ブーメランは、世界中でよく知られている道具の一つです。独特な形や飛び方が印象的で、一度は実際に投げてみたいと思ったことがある人もいるのではないでしょうか。
第117回雑学調査レポートでは、そんな「ブーメラン」に関する雑学をご紹介していきます。
実はブーメランの多くは「戻ってこない」
ブーメランと聞くと、「投げると大きくカーブして、手元へ戻ってくる道具」を思い浮かべる人が多いでしょう。
ところが、オーストラリアで古くから使われてきたブーメラン全体を見ると、実は戻ってくるタイプは一部にすぎません。
『National Museum of Australia』によると、ブーメランの中には投げた人のところへ戻るよう設計されたものもありますが、大多数は戻ってこないタイプだとされています。
つまり、私たちがよく知っている「投げたら戻ってくる」という特徴は、ブーメランという道具が持つさまざまな特徴のうちの一つなのです。
なぜ戻ってこないブーメランが多かったのでしょうか。
その理由は、ブーメランがもともと単なる遊び道具ではなかったことと関係しています。
オーストラリアのアボリジナルの人々にとって、ブーメランは狩猟や戦闘、植物の採集、火起こし、儀式など、さまざまな場面で使える道具でした。
目的によって必要な性能が違うため、すべてのブーメランを「戻ってくる形」にする必要はなかったのです。
狩猟用ブーメランは「戻ること」より「当たること」が重要
狩猟でブーメランを使う場合、最も重要なのは投げたあとに手元へ戻ってくることではありません。
大切なのは、狙った獲物までしっかり届き、十分な力で当たることです。
そのため、獲物を直接狙うためのブーメランには、基本的に戻ってこないタイプが使われていました。
『National Museum of Australia』によると、ブーメランはエミューやカンガルーなどの狩猟に利用されてきました。
使い方も、単純に獲物へ向かって投げるだけではありません。
地面に一度ぶつけて跳ねさせ、そのまま獲物を狙うような投げ方もあったとされています。
さらに、熟練した使い手であれば、最大で約100メートル離れた獲物を狙うこともできたと紹介されています。
100メートルといえば、陸上競技の100メートル走と同じ距離です。
公園などで遊ぶ小型のブーメランを想像すると、かなり意外な距離ではないでしょうか。
『Australian Museum』が紹介しているブーメランの分類を見ると、形や大きさも一種類ではありません。
広く見られる「Common type(コモン タイプ)」と呼ばれる型は、小型になるほど戻る玩具型に近づき、大型になるほど典型的な狩猟用に近づくと説明されています。
一方で、「Central Australian type(セントラル オーストリアン タイプ)」のように、投げることはできても戻ってこない形のブーメランも存在します。
ブーメランは一つの決まった形をした道具ではなく、地域や用途に合わせてさまざまな形へ発展してきたのです。

戻ってくるブーメランも狩猟で使われていた
では、戻ってくるブーメランは遊びや練習のためだけに使われていたのでしょうか。
実は、戻るタイプも狩猟に利用されることがありました。
ただし、ブーメランそのもので獲物を直接仕留めるとは限りません。
『National Museum of Australia』では、鳥を狩るときの興味深い使い方が紹介されています。
戻るブーメランをカモなどの群れの上へ向かって投げる方法です。
空中を旋回するブーメランを鳥が見ると、上空を飛んでいるタカのような天敵と勘違いすることがあります。
驚いた鳥たちは、危険を避けようとして低い方向へ逃げます。
その逃げる先にあらかじめ網を設置しておき、鳥を網へ追い込んで捕まえるという仕組みです。

つまり、この場合のブーメランは「獲物を殴る武器」ではなく、「獲物を動かすための道具」として使われています。
一方、鳥がブーメランの届く距離まで近づいた場合には、戻ってこないタイプを直接投げて仕留める方法もありました。
同じブーメランでも、目的によって使い方がかなり違います。
戻るタイプでは鳥を驚かせて誘導し、戻らないタイプでは直接獲物を狙うという使い分けができたのです。
なぜブーメランは戻ってくる?ポイントは「回転」と「空気」
戻るブーメランが大きな円を描くように飛ぶのは、単純に曲がった形をしているからではありません。
大きく関係しているのが、ブーメランの高速回転と、空気から受ける力です。
『Australian Museum』によると、右利きの人が典型的な戻るブーメランを投げる場合、ブーメランは地面と平行に寝かせるのではなく、ほぼ垂直に近い姿勢で投げられます。
そして、前へ進みながら高速で回転します。
ここでポイントになるのが、回転するブーメランの上側と下側で、空気に対する速さが違うことです。
たとえばブーメランそのものが前方へ進んでいるとします。
上側を通る部分では、ブーメラン全体が前へ進む速度に加えて、回転によって前へ動く速度も加わります。
そのため、空気に対してかなり速く動きます。
一方、下側では回転する方向が逆になります。
ブーメラン全体は前へ進んでいても、回転による動きは後ろ向きになるため、上側ほど速くありません。
この違いによって、ブーメランの上側と下側では空気から受ける力に差が生まれます。
しかも、ブーメラン自体が高速で回転しているため、その力の差によって単純にひっくり返るのではなく、飛ぶ方向が少しずつ変化していきます。
その結果、大きなカーブを描くような飛行になります。
典型的な戻るブーメランは、投げた直後はほぼ垂直に近い姿勢で飛び始めます。
その後、旋回しながら少しずつ姿勢を変え、水平に近い状態になりながら高度を上げていきます。
やがて前へ進む速度や回転速度が落ちると、滑空するように降下します。

『Australian Museum』によると、典型的な飛行時間は約8秒です。
たった数秒の出来事ですが、その間に前進する力、高速回転、空気から受ける力が組み合わさり、ブーメラン特有の大きく曲がる飛び方が生まれています。
なぜ「ブーメラン=戻ってくる」が世界の常識になったのか
実際には戻らないブーメランのほうが多いにもかかわらず、現在では「ブーメランといえば戻ってくる」というイメージが世界的に定着しています。
その背景には、戻るブーメランを見たヨーロッパ人の強い関心がありました。
『National Museum of Australia』によると、ヨーロッパの人々は特に、投げると戻ってくるタイプのブーメランに強く興味を示したとされています。
普通の投げ道具なら、そのまま前へ飛んで落ちるのが自然です。
ところがブーメランは、大きく旋回して投げた場所の近くまで戻ってきます。
初めて見る人にとっては、かなり不思議な道具に見えたことでしょう。
その後、ブーメランは入植者との物々交換にも使われるようになります。
さらに観光が発展すると、アボリジナルの人々が作るブーメランは旅行者向けの商品としても販売されるようになりました。
こうしてブーメラン製作は産業として広がり、やがてオーストラリアを象徴する存在の一つになっていきます。
特に観光客にとって分かりやすく、印象に残りやすかったのが「投げると戻る」という特徴でした。
さらに、「戻ってくる」という性質そのものも、広告などで使いやすいイメージでした。
『National Museum of Australia』によれば、ブーメランは観光業や交通業界のシンボルとしても利用されています。
旅行へ出かけた人が再び帰ってくることや、観光客がもう一度同じ場所を訪れることを、「戻るブーメラン」のイメージと重ねられるからです。
本来はブーメランの一部しか持っていなかった「戻る」という特徴があまりにも印象的だったため、いつの間にかブーメラン全体を代表するイメージになったと考えられます。
ブーメランは穴掘りや火起こしにも使われた
ブーメランの意外な点は、投げる道具としてしか使われていなかったわけではないことです。
『National Museum of Australia』によると、ブーメランは狩猟や戦闘以外にも、日常生活のさまざまな場面で利用されてきました。
その一つが、地面を掘る作業です。
植物の根などを採集するときには、ブーメランを使って土を掘ることがありました。
焚き火の灰をかき出すような作業にも利用されています。
さらに、火を起こすための道具として使われる場合もありました。
ブーメランの鋭い縁を柔らかい木材にこすりつけることで摩擦熱を生み、その熱を利用して火を起こします。
音を出す道具として使われることもあります。
2本のブーメランを打ち合わせれば、木製の打楽器のような音を出せます。
こうした方法で音楽や儀式に使用されたほか、踊りの中で持つ道具として使われることもありました。
私たちが想像する「空へ投げるブーメラン」とは、かなり違う使われ方です。
水中で魚を狙う特殊なブーメランもあった
さらに驚くのが、魚を捕るために使われた特殊なブーメランです。
地域によっては潮が引いたあと、魚が浜辺や岩場にできた潮だまりに取り残されることがあります。
そうした場所で魚を狙うため、重いブーメランが使われていました。
このタイプは、水中を切るように進みながら魚を狙う道具です。
空を長く飛ばす必要がないため、戻るブーメランに見られるような空力性能を重視した形ではありません。
ここからも、「ブーメラン」という言葉が一種類の飛行道具だけを指しているわけではないことが分かります。
狩猟では獲物を直接狙い、鳥猟では群れを誘導し、採集では地面を掘り、生活では火を起こし、儀式では音を鳴らし、水辺では魚を狙う――用途が変われば、大きさや重さ、形も変わります。
現在では「投げたら戻ってくる道具」という特徴が有名ですが、実際のブーメランは、それだけでは説明できないほど多目的な道具だったのです。
まとめ
- オーストラリアで使われてきたブーメランの大多数は、投げ手のもとへ戻ってこないタイプだった
- 狩猟用ブーメランでは、戻ることよりも獲物まで届いて狙った場所に当たることが重視されていた
- 熟練した使い手は、最大で約100メートル離れた獲物を狙うこともできた
- 戻るブーメランは、鳥を驚かせて網の方向へ追い込む狩猟にも利用されていた
- 戻るブーメランは、高速回転と空気から受ける力の差によって大きく曲がる軌道を描く
- ヨーロッパ人が戻るブーメランに強い関心を示したことも、「ブーメラン=戻る」というイメージが広まった背景の一つ
- ブーメランは狩猟だけでなく、採集、火起こし、音楽、儀式、漁などにも使われてきた
- ブーメランは用途によって大きさや重さ、形、機能が異なる多目的な道具だった
ブーメランは世界的に有名な道具ですが、その実際の使われ方は、私たちが抱いているイメージよりもずっと幅広いものでした。
「投げると戻ってくる」という特徴だけでなく、狩猟や採集、火起こし、儀式などにも活用されてきたと知ると、ブーメランを見る目も少し変わるのではないでしょうか。

