使わなくても進められます。
そのため、「目の前のことをこなしながら、頭の中には少し余裕がある」という状態になりやすいと考えられます。この余裕が、シャワー中のひらめきを考えるうえで重要なポイントです。
「退屈なら退屈なほどアイデアが出る」わけではない
シャワー効果で面白いのは、「頭を使わないことをすればするほど、創造的になれる」という単純な話ではないところです。
2022年の研究では、参加者にレンガやクリップについて「普通とは違う使い道」を考えてもらいました。レンガなら「家を建てる」、クリップなら「紙を留める」といった普通の使い方ではなく、できるだけ別の使い道を考える課題です。
その後、参加者は約3分間の動画を見ました。
一方は、2人の男性が洗濯物を畳んでいる比較的退屈な動画です。もう一方には、映画「When Harry Met Sally」の比較的興味を引きやすい場面が使われました。動画を見たあと、参加者は動画中に新しく思いついたレンガやクリップの使い道を答えています。
ここで研究者が調べたのは、単純に「どちらの動画を見ればアイデアが増えるのか」だけではありません。「動画を見ている間に思考がどれくらい自由に動いていたのか」と、そこで生まれたアイデアとの関係を調べました。
その結果、比較的興味を引く動画を見た条件では、思考が自由に動いていた人ほど、新しいアイデアを多く出している関係が確認されました。
一方、退屈な動画を見た条件では、自由に動く思考とアイデア数の間に同じ関係は確認されていません。この傾向は2つの実験で確認されています。
さらに興味深いことに、自由に動く思考そのものは、退屈な動画を見ていた人のほうが多く報告していました。つまり、「ぼんやりする時間が増えれば、そのぶんアイデアも増える」とはいえない結果だったわけです。

ひらめきに必要なのは「ほどよく頭が自由な状態」かもしれない
研究者らが考えているのは、創造的な発想には「集中すること」と「自由に考えること」のバランスが関係している可能性です。
一つの答えだけを必死に探していると、考え方が固定されやすくなります。
たとえば「新しい商品名を考えなければ」とパソコンの画面を見ながら同じ言葉を何度も考えていると、似たような候補ばかり浮かんでしまうことがあります。
反対に、完全に自由な状態なら必ずよいアイデアが出るとも限りません。頭の中が今日の夕飯、週末の予定、昔の思い出などへ次々に移れば、考えていた問題から遠く離れてしまうこともあります。
そこで注目されるのが、その中間です。
散歩やシャワーのように、ある程度は周囲へ注意を向ける必要があるものの、難しい仕事ほど集中力を必要としない活動なら、思考を自由に動かせる余裕が残ることがあります。研究者らは、このような状況が自由な発想に役立つ可能性を提案しています。
つまり、シャワー中にアイデアが出やすい理由として考えられているのは「シャワーだから」ではなく、「何かをしているけれど、頭を使い切ってはいない状態」です。
散歩や簡単な家事などで似た状況が生まれる可能性もあります。
行き詰まった問題から一度離れる「インキュベーション」
シャワー中のひらめきを理解するうえでは、「インキュベーション」という考え方も役立ちます。
創造性の研究でいうインキュベーションとは、考えていた問題からいったん離れ、別のことをしてから再び問題へ戻ることです。
たとえば、企画書を書きながら30分考えてもよい案が出なかったため、いったん皿洗いをする。そのあと机へ戻ると、それまでとは違ったアイデアが浮かぶ。このような流れがインキュベーションに近い例です。
2012年に『Psychological Science』で発表された研究では、参加者に日用品の変わった使い方を考えてもらい、その途中で別の時間を挟みました。
参加者は、頭を比較的使う課題をするグループ、負担の小さい課題をするグループ、何もせず休むグループなどに分けられています。
その結果、負担の小さい課題をしていたグループでは、休憩前に一度考えていた問題へ再び取り組んだときの成績が向上しました。この条件ではマインドワンダリングも多く報告されています。
一方、新しく与えられた問題では同じ改善は確認されませんでした。
ここから分かる重要なポイントは、「まったく考えていなかった問題の答えが突然生まれた」というより、「一度考えた問題から離れたあと、再び戻ったときに発想がよくなった」ということです。
先に一度考えておくことがポイント
この研究を日常生活へ当てはめるなら、最初から何も考えずにシャワーへ入り、「何かすごいアイデアが降ってこないかな」と待つ方法とは少し違います。
むしろ研究に近いのは、先に一度その問題を考えておく方法です。
たとえば、「新商品の名前を決めたい」とします。
まず机の前で候補を考え、商品の特徴や伝えたいイメージなどを頭に入れます。それでもよい案が出なければ、いったんそこで考えるのをやめて、シャワーを浴びたり散歩をしたりします。
このように「一度問題に取り組む」「別のことをする」「もう一度問題へ戻る」という流れです。
2012年の研究でも、簡単な別の課題を挟むことで成績が改善したのは、参加者が休憩前に一度取り組んでいた問題でした。
2025年に『Scientific Reports』で発表された研究でも、これに近い結果が報告されています。
2025年の研究でも「一度考えたテーマ」がポイントに
2025年の研究では、参加者に短い創作文章を書いてもらい、そのあと10分間の別の課題などを挟んでから、もう一度文章を書いてもらいました。
休憩後も同じテーマで文章を書く人と、新しいテーマへ切り替える人が用意されています。創造性は、人間による評価に加えて、文章の中で意味がどれくらい新しい方向へ広がっていくかを数値化する方法などで調べられました。
同じテーマへ戻った参加者では、休憩中にマインドワンダリングが多かった人ほど、「forward flow」という意味的な広がりを見る指標で、創造性の改善が大きいという関係が確認されました。
新しいテーマへ切り替えた参加者では、同じ関係は確認されていません。
さらに、休憩中に「さっきの物語について意識的に考えていた時間」が長ければ創造性が高まる、という関係も確認されませんでした。
つまり、休憩時間まで必死に問題を考え続けることが重要だったわけではありません。いったん問題から離れ、思考が自然に動くことが関係していた可能性があります。

ただし、この研究では評価方法によって結果に違いがありました。文章の意味的な広がりを測る指標やGPT-4による評価ではマインドワンダリングとの関係が確認された一方、人間が文章を読んで創造性を評価した結果では、有意な関係は確認されていません。研究者らも、確認された効果は小さく、さらに研究が必要だと説明しています。
シャワーそのものに「創造性アップ効果」が確認されたわけではない
ここは、シャワー効果について特に誤解しやすい部分です。
2022年の研究では、参加者が実際にシャワーを浴びている最中の創造性を測ったわけではありません。
実験で使われたのは動画です。研究者らは、非常に退屈な状況と、ほどよく興味を引く状況を作り、その違いによって自由に動く思考とアイデアの関係がどう変わるのかを調べました。
そのため、この研究から「シャワーを浴びれば脳の創造性がアップする」「シャワーにはアイデアを生み出す特別な作用がある」とまではいえません。
また、マインドワンダリングと創造性についても、すべての研究で同じ結果が出ているわけではありません。
2022年の論文では、過去に両者の関係を支持する研究がある一方、同じような効果を確認できなかった追試も紹介されています。マインドワンダリングが創造性に役立つかどうかは、どんな活動をしているか、どんな問題を考えているかなどによって変わる可能性があります。
アイデアに詰まったら「軽く別のことをする」
これまでの研究を生活の中で活用するなら、「アイデアが出るまでひたすら考え続ける」以外の選択肢を持っておくとよいでしょう。
新商品の名前、SNSの投稿ネタ、プレゼンの構成、旅行プランなどで行き詰まったら、まずは一度しっかり問題について考えます。
ある程度情報を頭に入れたら、ずっと同じ画面を見続けるのではなく、いったん別の行動へ移ります。
シャワーを浴びる、近所を散歩する、皿を洗う、洗濯物を片づけるといった、ある程度は注意が必要でも難しすぎない活動が候補になります。
その時間まで「絶対に答えを出さなければ」と考え続ける必要はありません。むしろ、目の前のことをしながら頭の中を自由にさせるという考え方が、マインドワンダリングやインキュベーションの研究には近くなります。
そして何か浮かんだら、あとで忘れないようにメモしておく――シャワーから出た直後や散歩から帰った直後に、もう一度その問題へ戻ってみるのもよいでしょう。
まとめ
- シャワー中にアイデアが浮かぶ現象は「シャワー効果」と呼ばれることがある
- シャワー中は、目の前の行動を続けながら思考を自由に動かしやすい状態になりやすい
- 創造的な発想には、強い集中と自由に動く思考の「中間」が関係している可能性がある
- 退屈であればあるほどアイデアが増えるわけではなく、「ほどよく頭が自由な状態」が重要と考えられている
- 一度考えた問題から離れて別の行動を挟む「インキュベーション」が、ひらめきにつながる場合がある
- 研究では、休憩前に一度取り組んでいた問題で創造性の改善が確認されている
- シャワーそのものに創造性を高める特別な効果が確認されたわけではない
- アイデアに行き詰まったときは、一度考えたあとにシャワーや散歩などの軽い活動へ移る方法が研究内容に近い
いつも何気なく過ごしている時間にも、私たちがまだ意識していない働きがあるのかもしれません。
シャワー中のひらめきは、そんな日常の面白さを感じさせてくれる現象の一つです。
参考文献
- University of Minnesota, 「The shower effect: Mind wandering facilitates creative incubation during moderately engaging activities」
- UVA Today, 「Finally, the Real Answer Why Your Best Ideas Come While Showering」
- Association for Psychological Science, 「Inspired by Distraction: Mind Wandering Facilitates Creative Incubation」
- PubMed, 「Inspired by distraction: mind wandering facilitates creative incubation.」
- Scientific Reports, 「Mind wandering during creative incubation predicts increases in creative performance in a writing task」

