ひまわりを見かけたとき、花の色や大きさに目が向く人は多いでしょう。しかし、少し違った部分に注目してみると、いつものひまわりがこれまでとは違って見えてくるかもしれません。
第107回雑学調査レポートでは、そんな「ひまわり」に関する雑学をご紹介していきます。
太陽を追うのは若いひまわり
ひまわりと聞くと、「太陽の方向をずっと向いている花」というイメージを持つ人も多いでしょう。
実際に、成長途中の若いひまわりは太陽の動きに合わせるように向きを変えます。朝は東を向き、太陽が空を移動すると少しずつ西へ向かいます。そして夜になると東へ戻り、翌朝には再び日の出の方向を向きます。
太陽を追うようなこの動きは「ヘリオトロピズム」と呼ばれています。
ただし、ひまわりが一生この動きを続けるわけではありません。花が開いて成長が進むと、東から西へ動く性質はほとんどなくなります。
成熟したひまわりは、多くの場合、東を向いたままになります。
つまり、「ひまわりはいつでも太陽を追いかけている」というイメージは少し違います。太陽を追うのは主に若い時期なのです。
花が首を振っているわけではない
太陽を追うひまわりを見ると、花が人間の顔のように左右へ動いているように見えます。
しかし、実際には花の部分を自由に回しているわけではありません。ポイントになるのは、茎の成長です。
2016年に『Science』で発表された研究では、若いひまわりが日中に西を向いていくとき、茎の東側が反対側より速く成長することが示されています。
茎の東側がより伸びると、茎全体が西側へ曲がります。その結果、先端にある花芽も西へ向いていきます。
夜になると、今度は反対側である西側の成長が速くなります。すると茎が東側へ曲がり、朝までに再び日の出の方向を向く仕組みです。
つまり、ひまわりは「花を回している」のではなく、茎の左右で伸びる速さを変えることで向きを調整しています。

ひまわりには「体内時計」がある
若いひまわりが太陽を追える理由は、光が当たる方向だけではありません。
ひまわりにも、人間の生活リズムに似た「体内時計」があります。生物が持つおよそ24時間のリズムは「概日リズム」と呼ばれます。
2016年の研究では、一定方向から光を当てる環境にひまわりを移しても、しばらくは東から西、西から東へという動きが続きました。
さらに、人工照明を使って昼と夜の長さを通常とは違う周期にすると、ひまわりの動きと光のタイミングがずれていくことも確認されています。
こうした実験から、ひまわりは単純に「明るい方向へ向いている」だけではなく、自分の中にある体内時計と周囲の明るさの変化を組み合わせて動いていると考えられています。
だからこそ、太陽が沈んだあとでも東へ戻り始め、翌朝の日の出に備えられるのです。
大人のひまわりは東を向いたままになる
ひまわりが成長して花を咲かせるころになると、茎の伸びはかなり小さくなります。
若いころの太陽追跡は茎の成長を利用した動きなので、成長が落ち着くにつれて東西への動きもほとんど見られなくなります。
そして成熟したひまわりは、一般的に東を向いた状態で止まります。
ここで気になるのが、「なぜ東なのか」という点です。
西でも南でもなく東を向くことには、ひまわりにとって大きなメリットがあります。
東を向いていれば、朝日が昇った直後から花に光が当たりやすくなります。そのため、朝の時間帯に花の温度が早く上がります。
この「朝早く温まること」が、ひまわりの繁殖に役立っているのです。
東向きだとハチが集まりやすい
ひまわりの繁殖には、ハチなどの送粉昆虫が重要な役割を果たします。
送粉昆虫は花から花へ移動しながら花粉を運び、受粉を助けます。そのため、昆虫にたくさん訪れてもらえる花ほど、繁殖のチャンスが増える可能性があります。
2016年の研究では、自然に東を向いている成熟したひまわりと、人為的に西へ向けたひまわりを比較しました。
すると、東向きの花は朝日によって早く温まり、西向きの花より送粉昆虫が多く訪れました。
『UC Davis』による研究紹介では、実験中の朝の時間帯に、東向きの花には西向きの花のおよそ5倍の送粉昆虫が訪れたと説明されています。
さらに研究者は、西向きにした花をヒーターで温める実験も行いました。
すると、温めていない西向きの花よりも昆虫の訪問が増えました。
この結果から、単に「東を向いているから昆虫が来る」というだけではなく、朝日によって花が早く温まることも重要だと考えられています。
朝に温かい花は昆虫にとって見つけやすい
朝早い時間は、夏でも気温がまだ十分に上がっていないことがあります。
東向きのひまわりは日の出直後から光を受けるため、西向きの花よりも早く温まります。
花が温かくなることで、ハチなどの昆虫が活動しやすい環境になります。また、花の温度だけではなく、花から出る香りなどにも変化が起きる可能性が研究では示唆されています。
ひまわりにとっては、送粉昆虫が活動を始める朝の時間帯に合わせて花を温められることが重要です。
太陽を追いかけるのをやめて東を向いたままになることは、成長が止まった結果だけではなく、花を咲かせたあとの繁殖にも役立つ向きだと考えられます。
2021年の研究でも東向きのメリットが調べられた
ひまわりが東を向くメリットについては、その後も研究が続けられています。
2021年に『New Phytologist』で発表された研究では、自然な東向きの花と、人為的に西へ向けた花を比較しました。
研究者が調べたのは、花の温度や送粉昆虫が訪れる時間、花粉が出るタイミング、そしてできた種子などです。
その結果、東向きの花は朝の時間帯に西向きの花より温まりやすいことが確認されました。
さらに、花粉を放出するタイミングにも違いが見られています。東向きの花では、朝の比較的早い時間帯から花粉が出始める傾向がありました。
送粉昆虫が活発に訪れる時間と、花粉を出す時間がうまく重なれば、花粉を別の花へ運んでもらいやすくなります。
東向きには、単に花を温めるだけではなく、「昆虫が来る時間」と「花粉を出す時間」を合わせやすくする役割もあると考えられます。

東向きは種子にも関係していた
2021年の研究では、花の向きと種子の関係についても調べられています。
東向きの花と西向きに変更された花を比較したところ、できた種子の大きさや重さなどに違いが見られました。
さらに研究者は、どの花粉によって受精したのかを遺伝情報から調べる実験も行っています。
その結果、東向きの花は、人為的に西へ向けられた花よりも、花粉を通じて次の世代を残す面で有利になる傾向が確認されました。
朝早く温まること、昆虫が訪れる時間、花粉を放出する時間など、いくつもの条件が組み合わさることで繁殖上の違いにつながっていると考えられます。
ひまわりが成長すると東を向いたままになるのは、植物にとって都合のよい仕組みでもあるのです。
ひまわり畑の全部の花が東を向くわけではない
「成熟したひまわりは東を向く」と聞くと、ひまわり畑の花がすべて同じ方向を向いているように思えるかもしれません。
実際には、すべての花が完全に同じ方角を向くとは限りません。
品種や育った環境、日当たり、茎の状態などによって向きには差が生まれます。風や雨で茎が傾くこともあります。
それでも、よく成長したひまわりが並んでいる場所では、多くの花が似た方向を向いている様子を見られることがあります。
ひまわり畑を訪れたときは、花の大きさや色だけでなく「どちらを向いているのか」に注目してみると、ひまわりの成長と太陽の関係をより身近に観察できます。
まとめ
- ひまわりが太陽を追うように動くのは主に成長途中の若い時期
- 若いひまわりは茎の左右で成長速度を変えることで花芽の向きを動かしている
- ひまわりの動きには光だけでなく約24時間周期の体内時計も関係している
- 成熟したひまわりは太陽を追わなくなり、一般的に東を向いた状態で止まる
- 東向きの花は朝日で早く温まり、ハチなどの送粉昆虫が訪れやすくなる
- 東向きであることは花粉を出すタイミングや種子など、ひまわりの繁殖にも関係している
- 実際のひまわり畑では品種や環境などによって花の向きにばらつきがある
花の色や大きさだけを見ていると気づきにくいものの、ひまわりの「向き」には意外に奥深い仕組みがあります。
次にひまわりを見かけたときは、普段とは少し違った部分に目を向けて、その不思議な特徴を確かめてみてください。
参考文献
- UC Davis「Sunflowers Move by the Clock」
- UC Davis「Why Sunflowers Face East」
- Science「Circadian regulation of sunflower heliotropism, floral orientation, and pollinator visits」
- New Phytologist「Flower orientation influences floral temperature, pollinator visits and plant fitness」
- PubMed「Flower orientation influences floral temperature, pollinator visits and plant fitness」

