スーパーでマヨネーズを買うとき、ほとんどの人は迷わず調味料売り場へ向かうでしょう。そこにはしょうゆ、ソース、ドレッシングなどと並んで、さまざまな種類のマヨネーズが置かれています。
ありふれた光景ですが、よく考えてみると少し不思議なところがあります。
第46回雑学調査レポートでは、そんな「マヨネーズ」に関する雑学をご紹介していきます。
卵入りなのに常温で売られている
マヨネーズの面白いところは、卵を使っているのに、未開栓の商品はスーパーの冷蔵棚ではなく常温の棚に置かれていることです。
卵と聞くと、傷みやすい食品というイメージがあります。実際、卵は衛生管理がとても重要な原料です。ところが市販のマヨネーズは、未開栓なら直射日光を避けた涼しい場所で常温保存できるものが多くあります。
この理由は、マヨネーズが単に「卵を混ぜたソース」ではなく、酢、食塩、油、卵黄の働きを組み合わせた、かなりよく考えられた食品だからです。
日本のマヨネーズは「油が多い食品」として決められている
日本では、マヨネーズは日本農林規格(JAS)で定義されています。大まかにいうと、マヨネーズは半固体状のドレッシングの一種で、卵黄または全卵を使い、食用植物油脂、醸造酢、かんきつ類の果汁、食塩、砂糖類、香辛料など限られた原材料で作られるものです。
さらに、油脂含有率は65%以上、水分は30%以下という基準があります。
ここが重要で、マヨネーズは見た目には白っぽくてクリーム状のため、牛乳やヨーグルトのような「水分の多い食品」に見えるかもしれません。しかし規格上の中心は油です。日本のマヨネーズは、かなりの部分が植物油でできています。
たとえば『キユーピー』は、自社のマヨネーズの主原料を「卵黄、植物油、酢」の3つと説明しています。また、450g入りの自社のマヨネーズには卵黄が3.6個分入っているとしています。
つまりマヨネーズは、卵黄が入っている一方で、油が多く、水分が比較的少なく、そこに酢と食塩が加わった食品です。この組み合わせが、保存性に大きく関係しています。
酢と食塩が細菌の増殖を抑える
マヨネーズの保存性で特に大きいのが、酢の働きです。
酢は酸性です。多くの食中毒菌は、酸性の環境が苦手です。酸性が強い場所では、菌の細胞の中の状態が乱れ、増殖しにくくなったり、死滅しやすくなったりします。
食塩にも、細菌の繁殖を抑える働きがあります。塩分は細菌の周囲の水分環境に影響を与え、菌が活動しにくい状態を作ります。
『キユーピー』は、マヨネーズに含まれる酢や食塩には細菌の繁殖を抑える防腐作用があり、病原菌を添加しても速やかに減少するデータがあると説明しています。同社のニュースリリースでは、マヨネーズにサルモネラ、黄色ブドウ球菌、大腸菌が混入したとしても、食酢や食塩などの働きにより24時間以内に死滅すると説明されています。
ここで大切なのは、「卵が安全だから腐りにくい」のではなく、「卵を使っていても、酢と食塩を含む酸性の食品として設計されているから菌が増えにくい」ということです。
油が多いことも保存性に関係している
細菌が増えるには、水分が必要です。
マヨネーズは油の多い食品です。しかも油と酢がそのまま分かれているのではなく、卵黄の力で細かく混ざっています。この状態を「乳化」といいます。
本来、油と水は混ざりません。ドレッシングを振っても、しばらくすると油と酢が分かれるのはそのためです。ところが卵黄にはレシチンなどの成分があり、油と水分を細かく混ざった状態に保つことができます。これがマヨネーズのなめらかさの正体です。
マヨネーズは「水の中に油の粒が分散した状態」の食品です。油が多く、水分は限られ、その水分部分には酢や塩が含まれています。細菌から見ると、自由に増えやすい水分がたっぷりある環境ではありません。
つまりマヨネーズは、油、酢、塩、卵黄の乳化作用が組み合わさって、見た目以上に細菌が増えにくい環境を作っているのです。

市販品と手作りマヨネーズは違う
ここで注意したいのは、市販のマヨネーズと手作りマヨネーズを同じように考えてはいけないということです。
市販品は、原料の管理、卵の殺菌、配合、充てん、容器の密封などが工場で適切に行われています。『キユーピー』の場合、卵黄は61℃で3.5分以上の条件で加熱殺菌し、サルモネラなどに対して安全な状態にしていると説明しています。
一方、手作りマヨネーズは、家庭や飲食店で生卵を使って作ることがあります。さらに、好みによって酢を少なめにすると、酸性が弱くなります。すると、菌をおさえる力も弱くなります。
実際に、東京都の食品衛生資料には、自家製マヨネーズが原因と推定されたサルモネラ食中毒の事例があります。この事例では、飲食店を利用した385人が発症しました。原因食品として推定された料理には、いずれも自家製マヨネーズが使われていました。
その自家製マヨネーズの酢の配合割合は3.7%でした。資料では、市販のマヨネーズの酢の配合割合は8.7%〜10.5%とされており、それに比べてかなり低い値でした。酸度が低かったため、サルモネラが死滅せず、長期間の保存中に増えたと推定されています。
この話は、マヨネーズの雑学として非常に重要です。マヨネーズが腐りにくいのは、ただ「マヨネーズだから」ではありません。酢、塩、油、水分、卵の殺菌、製造環境などの条件がそろっているからです。条件が崩れると、マヨネーズでも食中毒の原因になり得ます。

「酸っぱい食品なら絶対安全」でもない
酢が入っている食品は、菌に強い傾向があります。しかし、酸性なら何でも絶対に安全という意味ではありません。
米国農務省の研究機関は、酸を加えた食品ではpHを4.6以下に保つことでボツリヌス菌の発芽や毒素産生を防ぐと説明しています。ただし、サルモネラ、大腸菌、リステリアなどの病原菌は、酸性や低pHに抵抗性を示すことがあり、酸性食品の中で増えにくくても、長く生き残る場合があるとも説明しています。
また、マヨネーズ中のサルモネラについて調べた研究では、pHと温度が大きく関係するとされています。低温では酸の殺菌的な働きが弱まり、サルモネラが長く生き残る場合があることも示されています。
つまり、酸性は強い武器ですが万能ではありません。そのため市販品では、配合だけでなく、原料の衛生管理、卵の殺菌、容器の密封、製造ラインの管理などが重要になります。
開栓後は冷蔵保存が必要になる
未開栓のマヨネーズが常温保存できるとしても、開栓後は話が変わります。
開栓すると、空気に触れます。使うときに口の部分に食品のかけらが付いたり、手や調理器具から菌が入ったりする可能性もあります。さらに、マヨネーズをポテトサラダやサンドイッチに混ぜると、野菜や具材の水分で薄まり、もとの酸性度や塩分のバランスが変わります。
『キユーピー』は、未開栓のマヨネーズは常温で直射日光を避け、なるべく涼しい場所に保存し、開栓後は冷蔵庫で保存するよう案内しています。また、開栓後は1か月を目安に食べることをすすめています。
冷蔵庫に入れるときも、0℃以下になる場所は避ける必要があります。マヨネーズは低温になりすぎると油が分離することがあるため、冷気が直接当たりにくいドアポケット付近が保存場所としてすすめられています。
まとめ
- 市販の未開栓のマヨネーズは、直射日光を避けた涼しい場所で常温保存できるものが多い
- 市販のマヨネーズは、油分が多く、水分が少なく、酢と食塩が加わった食品
- 酢や食塩には細菌の繁殖を抑える防腐作用がある
- 市販のマヨネーズは油分が多く、細菌の繁殖に必要な水分が少ない環境になっている
- 原材料のバランスや製造環境の条件が崩れると、マヨネーズでも食中毒の原因になり得る
- 酸性食品における酸の殺菌的な働きは、pHと温度が大きく関係するとされている
- 市販のマヨネーズも、開栓後は冷蔵庫で保存し、1か月を目安に食べることが推奨されている
マヨネーズのすごさは、派手な見た目や珍しい原料にあるわけではありません。卵、油、酢、塩というありふれた材料を組み合わせ、傷みにくく、なめらかで、使いやすい調味料にしているところにあります。
毎日の食卓にある小さなチューブの中には、思った以上に緻密な工夫が詰まっているのです。
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参考文献
- 農林水産省「ドレッシングの日本農林規格の一部を改正する件 新旧対照表」
- キユーピー「原料|マヨネーズへのこだわり」
- キユーピー「商品品質の取り組み」
- キユーピー「おすすめの保存場所は?」
- キユーピー「ニュースリリース 2004年 No.58」
- 東京都保健医療局「こうしておこった食中毒【事業者編】⑥ 自家製マヨネーズによるサルモネラ食中毒」
- USDA Agricultural Research Service「Acidified Foods」
- PMC「The Combined Effect of pH and Temperature on the Survival of Salmonella enterica Serovar Typhimurium and Implications for the Preparation of Raw Egg Mayonnaise」
- 一般社団法人 日本たまごかけごはん研究所「いろんな料理で大活躍!卵の特性のひみつvol.2『乳化性』」

