古代エジプトでは石の枕で寝ていた!?【現代の枕とは異なるさまざまな工夫】

枕と聞くと、ふんわりと柔らかく、頭を優しく支えてくれるものを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、私たちにとって当たり前の枕の形が、昔から当たり前だったとは限りません。

第166回雑学調査レポートでは、そんな「枕」に関する雑学をご紹介していきます。

目次

古代エジプトでは石や木で作られた硬い枕を使っていた

私たちが普段使っている枕は、頭を柔らかく包み込むものが一般的です。しかし、数千年前の古代エジプトでは、木や石などで作られた硬い道具を枕として使っていました。

この道具は「ヘッドレスト」と呼ばれ、眠るときに頭や首を支えるためのものです。

ヘッドレストは、現代の枕とは形も仕組みも大きく異なります。一般的なものは、平らな土台、その上に立つ支柱、頭を乗せるための湾曲した部分という3つの部分からできていました。

上から見ると、頭を乗せる部分は緩やかな曲線を描いています。全体としては、小さな台の上に頭を乗せるような形です。

では、なぜこのような形をしていたのでしょうか。

その理由は、横向きで寝るときの姿勢を考えると分かりやすくなります。

横向きに寝ると、肩があるため、頭と寝床の間に隙間ができます。現代では、この隙間を柔らかい枕で埋めていますが、古代エジプトではヘッドレストを使って頭を支えていました。

『The Global Egyptian Museum』によると、ヘッドレストの湾曲した部分を耳の少し上にあたる頭の部分に当て、支柱によって頭を適切な高さに保っていたとされています。

実際に残されているヘッドレストを見ると、その形にはさまざまな種類があったことが分かります。

例えば、『The Metropolitan Museum of Art』には、紀元前2030年頃から紀元前1802年頃に作られた木製のヘッドレストが収蔵されています。

このヘッドレストは高さ約22センチメートルで、6本の細い木の棒が頭を乗せる部分を支えています。

同館によると、6本の支柱を使ったものは珍しく、1本の太い支柱で支える形が一般的でした。

つまり、古代エジプトの枕は、柔らかい素材で頭を包むのではなく、硬い台によって頭を支える仕組みだったのです。

古代エジプトの枕はなぜ硬かった?暑い夜でも涼しく眠る工夫

硬い木や石に頭を乗せて眠ると聞くと、寝心地が悪そうに感じるかもしれません。しかし、古代エジプトのヘッドレストには、暑い土地で生活する人々にとって便利な特徴がありました。

その一つが、頭や首の周囲に風を通しやすいことです。

現代の柔らかい枕では、頭や首の広い部分が枕に触れます。そのため、暑い夜には接触している部分に熱がこもりやすくなります。

一方、ヘッドレストは頭の一部分を支える構造です。頭が寝床から持ち上がるため、頭や首の周囲に空間ができます。

この空間には空気が通りやすく、暑い夜でも涼しく眠る助けになったと考えられています。

『Bristol Museums』も、古代エジプトの木製ヘッドレストについて、頭や首の周囲に空気を通し、涼しさを保てるように作られていたと説明しています。

また、頭を寝床から離すことには、別の利点もありました。

それは、虫などが顔に近づくのを防ぎやすくなることです。

古代エジプトでは、夜間に活動する虫やサソリなどが、眠っている人にとって危険になることがありました。

『The Metropolitan Museum of Art』によると、ヘッドレストで顔を高い位置に保つことは、こうした虫やサソリとの接触を減らすうえでも役立ったとされています。

つまり、古代エジプトのヘッドレストは、単に頭を支えるだけの道具ではありませんでした。

暑さを和らげたり、虫などから顔を遠ざけたりするなど、当時の生活環境に合った特徴を持っていたのです。

古代エジプトの枕には髪型を崩さないための役割もあった?

ヘッドレストには、さらに意外な役割があったと考えられています。

それは、眠っている間に髪型が崩れるのを防ぐことです。

古代エジプトでは、髪を細かく編んだり、かつらを身に着けたりする文化がありました。特に手の込んだ髪型には、時間をかけて整えられたものもあったと考えられます。

実際に、『The Metropolitan Museum of Art』には、古代エジプトで使われていたかつらが収蔵されています。

紀元前1051年頃から紀元前1002年頃のものとされるこのかつらは、人の髪とみられる毛を編み、蜜ろうや動物性の脂肪を使って仕上げられています。

こうした資料からも、当時の人々が髪型に工夫を凝らしていた様子がうかがえます。

では、ヘッドレストは髪型を保つうえで、どのように役立ったのでしょうか。

柔らかい枕に頭を乗せると、髪の広い範囲が枕に触れます。寝返りを打つと髪が押しつぶされたり、こすれたりすることがあります。

一方、ヘッドレストは頭を限られた部分で支えるため、髪が寝具に触れる範囲を小さくできます。

その結果、髪型が乱れるのを抑える効果があったと考えられるのです。

『The Global Egyptian Museum』の所蔵品解説でも、ヘッドレストには風通しをよくするだけでなく、髪型を保つ役割があったと考えられることが紹介されています。

もちろん、古代エジプトの人々が全員、髪型を守るためにヘッドレストを使っていたと分かっているわけではありません。

それでも、数千年前の寝具に、髪型を崩しにくくするという現代にも通じる利点があったことは興味深い点です。

石の枕は痛くなかった?実は布などを使って柔らかくしていた

ヘッドレストが暑さや髪型に配慮した道具だったとしても、硬い木や石に頭を乗せたら痛くならなかったのでしょうか。

実は、古代エジプトの人々も、寝心地をよくするための工夫をしていたことが分かっています。

『The Metropolitan Museum of Art』によると、現存するヘッドレストの中には、表面に布が触れていた痕跡や、麻布の一部が残されているものがあります。

これは、頭を乗せる部分に布などを当てて、硬さを和らげていたことを示す資料です。

また、『The Global Egyptian Museum』の所蔵品解説でも、湾曲した部分に布やわらを使い、頭や首が触れるところにクッション性を持たせていたと説明されています。

つまり、硬い素材で作られていても、必ずしも木や石の表面に直接頭を乗せていたわけではありません。

現在の枕と同じような柔らかさがあったとは限りませんが、体に触れる部分を柔らかくする工夫が行われていたのです。

さらに、すべてのヘッドレストが同じ材料で作られていたわけでもありません。

古代エジプトでは、木のほかにも石や象牙などが使われていました。ただし、ここで知っておきたいのが、ヘッドレストには日常生活で使うものと、墓に納めるために作られたものがあったという点です。

例えば、『The Metropolitan Museum of Art』が所蔵する「Headrest of Khentika」は、紀元前2323年頃から紀元前2150年頃の第6王朝時代に作られた石製のヘッドレストです。

この品は「トラバーチン」と呼ばれる石材で作られており、裕福な役人の墓から発見されました。

同館によると、一般的な木製ヘッドレストでは、木の部品に突起と穴を作り、互いにはめ込む方法が使われていました。

しかし、この石製のヘッドレストは、頭を乗せる部分、支柱、土台が接着によってつなぎ合わされています。

こうした作りから、実際に毎晩使用するためというより、死後の世界で使うことを目的として作られた可能性が高いと考えられています。

また、古代エジプトには、ヘッドレストとは別に柔らかい枕も存在していました。

そのため、古代エジプトの人々が全員、石の枕に頭を乗せて眠っていたわけではありません。

普段の生活では木製のヘッドレストなどが使われ、必要に応じて布などを当てることで、寝心地をよくしていたと考えられます。

古代エジプトのベッドは斜めだった?床にマットを敷いて眠る人も多かった

枕だけでなく、古代エジプトのベッドにも現代とは異なる特徴がありました。

現在では、ベッドは多くの家庭で使われています。しかし、古代エジプトでは、誰もがベッドを所有していたわけではありません。

『Bristol Museums』によると、ベッドを使用していたのは主に裕福な人々で、多くの人は床にマットを敷いて眠っていました。

当時のベッドは主に木で作られており、頭側が高く、足元に向かって緩やかに傾いているものがありました。

現代のベッドは水平なものが一般的ですが、古代エジプトでは、頭を高くした姿勢で眠れるように作られたベッドが使われていたのです。

ただし、ベッドが傾いていると、眠っている間に体が足元へ滑ってしまうことがあります。

そこで取り付けられていたのが、「フットボード」と呼ばれる板です。

これはベッドの足元に設置される部品で、体が下へ滑り落ちるのを防ぐ役割がありました。

そして、頭側には木製のヘッドレストを置き、首や頭を支えるようにしていたと考えられます。

つまり、古代エジプトのベッドには、頭側を高くするための傾斜、体が滑るのを防ぐ足元の板、頭を支えるヘッドレストといった工夫が取り入れられていたのです。

また、古代エジプトのベッドには、木の枠に縄などを編んで張り、その上に布を重ねて寝床とするものもありました。

現代のような厚いマットレスを使うベッドとは、構造が大きく異なっていたことが分かります。

一方、ベッドを所有していない人々は、床に敷いたマットなどの上で眠っていました。

ヘッドレストは独立した道具なので、木製のベッドだけでなく、床に敷いた寝具の上でも頭を支えることができます。

このように、古代エジプトでは、裕福な人々が木製ベッドを使用する一方、多くの人々は床にマットを敷くなど、それぞれの生活環境に合った方法で眠っていました。

古代エジプトの枕はなぜ墓にも入れられた?死後の世界と太陽の再生

ヘッドレストには、眠るときに頭を支える道具という役割のほかに、宗教的な意味もありました。

古代エジプトの人々は、死後の世界でも生活が続くと考えていました。

そのため、亡くなった人の墓には、食器や家具、装飾品など、生活に必要だと考えられたさまざまな道具が納められました。

ヘッドレストも、そうした副葬品の一つです。

実際に、『British Museum』には、墓から発見された石製のヘッドレストが収蔵されています。

この品は、古代エジプトの役人だったメルイラー・ハシェテフという人物のものです。

特に珍しいのは、その形です。頭を乗せる湾曲した部分を、2本の手が下から持ち上げているように作られています。

手の指まで細かく表現されており、持ち主の名前や称号も刻まれています。

同館によると、ヘッドレストは古代エジプトの生活で使われる寝具の一つであり、死後の世界でも使用できるように墓へ納められていました。

しかし、ヘッドレストが墓に入れられた理由は、単に死後も眠れるようにするためだけではありません。

古代エジプトでは、ヘッドレストの形そのものにも特別な意味が込められていました。

『The Metropolitan Museum of Art』によると、湾曲したヘッドレストの上に丸い頭が乗る姿は、地平線から昇る太陽に重ねられていました。

古代エジプトでは、太陽が沈み、翌朝再び昇ることが、再生や復活を象徴する重要な出来事と考えられていたのです。

この考え方は、人間の眠りとも結びついていました。

夜に眠り、朝になって目覚めることを、太陽が再び昇る姿になぞらえたと考えられています。

そして、ヘッドレストには、亡くなった人の頭を守り、死後の再生を助ける意味も込められるようになりました。

そのため、実際に眠るためのヘッドレストだけでなく、ヘッドレストの形をした小さなお守りも作られました。

『The Metropolitan Museum of Art』には、紀元前664年から紀元前332年頃に作られた「Headrest Amulet」という石製のお守りが収蔵されています。

このお守りの高さは、わずか2.3センチメートルです。

もちろん、この大きさでは人間の頭を支えることはできません。

これは生きている人が眠るための道具ではなく、亡くなった人の頭を守り、死後の復活を願うために墓に納められたものです。

さらに、ヘッドレストには、夜の危険から人々を守ると考えられていた神々の姿が描かれることもありました。

『The Global Egyptian Museum』では、魔除けの力を持つ神ベスや、守護の女神タウエレトを描いた例が紹介されています。

古代エジプトの人々にとって、夜は眠るための時間であると同時に、目に見えない危険から守られることを願う時間でもあったのです。

ツタンカーメン王の枕には神様とライオンが描かれていた

古代エジプトのヘッドレストの中でも、特に豪華で興味深いものが、ツタンカーメン王の墓から発見されています。

『Grand Egyptian Museum』が紹介する象牙製のヘッドレストには、神様と2頭のライオンの姿が表現されています。

中央にいるのは、空気の神シュウです。

シュウはひざまずいた姿で両腕を高く上げ、頭を乗せる湾曲した部分を持ち上げています。その左右には、地平線を守る2頭のライオンが配置されています。

このヘッドレストは高さ約18センチメートルで、実際に頭を支えられる大きさをしています。

では、なぜ空気の神シュウが頭を持ち上げているのでしょうか。

その理由は、古代エジプトの太陽に関する信仰にあります。

このヘッドレストでは、王の頭が太陽に見立てられています。そして、神シュウが頭を支える姿によって、太陽が死後の世界から再び持ち上げられる様子を表しているのです。

つまり、ツタンカーメン王がヘッドレストに頭を乗せることには、太陽の再生を表す宗教的な意味が込められていました。

さらに、古代エジプトの宗教文書である「死者の書」にも、ヘッドレストに関係する呪文が登場します。

『The Global Egyptian Museum』によると、「死者の書」の第166章には、ヘッドレストのお守りに関する呪文が収められています。

この呪文には、亡くなった人の頭が失われることを防ぎ、夜に襲ってくる悪しき存在から守るという意味がありました。

古代エジプトでは、頭を支えるという身近な道具が、死後の世界でも人を守る特別な存在として考えられていたのです。

現代の私たちは、枕を主に寝心地をよくするために使っています。一方、古代エジプトのヘッドレストには、暑い夜を快適に過ごすための工夫から、死後の再生を願う信仰まで、さまざまな意味が込められていました。

まとめ

  • 古代エジプトでは、木や石で作られた硬い「ヘッドレスト」を枕として使っていた
  • ヘッドレストには、頭や首の周囲の通気性を高め、暑さを和らげる役割があった
  • ヘッドレストは、眠っている間に髪型が崩れるのを防ぐためにも役立ったと考えられている
  • 硬いヘッドレストには、布やわらを当てて寝心地をよくする工夫も施されていた
  • 石製のヘッドレストには墓に納めるためのものもあり、すべての人が石の枕で寝ていたわけではない
  • 古代エジプトでは主に裕福な人々がベッドを使い、多くの人は床にマットを敷いて眠っていた
  • 古代エジプトのベッドには、頭側が高く、足元に向かって傾斜したものがあった
  • ヘッドレストは墓にも納められ、死者の頭を守り、死後の再生を願う宗教的な意味も持っていた

古代エジプトの人々が使っていた硬いヘッドレストには、現代の枕とは異なるさまざまな工夫が詰まっていました。

今夜、いつもの枕に頭を乗せるとき、数千年前の人々がどのような姿で眠っていたのか、少し想像してみるのも面白いかもしれません。

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