普段はあまり意識することがありませんが、私たちは一日のほとんどを鼻で呼吸しながら過ごしています。あまりにも身近な存在だからこそ、改めて考える機会は少ないかもしれません。
第144回雑学調査レポートでは、そんな「鼻」に関する雑学をご紹介していきます。
左右の鼻は、いつも同じように空気が通っているわけではない
片方の鼻を指で押さえて呼吸してみると、「右はよく通るのに、左は少し通りにくい」と感じることがあります。
風邪をひいているわけでもないのに左右で違いがあると、「鼻が詰まっているのでは」と心配になるかもしれません。しかし、健康な人でも左右の鼻で空気の通りやすさが違うことは珍しくありません。
このように、左右の鼻の通りやすさが時間とともに変化する現象を「鼻周期」と呼びます。
鼻周期が起きているときは、一方の鼻がやや通りにくくなり、もう一方が比較的通りやすくなります。時間がたつと、その状態が入れ替わることがあります。
つまり、左右の鼻は常にまったく同じ状態で働いているわけではありません。片方の空気の通り道が少し狭くなる一方で、反対側は広くなるという変化を繰り返しています。
ただし、片方の鼻が完全に閉じてしまうわけではありません。健康な人の鼻周期では、基本的には両方の鼻で呼吸できます。
鼻の通りやすさが変わるのは「鼻甲介」が膨らんだり縮んだりするため
鼻周期の仕組みを理解するうえで重要なのが、鼻の中にある「鼻甲介(びこうかい)」です。
鼻甲介は、鼻の内側に張り出しているひだのような構造です。鼻から入った空気は、この鼻甲介の周囲を通って奥へ進みます。
鼻甲介の表面は粘膜で覆われており、その中には多くの血管があります。
この血管に多くの血液が集まると、粘膜が膨らみます。すると鼻の中の空気が通るスペースが狭くなり、少し鼻が通りにくくなります。
反対に、粘膜の血液量が減ると膨らみが小さくなり、空気が通りやすくなります。
鼻周期では、このような粘膜の膨らみ方が左右で変化します。

たとえば、右側の粘膜が少し膨らんで右の鼻が通りにくくなっているとき、左側は比較的通りやすくなります。その後、時間がたつと右側の膨らみが小さくなり、今度は左側が膨らむことがあります。
こうした変化には、自律神経が関わっています。
自律神経は、心拍や血管、消化など、自分で意識しなくても動いている体の機能を調節している神経です。鼻の粘膜にある血管も自律神経の影響を受けているため、私たちが意識しなくても鼻の通りやすさは変化します。
「右の鼻を広げよう」と考えて切り替えているわけではなく、体の中で自動的に起きている現象です。
左右が入れ替わる時間に決まったルールはない
「鼻周期」という名前から、一定時間ごとにきれいに左右が交代する様子を想像するかもしれません。
しかし実際には、「必ず3時間ごとに左右が入れ替わる」といった決まったタイマーがあるわけではありません。
鼻周期の長さには大きな個人差があります。同じ人でも、体調や時間帯などによって変わることがあります。
1977年に健康な50人を対象として行われた研究では、約7時間にわたって左右の鼻の空気抵抗が測定されました。
この研究では、研究上の基準を満たす明確な鼻周期が72%の人で確認されています。
完全な周期が確認できたケースでは、1周期の平均は約2.6時間でした。ただし、実際の長さにはかなり幅がありました。
そのため、「鼻は約2時間半ごとに必ず左右交代する」と考えるのは正確ではありません。人によって周期は異なり、規則的に切り替わらない場合もあります。
寝ている間は鼻周期が長くなることもある
鼻周期は、起きているときだけに見られる現象ではありません。睡眠中にも起こります。
2013年には、健康な20人を24時間測定し、睡眠と鼻周期の関係を調べた研究が発表されています。
この研究で検出された鼻周期の平均時間は約234分、中央値は約164分でした。
平均値と中央値に大きな差があることからも、周期の長さが人によってかなり異なっていたことが分かります。
さらに、この研究では睡眠中の鼻周期は、起きている時間帯よりも長くなる傾向が確認されました。
鼻周期は単純な時計のように動いているのではなく、睡眠や体の状態などによって変化する仕組みだと考えられます。
片方の鼻が狭くなっても、普段はあまり気づかない
ここまで読むと、「片方の鼻が数時間ごとに通りにくくなるなら、なぜ普段は気づかないのだろう」と疑問に思うかもしれません。
その理由の一つは、一方が通りにくくなると、もう一方が比較的通りやすくなるためです。
1977年の研究では、左右それぞれの鼻を見ると空気抵抗が時間とともに変化していました。しかし、左右を合わせた鼻全体の抵抗は比較的安定していました。
1986年に鼻周期と姿勢の関係を調べた研究でも、健康な人では左右それぞれの抵抗が変化していても、両側を合わせた抵抗には大きな変化が起こりにくいことが報告されています。
簡単にいえば、「右が少し狭くなった分、左が通りやすくなる」といった形でバランスが取られていることがあります。
そのため、両方の鼻で普通に呼吸していると違いを感じにくくなります。
一方、片方ずつ指でふさいで呼吸すると、左右差が分かりやすくなります。
横向きに寝ると、下側の鼻が通りにくく感じやすい
鼻の通りやすさを変化させるのは、鼻周期だけではありません。姿勢も影響します。
横向きに寝たとき、「下になっている側の鼻が詰まってきた」と感じた経験がある人もいるでしょう。
横向きになると、体位の変化によって鼻の粘膜の血液量が変わり、下側になった鼻の粘膜が膨らみやすくなることがあります。
2024年に発表された研究では、アレルギー性鼻炎がある30人と、健康な30人を対象に、姿勢によって鼻の状態がどのように変化するのかが調べられました。
参加者は、座った姿勢、あおむけ、右向き、左向きの状態で測定を受けています。
その結果、健康な人でも横向きになったときには、下側に位置する下鼻甲介がより膨らむ傾向が確認されました。
また、座っている状態と比べると、横になった状態では鼻腔の狭い部分の断面積が小さくなり、空気が通りにくくなる変化も確認されています。
そのため、右側を下にして寝れば右の鼻が、左側を下にすれば左の鼻が、通りにくく感じる場合があります。
寝返りを打ったあと、「さっきは右が詰まっていたのに、今度は左が詰まってきた」と感じることがあります。この変化には、もともとの鼻周期だけでなく、寝る向きによる影響も加わっている可能性があります。
鼻周期は「片方の鼻を休ませるため」とは限らない
鼻周期について調べると、「鼻を交代で休ませるための仕組み」と説明されていることがあります。
確かにイメージしやすい説明ですが、鼻周期が存在する目的は完全には解明されていません。
そのため、「片方の鼻を休ませるために鼻周期がある」と言い切るより、「鼻のさまざまな機能を調節することに関係している可能性がある」と理解したほうが正確です。
鼻には、空気を肺まで通す以外にも多くの役割があります。
鼻から入った空気を体温に近づけるように温めたり、湿り気を与えたりする働きがあります。また、鼻の粘液などは外から入ってきた粒子を捕らえ、呼吸器を守ることにも関係しています。
さらに、鼻の上部にはにおいを感じるための仕組みがあります。
『NCBI Bookshelf』でも、鼻には呼吸、吸い込んだ空気の調整、外から入る粒子などへの防御、嗅覚といった複数の機能があると説明されています。
鼻周期については、左右の鼻腔で空気の流れを変化させることによって、空気の加温や加湿に関係している可能性が研究されています。
また、鼻の粘膜から分泌される液体などを通じて、呼吸器を守る仕組みに関係しているという説もあります。
ただし、鼻周期の役割については現在も研究が続いています。
「片方の鼻を完全に休ませ、もう片方だけで呼吸している」というより、「左右の鼻腔の状態を変化させながら、鼻全体の働きを調整している」と考えると分かりやすいでしょう。
鼻周期と風邪の鼻詰まりは同じものではない
鼻周期による左右差は、健康な人にも起こる自然な変化です。
一方、風邪やアレルギーなどでも鼻は詰まります。
風邪やアレルギー性鼻炎などで鼻の粘膜に炎症が起きると、粘膜が普段よりも強く腫れやすくなります。
もともと鼻周期によって少し狭くなっている側に炎症による腫れが加われば、普段より強く「片方だけ詰まっている」と感じることもあります。
そのため、風邪をひいたときや花粉症の時期には、普段は気にならない左右差を強く感じる場合があります。
いつも同じ側だけ詰まる場合は別の原因も考えられる
鼻周期では、時間がたつにつれて通りやすい側が変わることがあります。
一方、「いつ確認しても右側だけが詰まっている」といった状態では、鼻周期以外の原因が関係していることがあります。
たとえば、鼻の左右を分けている「鼻中隔(びちゅうかく)」が曲がっていると、一方の空気の通り道がもともと狭くなっている場合があります。
『Cleveland Clinic』でも、一時的に片側が詰まる原因の一つとして通常の鼻周期を紹介する一方、片側だけの鼻詰まりが続く場合には、鼻中隔弯曲(びちゅうかくわんきょく)などの構造的な原因が関係している可能性があると説明しています。

ほかにも、アレルギーや感染症などによる炎症、鼻茸などが鼻詰まりに関係する場合があります。
「しばらくすると通りやすい側が変わる」という程度であれば、鼻周期で見られる特徴と一致します。
一方、片側だけの強い鼻詰まりが長く続く場合や、呼吸しにくい状態が続く場合には、鼻周期以外の原因も考えられます。
繰り返す鼻血、顔の痛みや圧迫感、強い鼻水、嗅覚の低下などを伴う場合も、耳鼻咽喉科などの医療機関へ相談する判断材料になります。
自分の鼻周期は片方ずつ呼吸すると分かりやすい
鼻周期は、特別な機械がなくてもある程度は体感できます。
風邪や強いアレルギー症状がないときに、まず片方の鼻孔を指で軽く押さえ、もう片方の鼻から静かに息を吸ってみます。
次に左右を入れ替えます。
左右を比べると、「右のほうが吸いやすい」「左のほうが少し狭く感じる」といった違いが分かることがあります。
このとき、通りにくい側があるからといって、それだけで異常とは限りません。自然な鼻周期によって左右差が生じている可能性があります。
数時間後に同じ方法で試すと、先ほどとは反対側のほうが通りやすくなっていることもあります。
ただし、鼻周期の長さや変化の大きさには個人差があります。すべての人で明確に左右が入れ替わるわけではなく、毎回同じ時間で変化するものでもありません。
姿勢や睡眠、体調などの影響も受けるため、「何時間たてば必ず反対側になる」と確認するものではなく、「健康な鼻でも左右の通りやすさは自然に変化している」と体感する方法として試すのがよいでしょう。
まとめ
- 健康な人でも、左右の鼻の通りやすさは時間とともに変化する
- 左右の鼻の通りやすさが変化する現象を「鼻周期」と呼ぶ
- 鼻周期は、鼻の粘膜にある血管の状態が左右で変化することで起こる
- 鼻周期の変化には自律神経が関係している
- 鼻周期の長さには個人差があり、一定時間ごとに必ず左右が切り替わるわけではない
- 一方の鼻が通りにくくなっても、反対側が通りやすくなるため、普段は左右差に気づきにくい
- 横向きに寝ると、下になった側の鼻が通りにくく感じることがある
- 鼻周期の詳しい役割は完全には解明されていない
- いつも同じ側だけ強く詰まる場合は、鼻周期以外の原因が関係している可能性がある
普段は何気なく使っている鼻ですが、その中では私たちが意識しないまま、さまざまな変化が起きています。
ふと左右の通りやすさが違うと感じたときには、鼻が持つこうした仕組みを思い出してみると面白いかもしれません。

参考文献
- NCBI Bookshelf「Physiology, Nasal」
- PubMed「The nasal cycle in respiratory defence」
- PubMed「Nasal physiology: neurochemical receptors, nasal cycle, and ciliary action」
- PubMed「Posture and the nasal cycle」
- PubMed「The human nasal cycle」
- PubMed「Phase of nasal cycle during sleep tends to be associated with sleep stage」
- PubMed「Nasal Patency Across Seated, Supine, and Recumbent Postures in Individuals With and Without Allergic Rhinitis」
- Cleveland Clinic「Why Your Nose Is Blocked on One Side」

