「ビー玉」という言葉を聞けば、どんな物かはすぐに思い浮かぶでしょう。しかし、その名前や昔の使われ方まで知っている人は、それほど多くないかもしれません。
第114回雑学調査レポートでは、そんな「ビー玉」に関する雑学をご紹介していきます。
ビー玉の「ビー」は「B級品のB」とは限らない
子どものころに遊んだ人も多いビー玉。名前だけを見ると、「ビー」はアルファベットの「B」だと思うかもしれません。
実際、ビー玉の名前については「A玉・B玉説」がよく知られています。
この説では、ラムネ瓶の栓として使える品質のよいガラス玉を「A玉」、形や大きさに問題があって使えないものを「B玉」と呼んでいたとされます。その「B玉」が子どもの玩具として使われるようになり、「ビー玉」という名前になったという説明です。
分かりやすく覚えやすい説なので、現在でもさまざまな場所で紹介されています。
ところが、辞書や百科事典を見ると、少し違う説明がされています。
『コトバンク』に掲載されている「デジタル大辞泉」と「精選版 日本国語大辞典」では、ビー玉の「ビー」は「ビードロ」の略とされています。「日本大百科全書」や「改訂新版 世界大百科事典」でも、ビードロに由来するという説明が採用されています。
そのため、「ビー玉のビーはB級品のB」と決めつけるよりも、「辞書ではビードロ説が採用されていて、別の説としてA玉・B玉説もある」と理解すると分かりやすいでしょう。
「ビードロ」は昔の日本で使われていたガラスの呼び名
では、「ビードロ」とは何なのでしょうか。
ビードロは、ガラスやガラス製品を表す昔の言葉です。もとになったのは、ポルトガル語でガラスを意味する「vidro」です。
現在の日本では「ガラス」という言葉を使うのが普通ですが、昔は西洋から伝わってきたガラスやガラス製品を「ビードロ」と呼ぶことがありました。
「精選版 日本国語大辞典」では、「ビードロ」が使われた古い例として、1603年の「言経卿記(ときつぐきょうき)」が挙げられています。
また、「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典」では、室町時代の終わりごろにポルトガルやオランダなどから長崎へ入ってきたガラス器が「ビードロ」と呼ばれ、明治から大正初期ごろまでこの言葉が使われていたと説明されています。
この「ビードロ」の「ビー」に「玉」を付けて「ビー玉」になったというのが、複数の辞書や百科事典で紹介されている説です。
この説に沿って考えると、「ビー玉」はもともと「ガラスの玉」という意味に近い名前だったことになります。
現在では「ビードロ」という言葉を日常生活で聞くことが少ないため、「ビー」だけが残っていると意味が分かりにくく感じられるのでしょう。
「ビー玉」という言葉は100年以上前から使われている
「ビー玉」という呼び名は、最近生まれたものではありません。
「精選版 日本国語大辞典」では、「ビー玉」の使用例として夏目漱石の小説「明暗」が挙げられています。「明暗」が発表されたのは1916年です。
つまり、少なくとも大正時代には「ビー玉」という言葉が使われていたことが確認できます。
ビー玉そのものは、それより前から日本人の生活に入っていました。
「改訂新版 世界大百科事典」によると、日本でガラスが広く使われるようになった明治時代、ラムネ瓶に使われていたガラス玉が子どもの遊びにも利用されました。この玉は「ラムネ玉」と呼ばれていたとされています。
その後、遊ぶためのガラス玉も作られるようになり、「ビー玉」という名前が使われるようになったと説明されています。
「百科事典マイペディア」でも、最初はラムネ瓶の口にはめるための玉が使われたため「ラムネ玉」と呼ばれ、明治中期ごろからビー玉遊びが流行したとされています。
今では昔ながらの玩具というイメージが強いビー玉ですが、日本では明治から大正時代にかけて、ラムネ瓶や子どもの遊びと深く結び付いていったようです。
有名な「A玉・B玉説」にはいくつかのパターンがある
では、「A玉・B玉説」はまったく根拠のない話なのでしょうか。
実は、「A玉」「B玉」という呼び方について書かれた資料は存在します。
『レファレンス協同データベース』では、作曲家の團伊玖磨(だん いくま)が書いた「まだまだパイプのけむり」に収録されている「B玉」という文章について調査しています。
そこでは、ビー玉製造業者の関係者による説明として、業界では上等な多色の玉を「A弾」または「A玉」、青一色の比較的シンプルな玉を「B弾」または「B玉」と呼んでいたことが紹介されています。
そして、この業界用語の「B玉」が一般にも広まり、「びい玉」という言葉になったのではないかという考えが述べられています。
ただし、この話には少し気になる点があります。
現在よく知られているA玉・B玉説では、「ラムネ瓶に使える合格品がA玉」「使えない不良品がB玉」と説明されることが多くあります。
一方、この業界関係者の話では、A玉は上等な多色の玉、B玉は青一色の玉という区別です。ラムネ瓶の栓として使えるかどうかで分けたとは説明されていません。
同じ「A玉・B玉」の話でも、内容が少し違っているのです。
「使える玉がA玉、使えない玉がB玉」という資料もある
一方で、現在よく知られているA玉・B玉説に近い説明が書かれた資料もあります。
『レファレンス協同データベース』で紹介されている山本孝造の「びんの話」では、明治時代のガラス玉には大きさのばらつきがあり、ラムネの玉瓶に使えるものを「A玉」、使えない不良品を「B玉」として選別したと説明されています。
大阪市立中央図書館による調査でも、この話がビー玉の名前の由来に関する一説として紹介されています。
つまり、「A玉」「B玉」という呼び方に関する記録自体はあります。
ただし、資料によってA玉とB玉の意味が違っています。
「上等な多色の玉と青一色の玉を区別した」という話もあれば、「ラムネ瓶に使える玉と使えない玉を区別した」という話もあるわけです。
そのため、「B玉という呼び方が存在した」という話と、「ビー玉という言葉はB玉から生まれた」という話は、分けて考えたほうがよいでしょう。
辞書や百科事典では、「デジタル大辞泉」「精選版 日本国語大辞典」「日本大百科全書」「改訂新版 世界大百科事典」などが、ビー玉の「ビー」を「ビードロ」の略と説明しています。
現在確認できる資料を比べると、ビードロ説とA玉・B玉説の両方が伝わっているものの、辞書類ではビードロ説が広く採用されていることが分かります。
ラムネ瓶の中に入っている玉も「ビー玉」
A玉・B玉説から、「ラムネ瓶に入っているのはA玉だから、ビー玉ではない」という説明を見かけることがあります。
しかし、現在の清涼飲料業界では、ラムネ瓶の中に入っているガラス玉を「ビー玉」と呼んでも問題ありません。
『全国清涼飲料連合会』は、「『ラムネ』に入っているのはビー玉ですか?」という質問に対して、「ビー玉です」と説明しています。
業界では、このビー玉を「ラムネ玉」と呼んでいます。
ラムネ瓶では、瓶の中に入っている炭酸ガスの圧力によってラムネ玉が口ゴムに押し付けられます。玉とゴムが密着することで、瓶の中身が漏れないように栓をしている仕組みです。
さらに『全国清涼飲料連合会』は、ビー玉という名前についても、「ビードロ」の略とする説と、「A玉」「B玉」の区別から生まれたとする説の両方を紹介しています。
そのため、「ラムネ瓶に入っている玉はA玉であってビー玉ではない」と区別する必要はありません。
現在の業界での呼び方では、ラムネ瓶の中にあるガラス玉もビー玉であり、用途に注目した場合は「ラムネ玉」と呼ばれています。
まとめ
- ビー玉の「ビー」は、辞書や百科事典では「ビードロ」の略とする説が広く採用されている。
- 「ビードロ」はポルトガル語でガラスを意味する「vidro」に由来する言葉。
- 「ビー玉」という言葉は、少なくとも1916年の夏目漱石「明暗」ですでに使われていた。
- 「A玉」「B玉」という呼び方の記録はあるが、資料によってその区別の意味が異なる。
- 「B玉」という呼び方が存在したことと、「ビー玉」の語源がB玉であることは分けて考える必要がある。
- ラムネ瓶の中に入っているガラス玉も、現在の清涼飲料業界では「ビー玉」と呼ばれている。
- ビー玉の語源には「ビードロ説」と「A玉・B玉説」があり、単純に「B級品のB」とは言い切れない。
普段何気なく使っている「ビー玉」という名前ですが、その由来をたどると、ビードロやラムネ瓶などさまざまな歴史につながっています。
身近なものでも、名前に注目してみると意外な発見があるものです。

