昔の砂糖は「薬」だった!?【中世ヨーロッパでは体に良い高級品】

砂糖というと、甘いお菓子や飲み物を思い浮かべる人が多いでしょう。一方で、健康のためにとりすぎに注意するもの、というイメージを持つ人も少なくありません。

ところが、長い歴史の中で見ると、砂糖は現在の私たちが考えるような「身近な甘味料」とはかなり違う存在でした。

第56回雑学調査レポートでは、そんな「砂糖」に関する雑学をご紹介していきます。

今では台所の砂糖、昔は薬箱の砂糖

砂糖と聞くと、ケーキ、チョコレート、クッキー、ジュース、料理の味付けなどを思い浮かべる人が多いです。現在の砂糖は、スーパーで簡単に買える身近な食品です。

しかし、歴史をさかのぼると、砂糖は最初から「お菓子を甘くするためのもの」として広まったわけではありません。むしろ、昔の人々にとって砂糖は、貴重で高価な「薬」のような存在でした。

とくに興味深いのは、中世ヨーロッパでは砂糖が薬として扱われていたことです。今では「砂糖のとりすぎに注意」と言われますが、かつては「体に良い高級品」と考えられていたのです。

サトウキビをかじる時代から砂糖を作る時代へ

砂糖の原料としてよく知られているのが、サトウキビです。サトウキビは太い竹のような見た目をした植物で、茎の中に甘い汁を含んでいます。

砂糖がまだ作られていなかった時代、人々はサトウキビの皮をむき、茎をかじって甘い汁を味わっていたと考えられています。つまり、最初の「砂糖の楽しみ方」は、白い粉を料理に入れることではなく、植物そのものをかじることでした。

その後、インド周辺でサトウキビの汁を煮詰め、固めて保存する技術が発達しました。液体のままだと腐りやすい甘い汁も、煮詰めて固めれば保存しやすくなります。この発見によって、甘さを遠くまで運んだり、長く保存したりできるようになりました。

この変化はとても大きな出来事でした。甘い汁をその場で味わうだけだったものが、持ち運べる「砂糖」という商品になったからです。

「sugar」の語源に残るインドの名残

英語の「sugar(シュガー)」やフランス語の「sucre(シュクル)」は、古代インドのサンスクリット語「sarkara(サルカラ)」に由来するといわれています。

この語源からも、砂糖の歴史においてインドが重要な位置にあったことがわかります。現在、砂糖は世界中で使われていますが、その長い旅の出発点の一つは、古代インドの製糖技術でした。

紀元前のサンスクリット文献には、医薬用と思われる砂糖の記録もあります。つまり砂糖は、かなり早い段階から「ただ甘いもの」ではなく、「体に作用する特別なもの」と見られていたのです。

中世ヨーロッパでは薬として扱われた

中世ヨーロッパでは、砂糖は非常に高価な輸入品でした。現在のように大量生産されていなかったため、誰でも毎日使える食品ではありませんでした。

当時の砂糖は、薬を扱う店、つまり薬局のような場所に置かれることもありました。記録によると、中世ヨーロッパでは砂糖が「薬」として扱われ、結核の治療など、さまざまな効能があると考えられていました。

もちろん、これは現代医学の意味で「砂糖が結核を治す」ということではありません。当時の医学知識や体の考え方の中で、砂糖が薬効のあるものとして理解されていたという意味です。

それでも、現代人から見るとかなり意外です。今なら砂糖は「食べすぎると虫歯や肥満につながるもの」と説明されることが多いですが、昔はむしろ「貴重な薬」として大切にされていたのです。

薔薇の砂糖漬けが熱冷ましに使われた

砂糖が薬として使われていたことを示す面白い例に、薔薇の砂糖漬けがあります。

中世ヨーロッパでは、薔薇を砂糖漬けにしたものが熱冷ましとして用いられたとされています。薔薇と砂糖という組み合わせは、現代では高級スイーツや香りのよいお菓子を連想させます。しかし当時は、それが薬の一種として見られていたのです。

ここで重要なのは、砂糖が単独で使われるだけでなく、植物や香辛料などと組み合わされていたことです。昔の薬は、現代の錠剤のように成分を厳密に分けたものではなく、植物、香辛料、甘味料などを組み合わせたものが多くありました。

砂糖には強い甘味があるため、苦い薬草を飲みやすくする役割もあったと考えられます。苦い薬を甘くするために使っていたものが、次第に砂糖そのものにも価値があると見られるようになったのかもしれません。

日本でも砂糖は薬として記録された

砂糖が薬のように扱われていたのは、ヨーロッパだけではありません。日本でも、砂糖は最初から身近な甘味料だったわけではありません。

日本における砂糖の古い記録として、正倉院に伝わる「種々薬帳(しゅじゅやくちょう)」があります。これは薬の目録で、その中に砂糖を意味する「蔗糖(しょとう)」という文字が記されているとされています。

この点がとても興味深いです。日本でも砂糖は、料理の調味料としてではなく、薬に関係する貴重品として記録に登場しているのです。

現代の感覚では、砂糖は台所にあります。しかし古代や中世の感覚では、砂糖は薬の棚に置かれるような特別な品でした。

なぜ砂糖は薬に見えたのか

砂糖が薬のように扱われた理由はいくつか考えられます。

まず、砂糖は非常に珍しいものでした。珍しくて高価なものは、それだけで特別な力があるように見られやすいです。現代でも、高価な食材や希少な成分に「体に良さそう」という印象を持つことがあります。昔の砂糖にも、それに近い見方があったと考えられます。

次に、砂糖はすばやくエネルギーになる甘い食品です。疲れているときに甘いものを食べると、気分がほっとすることがあります。現代の栄養学とは違う説明であっても、昔の人々が砂糖に「体を助ける力」を感じたとしても不思議ではありません。

さらに、砂糖は薬草や香辛料と混ぜやすい性質を持っていました。甘さによって苦味をやわらげ、保存性を高めることもできます。果物を砂糖漬けにしたり、シロップ状にしたりすれば、薬のようにも保存食のようにも使えます。

つまり砂糖は、味、保存性、希少性、エネルギー源としての性質が合わさり、昔の人々にとって「ただの甘味」以上のものに見えたのです。

十字軍によってヨーロッパに広まった

ヨーロッパへの砂糖の広まりには、11世紀から13世紀にかけての十字軍が関係していたとされています。十字軍に参加したヨーロッパの人々が、中東方面で砂糖やサトウキビに出会い、それをヨーロッパに持ち帰ったと考えられています。

ただし、持ち帰られたからといって、すぐに一般の人々が砂糖を自由に使えるようになったわけではありません。当時の砂糖は高価で、王侯貴族や富裕層が中心に使う贅沢品でした。

薬としての砂糖、贅沢品としての砂糖、権力を示す砂糖――中世から近世の砂糖には、今の砂糖とはまったく違う意味が重なっていました。

砂糖細工は富を見せる道具にもなった

砂糖は薬としてだけでなく、富を見せるための道具にもなりました。

ヨーロッパの上流階級では、砂糖を使った豪華な菓子や砂糖細工が宴会に登場するようになりました。砂糖で動物や建物のような形を作ることもありました。

これは単なるデザートではありませんでした。高価な砂糖を大量に使えること自体が、財力の証明になったのです。

今でいえば、特別な宝石や高級車を見せるような感覚に近いかもしれません。砂糖は「甘い」だけでなく、「自分はこれほど貴重なものを使える」という社会的なメッセージを持っていました。

薬から日用品へ変わった理由

砂糖が薬や贅沢品から日用品へ変わった背景には、製糖技術の発達と世界的な貿易の拡大があります。

15世紀末以降、サトウキビは大西洋の島々やアメリカ大陸へ広がっていきました。やがてカリブ海地域やブラジルなどで大規模なサトウキビ栽培が行われ、ヨーロッパへ大量の砂糖が運ばれるようになりました。

この過程には、植民地支配や奴隷労働という重い歴史もあります。砂糖が安く大量に手に入るようになった背景には、多くの人々の過酷な労働がありました。砂糖の歴史は、甘い食品の歴史であると同時に、貿易、植民地、労働、経済の歴史でもあります。

その後、精製技術や輸送の仕組みが発達し、砂糖は少しずつ身近な商品になっていきました。かつて薬局や貴族の食卓にあった砂糖は、やがて一般家庭の台所へ入っていきました。

現代では「薬」ではなく「とりすぎに注意する食品」

現代では、砂糖を薬として扱うことはありません。砂糖は食品であり、体にエネルギーを与える一方で、とりすぎると健康上の問題につながる可能性があります。

厚生労働省系の健康情報では、砂糖はむし歯のリスク要因の一つとされ、摂取量だけでなく摂取回数を減らすことも大切だと説明されています。また、WHOは、加工食品や調理で加えられる糖類などを含む「遊離糖類(ゆうりとうるい)」の摂取量を、総エネルギー摂取量の10%未満、望ましくは5%未満にすることを推奨しています。

ここに、砂糖という食品の面白さがあります。

昔は「貴重な薬」として大切にされました。現在は「身近だが、とりすぎには注意が必要な食品」として扱われています。同じ砂糖でも、時代によって人々の見方が大きく変わったのです。

まとめ

  • 砂糖は今では身近な食品だが、昔は薬のように扱われる貴重品だった
  • 砂糖の原料であるサトウキビは、もともと茎をかじって甘い汁を味わうものだった
  • インド周辺でサトウキビの汁を煮詰め、保存できる砂糖を作る技術が発達した
  • 英語の「sugar」は、古代インドのサンスクリット語に由来するとされる
  • 中世ヨーロッパでは、砂糖は薬局のような場所で扱われ、薬効があると考えられていた
  • 薔薇の砂糖漬けが熱冷ましとして使われるなど、砂糖は薬草などと組み合わせられていた
  • 日本でも正倉院の薬の目録に砂糖を意味する「蔗糖」が記録されている
  • 砂糖は珍しく高価だったため、特別な力を持つもののように見られていた
  • 十字軍などを通じて、砂糖は中東方面からヨーロッパへ広まった
  • ヨーロッパの上流階級では、砂糖細工が富や権力を示す道具にもなった
  • 砂糖が日用品になった背景には、製糖技術の発達、世界貿易、植民地支配があった
  • 砂糖の歴史には、奴隷労働や過酷な労働の問題も深く関わっている
  • 現代では砂糖は薬ではなく、とりすぎに注意すべき食品として扱われている。

砂糖の価値は、時代によって大きく変わってきました。薬のように珍重された時代もあれば、富を示す道具になった時代もあり、現代ではとりすぎに注意すべき食品として見られています。

その変化を知ることは、砂糖だけでなく、人間が食べ物にどのような意味を与えてきたのかを知ることにもつながります。

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