涙は、日常の中であまり深く考えられることのない存在です。流れてきたときには気づきますが、そもそも涙がどのように働いているのかを考える機会は多くありません。
第62回雑学調査レポートでは、そんな「涙」に関する雑学をご紹介していきます。
涙は「感情のしずく」だけではない
涙と聞くと、多くの人は悲しいときや感動したときにこぼれるものを思い浮かべます。映画を見て泣く、卒業式で泣く、悔しくて泣く、うれしくて泣く――こうした涙は、確かに人間らしい感情と強く結びついています。
しかし、涙は感情のためだけに存在しているわけではありません。目の表面を守り、乾燥を防ぎ、異物を洗い流し、ものをはっきり見るためにも働いています。つまり、涙は「心の反応」である前に、目を守るためのかなり実用的な液体です。
興味深いのは、涙には大きく分けて3種類あることです。普段から目を守っている涙、刺激に反応して出る涙、そして感情によって出る涙です。同じように目から流れてくるため一見同じに見えますが、それぞれ目的が違います。
3種類の涙
涙は一般に、次の3種類に分けられます。
1つ目は「基礎涙」です。これは、泣いていないときにも常に目の表面にある涙です。目をうるおし、角膜を保護し、まばたきのたびに目の表面へ広がります。基礎涙があるおかげで、目は乾かず、外から入ってくる小さなごみや刺激から守られています。
2つ目は「反射涙」です。これは、玉ねぎを切ったとき、煙が目に入ったとき、ほこりが入ったときなどに出る涙です。目にとって邪魔なもの、危険なものを洗い流すために急いで分泌されます。玉ねぎを切ると涙が出るのは、悲しいからではなく、玉ねぎから出る刺激性の成分に目が反応しているからです。
3つ目は「情動涙」です。これは、悲しみ、喜び、怒り、悔しさ、安心、感動など、強い感情がきっかけで出る涙です。私たちが「泣く」と聞いて最初に思い浮かべるのは、この情動涙であることが多いでしょう。

目を守る基礎涙
基礎涙は、最も地味ですが、非常に重要な涙です。
目の表面は、乾いた状態では正常に働きにくくなります。特に角膜は、外から入ってくる光を通す大切な部分です。涙が目の表面をなめらかに保つことで、光がきれいに通り、ものを見やすくなります。
涙が足りなかったり、涙の質が悪かったりすると、目が乾く、ゴロゴロする、しみる、かすむ、といった症状が出ることがあります。いわゆるドライアイです。つまり、涙は単なる水分ではなく、視力や目の健康を支える仕組みの一部です。
基礎涙は、意識しなくても分泌されています。泣いていないときでも、目には涙があります。むしろ、泣いていないときこそ、基礎涙は静かに働いています。
玉ねぎで出る反射涙
玉ねぎを切ると涙が出るのは、多くの人が経験している現象です。このとき出る涙は、情動涙ではなく反射涙です。
玉ねぎを切ると、細胞が壊れ、目や鼻を刺激する揮発性の物質が発生します。その刺激が目に届くと、体は「これは洗い流したほうがよい」と判断します。その結果、涙の分泌が増えます。
反射涙の目的は、目に入った刺激物を薄めたり、外へ流したりすることです。煙、強い風、ほこりなどでも同じように反射涙が出ます。
この反射涙は、いわば目の洗浄装置です。泣いているように見えても、心が動いているわけではありません。体が自動的に目を守っているだけです。
感情で出る涙
情動涙は、基礎涙や反射涙とは性質が少し異なります。
悲しいときだけでなく、安心したとき、うれしいとき、強く感動したときにも出ます。たとえば、長い間努力してきたことが実った瞬間に涙が出ることがあります。これは、単純に悲しいからではありません。強い感情の高まりに体が反応していると考えられます。
情動涙については、まだ完全には解明されていない部分があります。なぜ人間は感情で涙を流すのか、泣くことで本当に気持ちが楽になるのか、涙は他人に何を伝えているのか。こうした点は現在も研究されています。
ただし、情動涙が単なる水ではないことは重要です。研究では、情動涙には、反射涙や基礎涙とは異なる成分の特徴があると報告されています。たとえば、タンパク質やプロラクチン、マンガン、カリウム、セロトニンなどが比較的多く検出されたという報告があります。
つまり、玉ねぎで出る涙と、心が動いて出る涙は、見た目は似ていても、体の中で起きていることは同じではありません。
涙は3層構造になっている
涙は、ただの水の膜ではありません。目の表面に広がる涙の膜は、一般に3つの層でできています。
外側には油の層があります。この油の層は、涙が早く蒸発しすぎないようにする役割を持っています。油の膜があることで、目の表面はなめらかになり、涙が安定しやすくなります。
真ん中には水分の多い層があります。この層は目をうるおし、角膜などの組織を守ります。涙の大部分を占める層です。
内側には粘液の層があります。この層は、涙の膜が目の表面にくっつきやすくなるように働きます。水だけでは目の表面に均一に広がりにくいため、粘液の層が重要になります。

このように、涙は「水が出ている」だけではありません。油、水分、粘液が協力して、目の表面に薄い保護膜を作っています。
涙がしょっぱい理由
涙をなめると、しょっぱく感じます。これは、涙にナトリウムやカリウムなどの電解質が含まれているためです。電解質とは、水に溶けるとイオンとして存在する成分のことです。身近な言い方をすれば、体液に含まれる塩分の仲間です。
涙がしょっぱいのは、涙がただの水ではなく、体の中で作られる液体だからです。汗や血液にも塩分が含まれているように、涙にも塩分にあたる成分が含まれています。
ただし、涙の役割は塩分だけで決まるわけではありません。涙には、脂質、酵素、タンパク質なども含まれています。こうした成分が、目を清潔に保ったり、感染から守ったり、目の表面を安定させたりしています。
情動涙は「体のデトックス」と言い切れるのか
涙の雑学として、「泣くとストレス物質が外に出る」「涙は心のデトックスである」と説明されることがあります。確かに、情動涙にはストレスや神経伝達に関係する物質が含まれるという報告があります。そのため、この表現がまったく根拠のない話というわけではありません。
しかし、「泣けば体の毒素が大量に排出される」と言い切るのは正確ではありません。涙の量は限られており、涙によって体内の不要物を大きく減らすと考えるには慎重さが必要です。
泣いた後に気持ちが落ち着くことはあります。けれども、それが涙の成分そのものによるのか、泣くことで感情を表に出せたからなのか、誰かに助けてもらえたからなのか、時間がたって気分が回復したからなのかは、一つに決めつけられません。
涙には化学的な特徴がありますが、「涙=万能のデトックス」と単純に考えるより、「感情、体の反応、周囲とのコミュニケーションが重なった現象」と見るほうが正確です。
涙は他人に感情を伝えるサインでもある
情動涙の興味深いところは、自分の体の中だけで完結しないことです。涙は、周囲の人にも見えます。
声を出していなくても、涙が流れていれば、相手は「この人は強い感情を抱いている」と気づきます。言葉にしなくても、涙が助けを求めるサインになったり、つらさを伝えたり、安心や感謝を表したりすることがあります。
人は、泣いている人を見ると、その人の感情を読み取ろうとします。涙は、顔の表情の中でもかなり強い情報になります。悲しい顔だけでは伝わりにくい感情も、涙が加わることで、相手に強く伝わることがあります。
この点で、情動涙は単なる生理現象ではありません。人と人との関係の中で働く、目に見える感情のサインでもあります。
動物の涙と人間の涙
動物も涙を出します。目をうるおすための涙や、刺激から目を守るための涙は、多くの動物に見られます。
しかし、強い感情によって涙を流す行動については、人間に特に特徴的なものとされています。犬や猫が悲しそうに見えることはありますし、動物にも感情はあります。ただし、人間のように感情を理由として涙を流し、それを社会的なサインとして使う行動は、現在のところ人間に非常に特徴的なものと考えられています。
ここで注意したいのは、「動物には感情がない」という意味ではないことです。そうではなく、「感情によって涙を流す」という現象が、人間では特にはっきり見られるという話です。
まとめ
- 涙には「基礎涙」「反射涙」「情動涙」の3種類がある
- 基礎涙は、泣いていないときも目の表面を守り続けている
- 玉ねぎで出る涙は、刺激物を洗い流すための反射涙である
- 悲しみや感動で出る涙は、強い感情に反応して出る情動涙である
- 涙はただの水ではなく、油層・水層・粘液層の3層で目を保護している
- 涙がしょっぱいのは、ナトリウムやカリウムなどの電解質を含むためである
- 情動涙には、反射涙とは異なる成分的特徴があると報告されている
- 「涙はデトックス」と言い切るのは単純化しすぎで、科学的には慎重に見る必要がある
- 情動涙は、自分の気持ちを他人に伝えるサインにもなる
- 同じ涙でも、目を守る涙と心に反応する涙では役割が違う
悲しいとき、感動したとき、目に刺激を受けたとき――どの涙にも、それぞれの理由があります。
涙は、体と心の両方を映し出す、身近で不思議な液体なのです。
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