使い終わった乾電池を整理していると、新品と見た目がほとんど変わらないことに気づきます。重さも形も同じように見えるため、外から状態を判断するのは簡単ではありません。
ところが、乾電池には使う前と使ったあとで、意外な違いが現れることがあります。普段は気に留めない小さな変化ですが、そこには身近な科学が隠れています。
第92回雑学調査レポートでは、そんな「電池」に関する雑学をご紹介していきます。
新品よりも使った乾電池のほうが跳ねやすい
単3形のアルカリ乾電池を立てた状態で、硬い床へ軽く落とすと、新品と使用後で跳ね方が違うことがあります。
新品の電池は、床に当たったあと、あまり大きく跳ねずに倒れる傾向があります。反対に、ある程度使った電池は、床に当たったあとで何度か跳ねる場合があります。
この現象は、インターネット上で広まっただけの裏技ではありません。
プリンストン大学、ラトガース大学、ブルックヘブン国立研究所などの研究者が実際に実験を行い、アルカリ乾電池の残量と跳ね方の関係を調べています。
実験では、単3形のアルカリ乾電池を高さ25センチメートルの筒に通し、硬い実験台へ落としました。落下条件をできるだけ同じにするため、手で直接落とすのではなく、筒を使っています。
研究者は、電池が実験台へ当たる音をマイクで記録しました。最初に着地してから、次に着地するまでの時間を調べることで、電池がどれくらい高く跳ねたのかを計算しています。
この実験では、「反発係数」という数値も使われました。
反発係数とは、物がぶつかったあとに、どれくらい勢いよく跳ね返るかを示す数値です。反発係数が高いほどよく跳ね、低いほど跳ねにくいと考えられます。
実験の結果、放電が進んだアルカリ乾電池ほど、反発係数が高くなる傾向が確認されました。
つまり、使った電池が跳ねやすくなる現象には、科学的な根拠があります。

電気を使っても乾電池はほとんど軽くならない
使用後の乾電池が跳ねると聞くと、「電気を使ったぶんだけ中身が減り、軽くなったのではないか」と考えるかもしれません。
しかし、乾電池の中に電気そのものが物質として詰まっているわけではありません。
乾電池は、内部で化学反応を起こし、その反応によって電子を外部の回路へ流します。この電子の流れを利用して、時計やリモコン、ライトなどを動かしています。
電気を使っても、電池の中にある物質が外へ大量に出ていくわけではありません。内部の物質が、化学反応によって別の物質へ変わっていきます。
研究では、放電試験を行うたびに、電池の重さも測定されました。
測定された重さは約23.05グラムで、測定機器の誤差を考えると、放電前後でほとんど変化していませんでした。
そのため、使用後の乾電池が跳ねやすくなる主な理由は、重さが減ることではありません。
重要なのは、電池の中にある材料の状態が変わり、内部の硬さや衝撃の吸収しやすさが変化することです。
アルカリ乾電池の中には何が入っているのか
一般的な円筒形のアルカリ乾電池には、主に次のような材料が使われています。
プラス極の主な材料は、二酸化マンガンです。実際の電池では、電気を流れやすくするために、炭素材料なども混ぜられています。
マイナス極の主な材料は、細かな亜鉛の粉末です。
この亜鉛粉末は、電解液や増粘剤などと混ぜられ、やわらかいゲル状の状態になっています。
電解液には、主に水酸化カリウムを含むアルカリ性の液体が使われます。「アルカリ乾電池」という名前は、このアルカリ性の電解液に由来しています。

乾電池を機器へ入れてスイッチを入れると、マイナス極側で発生した電子が、外部の回路を通ってプラス極側へ移動します。
この電子の流れによって、機器が動きます。
使うと亜鉛が酸化亜鉛へ変わる
アルカリ乾電池を使い続けると、マイナス極にある亜鉛が化学反応を起こします。
亜鉛は酸化され、最終的には酸化亜鉛という物質へ変わっていきます。
プラス極では、二酸化マンガンが主にオキシ水酸化マンガンへ変化します。
化学反応の全体を簡単に見ると、亜鉛、二酸化マンガン、水などが反応し、酸化亜鉛やオキシ水酸化マンガンなどが作られます。
この反応によって、電池の中の材料は少しずつ別の物質へ変わります。
大切なのは、物質の種類が変わるだけでなく、電池内部の形や構造も変化することです。
この構造の変化が、乾電池の跳ね方に大きく関係しています。
新品の電池は内部で衝撃を吸収しやすい
新品のアルカリ乾電池では、マイナス極に含まれる亜鉛の粒が、ゲルの中に分散しています。
イメージとしては、やわらかいゼリーの中に、細かな粒がたくさん混ざっている状態に近いでしょう。
電池が硬い床へぶつかると、内部にある亜鉛の粒やゲルがわずかに動きます。
この動きや変形によって、落下のエネルギーの一部が吸収されます。
たとえば、硬いボールとやわらかい粘土を同じ高さから落とすと、硬いボールのほうがよく跳ねます。粘土はぶつかったときに変形し、エネルギーを吸収するからです。
新品のアルカリ乾電池も、内部が比較的動きやすいため、衝撃のエネルギーを吸収しやすい状態になっています。
その結果、床へ当たったあとに大きく跳ねにくくなります。
酸化亜鉛が粒同士をつなげていく
放電が進むと、亜鉛の粒の表面に酸化亜鉛が作られます。
反応の初期には、酸化亜鉛が亜鉛の粒を覆う、薄い殻のような構造ができます。
さらに反応が進むと、酸化亜鉛で覆われた粒同士が、少しずつつながり始めます。
研究論文では、このつながった構造を「パーコレーション経路」と表現しています。

難しい言葉ですが、仕組みはそれほど複雑ではありません。
最初は離れていた亜鉛の粒の間に、酸化亜鉛でできた橋がかかり、粒同士がつながっていくイメージです。
小さな橋が増えると、やがてマイナス極の中に、広くつながった硬い構造が作られます。
ゲルの中で自由に動けていた粒は、酸化亜鉛のつながりによって動きにくくなります。
そのため、マイナス極全体が少しずつ硬くなっていきます。
内部が硬くなると電池は跳ねやすくなる
新品の電池は、内部が動いたり変形したりすることで、衝撃を吸収できます。
しかし、放電によって酸化亜鉛のつながりが広がると、内部は変形しにくくなります。
衝撃を内部の動きとして吸収できなくなるため、落下のエネルギーが跳ね返る動きへ使われやすくなります。
放電がさらに進むと、マイナス極には、多孔質の酸化亜鉛を多く含む硬い構造が作られます。
多孔質とは、細かな穴がたくさんある状態です。スポンジにも細かな穴がありますが、ここで作られる酸化亜鉛の構造は、やわらかいスポンジというより、粒同士がつながった硬い骨組みに近いものです。
内部が硬くなるほど、電池が床へ当たったときの変形は小さくなります。
その結果、使用後のアルカリ乾電池は、新品よりも跳ねやすくなります。
「中の液体が減ったから跳ねる」は正確ではない
乾電池が跳ねる理由として、「使うと中の水分が減り、乾燥するから跳ねる」と説明されることがあります。
アルカリ乾電池の化学反応には水が関係しています。そのため、水分の変化が跳ね方へ影響しているように感じるかもしれません。
しかし、研究では、水分だけを減らす実験も行われています。
研究チームは、電池のプラス極側を開け、真空乾燥によって、電池1本当たり約2.3グラムの水分を取り除きました。
そのうえで、乾燥させた電池と、乾燥させていない電池の反発係数を比べています。
結果として、測定できるほどの明確な違いは確認されませんでした。
つまり、水分を減らしただけでは、乾電池が大きく跳ねるようにはならなかったのです。
跳ね方と特に強く関係していたのは、水分の減少そのものではなく、酸化亜鉛がマイナス極の中でつながり、硬い構造を作ることでした。
もちろん、水は電池の化学反応や酸化亜鉛の形成に関係しています。
それでも、「中が乾燥したから跳ねる」という説明だけでは、実際の仕組みを正確に表せません。
跳ねても完全に空とは限らない
乾電池がよく跳ねたからといって、「この電池は完全に使い切っている」と判断することはできません。
研究で使われた単3形アルカリ乾電池では、電池の残量を示す充電状態が約80%になったあたりから、反発係数が急に高くなり始めました。
つまり、まだ多くの容量が残っている段階でも、電池が跳ねやすくなることがあります。
さらに放電が進み、充電状態が約50%になると、反発係数の上昇はほぼ止まりました。
その後は、残量がさらに減っても、跳ね方があまり変わらない状態になります。
この結果から、残量が半分ほど残っている電池と、ほぼ使い切った電池が、よく似た跳ね方をする可能性があります。
バウンドテストでは、「ある程度使われた電池かどうか」は推測できても、正確な残量までは分かりません。
80%や50%はすべての電池に当てはまらない
研究で示された80%や50%という数値は、すべてのアルカリ乾電池に共通する基準ではありません。
研究では、電池から取り出す電流の大きさを変えると、反発係数が上がり始める時期や、上昇が止まる時期も変化しました。
乾電池は、同じ製品であっても、使い方によって放電の進み方が異なります。
時計やリモコンのように少ない電流を長時間使う機器と、強いライトや電動玩具のように大きな電流を使う機器では、電池内部の反応の進み方が同じとは限りません。
メーカーや製品によっても、内部の材料、添加剤、亜鉛の粒の大きさ、電極の形、容量などが異なります。
温度や保管状態も影響します。
したがって、「この高さまで跳ねたから残量は何%」と判断することはできません。
プリンストン大学も、バウンドから分かるのは、電池が完全に切れているかどうかではなく、新品に近い状態かどうかだと説明しています。
家庭でのバウンドテストは条件がそろわない
研究では、落とす高さや向きをそろえるために、電池をアクリル製の筒へ通して落としています。
着地する場所には、硬さが一定のエポキシ樹脂製の実験台を使いました。
さらに、着地音をマイクで記録し、時間を細かく測定しています。

家庭で電池を手から落とす場合、毎回まったく同じ条件にすることは困難です。
落とす高さが数センチメートル変わるだけでも、跳ね方は変わります。
電池が少し傾いている場合や、空中で回転している場合も、結果に影響します。
床が木材、タイル、コンクリート、金属などのどれであるかによっても、跳ね方は異なります。
床の上に薄いマットやシートがあるだけでも、衝撃の吸収量が変わります。
家庭で目で見て比べるだけでは、科学実験のように正確な判定はできません。
バウンドテストを繰り返すのは危険
電池を落としたり、強い衝撃を与えたりする行為は、通常の使用方法として推奨されていません。
電池工業会は、電池を高い場所から落としたり、投げつけたりして、強い衝撃を与えないよう注意を呼びかけています。
強い衝撃によって電池が変形すると、内部でプラス極とマイナス極が直接つながる「短絡」が起こる可能性があります。
短絡が起こると、一気に大きな電流が流れ、電池が発熱することがあります。
液漏れ、破裂、発火につながるおそれもあるため、注意が必要です。
特に、外装に傷や破れがある電池、変形している電池、すでに液漏れしている電池は、落としたり衝撃を加えたりしてはいけません。

乾電池が跳ねる現象は、内部の変化を知るうえで興味深いものです。
ただし、家庭で残量を調べるために、何度も繰り返すような方法ではありません。
アルカリ乾電池以外では同じ結果にならないことがある
研究で詳しく調べられたのは、LR6と呼ばれる単3形のアルカリ乾電池です。
実験では特定ブランドの電池が使われましたが、研究者はほかのブランドでも、放電に伴って反発係数が上がる傾向を確認しています。
ただし、すべての製品が同じタイミングで跳ねやすくなるわけではありません。
メーカーごとに材料の配合や内部構造が異なるため、跳ね方と残量の関係にも違いが出る可能性があります。
マンガン乾電池、ニッケル水素充電池、リチウム一次電池、リチウムイオン電池などは、アルカリ乾電池とは材料や仕組みが異なります。
見た目が同じ円筒形であっても、中の構造が同じとは限りません。
そのため、アルカリ乾電池で確認されたバウンドの特徴を、ほかの種類の電池へそのまま当てはめることはできません。
異なる種類やサイズの電池を落とし、跳ね方だけで性能や残量を比較する方法にも、十分な科学的根拠はありません。
残量を調べるなら電池チェッカーを使う
乾電池がまだ使えるかを確認するときは、その電池の種類やサイズに対応した電池チェッカーを利用できます。
電池チェッカーは、乾電池の電圧などを測り、使用できる状態かどうかを表示する機器です。
ただし、表示される結果はあくまで目安です。
乾電池の電圧を何もつながない状態で測るだけでは、実際に機器をどれくらい動かせるかを正確に判断できない場合があります。
乾電池は、機器につないで電流を流すと電圧が下がります。
そのため、実用的な電池チェッカーでは、電池に一定の負荷をかけながら電圧を測る場合があります。
それでも、残りの使用時間を完全に予測できるわけではありません。
電池を使う機器によって、必要な電流や、動作を停止する電圧が違うためです。
同じ電池でも機器によって使える時間が違う
乾電池は、取り出す電流が大きいほど、利用できる容量が少なくなる傾向があります。
大きな電流を必要とする機器では、電池の電圧が早く下がり、まだ内部に使える容量が残っていても動作しなくなることがあります。
たとえば、電動玩具や強力なライトでは動かなくなった電池でも、時計やリモコンでは一時的に使える場合があります。
これは、時計やリモコンのほうが、一般的に少ない電流で動作できるためです。

ただし、使用途中の電池を新品の電池と混ぜて使ってはいけません。
複数の電池を使う機器では、すべて同じ種類の新品へまとめて交換することが基本です。
残量の違う電池を混ぜると、残量の少ない電池へ大きな負担がかかる場合があります。
確実に動作させたい機器では、残量が分からない電池を組み合わせず、機器が指定する種類の新品へ同時に交換します。
使用済みのアルカリ乾電池は充電しない
アルカリ乾電池は、基本的に一度使い切ったら交換する「一次電池」です。
繰り返し充電することを前提に作られていません。
使用済みのアルカリ乾電池を充電器へ入れると、内部でガスが発生することがあります。
その結果、液漏れ、発熱、破裂、発火などの事故につながるおそれがあります。
外見やサイズが充電池と似ていても、アルカリ乾電池を充電してはいけません。
充電できるのは、ニッケル水素充電池など、充電可能であることが明確に表示された電池です。
充電池を使う場合も、その電池に対応した専用の充電器を使用します。
新品と使用途中の電池を混ぜない
複数の乾電池を使う機器では、新品と使用途中の電池を混ぜないようにします。
残量が異なる電池を同時に使うと、残量の少ない電池が先に消耗します。
機器をそのまま使い続けると、残量の少ない電池が過放電の状態になり、液漏れを起こす可能性があります。

メーカーや種類が違う電池を混ぜることも避けます。
同じアルカリ乾電池であっても、製品によって容量や放電特性が異なるためです。
複数本を使う機器では、同じメーカー、同じ種類、同じサイズの新品へ、すべて同時に交換するのが安全です。
傷や変形がある電池は使わない
乾電池を使用する前には、外装の状態を確認します。
外側のフィルムが破れている電池、深い傷がある電池、へこんでいる電池、膨らんでいる電池は使用しません。
白い粉や液体が付いている場合は、液漏れの可能性があります。
液漏れした電池へ素手で触れないようにし、機器や電池の説明書に従って処理します。
電池から漏れた液が皮膚についた場合は、すぐに大量の水で洗い流します。
目に入った場合は、こすらずに水で十分に洗い、医師の診察を受ける必要があります。
捨てる前に端子をテープで絶縁する
使用済みの乾電池を捨てるときは、プラス極とマイナス極をテープで覆います。
セロハンテープやビニールテープなどを使い、金属部分がほかの電池や金属製品へ直接触れないようにします。
複数の電池をまとめて保管すると、端子同士が触れて短絡することがあります。
鍵、硬貨、クリップなどの金属と一緒に置いた場合も、電流が流れる可能性があります。
短絡すると、使用済みと思っていた電池でも発熱することがあります。
破裂や発火につながる事故を防ぐため、廃棄前の絶縁が重要です。
乾電池の分別方法や回収方法は、地域によって異なります。
燃えないごみ、有害ごみ、資源回収など、自治体ごとに扱いが違うため、住んでいる地域のルールを確認して処分します。

まとめ
- 使用後のアルカリ乾電池は、内部構造が硬くなることで新品より跳ねやすくなる
- 跳ねやすさの変化は、電池の重さが減ることではなく、内部の材料が化学反応で変化することによって起こる
- 放電が進むと亜鉛が酸化亜鉛へ変わり、粒同士がつながって硬い構造を作る
- 酸化亜鉛によって内部が変形しにくくなると、衝撃が吸収されず、跳ね返る力として現れやすくなる
- 水分を減らしただけでは跳ね方はほとんど変わらず、乾燥だけが原因とはいえない
- よく跳ねても完全に使い切ったとは限らず、バウンドだけで正確な残量は判断できない
- バウンドテストは落とし方や床の材質に左右されるため、家庭では正確な判定方法にならない
- 電池を繰り返し落とすと、変形、短絡、液漏れ、発熱、破裂、発火につながるおそれがある
- この現象は主に単3形アルカリ乾電池で確認されたもので、ほかの種類の電池にはそのまま当てはめられない
- 残量の確認には電池チェッカーを使い、使用済み電池は端子を絶縁して地域のルールに従って処分する
見た目には変わらない乾電池でも、使う前と使ったあとでは、内部の状態が同じとは限りません。
床へ当たったときの小さな跳ね方の違いは、電池の中で進んだ化学反応と構造の変化を外へ伝えています。
身近な道具の何気ない動きにも、目には見えない科学が隠れています。ただし、乾電池は安全を優先して扱い、バウンドではなく適切な測定方法で状態を確認することが大切です。
参考文献
- Royal Society of Chemistry「The relationship between coefficient of restitution and state of charge of zinc alkaline primary LR6 batteries」
- Princeton University「Battery bounce test often bounces off target」
- Energizer「Alkaline Manganese Dioxide Handbook and Application Manual」
- 一般社団法人 電池工業会「乾電池について」
- 一般社団法人 電池工業会「一次電池の安全で正しい使い方」
- 一般社団法人 電池工業会「乾電池・リチウム一次電池の処理とリサイクル」

