中国は東西約5,200kmなのに時差がない!?【標準時が1つしかない驚きの理由】

地図で中国を見ると、その国土が東西に非常に長いことがわかります。これほど広い国で、人々はどのように時間を合わせて生活しているのでしょうか。中国の時計には、地理だけでは説明できない興味深い仕組みがあります。

第82回雑学調査レポートでは、そんな「中国」に関する雑学をご紹介していきます。

目次

中国本土では全国共通の「北京時間」を使用

中国は、東西に約5,200kmも広がる大きな国です。

東側と西側では経度が大きく異なるため、太陽が昇る時刻にも数時間の差があります。それにもかかわらず、中国本土で公式に使われている標準時は一つだけです。

中国本土では、全国で「北京時間」が使われています。

北京時間は、世界の時刻の基準である協定世界時「UTC」より8時間進んだ「UTC+8」です。英語では「China Standard Time」と呼ばれ、「CST」と表記されることもあります。

北京、上海、広州などの東部にある都市だけでなく、チベット自治区や新疆(しんきょう)ウイグル自治区などの西部地域でも、公式の時計は北京時間を示します。

たとえば、北京の時計が午前8時なら、新疆ウイグル自治区でも公式時刻は午前8時です。中国本土では、数千km移動しても、原則として時計を直す必要がありません。

ただし、「北京時間」という名称であっても、北京における太陽の動きをそのまま基準にしているわけではありません。

UTC+8は、理論上では東経120度を中心とする標準時です。北京は東経約116度に位置しているため、北京時間と北京の太陽の動きとの間にも多少のずれがあります。

日本と中国本土の公式な時差は1時間

日本標準時は「UTC+9」です。一方、中国本土で使われている北京時間は「UTC+8」に設定されています。

そのため、日本と中国本土の公式な時差は1時間です。

日本が午後3時のとき、中国本土は午後2時になります。北京でも上海でも新疆ウイグル自治区でも、北京時間を基準にする限り、日本との時差は変わりません。

中国西部は日本から遠く離れているため、「北京よりも時差が大きいのではないか」と感じる人もいるでしょう。

しかし、中国本土の公式時刻は全国で統一されています。地理的に遠く離れていても、時計が示す時刻は同じです。

香港とマカオもUTC+8を使用しているため、日本との時差は基本的に1時間となります。

ただし、香港では「香港時間」と呼ばれる標準時が運用されています。中国本土の北京時間とは制度上の名称や管理機関が異なりますが、UTCとの差は同じです。

地理的には約5つのタイムゾーンにまたがる

地球は約24時間で360度回転しています。

360度を24時間で割ると、1時間あたり15度です。このため、経度が15度異なる場所では、太陽の動きを基準にすると約1時間の差が生まれます。

中国の国土は、西側のおよそ東経73度40分から、東側のおよそ東経135度5分まで広がっています。

東西端の経度差は、次のように計算できます。

135度5分-73度40分=61度25分

地球は24時間、つまり1,440分で360度回転します。経度1度あたりの時間差は、次のとおりです。

1,440分÷360度=4分

61度25分を小数に直すと、約61.42度になります。

61.42度×4分=約245.7分

245.7分は、約4時間5分40秒です。

したがって、中国の東端と西端では、太陽の動きを基準にした時刻に約4時間6分の差があると計算できます。

タイムゾーンを経度15度ごとに機械的に区切った場合、中国の国土は、おおむね次の5つの時間帯にまたがります。

・UTC+5
・UTC+6
・UTC+7
・UTC+8
・UTC+9

しかし、現在の中国本土では、このうちUTC+8だけが全国共通の公式時刻として使われています。

なお、実際の日の出や日の入りは、経度だけで決まるものではありません。緯度、季節、標高、周囲の地形、大気による光の屈折などにも影響されます。

約4時間6分という数字は、経度差だけを使って求めた太陽時の概算です。

中国は昔から標準時が一つだったわけではない

現在の中国本土は北京時間に統一されていますが、昔から全国で同じ時刻が使われていたわけではありません。

中華民国時代の1918年、当時の中央観象台は、中国を5つの標準時に分ける案を提案しました。

西から東へ、次のような時間帯が設定されました。

・崑崙(こんろん)時間:UTC+5時間30分
・新蔵(しんぞう)時間:UTC+6
・隴蜀(ろうしょく)時間:UTC+7
・中原(ちゅうげん)時間:UTC+8
・長白(ちょうはく)時間:UTC+8時間30分

現在よく見られる1時間単位のタイムゾーンだけでなく、30分単位の標準時も含まれていた点が特徴です。

ただし、この案が1918年から中国全土で一斉に運用されたわけではありません。1939年になって、国民政府が5つの標準時を正式に採用する方針を決定しました。

当時は日中戦争の最中でした。戦時中には、連絡や行政上の都合から、UTC+7にあたる隴蜀時間を全国共通の時刻として使う方針も取られたとされています。

第二次世界大戦後には、地域ごとに5つの標準時を使い分ける制度が再開されました。

もっとも、当時の中国では戦争や政治的な混乱が続いていました。制度として標準時が定められていても、すべての地域で同じように運用されていたとは限りません。

「5つの標準時が制度として存在したこと」と、「各地で正確に使い分けられていたこと」は、分けて考える必要があります。

1949年以降に北京時間への統一が進んだ

1949年に中華人民共和国が成立すると、中国各地でUTC+8の北京時間への切り替えが進められました

ただし、1949年の特定の日に、中国全土の時計が一斉に切り替えられたわけではないと考えられています。

各都市や地域が新政府の管理下に入った時期などに応じて、1949年から1950年ごろにかけて、順次切り替えが進んだとみられます。

標準時を一つにすると、中央政府と地方との連絡を取りやすくなります。鉄道、航空、通信、放送、学校、企業なども、同じ時刻を基準にして動かせます。

複数のタイムゾーンがある国では、地域をまたぐ列車や飛行機を利用するときに、時差を考えなければなりません。

全国向けの放送でも、「午後8時」がどの地域の午後8時なのかを明確にする必要があります。

一方、中国のように全国の公式時刻を統一すれば、どの地域でも同じ時計を使って予定を管理できます。

広い国土を一つの時刻で結ぶことには、国家としての一体性を示す政治的、象徴的な意味もあったと説明されています。

中国が標準時を一つにした背景には、行政、交通、通信の利便性だけでなく、国家統合や中央集権化など、複数の要因があったと考えられます。

中国西部では午前10時を過ぎてから日の出を迎えることがある

全国で同じ時計を使うことは便利ですが、太陽の動きまで統一できるわけではありません。

東にある地域ほど日の出が早く、西にある地域ほど遅くなります。

中国では、東部の太陽時に比較的近いUTC+8を西部でも使用しています。そのため、西部では時計の時刻と太陽の位置が大きくずれます。

代表的な例が、新疆ウイグル自治区西部にあるカシュガルです。

カシュガルでは、冬の一部の時期に、北京時間の午前10時を過ぎてから日の出を迎えることがあります。

時刻情報サイトの『timeanddate.com』によると、1月のカシュガルでは、日の出が北京時間の午前10時16分ごろになる日があります。

日の出時刻は、年、日付、大気の状態などによって多少変化します。それでも、時計が午前10時を過ぎているのに、太陽がまだ昇っていないという現象が実際に起こります。

日本の午前10時といえば、多くの学校や会社ですでに活動が始まっている時間です。

しかし、中国西部では、公式時計が午前10時を示していても、太陽の位置を基準に考えると、まだ早朝に近い場合があります。

中国東北部では夏の日の出が午前3時台になる

西部で日の出が遅くなる一方、中国東北部では日の出が非常に早くなります。

中国東北部にある黒竜江省(こうりゅうこう しょう)は、北京よりも東に位置しています。しかし、時計は北京と同じUTC+8です。

そのため、夏には時計がまだ早朝を示しているうちから空が明るくなります。

黒竜江省北部の漠河(ばくが)では、夏至に近い6月に、北京時間の午前3時台に日の出を迎えることがあります。

午前4時ごろには、すでに太陽が昇っている状態です。

同じ北京時間を使っていても、西部のカシュガルでは、冬の日の出が午前10時を過ぎる場合があります。一方、東北部の漠河では、夏の日の出が午前3時台になることがあります。

時計に表示される時刻は同じでも、空の明るさや太陽の位置は地域によって大きく異なるのです。

新疆時間とは何か

新疆ウイグル自治区では、公式の北京時間とは別に、「新疆時間」または「ウルムチ時間」と呼ばれる時刻が使われることがあります。

新疆時間はUTC+6で、北京時間より2時間遅れています

たとえば、北京時間が正午12時の場合、新疆時間は午前10時です。北京時間の午後6時は、新疆時間では午後4時になります。

ただし、新疆時間は中国本土の公式な標準時ではありません

行政機関、鉄道、航空、全国向けの放送などでは、基本的に北京時間が使われます。

一方、新疆ウイグル自治区の一部の住民、店舗、民間組織などでは、太陽の動きや現地の生活時間に近い時刻として新疆時間が使われています。

時計を北京時間より2時間遅らせることで、朝の時刻と実際の日の出とのずれを小さくできるためです。

ただし、北京時間と新疆時間が同じ地域で使われると、待ち合わせや予約で混乱する可能性があります。

「明日の朝10時に集合」と言われた場合、北京時間の午前10時なのか、新疆時間の午前10時なのかによって、実際の集合時刻が2時間変わります。

新疆ウイグル自治区で時刻を確認するときは、どちらの時間を使っているのかを確かめることが重要です。

時計を変えずに生活時間を遅らせる地域もある

公式時計と太陽の動きがずれている地域では、学校や仕事の時間を地域の状況に合わせて調整することがあります。

中国東部と同じ北京時間を使っていても、西部では学校の始業、会社の勤務開始、店舗の開店などを遅く設定できます。

たとえば、東部では北京時間の午前8時ごろに始める活動を、西部では午前10時ごろから始めれば、太陽の位置を基準にした生活時間を近づけられます。

時計そのものを変更しなくても、活動を始める時刻を後ろへずらすことで、地域の日照時間に合わせられるのです。

日本では、午前10時から学校や仕事が始まると聞くと、かなり遅いように感じられるかもしれません。

しかし、中国西部における北京時間の午前10時は、太陽の動きを基準に考えると、中国東部の午前8時前後に近い場合があります。

もちろん、実際の始業時刻や営業時間は、地域、季節、学校、企業、店舗などによって異なります。

中国西部のすべての学校や会社が午前10時に始まるという意味ではありません。

中国の標準時を一つにするメリット

中国本土の公式時刻を一つにする大きな利点は、全国規模の予定を管理しやすくなることです。

鉄道の出発時刻、飛行機の運航時刻、テレビ番組の放送時刻、オンライン会議の開始時刻などを、すべて北京時間で表せます。

国内を移動するたびに時差を計算する必要がないため、時刻表や予約システムも比較的単純になります。

中国には、北京から新疆ウイグル自治区まで走る長距離列車や、複数の省を通過する交通網があります。

地域ごとに時計が異なる場合、列車がタイムゾーンを越えるたびに、出発時刻や到着時刻がどの地域の時間で表示されているのかを確認しなければなりません。

全国が一つの時間に統一されていれば、「列車は北京時間の午後3時に出発する」と、どの地域でも同じように伝えられます。

国全体で行われる試験、式典、会議、スポーツ中継なども、共通の時刻を基準に実施できます。

行政機関、交通機関、放送局、学校、企業などが同じ時計を使えることは、全国規模の運営にとって大きな利点です。

中国の標準時を一つにするデメリット

標準時を一つにすると、時計の時刻と太陽の動きが大きくずれる地域が生まれます。

北京や中国東部では、北京時間と太陽の動きが比較的近くなります。しかし、北京から遠く離れた西部では、時計が朝を示していても、外が暗い場合があります。

反対に、中国東北部では、夏の午前3時台から太陽が昇ることがあります。

時計と日照時間が大きくずれる地域では、学校、会社、店舗などが活動時間を地域の実情に合わせて調整しなければなりません。

また、新疆ウイグル自治区のように、公式の北京時間と非公式の新疆時間が併用される地域では、単に「何時」と伝えるだけでは情報が足りないことがあります。

どちらの時間を指しているのかを確認しなければ、待ち合わせ、予約、勤務時間などに2時間のずれが生じる可能性があります。

全国の時刻を統一すると、国家規模の管理は簡単になります。

一方で、それぞれの地域における日常生活まで必ず分かりやすくなるとは限りません。

標準時は自然条件だけで決まるものではない

経度15度につき1時間という考え方は、時計の時刻を太陽の動きに近づけるための基本的な目安です。

しかし、実際のタイムゾーンは、地球を経度15度ごとに区切るだけで自動的に決まるものではありません。

標準時は、それぞれの国や地域が法律や制度によって定めます

国境、行政区分、経済的なつながり、交通網、歴史、政治なども、タイムゾーンの決定に影響します。

中国は、広い国土を複数の時間帯に分けるのではなく、中国本土全体で一つの公式時刻を共有する方法を選びました。

その結果、国内の交通、行政、通信、放送などでは、時刻を統一して管理しやすくなりました。

一方、東部と西部では、同じ「午前8時」であっても、空の明るさや人々の生活状況が大きく異なります。

時計は太陽の動きを分かりやすく表す道具ですが、同時に、社会を動かすために人間が定めた制度でもあります。

中国本土で使われている一つの標準時は、標準時が地理的条件だけでなく、行政、社会、歴史、政治などの事情によっても決められることを示す代表的な例です。

まとめ

  • 中国本土では、東西約5,200kmの国土全体でUTC+8の北京時間を使用している
  • 中国の東端と西端では、太陽の動きを基準にすると約4時間6分の差がある
  • 地理的には約5つのタイムゾーンにまたがるが、公式の標準時は1つだけである
  • 日本と中国本土の公式な時差は、地域に関係なく1時間である
  • 中国にはかつて5つの標準時があったが、1949年以降に北京時間への統一が進んだ
  • 標準時の統一には、行政・交通・通信を管理しやすくする目的がある
  • 中国西部では午前10時を過ぎて日の出を迎え、東北部では午前3時台に日の出を迎えることがある
  • 新疆ウイグル自治区では、北京時間より2時間遅い非公式の新疆時間が使われることがある
  • 中国の標準時は、地理だけでなく歴史・政治・社会的事情によって決められている

地図だけを見れば、中国は複数のタイムゾーンに分かれていても不思議ではありません。それでも一つの時刻が選ばれた背景には、地理だけでは決まらない時間の事情があります。

私たちが毎日何気なく見ている時計は、太陽の位置を示すだけのものではありません。交通や行政を動かし、人々の生活を合わせるための社会的な決まりでもあります。中国の時間制度は、そのことをわかりやすく示しています。

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