プールの授業がある日に、どこからか独特の匂いが漂ってきた経験がある人は多いのではないでしょうか。ところが、この匂いの正体について誤解している人も、多いかもしれません。
第30回雑学調査レポートでは、そんな「プールの匂い」に関する雑学をご紹介していきます。
プールの独特な匂い
屋内プールや学校のプールに近づくと、鼻にツンとくる独特な匂いがします。多くの人は、それを「塩素の匂い」と呼びます。
プールには消毒のために塩素が使われています。塩素は水中の細菌やウイルスを減らすために重要で、『CDC』によれば、プールでは遊離塩素を少なくとも1ppm(0.0001 %)、pHを7.0~7.8に保つことが推奨されています。
つまり、塩素そのものはプールを安全に保つために欠かせない存在だと言えるでしょう。
しかしだからといって、あのプールの独特な匂いが、実はきちんと働いている塩素そのものの匂いとは限りません。
匂いの正体は「クロラミン」
プールの水に入った人は、目に見えない様々なものを水中に持ち込みます。汗や皮脂、尿、化粧品、日焼け止め、髪や肌についた汚れなどです。
塩素は、これらの汚れに含まれる成分と反応します。その結果できる化学物質の一群が「クロラミン」です。
つまり、プールの独特な匂いは「塩素が多く入っていて清潔な証拠」ではなく、むしろ「塩素が人の体から出た汚れと反応して、クロラミンが増えていえる証拠」と考えるほうが正確なのです。
目が赤くなる原因も塩素だけではない
プールに入ったあと、目が赤くなったり、しみたりすることがあります。そしてこれも「塩素が強いから」と言われます。
もちろん、塩素濃度やpHの管理が悪いと、目や肌に刺激が出やすくなります。ただし『CDC』は、そのほかにもクロラミンがガスになることで目や肺を刺激することがあると説明しています。特に屋内プールでは、空気の入れ替えが不十分であると、クロラミンが空気中にたまりやすくなります。
したがって、「プールで目が赤くなる=塩素が多すぎる」と単純に考えがちですが、実際には「塩素が汚れとして反応してできた刺激物」が関わっている場合があるということです。
「匂うプール」ほど清潔とは限らない
ここまでの情報をまとめると、プールの独特な匂いが塩素のものだけではなく、清潔であるとも限らないということが分かります。実際のところ、しっかりと管理されたプールでは強い匂いがしないことがあります。
ここで重要になってくるのが、「遊離塩素」と「結合塩素」です。
遊離塩素は、まだ消毒に働くことができる状態の塩素です。一方で結合塩素は、汚れと反応したあとにできる塩素化合物です。クロラミンはこの結合塩素に含まれます。
多くの保健当局は、結合塩素を0.4ppm以下に制限しています。すなわち、よく管理されたプールというのは結合塩素が少ないことを意味します。
一方、独特な匂いが強いプールでは、「消毒に働ける塩素が多い」のではなく、「汚れとして反応してできた物質が多い」可能性があるということです。
プールの前のシャワーの意味
プールの前にシャワーを浴びるのは、単なるマナーではありません。
体の表面には汗、皮脂、化粧品などがついています。これらがプールに入ることで、塩素と反応してクロラミンを作る材料となってしまいます。
『CDC』によれば、短時間のシャワーであっても、クロラミンの材料になる体の汚れはかなり落とせるとされています。
つまり、入水前のシャワーは「自分のため」だけでなく、「そのプールにいる全員」の健康を守るためでもあるのです。
水泳選手や監視員ほど影響を受けやすい
たまに泳ぐ人よりも、長時間プールにいる人のほうが、クロラミンの影響を受けやすくなります。
たとえば、競泳選手やスイミングスクールのコーチ、プール監視員、屋内プールのスタッフなどが当てはまります。屋内では空気がこもりやすく、水面近くにクロラミンを含む空気がたまりやすいため、長時間その場にいる人は、目の刺激や鼻・のどの違和感を感じることがあります。
ただし、これは「プールが危険」という話ではありません。塩素消毒は感染症を防ぐためにとても重要です。とはいえ、消毒すれば何でも解決するわけではなく、換気や水質管理、利用者の衛生行動がそろって初めて、快適で安全なプールになるということです。
まとめ
- プールの独特な匂いは、塩素が汚れと反応してできる「クロラミン」
- クロラミンが気化することで、目や肺を刺激することがある
- プールの独特な匂いが強いからといって、清潔とは限らない
- プールに入る前のシャワーは、クロラミンの材料になる体の汚れを落とすため
プールの独特な匂いは、塩素そのものではなく、塩素が汚れと反応してできるクロラミンが正体であることが分かりました。そのため強い匂いがするからといって、必ずしも清潔なプールとは限らないのです。
だからこそ、入水前のシャワーや適切な換気、水質管理といったものは、快適なプール環境を守るために欠かせないことだと言えるでしょう。
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参考文献
- CDC「Preventing Eye Irritation from Pool Chemicals」
- CDC「Chloramines and Pool Operation」
- CDC「Home Pool and Hot Tub Water Treatment and Testing」
- ScienceDirect / Water Research「Trichloramine in swimming pools – Formation and mass transfer」
- European Respiratory Journal「Exposure to trichloramine and respiratory symptoms in indoor swimming pool workers」

