二酸化炭素と聞くと、地球温暖化や人の呼吸を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、私たちが何気なく楽しんでいる身近なものにも、二酸化炭素は深く関わっています。
第128回雑学調査レポートでは、そんな「二酸化炭素」に関する雑学をご紹介していきます。
炭酸飲料の「シュワシュワ」は泡だけで生まれているわけではない
炭酸水やコーラを飲むと、舌や口の中に「シュワシュワする」「ピリピリする」といった独特の刺激を感じます。
グラスに注いだ炭酸飲料を見ると、たくさんの泡が次々と浮かんできます。そのため、「この泡が舌にぶつかったり、舌の上ではじけたりするから刺激を感じる」と考えるかもしれません。
実際、泡による触覚も炭酸飲料を飲んだときの感覚に関係しています。ただし、炭酸特有のピリピリとした刺激は、泡だけでは説明できません。
大きく関係しているのが、飲み物の中に溶けている二酸化炭素です。口の中に入った二酸化炭素によって化学的な変化が起こり、それを味覚や痛みなどに関係する感覚系が受け取ります。
つまり、炭酸飲料の「シュワシュワ」は、「泡に触れている感覚」と「二酸化炭素による化学的な刺激」が組み合わさって生まれているのです。
炭酸飲料には圧力を利用して二酸化炭素が溶かされている
そもそも、気体である二酸化炭素が、なぜ飲み物の中にたくさん入っているのでしょうか。
炭酸飲料を製造するときには、圧力をかけることで液体の中に二酸化炭素を溶かします。二酸化炭素の圧力が高い環境ほど、水には多くの二酸化炭素を溶かすことができます。
ペットボトルや缶を開ける前は、容器の中に二酸化炭素が閉じ込められているため、高い圧力が保たれています。そのため、飲料中にも多くの二酸化炭素が溶けた状態になっています。
冷たい飲み物のほうが二酸化炭素を保持しやすいことも、炭酸飲料を考えるうえで重要です。『American Chemical Society』も、炭酸飲料の製造では冷たい水と圧力を利用して多くの二酸化炭素を溶かしていると説明しています。

水に溶けた二酸化炭素の一部は「炭酸」に変わる
飲料中に溶けた二酸化炭素は、そのまま存在しているだけではありません。一部は水と反応して「炭酸」と呼ばれる物質になります。
この反応は、次のように表せます。
CO₂ + H₂O ⇄ H₂CO₃
CO₂は二酸化炭素、H₂Oは水、H₂CO₃は炭酸です。
さらに、炭酸の一部は次のように変化します。
H₂CO₃ ⇄ H⁺ + HCO₃⁻
H⁺は水素イオン、HCO₃⁻は炭酸水素イオンです。
水素イオンが増えると、その液体は酸性側へ傾きます。そのため、二酸化炭素を溶かした水は、二酸化炭素を含まない水より酸性になります。

ただし、飲料に入っている二酸化炭素がすべて炭酸へ変化するわけではありません。実際には、多くが溶解した二酸化炭素として存在し、その一部が炭酸などに変化しています。
そして、こうした二酸化炭素と水の反応は、飲み物の中だけでなく、炭酸飲料が口に入ったあとにも重要になります。
味を感じる細胞では「炭酸脱水酵素4」が二酸化炭素の感知に関係する
二酸化炭素を口の中で感知する仕組みを調べた代表的な研究が、2009年に学術誌『Science』へ掲載されています。
この研究ではマウスを使い、舌に二酸化炭素を与えたときに味覚に関係する神経がどのように反応するのかが調べられました。
その結果、酸味の感知に関係する味細胞をなくしたマウスでは、二酸化炭素に対する味覚神経の反応も失われました。
さらに研究者は、この味細胞の表面に存在する「炭酸脱水酵素4」に注目しました。
炭酸脱水酵素は英語で「carbonic anhydrase(カルボニック・アンヒドラーゼ)」と呼ばれる酵素です。二酸化炭素と水から炭酸水素イオンや水素イオンが生じる反応を速める働きがあります。
研究では、炭酸脱水酵素4が働かないマウスでは、ほかの基本的な味への反応を保ったまま、二酸化炭素への味覚神経の反応が大幅に弱くなることが確認されました。
この結果から、少なくともマウスでは、酸味を感知する味細胞の表面にある炭酸脱水酵素4が、二酸化炭素の検出に重要な役割を持つことが分かります。研究者は、この酵素によって局所的に生じる水素イオンが、二酸化炭素を感知するための重要な信号だと考えています。
炭酸を感じる仕組みは「酸っぱい味」とまったく同じではない
炭酸脱水酵素4が存在するのは、酸味の感知に関係する味細胞です。すると、「炭酸とは結局、酸っぱい味なのではないか」と思うかもしれません。
しかし、人が炭酸飲料を口にしたときの感覚は、レモンや酢の酸味とは明らかに異なります。
2009年の研究でも、二酸化炭素の検出に酸味を感知する細胞が使われている一方、人にとって炭酸が単純に酸味として感じられるわけではないことが指摘されています。
その大きな理由の一つが、炭酸飲料を飲んだときには「味覚」だけが働いているわけではないことです。
炭酸飲料では、酸味などを感じる味覚に加えて、「ピリピリする」「ヒリヒリする」「少し痛い」といった刺激も発生します。
この刺激を理解するには、味覚とは別の感覚の仕組みを見る必要があります。
炭酸の「ピリピリ感」には痛みを伝える神経も関係する
私たちの口の中では、味だけでなく、温度や触覚、痛みなども感じています。
こうした感覚を扱う仕組みは「体性感覚系」と呼ばれます。顔や口の感覚を脳へ伝えるうえでは、「三叉神経(さんさしんけい)」と呼ばれる神経が重要な役割を持っています。
炭酸の刺激と三叉神経との関係を調べた研究が、2000年に学術誌『Chemical Senses』へ掲載されています。
この研究では、炭酸脱水酵素の働きを抑える「アセタゾラミド」という物質を人の舌の片側に使用し、そのあと舌の両側を炭酸水で刺激しました。
すると、アセタゾラミドを使用した側では、炭酸水による刺激が弱く感じられました。
つまり、二酸化炭素が口の中で化学的に変化する過程を妨げると、炭酸の刺激そのものも弱くなったことになります。
同じ研究ではラットを使った実験も行われています。舌に炭酸水を与えると三叉神経系に関連する神経活動が増えましたが、炭酸脱水酵素の働きを抑えると、その反応も弱くなりました。
これらの結果は、炭酸によるピリピリ感が、二酸化炭素から生じる化学的な刺激によって痛みなどを感知する神経が刺激されることで生まれるという考えを支持しています。
「泡をなくしても炭酸の刺激は残る」という実験が行われている
炭酸の刺激が泡だけによって生じるのであれば、泡ができないようにすれば刺激も消えるはずです。
この考えを実際に確かめた研究が、2013年に学術誌『PLOS ONE』へ掲載されました。
研究では、被験者に濃度の異なる炭酸水を与え、通常の約1気圧の環境と、約2気圧まで圧力を高めた環境で刺激の感じ方を比較しました。
圧力を高くすると、液体に溶けている二酸化炭素が気体になりにくくなります。そのため、約2気圧の環境では、舌の周囲に目に見える気泡が形成されませんでした。
研究者は、炭酸の痛みを伴うような刺激を「Bite」、泡などによる痛くない感覚を「Tickle/Bubbles」として分けて評価しています。
最終的にこの実験の分析対象となったのは12人でした。
その結果、約2気圧で気泡が形成されない状態でも、炭酸による「Bite」の強さは通常の約1気圧の場合とほとんど変わりませんでした。圧力による統計的に有意な影響も確認されていません。

これは非常に重要な結果です。
もし炭酸のピリピリ感が「泡が舌にぶつかること」で作られているのであれば、泡ができない条件では刺激が大きく弱くなると考えられます。
ところが、実際には泡が形成されなくても炭酸特有の刺激は残りました。
この実験から、少なくとも炭酸の痛みを伴うような刺激を感じるために、気泡そのものは必須ではないことが分かります。
ただし炭酸の泡にも役割があり、刺激を強める場合がある
泡がなくても炭酸を感じられるからといって、泡が何の役割も持っていないわけではありません。
同じ2013年の研究では、泡が炭酸の刺激をどのように変えるのかを調べる別の実験も行われました。
研究者は、弱い炭酸刺激のある液体に舌を入れてもらい、舌の周囲へ人工的に空気の泡を流しました。
すると、空気の泡を流したときには、炭酸による「Bite」がより強く評価されました。
重要なのは、二酸化炭素を含まない普通の水に同じような空気の泡を流しても、炭酸特有の「Bite」はほとんど生じなかったことです。
つまり、普通の空気の泡だけで炭酸のピリピリ感を作り出せるわけではありません。
一方ですでに二酸化炭素による化学的な刺激が存在している場合には、泡による触覚刺激が、その感覚を強める可能性があります。
なぜ泡によって刺激が強くなるのかについては、完全には解明されていません。研究では、泡によって舌の表面付近の液体が動かされ、二酸化炭素が口の組織へ移動しやすくなる可能性なども考察されています。
私たちが「シュワシュワ」と呼ぶ感覚には複数の感覚が混ざっている
実際に炭酸飲料を飲むときには、一種類の刺激だけが口の中に発生するわけではありません。
飲料に溶けている二酸化炭素による化学的な刺激があり、味細胞も反応します。さらに、三叉神経系を通じてピリピリとした刺激が伝わり、発生した泡が舌や口の内側に触れます。
冷たい炭酸飲料であれば、温度による感覚も同時に加わります。
脳はこうした複数の情報をほぼ同時に受け取っています。
そのため、普段私たちが何気なく「シュワシュワする」と表現している感覚には、「味」「化学的な刺激」「痛みや刺激の感覚」「泡による触覚」などが含まれていると考えられます。炭酸飲料独特の感覚は、単純な「泡の感触」よりも複雑な現象なのです。
炭酸飲料のフタを開けると「プシュッ」と音がする理由
炭酸飲料のペットボトルや缶を開けると、「プシュッ」という音がします。
密閉されている間、容器の中には二酸化炭素を含む気体があり、内部の圧力が高く保たれています。
ところがフタを開けると、容器の内部が大気とつながり、圧力が下がります。
すると、それまで高い圧力によって飲料中に多く溶けていた二酸化炭素が、液体から外へ出やすい状態になります。開封した炭酸飲料を放置しておくと、二酸化炭素が少しずつ空気中へ逃げていきます。
グラスへ炭酸水を注いだときに泡が次々と現れるのも、溶けていた二酸化炭素が気体になっているためです。
ただし、液体のどこからでも同じように突然泡が生まれるわけではありません。グラスなどの表面に存在する小さな傷や微細な気体の空間などが、泡が成長し始める「核」として働きます。
2019年に『Journal of Agricultural and Food Chemistry』へ掲載された研究でも、炭酸水では小さな気体の空間へ溶存二酸化炭素が移動することで、気泡が形成されていく仕組みが分析されています。
「炭酸が抜ける」と泡だけでなく化学的な刺激も弱くなる
開封した炭酸飲料をしばらく置いてから飲むと、開けた直後より「シュワシュワ感」が弱くなります。一般には、この状態を「炭酸が抜けた」と表現します。
ここで減っているのは、目に見える泡だけではありません。
容器を開けた状態では、飲料中に溶けていた二酸化炭素が少しずつ空気中へ移動します。時間がたつほど液体中の二酸化炭素が減っていき、最終的には炭酸飲料特有の刺激がかなり弱くなります。
口に入る二酸化炭素が少なくなれば、二酸化炭素から水素イオンなどが生じる反応も小さくなります。そのため、味覚系や三叉神経系へ与えられる化学的な刺激も弱まります。
つまり、「炭酸が抜ける」とは、単に「泡が少なくなる現象」ではありません。
飲料中に溶けている二酸化炭素そのものが減ることで、泡による触覚と二酸化炭素による化学的な刺激の両方が変化しているのです。
まとめ
- 炭酸飲料の「シュワシュワ」は、泡だけでなく二酸化炭素による化学的な刺激でも生まれている
- 水に溶けた二酸化炭素の一部は炭酸に変わり、そこから水素イオンが生じる
- マウス研究では、味細胞にある「炭酸脱水酵素4」が二酸化炭素の感知に重要な役割を持つことが示されている
- 炭酸のピリピリ感には味覚だけでなく、痛みや刺激を伝える三叉神経系も関係している
- 気泡ができない高圧環境でも炭酸特有の刺激がほぼ変わらなかったことから、泡は刺激に必須ではない
- 泡そのものでは炭酸特有の刺激は生まれないが、二酸化炭素による刺激を強める可能性がある
- 炭酸の「シュワシュワ感」は、化学刺激、味覚、三叉神経による刺激、泡の触覚などが組み合わさって生まれる
- 炭酸飲料を開封すると圧力が下がり、溶けていた二酸化炭素が液体から抜けやすくなる
- 「炭酸が抜ける」とは泡が減るだけでなく、飲料中の二酸化炭素が減って化学的な刺激も弱くなることを意味する
炭酸飲料を飲んだときに感じる刺激は、ただ泡がはじけているだけではありません。二酸化炭素の性質と人の感覚が組み合わさることで、あの独特な「炭酸らしさ」が生まれています。
何気ない日常の感覚にも、科学的に見ると興味深い仕組みが隠れているのです。
参考文献
PubMed「The taste of carbonation」
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19833970/
PubMed「Psychophysical and neurobiological evidence that the oral sensation elicited by carbonated water is of chemogenic origin」
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10866986/
PubMed「The influence of bubbles on the perception carbonation bite」
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23990956/
American Chemical Society「The Secret Science of SODA」
https://www.acs.org/education/whatischemistry/adventures-in-chemistry/secret-science-stuff/soda-pop.html
American Chemical Society「Carbon Dioxide in Bottled Carbonated Waters and Subsequent Bubble Nucleation under Standard Tasting Condition」
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jafc.9b00155

