かつての東京には「東京市」があった!?【市の中に存在しない「特別な区」】

「東京は、何市なの?」――そう聞かれると、答えに迷うかもしれません。東京都は日本の首都であり、その中の新宿区や渋谷区はよく聞きます。しかし、「東京市」という名前を耳にすることはほとんどないはずです。

この違和感こそ、東京を知るうえで面白い入り口になるかもしれません。

第33回雑学調査レポートでは、そんな「東京」に関する雑学をご紹介していきます。

目次

「東京市」はかつて存在した

「東京都新宿区」「東京都渋谷区」「東京都千代田区」といった住所はよく見ますが、「東京都東京市新宿区」とは言いません。なぜなら、現在の東京23区の中心部に「東京市」は存在しないためです。

しかし、昔は本当に「東京市」が存在していました。『国立公文書館』などが公開する歴史的行政区域データでは、「東京府東京市」が1889年から存在していた行政区域として確認できるのです。

明治時代の東京は、いまの「東京都」とは違い、まず広域自治体として「東京府」がありました。そしてその中に、都市部を担当する「東京市」がありました。

イメージとしては、現在の「大阪府の中に大阪市がある」「神奈川県の中に横浜市がある」という構造に近いものです。つまり昔の東京では、「東京府東京市○○区」という形が成り立っていました。

この東京市は、最終的には現在の東京23区に近い区域を管轄する大都市でした。また『特別区協議会』のデジタルアーカイブによれば、太平洋戦争以前の東京は「35区」もあったそうです。

なぜ東京市は消えたのか

大きな転機は、1943年7月1日です。

この日に「東京都制」が施行されたことで、これまでの東京府と東京市が廃止されたのです。つまり、現在の東京都は、東京市が大きくなったものではありません。制度上は、東京府と東京市をまとめる形で生まれた新しい自治体だと言えるでしょう。

東京市が消えた背景には、戦時中の行政の一元化があります。

東京は首都であり、政治や軍事、交通、物資配給などを強く統制する必要があると考えられていました。そこで、東京府と東京市という二重の行政構造をやめ、東京都にまとめたのです。

ここが興味深いところで、通常であれば大都市には「市長」が存在し、市役所が都市行政を担当します。しかし東京では、東京市が廃止されたことで、大都市行政の大きな部分を、東京都が担う形になりました。

その名残は、現在の東京23区にも残っています。

23区は「市の中の区」ではない

横浜市中区、大阪市北区、名古屋市中区などの「区」は、市の中に置かれた行政区です。市役所が本体で、区役所はその出先機関のような位置づけです。

しかし、東京23区は違います。東京23区は「特別区」と呼ばれ、それぞれが基礎的な自治体です。『特別区協議会』によれば、東京都の23区とは「市と同様に、住民にもっとも近い基礎的な自治体」であり、区長や区議会が選挙で選ばれ、条例制定や税の徴収も行うとしています。

つまり、東京23区は名前こそ「区」ですが、単なる市役所の出張先ではありません。新宿区、渋谷区、千代田区などは、それぞれがかなり独立した自治体として動いているのです。

したがって、現在の東京には「東京都知事」はいますが、「東京市長」はおらず、その代わり23区にそれぞれの「区長」が存在します。

23区は最初から23区だったわけではない

現在は「東京23区」という言い方が定着していますが、これも最初からそうだったわけではありません。

『特別区協議会』によれば、1947年3月15日に35区が再編されて22区となり、同年5月3日の地方自治法施行によって「特別区」が誕生しました。その後、1947年8月1日に練馬区が板橋区から分離し、23の特別区になりました。

つまり、現在の23区体制は、戦後すぐに一度22区となり、そのあと練馬区が独立して完成した形だったのです。

東京に「市」が無いわけではない

注意したいのは、「東京都には市がない」という意味ではないことです。

東京都の行政区域は、23の特別区だけではありません。実際には23区と26市5町8村から成り立っています。

たとえば、八王子市や立川市、武蔵野市、三鷹市、町田市、府中市といった場所は、すべて東京都内の「市」であるということです。

したがって、東京都には市が存在しますが、東京23区のエリアには「東京市」が存在しない、という認識が正確だと言えるでしょう。

まとめ

  • 昔の東京には「東京府東京市」が存在していた
  • 1943年7月1日に、東京府と東京市がまとまって「東京都」ができた
  • 東京市が消えた理由は、行政の一元化のため
  • 東京23区は「特別区」と呼ばれるそれぞれの基礎的な自治体
  • 東京23区は、戦後すぐに35区から22区になり、その後23区になった
  • 現在の東京は23区、26市、5町、8村から成り立っている

東京市は、地図の上からは姿を消しましたが、その痕跡は現在の23区という形で残っています。

23区の仕組みは一見すると複雑でも、その背景をたどると、東京が首都としてどのように整えられ、戦後にどのような自治の形を持つようになったのかが見えてきます。

「東京市がない」という事実は、東京の歴史と制度を知るためにも、分かりやすい入り口の一つだと言えるでしょう。

それでは次回の雑学調査レポートもお楽しみに!

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