信号や標識など、大切な情報を伝える場面でよく使われている赤色。私たちにとっては「目立つ色」という印象が強いですが、実は環境が変わると、その見え方も大きく変化します。
第130回雑学調査レポートでは、そんな「赤」に関する雑学をご紹介していきます。
海に潜ると赤い色から見えにくくなっていく
地上では鮮やかに見える赤い服や赤い魚も、海の中へ持っていくと見え方が変わります。水深が深くなるにつれて鮮やかな赤色が失われ、暗い赤や茶色のように見えたり、さらに深い場所では黒っぽく見えたりします。
これは、赤い物そのものが変色しているからではありません。原因は、物体を照らしている「光」にあります。
太陽の光には、赤、オレンジ、黄、緑、青など、さまざまな色に対応する光が含まれています。しかし、水中ではすべての色の光が同じように進めるわけではありません。
『NOAA Ocean Exploration』によると、赤い光は海水に入ると比較的早く弱くなり、青い光はより深い場所まで届きます。水深が増すほど、周囲から赤い光が少なくなっていくのです。
そのため、「海の中では赤が消える」という表現は、厳密には「赤い物から色がなくなる」という意味ではありません。「赤く見えるために必要な赤い光が届かなくなる」と考えると分かりやすいでしょう。
そもそも物の「色」はどうやって見えている?
水中で色が変わって見える仕組みを理解するには、まず私たちがどのように色を見ているのかを知る必要があります。
たとえば、太陽の下に赤いリンゴがあるとします。
太陽から届いた光がリンゴに当たると、その一部はリンゴに吸収され、一部は反射します。赤いリンゴは赤色に対応する光を比較的強く反射するため、その光が目に届き、私たちは「赤い」と感じます。
つまり、物体の色を見るには「物体そのものの性質」だけでなく、「その物体にどのような光が当たっているか」も重要です。
極端な例として、赤い光がまったく含まれていない場所に赤い物を置いた場合、その物体は地上の太陽光の下と同じ鮮やかな赤には見えません。

海の中でも、これと似たことが起きています。
人間の目で見ることのできる光は「可視光」と呼ばれます。『NASA Science』によると、人間が一般的に見ることのできる可視光の波長は、およそ380~700ナノメートルです。紫色は約380ナノメートルの短い側、赤色は約700ナノメートルの長い側にあります。
水は、この可視光をすべて同じ程度に通すわけではありません。
『U.S. Geological Survey』は、水の分子が可視光の赤い側を吸収することを説明しています。光が水の中を長い距離進むほど、この吸収が積み重なり、赤い成分が減っていきます。
一方、青色付近の光は比較的水中を進みやすいため、赤色光より深い場所まで残ります。
この「色によって水への吸収されやすさが違う」という性質が、水中で赤色から見えにくくなる大きな理由です。
赤、オレンジ、黄色の順に暖色が失われていく
海に太陽光が入った直後は、まださまざまな色の光が含まれています。しかし、光が水中を進むにつれて、そのバランスが変化します。
特に赤い光は早い段階から弱くなります。さらに深くなるとオレンジや黄色なども減少し、青や青緑系の光が相対的に多く残るようになります。
そのため、水中では次第に暖色が少なくなり、景色全体が青や緑に寄って見えるようになるのです。『NOAA Ocean Exploration』も、赤い光は水深とともに急速に減少し、青い光が最も深くまで届きやすいと説明しています。
ただし、「波長が短い光ほど必ず深くまで届く」と覚えるのは正確ではありません。
水が光を吸収する程度は波長ごとに異なり、実際の海では水そのものだけでなく、プランクトン、砂や泥などの粒子、溶け込んでいる物質なども光の吸収や散乱に影響します。
そのため、実際にどの色がどこまで届くかは海によって変わります。
透明度の高い外洋では青い光が目立ちやすい一方、植物プランクトンや粒子が多い海域では緑っぽく見えることもあります。『NOAA Ocean Service』も、海の色は水による赤色光の吸収だけではなく、海中の粒子などによって変化すると説明しています。
「水深10メートルで赤が消える」とは限らない
水中の色について、「赤は水深数メートルで消える」「水深10メートルでは赤が見えなくなる」と説明されることがあります。
しかし、実際には「水深○メートルで赤が突然ゼロになる」というはっきりした境界線があるわけではありません。
赤色光は、水面を通過した瞬間に完全になくなるわけではなく、水中を進むにつれて少しずつ弱くなっていきます。そのため、水深が増すほど赤い色の鮮やかさも段階的に失われます。
さらに、光が届く深さは海の状態によって異なります。
透明度の高い海と、プランクトンや細かな粒子の多い濁った海では、同じ水深でも光の届き方が違います。太陽が真上にある昼と朝夕でも条件は変化し、曇りの日と晴れの日でも水中へ入る光の量は同じではありません。
『NOAA Ocean Exploration』が示している光の到達深度についても、実際の深さは水の透明度や時間帯などの環境条件によって変わるとされています。
そのため、水深10メートルを「赤が消える境界」と考えるより、「赤色光は浅い場所から急速に弱くなっていく」と理解するほうが適切です。
実際にダイビングをすると、比較的浅い場所でも赤やオレンジの鮮やかさが地上とは違って感じられることがあります。そして深く潜るほど暖色はさらに失われ、水中の景色は青や緑が目立つようになります。
赤い魚が深い海では黒っぽく見える理由
では、赤色光が少なくなると、赤い魚はどのように見えるのでしょうか。
ここでも重要なのは、「赤い魚は、赤い光を反射することで赤く見えている」という点です。
海面近くには赤色光があるため、その光が魚に当たり、魚から反射した赤色光が目まで届きます。そのため、魚は赤く見えます。
ところが、魚が深い場所へ移動すると、周囲にある赤色光そのものが少なくなります。
たとえるなら、赤い絵の具で塗られた物体を、赤い光がほとんどない暗い部屋へ持っていくようなものです。
物体には赤い光を反射する性質が残っています。しかし、そもそも反射するための赤い光が十分に当たりません。
その結果、目に届く赤色光も減り、鮮やかな赤ではなく暗い赤や茶色、場合によっては黒に近い色として見えるようになります。
『NOAA Ocean Exploration』では、海面では赤く見える魚も、水深が増すほど赤色光を反射できなくなり、深い場所では黒っぽく見えると説明しています。同資料では水深100メートルを例に、赤い魚が非常に見つけにくくなることも紹介されています。
つまり、私たちが見ている「色」は物体だけで決まっているわけではありません。
「どんな光が物体に当たっているのか」と「その物体がどの光を反射するのか」が組み合わさって、初めて色として見えているのです。
深海に赤い生き物がいるのはカモフラージュにもなる
地上では目立ちやすい赤色ですが、深い海では反対に「見つかりにくい色」として働く場合があります。
深い海では赤色光がほとんどありません。そのため、赤い体を持っている生き物でも、周囲から赤い光を反射できず、暗い色に見えます。
『NOAA Ocean Exploration』によると、中深層や深海には赤色や黒色の動物が多く、赤い動物も深い場所では黒っぽく見えます。これは捕食者や獲物から姿を見つけられにくくするカモフラージュとして役立つと考えられています。
人間にとっては非常に派手に感じられる真っ赤なエビなども、暗い深海では同じように見えるとは限りません。
たとえば、『NOAA Ocean Exploration』は水深1,795メートルで撮影された鮮やかな赤色のエビを紹介しています。探査機の照明を当てた映像では赤く見えますが、自然の深海環境には赤色光がほとんど届かないため、そのままでは黒っぽく見えます。
一方、青い光は赤い光より深くまで届きます。
そのため、水中を漂う生き物の全身が青色で、その青い光を強く反射すると、かえって周囲から見つかりやすくなる場合があります。『NOAA Ocean Exploration』は、中深層に青い動物がそれほど多くない理由の一つとして、この点を挙げています。
地上では「目立つ色」である赤が、深い海では「隠れやすい色」になるという、まったく反対の働きをするわけです。
水中写真が青っぽくなるのも同じ仕組み
海で撮影された写真や動画を見ると、画面全体が青や緑に偏っていることがあります。
これも、水中で赤色光が失われていくことと関係しています。
太陽から出た光は、水面を通って海中の被写体まで進みます。この途中で赤やオレンジなどの光が減少します。
さらに、写真を撮る場合にはもう一つ重要な距離があります。
光は被写体へ届けば終わりではありません。
被写体で反射した光が、今度はカメラのレンズまで移動する必要があります。つまり、水中写真では「太陽から被写体まで」と「被写体からカメラまで」の両方で光が水中を進みます。
そのため、カメラと被写体が離れているほど、その間でも赤色光が弱くなります。

たとえば、近くにある赤いサンゴを撮影する場合と、数メートル離れた場所から同じサンゴを撮影する場合では、後者のほうが暖色を記録しにくくなります。
『NOAA Ocean Service』によると、海が青く見えやすいのも、水が光の赤い部分を吸収し、青い部分が比較的残ることと関係しています。
水中写真や動画が青っぽくなる現象と、赤い魚が暗く見える現象は、別々の不思議な現象ではありません。どちらも「水の中を進む間に、光の色ごとに減り方が違う」という同じ性質から生じています。
水中ライトを当てると赤色が突然よみがえる
深い場所で黒っぽく見えていた魚やエビに水中ライトを当てると、突然鮮やかな赤色が現れることがあります。
一見すると、ライトによって元の色に戻ったように感じます。
しかし、実際には生き物そのものが変化したわけではありません。
ライトによって、それまで不足していた赤色光が新たに供給されたためです。
太陽光の場合、水面から深い場所にいる生き物まで長い距離を進むため、その途中で赤色光の多くが吸収されます。
一方、水中ライトを生き物の近くまで持っていけば、ライトから生き物まで光が進む距離は短くなります。
ライトの光に赤色の波長が含まれていれば、その赤色光があまり失われていない状態で生き物へ届きます。そして赤い体がその光を反射するため、カメラや人間の目にも鮮やかな赤として見えるのです。
『NOAA Ocean Exploration』も、深海探査用の機器から人工照明を当てることで、自然の深海環境では分かりにくかった鮮やかな赤色などが見えるようになると説明しています。
このため、深海探査で撮影された生き物の写真を見るときには少し注意が必要です。
写真に写っている真っ赤な深海生物が、暗い深海でも周囲の生き物から同じ真っ赤な姿に見えているとは限りません。探査機の強い照明によって、普段の環境ではほとんど存在しない赤色光が当てられているからです。
水中ライトと写真の「色補正」は仕組みが違う
水中写真では、撮影後に画像の色を補正して赤みを戻すこともあります。
ただし、水中ライトと画像の色補正は同じものではありません。
水中ライトやストロボは、撮影する瞬間に赤色を含む光を実際に被写体へ当てます。そのため、被写体から反射した赤色光をカメラで記録できます。
一方、撮影後の色補正は、すでにカメラが記録した画像の色バランスを調整する処理です。
元の画像に赤色に関する情報が十分残っていれば、補正によって自然な暖色を表現しやすくなります。しかし、深い場所や遠くの被写体のように、赤色光が大幅に失われた状態で撮影されている場合、後から調整するだけでは本来の色を完全に記録し直すことはできません。
そのため、水中写真では「どれほど深い場所にいるか」だけでなく、「光源と被写体がどれほど離れているか」「被写体とカメラがどれほど離れているか」も色の再現に大きく関係します。
お風呂では赤い物が普通に赤く見えるのはなぜ?
ここまで読むと、「水が赤い光を吸収するなら、お風呂やコップの水でも赤い物が黒く見えるのでは」と疑問に感じるかもしれません。
しかし、普段そのようには見えません。
大きな理由は、水の中を光が進む「距離」が短いからです。
水による光の吸収は、ある深さになった瞬間に突然発生する現象ではありません。光が水の中を進む間、少しずつ影響を受けます。
コップに入った水では、光が通る水の距離は数センチ程度しかありません。浴槽でも海に比べれば短い距離です。そのため、赤色光が吸収される量も小さく、人間の目にはほとんど変化が分かりません。
『U.S. Geological Survey』によると、純粋な水そのものにもわずかな青みがあります。ただし、コップのような少量の水ではほぼ無色に見え、長い水の層を通して見ることで青みが分かりやすくなります。
この性質はプールでも確認できます。
同資料では、屋内プールを上から見ると青く見える例が紹介されています。プールの底から反射した光が水の中を十分な距離進んで戻ってくる間に、赤い成分の一部が吸収されるためです。同じ水を小さな容器に入れると、ほぼ無色に見えます。
つまり、海だけが特別に赤色を消しているわけではありません。
コップ、お風呂、プール、海のどれでも、水には赤色側の光を吸収する性質があります。ただし、海では光が数メートル、数十メートル、さらに長い距離を水中で進むため、その小さな吸収が積み重なり、肉眼でもはっきり分かるほど大きな違いになるのです。
まとめ
- 海の中では赤い物そのものが変色するのではなく、赤く見せるための赤色光が減ることで見え方が変わる
- 水は光の色によって吸収の程度が異なり、赤色光は比較的浅い場所から弱くなり、青色光はより深くまで届く
- 赤い物体は赤色光を反射して赤く見えるため、周囲の赤色光が少なくなると暗い赤や茶色、黒に近い色に見える
- 赤色光が見えなくなる水深に明確な境界はなく、水の透明度や粒子、天候、太陽の位置などによって変化する
- 深海では赤い体が黒っぽく見えるため、赤色が生き物のカモフラージュとして役立つことがある
- 水中写真が青や緑に偏りやすいのも、光が水中を進む間に赤やオレンジなどの暖色が減るため
- 水中ライトを被写体の近くから当てると、不足していた赤色光が供給され、本来に近い鮮やかな赤色が見えるようになる
- お風呂やコップの水では光が水中を進む距離が短いため、海ほど赤色光の吸収が目立たない
普段は「目立つ色」として使われている赤ですが、海の中ではその常識が大きく変わります。
環境によって同じ色でもまったく違って見えると知ると、普段何気なく見ている景色も少し違って感じられるかもしれません。
参考文献
- NASA Science「Visible Light」
- NOAA Ocean Exploration「Why are so many deep-sea animals red in color?」
- NOAA Ocean Exploration「How does depth affect the color of marine animals?」
- NOAA Ocean Exploration「Wild and Bizarre Marine Life」
- NOAA Ocean Service「Why is the ocean blue?」
- U.S. Geological Survey「Water Color」

