毎日のように世界中で食べられているトマトですが、その「正体」を説明しようとすると、話は意外なほど単純ではありません。
普段の食卓で使われる呼び方、植物を研究するときの呼び方、さらには法律上の扱いまで、見る立場によって答えが変わることがあります。
身近なトマトには、想像以上に奥深い分類の世界が隠れています。
第99回雑学調査レポートでは、そんな「トマト」に関する雑学をご紹介していきます。
普段の生活でトマトを「野菜」と呼ぶのは間違いではない
スーパーでは野菜売り場に並び、サラダやスープ、パスタソース、ケチャップなどにも使われるトマト。
普段の感覚では、トマトを「野菜」と考えている人がほとんどではないでしょうか。実際、日本でもトマトは野菜として扱われています。
農畜産業振興機構(ALIC)では、トマトを「果菜類」というグループに分類しています。
果菜類とは、簡単にいうと「植物の果実の部分を食べる野菜」のことです。トマトだけでなく、ナス、キュウリ、ピーマンなども果菜類に含まれます。
つまり、料理、流通、園芸といった普段の生活に近い分類では、「トマトは野菜」と考えて問題ありません。
ところが、植物学ではまったく別の基準を使って分類します。
植物学ではトマトは「果実」
植物学の世界では、私たちが食べているトマトの実は「果実」です。
これは、トマトが花からできて、その中に種子が入っているためです。
トマトの花が咲いたあと、受粉と受精が起こると、花の中にある「子房」という部分が成長していきます。その子房が大きくなったものが、最終的に私たちが食べているトマトになります。
トマトを切ってみると、中にはたくさんの種があります。植物にとって果実は、この種子を包み、次の世代につなげるための大切な部分です。

米国森林局(U.S. Forest Service)も、トマトは花から発達して種子を含むため、植物学的には果実に当たると説明しています。英国王立植物園キュー(Royal Botanic Gardens, Kew)でも、トマトは植物学上の果実として扱われています。
そのため、トマトについては、「料理や園芸では野菜」「植物学では果実」という2つの説明が、どちらも正しいことになります。
一見すると矛盾しているようですが、単に分類するときのルールが違うだけです。
さらに細かく見るとトマトは「ベリー」
トマトには、もう一つ意外な事実があります。
植物学では、トマトは果実の中でも「berry(ベリー)」に分類されます。
「トマトがベリー?」と驚くかもしれません。
日本でベリーと聞くと、ブルーベリーやラズベリー、ストロベリーなど、小さくて甘酸っぱい果物を思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし、普段使われている「ベリー」という言葉と、植物学で使われる「berry」は意味が違います。
植物学では、甘いかどうか、小さいかどうか、名前に「ベリー」が付いているかどうかでは判断しません。どのような花の子房からできたのか、成熟した果実の中身がどのような構造になっているのか、といった特徴で分類します。
トマトは、その植物学上の条件を満たしているため、ベリー型の果実とされています。そのため、「トマトは植物学上、ベリーの一種」という少し意外な説明が成り立つのです。
ちなみに、ミニトマトだけがベリーというわけではありません。大玉トマトもミニトマトも同じトマトの仲間なので、基本的な植物学上の果実分類は同じです。
名前に「ベリー」が付いていても植物学ではベリーとは限らない
さらにややこしいのが、普段「ベリー」と呼ばれている食べ物が、すべて植物学上のベリーというわけではない点です。
普段使われる食べ物の名前は、植物学上の分類とは別に付けられていることがあります。そのため、「名前にはベリーと付いているのに、植物学ではベリーではない」という果物もあります。
逆にトマトのように、「普段は誰もベリーと呼ばないのに、植物学ではベリー」というものも存在します。
植物学上のベリーは、見た目や味で決まるものではありません。小さくなくてもよく、甘くなくてもよく、日常的にベリーと呼ばれている必要もないのです。

トマトを「ベリー」と聞いて違和感があるのは、私たちが普段使っているベリーという言葉と、植物学の専門用語である「berry」の意味が違うからです。
果実なのに、なぜトマトは野菜と呼ばれるのか
では、植物学では果実であるトマトが、なぜ日常生活では野菜として扱われるのでしょうか。
理由は、「野菜」と「果物」を分ける方法が一つではないためです。
植物学では、植物のどの部分からできているのか、どのような構造をしているのか、といった特徴が重要になります。
一方、料理や園芸では、「どのように栽培されるか」「どのような料理に使われるか」「食事の中でどのような役割を持つか」といった人間側の使い方も分類に関わります。

米国農務省(USDA)の資料でも、園芸上の「野菜」「果物」という区分は、植物学上の分類とは必ずしも一致しないと説明されています。
トマトだけでなく、カボチャやキュウリも植物学的には果実ですが、園芸や料理では一般的に野菜として扱われます。
トマトはデザートとして食べるよりも、サラダ、スープ、ソース、煮込み料理など、食事の一部として利用されることが多い食材です。そのため、生活上は野菜として扱うほうが分かりやすいというわけです。
日本で使われている「果菜類」という言葉は、この関係をかなり分かりやすく表しています。
トマトは、「果実の部分を食べる野菜」なのです。
実はアメリカでは「トマトは野菜か」が裁判になった
「トマトは野菜なのか、果物なのか」
この疑問は、単なる雑学で終わらなかったことがあります。
19世紀のアメリカでは、トマトの分類をめぐる争いが連邦最高裁判所まで持ち込まれました。1893年に判決が出た「Nix v. Hedden(ニックス対ヘデン事件)」です。
なぜ、トマトの分類を最高裁で争うことになったのでしょうか。
理由は税金です。
当時のアメリカでは、1883年の関税法によって、一部の輸入野菜には10%の関税がかけられていました。一方、一定の果物については免税となっていました。
つまり、トマトが「野菜」なのか「果物」なのかによって、輸入するときに関税を払う必要があるかどうかが変わったのです。
問題となったのは、1886年に西インド諸島からアメリカへ輸入されたトマトでした。ニューヨーク港の税関はトマトを野菜として扱い、関税をかけました。
これに対して輸入業者側は、「トマトは植物学では果実なのだから、果物として扱うべきだ」と主張します。そして、支払った関税を返してほしいとして裁判になりました。

アメリカ最高裁は「関税法では野菜」と判断
1893年5月10日、アメリカ連邦最高裁判所は、この裁判について判断を示しました。
結論は、「1883年関税法を適用するうえでは、トマトは野菜として扱う」というものでした。
ここで注意したいのは、最高裁が「植物学でもトマトは野菜だ」と判断したわけではないことです。
むしろ判決では、植物学的に見ればトマトが果実であること自体は認められています。それでも、法律上は野菜と判断されました。
最高裁が重視したのは、植物学の専門用語ではなく、一般の人が日常生活で「fruit」と「vegetable」をどのように使っているかという点でした。
トマトは、一般的な果物のようにデザートとして食べることが中心ではありません。ジャガイモ、ニンジン、キャベツ、レタスなどと同じように、食事の一部として食べられることが多い食品です。
そのため、この関税法の意味では「野菜」と考えるのが自然だと判断されました。輸入業者側の主張は認められず、それまでの判断が維持されています。

この裁判を「アメリカ最高裁がトマトは野菜だと決めた」と紹介することもありますが、それでは少し説明が足りません。
より正確には、「1883年関税法を適用する目的では、トマトを野菜として扱うと最高裁が判断した」という話です。植物学上の分類まで変更されたわけではありません。

「野菜」「果物」「果実」はそもそも同じ分類ではない
トマトが野菜なのか果物なのか分かりにくくなる原因の一つが、「果物」と「果実」を同じ意味だと思ってしまうことです。
植物学で重要になるのは「果実」という言葉です。
トマトの食べている部分は植物学上の果実で、さらに細かく分類するとベリー型の果実になります。
一方、「果物」は、普段の食生活や園芸、流通などで使われる言葉です。植物学上の「果実」と日常生活の「果物」は、完全に同じ意味ではありません。
植物学上は果実でも、普段は野菜として扱われるものがあります。トマト、キュウリ、カボチャなどが、その代表です。
そのため、トマトについて最も分かりやすく整理すると、「植物学上は果実で、さらにベリーの一種」「料理・流通・園芸では一般的に野菜」となります。
日本でトマトが「果菜類」に分類されているのも、この特徴をよく表しています。

植物の果実を食べているけれど、私たちの生活の中では野菜として扱われている。トマトは、見る立場によって呼び方が変わる少し変わった食べ物なのです。
まとめ
- トマトは、料理・流通・園芸では野菜として扱われる
- 植物学では、トマトは花の子房からできる「果実」に分類される
- トマトは植物学上、果実の中でも「ベリー」の一種
- 日常語の「ベリー」と植物学上の「berry」は意味が異なる
- 野菜と果物の区分は、植物学と料理・園芸で基準が異なる
- トマトは「果実の部分を食べる野菜」である果菜類に分類される
- アメリカではトマトの分類が関税をめぐる裁判にまで発展した
- 1893年、米最高裁は1883年関税法上ではトマトを野菜として扱うと判断した
- 最高裁は植物学上の分類を否定したのではなく、法律上の目的で野菜と判断した
- 「果実」は植物学上の用語で、「果物」とは必ずしも同じ意味ではない
- トマトは、植物学上は果実・ベリー、日常生活では野菜として扱われる
普段何気なく食べているトマトも、視点を変えるだけでまったく違った姿が見えてきます。
スーパーでは野菜として並び、植物学では果実として扱われ、さらに細かく見ればベリーに分類されるトマト。どれか一つが間違っているのではなく、それぞれ異なる基準から付けられた呼び方です。
いつもの食卓に並ぶトマトも、その背景を知ってから見ると、少し違って見えるかもしれません。
参考文献
- Royal Botanic Gardens, Kew「Tomato – Solanum lycopersicum」
- Royal Botanic Gardens, Kew, Plants of the World Online「Solanum lycopersicum L.」
- U.S. Forest Service「Fruits」
- U.S. Department of Agriculture / National Institute of Food and Agriculture「USDA Definition of Specialty Crop」
- Library of Congress, U.S. Reports「Nix v. Hedden, 149 U.S. 304 (1893)」
- 独立行政法人 農畜産業振興機構「国際果実野菜年2021特集コーナー~四季の野菜と健康 トマトとにんじん~」

