サツマイモが甘くなるのは70℃前後!?【加熱によって起こる変化】

焼き芋や天ぷら、大学芋など、さまざまな料理に使われるサツマイモ。昔から親しまれている身近な食材ですが、その特徴について詳しく知っている方は意外と少ない℃しれません。

第163回雑学調査レポートでは、そんな「サツマイモ」に関する雑学をご紹介していきます。

目次

焼き芋が甘くなるのはなぜ?でんぷんが糖に変わる仕組み

焼き芋を食べると、砂糖を加えていないのに、驚くほど甘く感じることがあります。特に、じっくり焼いたサツマイモは、まるでスイーツのような濃厚な甘さになることもあります。

実は、この甘さには、サツマイモを加熱している間に起こる変化が深く関係しています。

サツマイモには、もともと「でんぷん」がたくさん含まれています。でんぷんは、ご飯やパンにも含まれる成分で、それ自体にはほとんど甘味がありません。

ところが、サツマイモを加熱すると、このでんぷんの一部が「麦芽糖(ばくがとう)」という甘い成分に変わります。

その変化を助けるのが、サツマイモに含まれている「β-アミラーゼ(ベータ・アミラーゼ)」という酵素です。酵素とは、食べ物の成分を分解するなど、化学的な変化を助ける物質のことをいいます。

ただし、β-アミラーゼは、生のでんぷんをそのまま十分に分解することができません。

そこで重要になるのが、加熱によるでんぷんの変化です。

サツマイモを温めると、でんぷんが水分を吸収して膨らみ、やわらかくなります。この現象を「糊化(こか)」と呼びます。お米を炊くと、硬かった米粒がやわらかくなるのも、でんぷんの糊化が関係しています。

サツマイモの中でも同じような変化が起こり、糊化したでんぷんにβ-アミラーゼが働きかけると、麦芽糖が作られます。

麦芽糖は「マルトース」とも呼ばれる糖の一種で、砂糖よりも穏やかな甘味を持っています。

つまり、焼き芋が甘くなるのは、加熱によってでんぷんが変化し、それを酵素が分解して麦芽糖を作るためです。

さらに、サツマイモには、最初から「ショ糖」という糖も含まれています。ショ糖は、普段使っている砂糖の主成分です。z

『農研機構』による研究をまとめた論文では、ショ糖も焼き芋の甘さに大きく関わり、甘味への影響が麦芽糖とほぼ同じ程度になることが示されています。

焼き芋の甘さは、もともと含まれている糖と、焼いている間に新しく作られる糖が組み合わさって生まれるのです。

焼き芋は70℃前後で甘くなる!じっくり加熱することが大切な理由

焼き芋を甘くするためには、加熱する温度が重要です。特に注目されているのが「70℃前後」という温度です。

なぜ、この温度が甘さに関係するのでしょうか。

その理由は、でんぷんがやわらかくなる温度と、β-アミラーゼが働ける温度にあります。

『日本いも類研究会』によると、一般的なサツマイモのでんぷんは、およそ65〜75℃で糊化が始まります。

一方、β-アミラーゼは、温度が上がると働きが活発になりますが、熱くなりすぎると働きを失ってしまいます。

例えば、サツマイモの内部温度が急に高くなると、でんぷんがやわらかくなっても、β-アミラーゼが十分に働く前に、その働きが失われてしまう場合があります。

これでは、麦芽糖を作れる時間が短くなってしまいます。

反対に、サツマイモをゆっくり温めると、でんぷんが糊化し、酵素が働ける温度帯を比較的長く保つことができます。

その間に、でんぷんから麦芽糖が作られ、甘味が強くなっていくのです。

このように、でんぷんが変化し、酵素も働ける条件が重なりやすいことから、70℃前後が焼き芋の甘さを引き出す重要な温度帯とされています。

ただし、ここでいう70℃前後は、オーブンの設定温度ではなく「サツマイモの内部温度」です。

例えば、150℃に設定したオーブンにサツマイモを入れても、中心部分がすぐに150℃になるわけではありません。

最初は表面から温まり、時間をかけて中心まで熱が伝わっていきます。その途中で、サツマイモの内部は50℃、60℃、70℃と、少しずつ温度が上がります。

この温度の上がり方が、焼き芋の甘さを左右するのです。

また、70℃がすべての品種にとって最適というわけではありません。でんぷんの性質や酵素の働き方には品種による違いがあり、麦芽糖が作られやすい温度も変わります。

大切なのは、単に70℃にすることではなく、サツマイモの内部が甘味を作りやすい温度帯を通るときに、酵素が十分に働けるように加熱することです。

石焼き芋はなぜ甘い?電子レンジとの違い

昔ながらの石焼き芋がおいしい理由にも、加熱温度が関係しています。

石焼き芋は、熱した石の中にサツマイモを入れて焼く調理方法です。

熱い石からサツマイモへと熱が伝わり、時間をかけて内部まで温めていきます。

このようにじっくり加熱すると、サツマイモの内部が甘味を作りやすい温度帯に比較的長くとどまるため、麦芽糖が増えやすくなります。

一方、電子レンジは、マイクロ波によって食品の内部にも熱を発生させる調理器具です。

短時間で食べ物を温められる便利な方法ですが、通常の高い出力でサツマイモを一気に加熱すると、内部温度が速く上がることがあります。

すると、β-アミラーゼが働ける時間が短くなり、石焼き芋ほど麦芽糖が作られない場合があるのです。

『名古屋学芸大学 管理栄養学部』でも、石焼き芋の甘さにはβ-アミラーゼが関係しており、内部温度をゆっくり上げることがポイントだと説明しています。

もちろん、電子レンジでも出力や加熱時間を調整すれば、甘味を引き出すことは可能です。

また、石焼き芋でなくても、オーブンなどを使ってじっくり焼くことで、麦芽糖が作られやすい条件を整えられます。

つまり、石焼き芋の甘さの秘密は、石そのものに特別な甘味を生み出す力があるからではなく、サツマイモをゆっくり加熱できることにあるのです。

サツマイモの品種によって甘くなる温度が違う?「クイックスイート」の特徴

サツマイモは、品種によって甘さや食感が異なります。

その理由の一つが、でんぷんの性質の違いです。

『農研機構』は、「クイックスイート」と「ベニアズマ」という2つの品種について、加熱したときのでんぷんや糖の変化を比較しています。

その研究では、サツマイモの内部ででんぷんが糊化し始める温度に、大きな違いが見つかりました。

「クイックスイート」では約50℃から糊化が始まったのに対し、「ベニアズマ」では約80℃から始まったのです。

さらに、麦芽糖が作られ始める温度にも同じ違いがありました。

「クイックスイート」は約50℃、「ベニアズマ」は約80℃から麦芽糖の生成が始まったと報告されています。

つまり、「クイックスイート」は、一般的な品種より低い温度でもでんぷんがやわらかくなり、酵素が働きやすくなる特徴を持っています。

このため、短い時間の加熱でも甘味が増しやすいのです。

さらに興味深いのは、高温で加熱したあとに残る酵素の働きにも違いがあったことです。

研究では、80℃で加熱したサツマイモからβ-アミラーゼを取り出し、その働きを調べています。

その結果、「クイックスイート」では加熱前と同程度の酵素活性が確認されました。一方、「ベニアズマ」では、加熱前の約20%まで低下していました。

ただし、加熱前に取り出した酵素自体の温度に対する性質には、両品種で大きな違いがありませんでした。

この結果から、「クイックスイート」はでんぷんが低い温度から糊化することなどによって、加熱中も酵素が働きやすい状態になっていると考えられています。

また、同じ研究では、「クイックスイート」で麦芽糖が最も作られやすい加熱温度は約80℃と報告されています。

一般的な焼き芋では70℃前後が重要とされますが、品種によっては、より高い温度で甘味を作りやすい場合もあるということです。

なお、これらは研究に使われたサツマイモの測定結果であり、栽培された場所などによって数値が変わる可能性もあります。

このように、焼き芋の甘さには、焼き方だけでなく、それぞれの品種が持つでんぷんの性質も深く関係しています。

家庭で甘い焼き芋を作るには?オーブンの温度と焼き時間

家庭で甘い焼き芋を作りたい場合は、オーブンを使って、時間をかけて焼く方法があります。

具体的な例として、『東芝ライフスタイル』が公開しているオーブンレンジ「ER-VD7000」のレシピを見てみましょう。

このレシピでは、ねっとりとした焼き芋を作る方法として「予熱なしの150℃で80〜90分」という加熱設定が紹介されています。

使用するサツマイモは、太さ3〜5cm程度、1本約250gのものです。

作り方も比較的簡単です。

まず、サツマイモを水でよく洗い、表面の水気を拭き取ります。

次に、フォークを使って皮に数か所穴をあけ、オーブンの角皿に並べます。

あとは予熱なしの150℃で80〜90分加熱するという方法です。

焼き上がったら、竹串などを刺して、中心までスムーズに通るか確認するとよいでしょう。まだ硬い場合は、様子を見ながら追加で加熱します。

ただし、この温度と時間は、特定のオーブンとサツマイモの大きさを前提にしたものです。実際の焼き時間は、品種や太さ、使用するオーブンによって変わります。

また、同じレシピでは、一般的な焼き芋を作る方法として「予熱なしの300℃で43〜48分」という設定も紹介されています。

150℃で長時間焼く方法と、300℃で比較的短時間焼く方法では、サツマイモの温まり方や仕上がりが変わります。

ゆっくり加熱する方法は、甘味を作る酵素が働ける時間を確保しやすく、ねっとりした品種の特徴を引き出す方法の一つです。

一方、ホクホクした食感になるか、ねっとりした食感になるかは、焼き方だけで決まるものではありません。

サツマイモにもともと含まれる水分やでんぷんの量、品種、保存状態なども関係しています。

そのため、家庭で焼き芋を作る際には、好みの食感に合った品種を選ぶことも大切です。

なお、300℃に対応していないオーブンもあるため、使用する機器の取扱説明書や専用レシピを確認してください。

サツマイモは収穫後の保存でも甘くなる?焼く前から変わる糖の量

焼き芋の甘さは、焼いている間だけで決まるわけではありません。

実は、サツマイモは収穫したあと、適切な環境で保存している間にも、甘味に関係する成分が変化します。

サツマイモには、加熱によって作られる麦芽糖のほかに、ショ糖、ブドウ糖、果糖などの糖が含まれています。

これらの糖は、収穫後の保存期間や温度などによって量が変わることがわかっています。

『千葉県農林総合研究センター』の研究者らが発表した論文では、サツマイモ6品種を対象に、貯蔵期間と焼き芋の甘さの関係を調べています。

その結果、6品種すべてで、貯蔵中にショ糖、ブドウ糖、果糖が増加し、焼き芋の甘味が強まることが確認されました。

特に「クイックスイート」と「べにはるか」では、保存中に増えた糖に加えて、焼くときに作られる麦芽糖も甘味に大きく関係していました。

つまり、サツマイモの甘さには、2つの段階があるのです。

最初の段階は、収穫後の保存です。保存している間にでんぷんの分解などが進み、ショ糖などの糖が増えていきます。

次の段階は、焼くときの加熱です。でんぷんが糊化すると、β-アミラーゼが働き、麦芽糖が新しく作られます。

この2つの変化によって、焼き芋の甘味がさらに強くなると考えられています。

また、保存中のでんぷんの変化は、甘さだけでなく、焼き芋の食感にも影響します。

研究では、焼いたあとに残っているでんぷんの量と、ホクホク感やねっとり感などの食感に深い関係があることも確認されています。

例えば、「高系14号」では、貯蔵中のでんぷんの分解が食感の変化に大きく関係していました。一方、「クイックスイート」や「べにはるか」では、貯蔵中の変化だけでなく、焼いている間のでんぷんの分解も食感に強く影響していました。

このように、保存による変化の仕方も、サツマイモの品種によって異なります。

ただし、サツマイモは長く保存すれば必ず甘くなるというわけではありません。

サツマイモは寒さに弱い野菜で、温度が低すぎると傷みやすくなります。また、保存中の乾燥や腐敗にも注意が必要です。

そのため、収穫後は適切な温度や湿度で管理することが大切になります。

私たちが食べている甘い焼き芋には、収穫後の保存によって糖が増える変化と、加熱中にでんぷんから麦芽糖が作られる変化が関わっています。

サツマイモの品種や保存状態に合わせてじっくり加熱することが、甘くておいしい焼き芋を楽しむためのポイントといえるでしょう。

まとめ

  • 焼き芋が甘くなるのは、加熱によってでんぷんが分解され、甘味を持つ麦芽糖が作られるため
  • 焼き芋の甘さには、加熱中に作られる麦芽糖だけでなく、もともと含まれるショ糖も関係している
  • 70℃前後は、でんぷんが変化し、甘味を作る酵素が働きやすい重要な温度帯
  • 石焼き芋がおいしい理由の一つは、じっくり加熱することで麦芽糖が作られやすくなること
  • サツマイモは品種によってでんぷんが変化する温度が異なり、甘くなりやすい加熱条件も変わる
  • 家庭でもオーブンを使って低めの温度で長時間加熱することで、甘味を引き出しやすくなる
  • サツマイモは収穫後の保存中にも糖の量が変化し、焼き芋の甘さや食感に影響する

身近な食材であるサツマイモですが、その甘さには、私たちが普段意識することのないさまざまな変化が関わっているのです。

いつもの焼き芋も、こうした仕組みを知ってから食べると、少し違った楽しみ方ができるかもしれません。

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