世界一周すると日付がずれる!?【マゼラン隊の不思議な体験】

世界一周をすると、人は何を持ち帰るのでしょうか。珍しい品物、異国の風景、忘れられない出会い――もちろん、それらも大切です。

しかし歴史上のある航海では、帰ってきた人々が、思いもよらない「違和感」に直面しました。

第44回雑学調査レポートでは、そんな「世界一周」に関する雑学をご紹介していきます。

世界一周は、ただ地球を一回りするだけではなかった

世界一周という言葉を聞くと、多くの人は「地球をぐるっと一周して元の場所に戻る旅」を想像します。

しかし、地球を一周するときには、距離だけでなく「時間」も問題になります。

このことを歴史上はっきり示した有名な出来事が、16世紀のマゼラン=エルカーノ艦隊の航海です。

この艦隊は1519年にスペインを出発し、西へ西へと進んでいきました。大西洋を渡り、南アメリカの南端付近を抜け、太平洋を横断し、アジア方面へ進み、最終的にはインド洋を通ってスペインへ戻りました。

ただし、よく知られているマゼラン本人は、世界一周を完成させていません。マゼランは1521年、現在のフィリピンにあたるマクタン島で戦闘に巻き込まれて死亡しました。その後、艦隊の残った船を率いてスペインへ戻った中心人物が、フアン・セバスティアン・エルカーノです。

船の上では「水曜日」、陸では「木曜日」

この世界一周航海で、非常に不思議な事件が起きました。

生き残った船「ビクトリア号」は、1522年にスペインへ戻る途中、食料などを得るためにアフリカ大陸の西岸沖にあるカーボベルデ諸島へ立ち寄りました。

そのとき、船の人々は自分たちの記録では「水曜日」だと思っていました。

ところが、陸の人々に聞くと、実際には「木曜日」だと言われたのです。

船では航海中、日々の記録をつけていました。記録係だったアントニオ・ピガフェッタは、毎日きちんと日付を書き残していたとされます。つまり、彼らは「どこかで日付を数え忘れた」とは考えにくかったのです。

それにもかかわらず、船の暦と陸の暦は1日ずれていました

なぜ1日ずれたのか

理由は、彼らが地球を西回りに一周したためです。

地球は24時間で1回転します。そのため、地球上では経度が15度ずれるごとに、太陽の見え方がおよそ1時間ずれます。

西へ進む旅では、太陽を追いかけるように移動します。すると、船の上で感じる「1日」は、ほんの少しだけ長くなります。

1日ごとの差は小さいものです。

しかし、地球を一周するほど西へ進み続けると、その小さな差が積み重なります。最終的に、元の場所へ戻ったとき、現地の暦より1日遅れてしまうのです。

反対に、東回りで世界一周すると、太陽に向かって進む形になります。その場合は、1日が少しずつ短く感じられ、最終的には暦が1日進んでしまいます。

「日付変更線」が必要になる理由

この問題を解決するために必要になる考え方が、現在の「日付変更線」です。

日付変更線とは、地球上で日付を切り替えるための目安になる線です。現在は、おおむね経度180度に沿って、太平洋上を通っています。

たとえば、世界を東へ進む人は時計を少しずつ進めていきます。しかし、そのまま進め続けると、元の場所へ戻ったときに日付が1日ずれてしまいます。

そこで、地球のどこかで日付を1日戻す必要があります

逆に、西へ進む人は時計を少しずつ戻していきます。その場合は、どこかで日付を1日進める必要があります。

この「どこかで日付を調整する」という仕組みが、日付変更線です。

日付変更線は、完全な直線ではない

日付変更線は、地図で見るとまっすぐな線のように思えるかもしれません。

しかし実際には、ところどころで曲がっています。

理由は、人が住んでいる島や国をむやみに分断しないためです。同じ国の中で、島によって日付が違うと、行政、商取引、学校、交通、通信などに大きな混乱が起きます。

そのため、日付変更線は基本的には経度180度付近を通りながらも、国や地域の事情に合わせて曲げられています。

つまり日付変更線は、純粋な自然現象ではありません。

地球の回転という自然の仕組みに、人間社会の都合を合わせるために作られた約束なのです。

マゼラン隊の「1日のずれ」は、世界一周の証拠でもあった

マゼラン=エルカーノ艦隊の人々にとって、日付が1日ずれていると知った瞬間は、かなり奇妙だったはずです。

しかし、そのずれは同時に、彼らが本当に地球を一周したことを示す現象でもありました。

もし地球を大きく西へ回り続けていなければ、このような日付のずれは起こりません。

つまり、彼らが驚いた「水曜日か木曜日か」という問題は、単なる暦の混乱ではありませんでした。

人間が地球を一周すると、時間の数え方そのものに調整が必要になる――その事実を、航海者たちは実体験として知ったのです。

小説『八十日間世界一周』にも使われた仕掛け

この「世界一周すると日付がずれる」という現象は、ジュール・ヴェルヌの小説『八十日間世界一周』でも重要な仕掛けとして使われています。

主人公のフィリアス・フォッグは、80日以内に世界一周できるかどうかを賭けます。

旅の終盤、彼は予定に間に合わなかったと思い込みます。

しかし、彼は東回りに世界一周していたため、実は日付を1日得していました。そのため、最終的には賭けに勝つことになります。

この展開は、単なる偶然のどんでん返しではありません。地球が丸く、世界を一周すると日付の調整が必要になるという現実の仕組みを利用したトリックです。

まとめ

  • マゼラン艦隊は世界一周の途中で、船の暦と陸の暦が1日ずれている現象を体験した
  • 暦がずれた理由は、地球を西回りに一周したため
  • 西へ進むと太陽を追いかけることになり、船上での1日が少しずつ長くなるため、現地の暦より1日遅れてしまう
  • 地球上で同じ方向に進み続けると、元の場所に戻った際に日付が1日ずれてしまうため、そのずれを戻すために「日付変更線」が必要になる
  • 日付変更線は、人が住んでいる島や国を分断しないため、完全な直線になっていない
  • マゼラン艦隊が体験した1日のずれは、彼らが世界一周した証拠となる

世界一周を終えた船が持ち帰ったものは、香辛料や航海記録だけではありませんでした。

それは、地球を一周すると時間の数え方さえ変わるという、目に見えない発見でした。

たった1日のずれ――しかしその小さな違いは、人類が地球という星の上で生きていることを、はっきりと示していたのです。

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