トイレに入ったとき、何気なく手に取るトイレットペーパー。普段は特に意識することもありませんが、よく考えてみると不思議なことがいくつもあります。
第168回雑学調査レポートでは、そんな「トイレットペーパー」に関する雑学をご紹介していきます。
トイレットペーパーは水に溶ける?実は細かくほぐれている
トイレットペーパーは、水に溶けるからトイレに流せると思っている人も多いでしょう。しかし、実際には砂糖や塩のように、水に溶けて消えているわけではありません。
トイレットペーパーは、水に濡れると紙を作っている細かな繊維がほどけ、バラバラになりやすい性質を持っています。このように、紙が水の中で細かく崩れていくことを「ほぐれる」と呼びます。
そもそも紙は、主に木材などから取り出した「パルプ」という細い繊維から作られています。
パルプは、例えるなら非常に細かな糸のようなものです。たくさんの繊維が重なり合い、互いにくっつくことで、1枚の紙になります。
乾いているときは繊維同士がしっかり結び付いているため、紙の形を保つことができます。
ところが、水が染み込むと繊維同士の結び付きが弱まり、紙が崩れやすくなります。さらに、水流などの力が加わると、繊維が少しずつ離れていくのです。
つまり、トイレットペーパーは水に溶けてなくなるのではなく、目に見えないほど細かな繊維に分かれたり、小さな紙のかけらになったりすることで、水と一緒に流れやすくなっています。

この仕組みについて、『山形市上下水道部』は実際にトイレットペーパーを水に入れて調べています。
実験では、40センチメートルに切ったトイレットペーパーを、水の入った500ミリリットルのペットボトルに入れました。
その結果、5分後には見た目にほとんど変化がありませんでした。しかし、ペットボトルを軽く振ってから1時間待つと、紙の繊維がほどけてバラバラになっていたそうです。
さらに、水に入れた直後のトイレットペーパーを割りばしでかき混ぜると、短時間で細かくほぐれることも確認されました。
この実験から、水に濡れることに加えて、水が動く力もトイレットペーパーがほぐれるうえで重要だとわかります。
トイレットペーパーは100秒以内にほぐれる?JIS規格の基準とは
日本には、トイレットペーパーの品質について定めた「JIS P 4501」という規格があります。
JISは「日本産業規格」のことで、さまざまな工業製品について、品質や試験方法などの基準を定めたものです。
トイレットペーパーについても、紙の強さや柔らかさに関係する品質だけでなく、水の中でどれくらいほぐれやすいかを調べる試験方法が設けられています。
その一つが「ほぐれやすさ」の試験です。この試験では、紙がほぐれるまでの時間を測定し、100秒以内という基準を満たしているかを調べます。
ただし、単に紙を水に入れて100秒間待つわけではありません。
試験では、まず300ミリリットルの水を入れた容器を専用の装置に載せます。この装置は、容器の中に入れた小さな回転子を回し、水をかき混ぜる仕組みになっています。
最初に回転子が1分間に約600回転するように調整し、そこへ決められた大きさのトイレットペーパーを入れます。
すると、紙が水の動きを妨げるため、回転数がいったん低下します。
しかし、紙が細かくほぐれていくと、水の動きを妨げる力が小さくなり、回転数が再び上がっていきます。
この回転数が1分間に540回転まで戻る時間を測定するのです。試験は5回行い、その平均時間でほぐれやすさを評価します。
このように、紙がほぐれたかどうかを見た目だけで判断するのではなく、回転数の変化を使って調べています。
ここで注意したいのは、100秒という数字の意味です。
これは、決められた水量や回転速度などの条件で試験した場合の基準になります。
家庭のトイレでは、水の量や流れ方が異なるため、流したトイレットペーパーが必ず100秒以内にほぐれるという意味ではありません。
また、2枚重ねのダブルや3枚重ねのトリプルについては、重ねた紙を基本的に1枚ずつに分けて試験します。
普段何気なく使っているトイレットペーパーにも、水の中でほぐれる性能を調べるための、細かな基準があるのです。
ティッシュペーパーはなぜ水にほぐれにくい?トイレットペーパーとの違い
トイレットペーパーとティッシュペーパーは、どちらも薄くて柔らかい紙です。
しかし、水に濡れたときの性質は大きく異なります。その理由は、それぞれの使い道にあります。
例えば、ティッシュペーパーは鼻をかんだり、口元の汚れを拭き取ったりするときに使います。
もし、鼻水や飲み物などが付いただけで紙がバラバラになってしまったら、使いにくいでしょう。
そこで、一般的なティッシュペーパーは、水に濡れてもある程度の強さを保てるように作られています。
『日本製紙連合会』によると、ティッシュペーパーには「湿潤紙力増強剤(しつじゅんしりょくぞうきょうざい)という薬品などが使われています。
難しい名前ですが、簡単にいえば、水に濡れた状態でも紙を破れにくくするための薬品です。
こうした工夫によって、一般的なティッシュペーパーは、水を吸っても比較的まとまった形を保ちやすくなっています。
一方、トイレットペーパーは、使用するときには必要な強さを保ちながら、流した後は水の中で細かくほぐれるように作られています。
つまり、ティッシュペーパーは「濡れても破れにくいこと」、トイレットペーパーは「水の中でほぐれやすいこと」を重視しているのです。

『山形市上下水道部』が行った実験でも、その違いがはっきり現れました。
水に入れたトイレットペーパーとティッシュペーパーを割りばしでかき混ぜたところ、トイレットペーパーは短時間で細かくほぐれました。
ところが、ティッシュペーパーはほとんど形が崩れず、まとまった状態を保っていました。
見た目はよく似ていても、水の中では異なる性質を持っていることがわかります。
そのため、トイレットペーパーを切らしたからといって、普通のティッシュペーパーを代わりに流すのは避けましょう。
水の中でほぐれにくい紙は、排水管の途中で引っかかり、詰まりの原因になることがあります。
使用済みのティッシュペーパーは、自治体のごみ分別ルールに従って処分することが大切です。
シングルとダブルでは水にほぐれる速さが違う?
トイレットペーパーには、1枚の紙でできた「シングル」と、2枚の紙を重ねた「ダブル」があります。
一般的に、シングルは紙が1枚なので薄く、ダブルは2枚重ねることで厚みや柔らかな使い心地を持たせています。
どちらも水の中でほぐれやすいように作られていますが、同じ条件で水に入れると、ほぐれるまでの時間に違いが出る場合があります。
『山形市上下水道部』の実験では、ダブルの方がシングルよりも、ほぐれるまでにやや時間がかかる傾向が見られました。
これは、同じ長さで比べたときに、ダブルの方が紙の量が多いことなどが関係していると考えられます。
ただし、シングルであれば必ず早くほぐれるというわけではありません。
実際のほぐれやすさは、紙の厚さや繊維の性質、製造方法などによって変わります。
また、同じ実験では、再生紙を使ったトイレットペーパーの方が、早く水になじむ様子も確認されました。
再生紙とは、使用済みの紙を回収し、再び原料として利用した紙のことです。
ただし、この結果は実験に使用した製品についてのものなので、すべての再生紙製品がほかの製品より早くほぐれるとは限りません。
さらに、JIS規格では重ねた紙を基本的に1枚ずつに分けて試験します。そのため、規格の基準を満たした製品でも、実際に2枚や3枚を重ねたまま水に入れると、ほぐれるまでの時間が変わる場合があります。
トイレットペーパーは、シングルやダブルという違いだけでなく、紙そのものの作り方によっても水へのほぐれやすさが変わるのです。
水にほぐれるはずのトイレットペーパーでトイレが詰まるのはなぜ?
トイレットペーパーは水の中で細かくほぐれる紙ですが、それでもトイレが詰まることがあります。
特に多い原因の一つが、一度に大量のトイレットペーパーを流すことです。
トイレットペーパーは水に入れた瞬間に細かくなるわけではありません。紙が十分にほぐれるまでには、ある程度の時間や水の動きが必要です。
そのため、一度に大量の紙を流すと、十分にほぐれる前に大きな塊になってしまうことがあります。
また、トイレの排水路は、便器から下水道まで一直線につながっているわけではありません。
便器の内部には、下水道から嫌な臭いが上がってくるのを防ぐために、水をためる曲がった通り道があります。
この部分を「トラップ」と呼びます。
紙の塊がこの曲がった部分や排水管の途中に引っかかると、水の通り道が狭くなり、詰まりが発生する場合があるのです。
さらに、トイレを流す水の量も関係しています。
例えば、大便をしたときに水量の少ない「小洗浄」を使うと、排せつ物やトイレットペーパーを十分に押し流せない場合があります。
住宅設備メーカーの『LIXIL』も、大量のトイレットペーパーを一度に流すことや、洗浄水量の不足を詰まりの主な原因として挙げています。
特に注意したいのが、節水のためにトイレのタンクの中へペットボトルなどを入れる方法です。
一見すると、水の使用量を減らせる便利な工夫に思えるかもしれません。
しかし、トイレは決められた量の水で汚物や紙を流せるように設計されています。
無理に水量を減らすと、紙や排せつ物が排水管の途中に残ってしまい、詰まりにつながるおそれがあります。
トイレットペーパーが水にほぐれやすいことと、どれだけ流しても詰まらないことは別の話なのです。
詰まりを防ぐには、一度に大量の紙を流さないことに加えて、便器の取扱説明書に従い、適切な水量で洗浄することが大切です。
「トイレに流せる」ティッシュやお掃除シートも同じようにほぐれる?
市販のティッシュペーパーやお掃除シートの中には、パッケージに「トイレに流せる」と書かれた製品があります。
こうした製品は、水の中でほぐれるように工夫されていますが、トイレットペーパーと同じ速さでほぐれるとは限りません。
実際に『神奈川県』は、2019年10月から11月にかけて、「トイレに流せる」と表示されたティッシュ類7製品について調査しました。
調査では、トイレットペーパーのJIS規格と同じ「ほぐれやすさ」の試験方法を使い、水中でどれくらい早くほぐれるかを調べています。
まず、紙を1枚ずつに分けて試験したところ、7製品のうち2製品が100秒以内という基準を満たしませんでした。
次に、実際に販売されている状態の重ね枚数で試験したところ、7製品のうち5製品が100秒以内にほぐれませんでした。
なお、最初から1枚で作られている製品については、2枚を重ねた状態でも試験しています。
一方、比較のために調べたトイレットペーパー2製品は、どちらも100秒以内にほぐれました。
この結果からわかるのは、「トイレに流せる」と書かれた製品でも、水にほぐれるまでの時間には大きな違いがあるということです。
また、紙を1枚に分けた場合と、何枚か重なった状態とでは、ほぐれるまでの時間が変わることも確認できます。
ただし、JIS P 4501はトイレットペーパーを対象とした規格です。今回の調査は、流せるティッシュ類にも同じ試験方法を使い、ほぐれやすさを比較したものになります。
『神奈川県』は、この調査結果を踏まえて、「トイレに流せる」と表示された製品でも、下水道や浄化槽の中で詰まる可能性があると注意を呼びかけています。
また、便器から流れたからといって、排水管の先まで問題なく流れるとは限りません。
『東京都下水道局』も、水にほぐれにくいものが家庭の排水管だけでなく、下水道管やポンプなどを詰まらせる原因になると説明しています。
そのため、「トイレに流せる」と表示されている製品を使用する場合でも、パッケージに書かれた注意事項を確認することが重要です。
特に、一度に流せる枚数や洗浄水量についての説明は、必ず守るようにしましょう。
詰まりが心配な場合は、使用済みのシートなどをトイレに流さず、自治体の分別ルールに従って処分する方法もあります。
トイレットペーパーとティッシュペーパーの違いを自宅で確かめる方法
トイレットペーパーとティッシュペーパーの水へのほぐれやすさは、自宅でも簡単に比べることができます。
用意するものは、透明なコップや容器を2個、水、少量のトイレットペーパー、普通のティッシュペーパー、かき混ぜるための割りばしです。
まず、2個の容器に同じ量の水を入れます。
次に、一方にはトイレットペーパーを、もう一方にはティッシュペーパーを入れ、紙全体に水を染み込ませます。
このとき、紙の大きさをなるべくそろえておくと、違いを比べやすくなります。
そのまま数分間置き、紙の形がどのように変わるか観察してみてください。
続いて、割りばしを使い、それぞれの容器の水をゆっくりとかき混ぜます。
一般的なトイレットペーパーは、水の動きによって紙の形が崩れ、細かくほぐれていく様子を確認できるでしょう。
一方、普通のティッシュペーパーは、同じようにかき混ぜても、比較的まとまった形を保ちやすくなっています。
さらに、シングルとダブルのトイレットペーパーを同じ長さに切り、水に入れて比べるのも面白い方法です。
紙がほぐれ始めるまでの時間や、かき混ぜた後の状態を比べると、製品による違いも観察できます。
ただし、結果は紙の種類や量、かき混ぜる強さなどによって変わります。
また、細かくほぐれた紙も水の中に残っているため、実験後の水をそのまま排水口に流すと、詰まりの原因になる可能性があります。
観察が終わったら、紙を網などですくい取って水気を切り、自治体のごみ分別ルールに従って処分してください。

普段何気なく使っているトイレットペーパーですが、水に濡れると細かな繊維に分かれるという性質が、トイレで使える理由の一つになっているのです。
まとめ
- トイレットペーパーは水に溶けるのではなく、細かな繊維にほぐれる仕組み
- JIS規格では100秒以内にほぐれることが基準だが、家庭のトイレで必ず100秒以内にほぐれるわけではない
- 一般的なティッシュペーパーは水に濡れても破れにくく、トイレに流すと詰まりの原因になる
- トイレットペーパーのほぐれやすさは、シングルやダブルの違いだけでなく、紙の厚さや製造方法によっても変わる
- トイレットペーパーでも、一度に大量に流したり、洗浄水量が不足したりすると詰まることがある
- 「トイレに流せる」と表示された製品でも、一般的なトイレットペーパーと同じ速さでほぐれるとは限らない
トイレットペーパーの仕組みを知っておくことは、トイレの詰まりを防ぐことにもつながります。
毎日使うものだからこそ、こうした小さな知識を日々の生活に役立てていきたいものです。

