牛が食べた草でバターの色が変わる!?【牛乳とバターは○○が違う】

トーストやお菓子作り、料理など、さまざまな場面で使われているバター。あまりにも身近な食品なので、普段はその見た目について深く考える機会は少ないかもしれません。しかし、よく観察してみると気になる特徴があります。

第121回雑学調査レポートでは、そんな「バター」に関する雑学をご紹介していきます。

目次

バターの黄色は牛が食べた植物の色素から生まれる

バターと牛乳を見比べると、不思議な違いがあります。牛乳は白いのに、そこから作られるバターは黄色やクリーム色をしています。

この黄色に大きく関係しているのが、「βカロテン」などのカロテノイドです。

βカロテンは、ニンジンやカボチャなどにも含まれる黄橙色の天然色素です。牛が食べる牧草にも含まれており、牛は食事を通してβカロテンなどのカロテノイドを体内に取り込みます。

取り込まれたカロテノイドの一部は牛乳の乳脂肪に移ります。そのため、牛乳の脂肪を集めて作るバターにもカロテノイドが含まれ、黄色く見えるのです。

特に牧草を多く食べた牛では、牛乳やバターに含まれるβカロテンが増え、黄色味が強くなる傾向が研究で確認されています。

ただし、バターの色はβカロテンだけで決まるわけではありません。ほかのカロテノイド、牛が食べる飼料、飼育環境、季節、製造条件なども関係します。

それでも、「牛が食べた植物の色素が乳脂肪に入り、それがバターの黄色につながる」という仕組みが、基本的な理由です。

βカロテンが入っているのに牛乳が白く見える理由

ここで疑問になるのが、「牛乳にもβカロテンが含まれているなら、なぜ牛乳は黄色く見えないのか」という点です。

牛乳が白く見える大きな理由は、牛乳の中にある細かな粒が光をさまざまな方向へ散らしているためです。

牛乳の中では、乳脂肪が「脂肪球」という非常に小さな粒になって水分中に分散しています。

さらに、牛乳の主要なたんぱく質であるカゼインの多くも、「カゼインミセル」という小さな粒のような状態で存在しています。

牛乳に光が当たると、この脂肪球やカゼインミセルに光がぶつかり、いろいろな方向へ散らばります。この現象を「光の散乱」といいます。

さまざまな色の光が広い範囲に散乱するため、私たちの目には牛乳が白く、不透明に見えます。

『University of Guelph』の乳製品科学教材でも、牛乳の白さや不透明さには、脂肪球やカゼインミセルによる光の散乱が関係していると説明されています。

βカロテンは牛乳の乳脂肪に含まれているため、牛乳をわずかに黄色やクリーム色に見せることがあります。しかし、一般的な牛乳では光の散乱による白さが目立つため、βカロテンの黄色はそれほど強く感じられません。

つまり、牛乳が白いからといって、黄色い色素が入っていないわけではありません。

「黄色く見せる色素」と「白く見せる光の散乱」の両方が存在し、牛乳では光の散乱による白さのほうが目立っているのです。

牛乳からバターになると黄色が目立つのは脂肪が集まるため

牛乳では目立たなかった黄色が、なぜバターになるとはっきり見えるのでしょうか。

大きな理由は、バターを作るときに乳脂肪が大量に集められるためです。

バターは、牛乳から分離したクリームをかき混ぜて作ります。

クリームの中には、水分の中に細かな脂肪球が分散しています。このクリームを強くかき混ぜると脂肪球の膜が壊れ、脂肪同士がくっつき始めます。

最終的に乳脂肪がまとまり、バターになります。

米国農務省『USDA』が示す米国の基準では、バターは牛乳またはクリームから作られ、重量の80%以上を乳脂肪が占める食品です。

一方、飲用する一般的な牛乳では、水分が大部分を占めています。

そのため、牛乳からバターになる過程では、乳脂肪が非常に高い割合まで集められることになります。

ここで重要なのが、βカロテンなどのカロテノイドは「脂溶性」の物質だという点です。

脂溶性とは、簡単にいえば水よりも脂肪になじみやすい性質のことです。βカロテンは乳脂肪の部分に存在するため、乳脂肪を集めるとβカロテンも一緒に集まります

牛乳の中では薄く分散していた黄色の成分が、バターでは乳脂肪とともに高い割合で存在するようになるわけです。

その結果、牛乳では目立たなかった黄色が、バターでは分かりやすくなります。

牛乳とバターでは中身の構造そのものが違う

牛乳とバターの色が違う理由には、脂肪の量だけでなく、中身の構造の違いも関係しています。

牛乳では、大量の水分の中に小さな脂肪球が散らばっています。

この状態は、水の中に油が細かく分散している状態です。

ところが、バターを作るためにクリームをかき混ぜ続けると、この関係が大きく変わります。

バターでは乳脂肪のほうがつながった状態になり、その中に小さな水滴が散らばります。このような構造は「油中水型」と呼ばれます。

つまり、牛乳とバターでは、水と脂肪の位置関係がほぼ反対になります。

牛乳では水分が中心ですが、バターでは脂肪が中心です

食品の中身の構造が変われば、光の反射や散乱の仕方も変化します。乳脂肪に含まれているカロテノイドも目立ちやすくなります。

この「乳脂肪が増えること」と「内部構造が変わること」が組み合わさり、白い牛乳から黄色いバターができるのです。

牧草を多く食べた牛のバターは黄色くなりやすい

バターの黄色の濃さを左右する重要な要素が、牛が何を食べているかです。

特に新鮮な牧草には、βカロテンやルテインなどのカロテノイドが含まれています

牛が牧草を食べると、こうした成分の一部が乳脂肪に移ります。そのため、牧草を多く食べる牛では、牛乳に含まれるβカロテンなどが多くなる傾向があります。

2024年に『Food Chemistry Advances』で発表された研究では、牛への牧草の与え方が異なる3種類の飼育方法が比較されました。

研究で比較されたのは、牧草を多く食べる牛、牧草と混合飼料を組み合わせて食べる牛、牧草を食べない牛です。

その結果、牧草の割合が高い牛の牛乳では、牧草を与えない牛の牛乳と比較して、βカロテン濃度が泌乳期間全体の平均で2倍を超えて高くなっていました。

さらに、βカロテンが多い牛乳ほど黄色味が強くなる関係も確認されています。

バターでも同じような傾向があります。

2024年に『Journal of Dairy Science』で発表された研究では、牛が食べる牧草の割合が増えるにつれて、その牛乳から作られたバターの黄色味が強くなる傾向が示されました。

黄色味は、カロテノイドに由来すると考えられる測定値とも強く関連していました。

また、2016年に発表された研究でも、牧草で飼育された牛の牛乳から作ったバターは、屋内で混合飼料を与えた牛のバターより、トランスβカロテンの濃度が高かったことが報告されています。

そのため、「グラスフェッド」や「牧草飼育」と表示されたバターが、一般的なバターより濃い黄色に見えることがあります。

黄色の濃さだけですべての飼育方法を判断することはできませんが、牛が食べた牧草に含まれるカロテノイドが色に影響していることは、複数の研究から確認されています。

バターの色は季節によって変わることがある

牧草を利用する酪農では、牛が一年中まったく同じものを食べているとは限りません。

草がよく育つ時期には、牛を放牧して新鮮な牧草を食べさせることがあります。

一方、気温が下がって牧草が育ちにくい時期や、放牧が難しい地域では、乾燥させた牧草、発酵させた飼料であるサイレージ、穀物、配合飼料などが使われます。

食べるものが変われば、牛乳に移るカロテノイドの量も変わります。

2024年の『Food Chemistry Advances』の研究では、泌乳期間を通して牛乳を調べた結果、βカロテンやルテインなど複数の脂溶性成分の濃度が、牧草の割合や泌乳期間によって変化することが確認されました。

同じ年に『Journal of Dairy Science』で発表されたバターの研究でも、牧草を食べる量と泌乳時期によって、バターの黄色味に違いが見られました。

さらに変化するのは色だけではありません。

研究では、バターの硬さ、脂肪酸の構成、溶け方、脂肪が固まるときの性質などにも違いが確認されています。

昔ながらの放牧中心の酪農では、季節によってバターの黄色が変化することがあります。

ただし、「夏のバターは必ず黄色く、冬は必ず白い」という意味ではありません。

現在は農場によって飼料の管理方法が大きく異なります。年間を通して似た飼料を与えている農場もあれば、季節によって牧草の割合が大きく変わる農場もあります。

そのため、季節そのものがバターを黄色くするというより、「季節によって牛が食べるものが変わり、その結果としてバターの色が変化することがある」と考えると分かりやすいでしょう。

黄色いバターほど高品質というわけではない

濃い黄色のバターを見ると、「黄色いほど栄養が多い」「高級なバターほど黄色い」と感じるかもしれません。

確かに、牧草を多く食べた牛のバターでは、カロテノイドや一部の脂肪酸などの量や割合が変わることが研究で確認されています。

そのため、黄色味が牛の飼料や一部の成分について知る手掛かりになる場合はあります。

しかし、バター全体の品質は色だけでは決まりません

例えば、バターのおいしさには香りや風味が関係します。料理やお菓子作りでの使いやすさには、硬さや溶け方も重要です。

さらに、原料となるクリームの品質、製造方法、発酵の有無、塩分、保存状態などもバターの特徴を左右します。

『USDA』が行うバターの等級評価でも、色だけを見て品質を決めているわけではありません。風味、組織の状態、色、塩など、複数の項目を確認して評価します。

また、米国のバターの基準では、着色料を使用した製品もバターとして認められています。

つまり、黄色が濃いという理由だけで、「牧草をたくさん食べた牛から作られた」「栄養価が高い」「品質が高い」と判断することは難しいのです。

バターを選ぶときは、色だけでなく、原材料や飼育方法、有塩か無塩か、発酵バターかどうか、香りや味、料理用かお菓子作り用かといった用途も確認すると、自分に合った商品を選びやすくなります。

まとめ

  • バターの黄色には、牛が牧草などから取り込んだβカロテンをはじめとするカロテノイドが大きく関係している
  • 牛乳が白く見えるのは、脂肪球やカゼインミセルが光をさまざまな方向へ散乱させるため
  • バター作りでは乳脂肪が集められるため、乳脂肪に含まれるβカロテンなどの黄色が目立ちやすくなる
  • 牛乳とバターでは水分と脂肪の構造が大きく異なり、それによって光の見え方も変化する
  • 牧草を多く食べた牛ほど牛乳中のβカロテンが多くなり、バターの黄色味も強くなる傾向がある
  • バターの色は季節そのものより、その時期に牛が何を食べていたかという飼料条件の影響を受ける
  • 黄色の濃さはバターの特徴を知る手掛かりにはなるが、それだけで品質や栄養価の高さは判断できない

バターの黄色には、牛が食べたものや乳脂肪の特徴など、見た目だけでは分からない背景があります。

スーパーでバターを選ぶ機会があれば、商品の色や表示を見比べてみるのも面白いでしょう。普段見慣れた食品でも、少し視点を変えるだけで意外な違いが見えてきます。

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