高速道路や山間部を走っていると、長いトンネルを通ることがあります。何気なく通り過ぎてしまいがちですが、トンネルには安全で快適に走行するためのさまざまな設備が備えられています。
第157回雑学調査レポートでは、そんな「トンネル」に関する雑学をご紹介していきます。
トンネルの奥には外からのラジオ電波が届きにくい
車で長いトンネルを走っていると、トンネルに入った後も、それまで聞いていたラジオ番組がそのまま聞こえることがあります。山の中を走っているのに、なぜラジオが途切れないのか疑問に思う人もいるでしょう。
通常、ラジオ局から送られてきた電波は、トンネルの奥までそのまま届きにくくなります。トンネルの周囲が山や地盤などに囲まれており、外から飛んできた電波が遮られるためです。
そこで、一部のトンネルには「ラジオ再放送設備」が設けられています。
『国土交通省北海道開発局』によると、この設備ではトンネルの外に設置したアンテナでラジオ放送を受信し、受信装置や再送信装置を使って、トンネル内へ同じ放送を送り直します。
つまり、トンネルの中まで放送局の電波が直接届いているとは限りません。「外でラジオを受信して、トンネル専用の設備から中へもう一度流している」と考えると分かりやすいでしょう。

外で受け取ったラジオ放送をトンネル内へ送り直す
ラジオ再放送設備の仕組みを順番に見ると、さらに理解しやすくなります。
まず、トンネルの外にある受信アンテナで、周辺のラジオ局から届いている電波を受け取ります。
次に、その信号を受信装置や再送信装置で処理します。そして、トンネル内に設置された「誘導線」などを使い、ラジオの電波をトンネルの中へ届けます。
『国土交通省北海道開発局』は、トンネル外に受信アンテナ、受信装置、再送信装置を設置し、トンネル内の誘導線を使って放送局と同じ電波を再放送する仕組みを紹介しています。
大まかな流れは「放送局→トンネル外のアンテナ→再放送設備→トンネル内→車のラジオ」となります。
この仕組みであれば、ドライバーがトンネル専用の機器を車内に用意する必要はありません。トンネル側が対応している放送局であれば、普段使っているカーラジオで受信できます。
『NEXCO中日本』も、電波が届かない高速道路のトンネルでは、ラジオ放送をトンネル内で再放送することで、走行中に聞いている番組が途切れにくくなるようにしていると説明しています。
ラジオ再放送設備は事故や火災のときにも役立つ
トンネル内でラジオを聞けるようにする目的は、番組を快適に楽しめるようにすることだけではありません。
一部の設備は、事故や火災などが起きたときに、ドライバーへ緊急情報を伝えるためにも使われています。
『NEXCO西日本』によると、トンネルの延長や交通量に応じて「トンネル内AMラジオ再放送設備」や「トンネル内拡声放送設備」がトンネル非常用施設として整備されます。
トンネルによっては、火災や事故が起きた際に、普段流しているAMラジオ放送をいったん中断できます。そして、それまで聞いていたラジオと同じ周波数を利用し、道路管理者からの案内を流すことがあります。
そのため、トンネルを走っている途中でラジオ番組が突然中断され、「この先で事故が発生しています」「車を停止してください」といった道路管理者からの案内に切り替わる場合があります。
これはラジオ局が通常の番組として流している放送とは限りません。トンネル側の再放送設備を使って、緊急情報を割り込ませているケースがあるのです。
『国土交通省北海道開発局』も、ラジオ再放送設備は緊急時の割り込み放送に対応でき、トンネル内を走行している車や停止している車へ情報を提供できるとしています。
なぜ緊急情報をラジオで流すのか
トンネル内で火災や大きな事故が発生すると、通常の道路とは状況が大きく異なります。
周囲が壁に囲まれているため避難できる方向が限られ、火災が起きれば煙がトンネル内に広がる可能性もあります。そのため、「何が起きているのか」「そのまま進んでよいのか」「停車や避難が必要なのか」といった情報を利用者へ伝えることが重要になります。
そこで役立つ手段の一つがカーラジオです。
走行中のドライバーは、スマートフォンの画面を操作したり、長い文章を読んだりすることができません。ラジオであれば、運転しながら音声で情報を受け取れます。
さらに、『NEXCO西日本』では、車から離れて避難した人などに情報を伝えるため、「トンネル内拡声放送設備」が設置される場合があると説明しています。これは、トンネル内のスピーカーを使って案内を流す設備です。
このように、トンネルでは車内にいる人にはラジオ、車外にいる人にはスピーカーなど、状況に応じて情報を届けられるように設備が整えられています。
トンネルによって聞けるラジオ局が違う
ラジオ再放送設備が設置されていれば、どのラジオ局でも聞けるというわけではありません。
再放送する放送局は、トンネルごとに決められています。
『NEXCO中日本』によると、トンネル内で聞ける放送局は、そのトンネルの近くで一日を通して安定して受信できる局を基本としています。そのため、地域によって再放送される局が異なり、聞ける放送局が限られる場合があります。
実際に『国土交通省北海道開発局 室蘭開発建設部』が公開している一覧を見ると、トンネルごとに再放送する周波数が異なっています。
たとえば、静狩トンネルでは639kHz、675kHz、864kHzが掲載されている一方、礼文華トンネルでは864kHz、945kHz、1440kHzとなっています。このように、同じ地域のトンネルでも対応する周波数が同じとは限りません。
そのため、トンネルへ入った瞬間に特定のラジオ局だけ聞こえなくなったとしても、カーラジオに問題があるとは限りません。そのトンネルの再放送設備が、聞いていた放送局に対応していない可能性があります。
また、設備に不具合が発生すれば、一時的にラジオが聞けなくなることもあります。『国土交通省北海道開発局 室蘭開発建設部』の2026年4月更新の案内では、一部のトンネルについて、設備不良によりラジオが聞こえない状況であることも掲載されています。
AMは聞けてもFMが聞けないトンネルもある
AMとFMで状況が異なる場合もあります。
『NEXCO中日本』では、FMラジオについて、一部のトンネルでは聞けない場合があると案内しています。さらに、AMラジオの番組をFMの周波数で放送する「ワイドFM」については、トンネル内では聞けないとしています。
たとえば、トンネルへ入る直前までワイドFMでAM局の番組を聞いていた場合、トンネル内で同じFM周波数の放送が再放送されていなければ聞こえなくなります。
一方で、ラジオ再放送設備そのものがAMだけに限られるわけではありません。『国土交通省北海道開発局』は、道路情報システムとしてAM・FM放送のラジオ再放送設備を紹介しています。
どの方式や周波数に対応しているかは、道路管理者やトンネルによって異なると考えるのが分かりやすいでしょう。
すべてのトンネルに再放送設備があるわけではない
短いトンネルを通ったとき、入った直後にラジオへ雑音が入り、そのまま聞こえなくなった経験がある人もいるでしょう。
ラジオ再放送設備は、すべての道路トンネルへ同じように設置されているわけではありません。
道路管理者やトンネルの条件によって、必要な設備は異なります。
『NEXCO西日本』は、トンネル非常用施設としてのAMラジオ再放送設備や拡声放送設備について、トンネルの延長と交通量に応じて整備するとしています。
そのため、「あるトンネルではラジオが途切れないのに、別のトンネルでは聞こえなくなる」という違いが生まれます。
長いトンネルだから必ず聞ける、短いトンネルだから必ず聞けないという単純な仕組みではなく、それぞれのトンネルに設置されている設備によって状況が変わります。
スマートフォンの普及で再放送設備の運用も変わっている
近年は、スマートフォンと携帯電話回線を利用して、インターネット経由でラジオを聞く方法も広く使われるようになりました。
こうした変化を受け、従来からある地上波ラジオ再放送設備の運用を見直す動きもあります。
『NEXCO西日本』は2025年11月4日、インターネットを利用したラジオ視聴アプリの普及などを背景として、一部のトンネルを除き、地上波ラジオ再放送設備を2025年11月以降に順次休止すると発表しました。
ただし、すべてのラジオ再放送設備が一律に使われなくなったわけではありません。
2026年10月時点の『NEXCO西日本』の案内では、「トンネル非常用施設ではないラジオ再放送設備」について現在休止していると説明されています。一方、火災や事故などの際に危険防止や事故の拡大防止を担うAMラジオ再放送設備については、トンネル非常用施設としての役割も説明されています。
そのため、トンネル内のラジオ再放送設備は、単に「番組を途切れずに聞くための設備」として見るだけでは十分ではありません。設備によっては、事故や火災が起きたときにドライバーへ重要な情報を届ける役割も担っています。
まとめ
- トンネル内では外からのラジオ電波が届きにくいため、一部では外で受信した放送を専用設備で内部へ再送信している
- ラジオ再放送設備は、外のアンテナで受信した信号を再送信装置で処理し、誘導線などを使ってトンネル内へ届ける仕組み
- トンネルによっては、事故や火災の際に通常のラジオ放送を中断し、道路管理者からの緊急情報を同じ周波数で流せる
- 再放送される放送局や周波数はトンネルごとに異なり、すべてのラジオ局を聞けるわけではない。
- すべてのトンネルにラジオ再放送設備があるわけではなく、トンネルの長さや交通量などに応じて設備の有無が異なる
- スマートフォンやインターネットラジオの普及により、一部では地上波ラジオ再放送設備の運用を休止する動きも進んでいる
- 一方で、非常時の情報伝達を担うラジオ再放送設備は、トンネル内の安全を支える設備として重要な役割を持つ
トンネルの中でいつも通りラジオを聞ける背景には、外で受信した放送を内部へ送り直す設備が使われている場合があります。普段はほとんど意識することのない設備ですが、快適な走行だけでなく、非常時の情報伝達にも関わる重要な役割を担っています。
身近な道路の中にも、こうした知られざる工夫が数多く隠されています。

