秋の味覚を代表する魚といえば、サンマを思い浮かべる人も多いでしょう。塩焼きにして食べる機会の多い身近な魚ですが、その体には意外と知られていない特徴がいくつも隠されています。
第155回雑学調査レポートでは、そんな「サンマ」に関する雑学をご紹介していきます。
サンマには胃がない!「無胃魚」と呼ばれる魚
秋の味覚としておなじみのサンマには、人間とは大きく異なる体の特徴があります。実は、サンマには私たちがイメージするような胃がありません。
このように胃を持たない魚は「無胃魚(むいぎょ)」と呼ばれています。サンマだけが特別なのではなく、イワシやトビウオ、コイ、金魚、メダカなども無胃魚です。『農林水産省』の中国四国農政局も、サンマを胃のない魚として紹介しています。
人間の場合、口から入った食べ物は食道を通って胃へ送られます。胃では食べ物を一時的にためながら、胃液などを使って消化を進めます。
一方、サンマには食べ物をためておく胃という独立した器官がありません。食べたものは食道から消化管へ送られ、主に腸で消化や栄養の吸収が行われます。

普段、塩焼きのサンマを見ても体の中の構造まで意識することはあまりありません。しかし、その細長い体の中には、胃を使わずに食べ物を処理する仕組みが備わっています。
胃がなくても平気?サンマは腸を中心に消化する
「胃がないのに、食べたものをどうやって消化するのだろう」と疑問に感じるかもしれません。
胃は人間にとって重要な消化器官ですが、すべての魚が胃を持っているわけではありません。サンマのような無胃魚は、胃に餌をためてから消化するのではなく、腸を中心とした消化管で食べ物を処理します。
サンマが普段どのような餌を食べているのかを見ると、この仕組みをイメージしやすくなります。
『水産研究・教育機構』がサンマの消化管の中身を調べた研究では、北へ移動する時期のサンマから27種類の動物プランクトンが確認されました。よく食べられていたのは、ネオカラヌス属やカラヌス属と呼ばれるカイアシ類、オキアミの幼生などです。
動物プランクトンは、海の中を漂って生活する非常に小さな生き物です。サンマは泳ぎながらこうした小さな餌を食べています。
特にネオカラヌス属のカイアシ類は、サンマにとって重要な餌と考えられています。サンマは食べた餌を胃に長時間ためるのではなく、消化管へ送りながら消化し、必要な栄養を取り込んでいるのです。
サンマの内臓を食べやすいのは胃がないことも関係する
サンマの塩焼きでは、身だけではなく、内臓のほろ苦さを楽しむ人もいます。魚によっては焼く前に内臓を取り除くことが一般的ですが、サンマでは内臓を残したまま焼く食べ方も珍しくありません。
その理由のひとつとして関係しているのが、サンマには胃がないという特徴です。
胃を持つ魚は、食べた餌を胃の中にしばらくためることができます。サンマにはそのような胃がないため、食べた餌が消化管を比較的速く通過します。
『農林水産省』の中国四国農政局では、一般向けの解説の中で、サンマは食べた餌を約30分で排泄すると紹介しています。
つまり、サンマは食べた餌を胃の中に長時間ため込む魚ではありません。消化管の中に餌が長く残りにくいことが、内臓を食べやすいとされる理由のひとつです。
ただし、サンマに胃がないことだけを理由に、日本で内臓を食べる習慣が生まれたと考えるのは単純すぎます。食文化が生まれる背景には、味や調理法、鮮度、地域の習慣など、さまざまな要素が関係します。
サンマの場合は、胃を持たず、食べた餌が消化管に長く残りにくい体の特徴が、内臓を食べる際の味や食べやすさに関係していると考えると分かりやすいでしょう。
サンマの内臓が苦いのは胆のうなどが関係する
サンマの内臓を食べると、独特のほろ苦さを感じることがあります。
サンマには胃がないため、「あの苦味は食べた餌の味なのでは」と考える人もいるかもしれません。しかし、サンマの内臓の苦味には、サンマ自身の臓器も関係しています。
『大日本水産会』の魚食普及推進センターでは、サンマの内臓について、胆のうが苦い部分であり、肝臓にも苦味が出ることがあると説明しています。
胆のうは、胆汁をためている小さな器官です。胆汁には脂肪の消化を助ける働きがありますが、強い苦味があります。このため、胆のうや胆汁の影響によって、魚の内臓や身に苦味を感じることがあります。
サンマを食べたときに感じる内臓の苦味を、すべて消化途中の餌の味と考えるのは適切ではありません。胆のうなど、サンマ自身の内臓から生まれる苦味も含まれています。
脂のある身と、内臓のほろ苦さを一緒に味わえることも、サンマの塩焼きならではの特徴といえるでしょう。
胃がないからといって何も食べていないわけではない
サンマには胃がありませんが、当然ながら餌を食べずに生活しているわけではありません。
『水産研究・教育機構』の研究では、サンマの消化管からさまざまな種類の動物プランクトンが確認されています。
なかでも、ネオカラヌス属と呼ばれるカイアシ類は、サンマにとって重要な餌と考えられています。
同じ研究では、サンマの餌となるネオカラヌス属のカイアシ類が近年減少していることも報告されています。こうした餌の減少が、サンマの体の太り具合を示す「肥満度」の低下につながっている可能性も示されました。
つまり、サンマにとっても、海の中に十分な餌があるかどうかは成長や体の状態に関わる重要な要素です。
人間とは消化の仕組みが大きく異なりますが、サンマは胃を持たなくても、腸を中心とした消化管を使って食べ物を消化し、必要な栄養を吸収できます。
身近な魚であるサンマにも、人間とはまったく異なる体の仕組みが備わっているのです。
サンマの内臓を食べるならしっかり加熱する
サンマは内臓まで食べることがありますが、内臓を生で食べても安全という意味ではありません。
特に注意したいのが、寄生虫のアニサキスです。
『農林水産省』によると、サンマはアニサキスが寄生することのある魚のひとつです。ほかにも、サバ、アジ、カツオなど、さまざまな海産魚介類から見つかることがあります。
アニサキスは、魚の内臓の表面や腹の中などに寄生しています。また、魚が死んでから時間がたつと、内臓から筋肉へ移動する場合もあります。
そのため、『農林水産省』では魚の内臓を生で食べないよう案内しています。
アニサキスは十分に加熱すると死滅します。『農林水産省』が示している加熱の目安のひとつは、中心温度60℃で1分以上です。
サンマの内臓まで食べたい場合は、塩焼きなどにして中心まで十分に火を通すことが大切です。
サンマは、胃を持たずに腸を中心として食べ物を消化する魚です。普段何気なく食べている塩焼きの内臓にも、こうしたサンマ独特の体の仕組みが関係しています。
まとめ
- サンマには胃がなく、「無胃魚」と呼ばれる魚のひとつ
- サンマは胃の代わりに、腸を中心とした消化管で食べ物を消化・吸収する
- サンマは動物プランクトンを食べ、食べた餌が消化管に長く残りにくい
- 胃がないことは、サンマの内臓を食べやすいとされる理由のひとつ
- サンマの内臓の苦味には、胆のうや胆汁などが関係している
- サンマの内臓を食べる場合は、アニサキス対策として十分に加熱することが重要
秋になると当たり前のように食卓へ並ぶサンマですが、その体には意外な仕組みが備わっています。
普段よく知っているつもりの魚でも、少し掘り下げてみると新しい発見があるものです。

