”ざるそば”と”もりそば”の違いは「海苔」だけではない!?【昔は○○も違っていた】

そば屋でメニューを眺めていると、「ざるそば」と「もりそば」が並んでいることがあります。どちらも冷たいそばで、つゆにつけて食べるものです。

見た目もよく似ているため、「何が違うのだろう」と思ったことがある人も多いのではないでしょうか。

第50回雑学調査レポートでは、そんな「そば」に関する雑学をご紹介していきます。

目次

ざるそばといえば海苔、という思い込み

ざるそばと聞くと、多くの人は、冷たいそばの上に刻み海苔がのっている姿を思い浮かべます。そば店でも、海苔がのっているものを「ざるそば」、のっていないものを「もりそば」として出していることがよくあります。

ところが、ざるそばの歴史をたどると、最初から「海苔がのっているそば」だったわけではありません。もともとの「ざるそば」は、名前の通り、そばを竹のざるに盛ったことから始まったとされています。

つまり、現代の感覚では「海苔があるかないか」が一番の違いに見えますが、ざるそばの出発点は、トッピングではなく「器」だったのです。

もともとそばは、汁につけて食べるものだった

現在のそばには、冷たいそばをつゆにつけて食べるものと、温かいつゆをかけて食べるものがあります。しかし、そば切り、つまり細長い麺状のそばが広まった初期には、そばは基本的につゆにつけて食べる料理でした。

その後、江戸時代に、そばに直接つゆをかけて食べる「ぶっかけそば」が広まりました。これは、今の「かけそば」のもとになった食べ方です。

ぶっかけそばが広まると、従来のようにそばを器に盛り、別添えのつゆにつけて食べるそばと区別する必要が出てきました。そこで、そばを盛って出すものが「もりそば」と呼ばれるようになったとされています。

この流れを知ると、「もりそば」という名前は、ただの安い冷たいそばという意味ではなく、「かけるそば」と区別するために生まれた呼び名だったことがわかります。

ざるそばは、竹ざるに盛ったそばとして評判になった

ざるそばの元祖とされるのは、江戸・深川洲崎にあった「伊勢屋」というそば店です。この店が、そばを蒸籠や皿ではなく竹のざるに盛って出し、「ざる」と名乗ったことで評判になったとされています。

竹ざるに盛ると、水切れがよく、見た目にも涼しげです。冷たいそばにとって、水切れはかなり重要です。そばの下に水がたまると、時間が経つにつれて麺が水っぽくなり、つゆも薄まりやすくなります。

そのため、ざるに盛るという工夫は、単なる見た目の演出ではありませんでした。そばを最後までおいしく食べるための実用的な工夫でもあったのです。

「ざるそば=海苔付き」になったのは後の話

現在では、ざるそばといえば刻み海苔がのっているもの、もりそばといえば海苔がないもの、という区別が一般的です。

しかし、業界団体の解説では、今のように海苔をかけたものを「ざる」と呼ぶようになったのは、明治以降とされています。つまり、江戸時代に誕生したざるそばの本質は、海苔ではありませんでした。

江戸時代のざるそばは、竹ざるに盛ることや、もりそばよりも濃い「ざる汁」を使うことなどで差をつけていたとされます。辞典類でも、古くはもりそばより濃いつけ汁を使い、みりんなどを加えたものを用いたと説明されています。

海苔は、ざるそばの始まりから欠かせない要素だったのではなく、後から加わった「高級感」や「見た目の違い」を出すための工夫だったと考えられます。

昔のざるそばは、つゆも違っていた

今のそば店では、もりそばとざるそばのつゆが同じで、海苔の有無だけが違うことも珍しくありません。しかし、昔はつゆそのものを分けていた店もありました。

ざるそばには、もりそばよりも濃く、みりんを多く使ったつゆが用いられたとされています。また、質のよいかつお節でだしを取った「ざる用のつゆ」を使う店もあったとされます。

このことから、ざるそばは単に「海苔が少しのったそば」ではなく、もりそばより少し上等な料理として扱われていたことがわかります。

現在、ざるそばの方がもりそばより少し高い店があります。その理由は店によって異なりますが、歴史的には、ざるそばに「少し特別なそば」という性格があったこととつながっています。

海苔は、ざるそばをわかりやすくする目印になった

では、なぜ海苔がざるそばの象徴になったのでしょうか。

理由の一つは、見た目で違いがわかりやすいことです。もりそばとざるそばは、どちらも冷たいそばをつゆにつけて食べる料理です。器やつゆの違いが時代とともに小さくなると、客から見て違いがわかりにくくなります。

そこに刻み海苔をのせれば、一目で「これはざるそばだ」とわかります。黒い海苔が白っぽいそばや薄茶色のそばの上に散るため、見た目の印象もはっきりします。

また、海苔には香りがあります。そばの香りを楽しみたい人の中には、海苔の香りが強すぎると感じる人もいますが、反対に、海苔の風味が加わることで冷たいそばがより華やかになると感じる人もいます。

つまり海苔は、ざるそばを「見た目で区別するための印」であり、同時に「風味を足すための具」でもあったのです。

現代では店によって区別がゆるやかになっている

現代のそば店では、もりそばとざるそばの違いは店によってさまざまです。海苔の有無だけで分ける店もあれば、わさびの有無、器の違い、そばの量、つゆの違いで分ける店もあります。

一方で、そもそも「もりそば」という名前を使わず、冷たいつけそば全体を「ざるそば」と呼ぶ店や地域もあります。

そのため、現代のざるそばについては、「必ずこうでなければならない」と言い切るよりも、「昔は器やつゆに意味があり、今は海苔の有無で区別されることが多い」と理解するのが自然です。

まとめ

  • ざるそばは、もともと海苔ではなく「竹ざるに盛ったそば」であることが特徴だった
  • もりそばは、つゆをかける「かけそば」と区別するために生まれた呼び名
  • ざるそばの元祖は、江戸・深川洲崎の「伊勢屋」とされている
  • 昔のざるそばは、器だけでなく、もりそばより濃いつゆを使う点でも区別されていた
  • 現在のように「海苔があるものをざるそば」とする区別は、後から広まったもの
  • 刻み海苔は、ざるそばを見た目でわかりやすくし、高級感を出すための工夫だったと考えられる
  • 現代では、ざるそばともりそばの違いは店によって異なり、海苔の有無だけで分ける店も多くある

現在では、ざるそばともりそばの違いは店によってさまざまです。しかし、その違いをたどっていくと、江戸時代から続くそば文化の工夫に行き着きます。

ざるそばは、身近な料理でありながら、時代ごとの変化を映してきた一皿でもあるのです。

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