同じ距離を走っているのに、最後まで余裕がある人もいれば、すぐに息が上がってしまう人もいます。同じような体格でも、長時間動き続けられる人と、早い段階で疲れてしまう人がいるのはなぜでしょうか。
一般的には、筋力や運動経験の差だと考えられがちです。しかし、スタミナの違いは、外見から分かる特徴だけでは説明できません。体の中では、目に見えないさまざまな仕組みが働いています。
第81回雑学調査レポートでは、そんな「スタミナ」に関する雑学をご紹介していきます。
スタミナはエネルギーの貯蔵量だけでは決まらない
「スタミナがある人」と聞くと、体内に大量のエネルギーをため込んでいる人を想像するかもしれません。
確かに、筋肉や肝臓に蓄えられるグリコーゲンや体脂肪は、長時間の運動を支える重要なエネルギー源です。しかし、持久力はエネルギー源の量だけで決まるものではありません。
重要なのは、運動中に必要なエネルギーを筋肉の中で作り続けられるかどうかです。
筋肉を動かすときには、「ATP(アデノシン三リン酸)」という分子が直接使われます。ただし、筋肉内に保存されているATPは少量であり、蓄えられた分だけでは運動を長く続けられません。
そこで体は、糖質や脂質などを材料としてATPを繰り返し作り直します。このATPの再合成において、中心的な役割を担うのが細胞内のミトコンドリアです。

スタミナがある体とは、巨大なエネルギータンクを持つ体ではありません。運動中に必要なATPを効率よく再合成し、筋肉を動かし続けられる体だと考えると分かりやすいでしょう。
ミトコンドリアが「細胞の発電所」と呼ばれる理由
ミトコンドリアは、酸素を利用して糖質や脂質などからATPを作る細胞内の構造です。
発電所が燃料から電気を作るように、ミトコンドリアは栄養素に含まれるエネルギーを、細胞が利用できるATPへ変換します。そのため、ミトコンドリアは「細胞の発電所」と呼ばれています。
ただし、ミトコンドリアが作ったATPが全身の別の場所へ送られるわけではありません。基本的には、それぞれの細胞内でATPが作られ、その細胞の活動に使われます。筋肉の場合は、筋細胞内で作られたATPが筋収縮などに利用されます。

ミトコンドリアの働きが特に重要になるのが、ウォーキング、ランニング、サイクリング、水泳など、一定時間続ける運動です。
低強度から中強度の運動では、酸素を利用してATPを作る有酸素性の仕組みが大きな役割を果たします。一方、全力疾走や重量挙げのような短時間の激しい運動では、酸素を直接利用せず、素早くATPを供給する仕組みの割合が高くなります。
もっとも、実際の運動では、どれか一つの仕組みだけが単独で働くわけではありません。有酸素性と無酸素性のエネルギー供給は同時に働いており、運動条件によってそれぞれの割合が変わります。
主な条件は次のとおりです。
- 運動の強度
- 運動を続ける時間
- 本人のトレーニング状態
- 運動前や運動中の食事
- 筋肉に蓄えられているグリコーゲン量
- 酸素を筋肉へ運ぶ能力
- 筋肉が酸素を利用する能力
筋肉量が多くても、酸素を十分に運べなかったり、筋肉内で酸素をうまく利用できなかったりすれば、長時間動き続けることは困難です。
反対に、見た目の筋肉がそれほど大きくなくても、酸素を運ぶ能力やミトコンドリアの働きが持久系運動に適応していれば、高い持久力を発揮できる可能性があります。
持久力トレーニングでミトコンドリアはどう変わるのか
持久力トレーニングをすると、「ミトコンドリアの数が増える」と説明されることがあります。
この説明は完全な間違いではありません。しかし、実際に筋肉内で起こる変化は、単純な個数の増加だけではありません。
研究では、ミトコンドリアについて、主に次のような項目が調べられています。
- 筋肉内に存在する総量
- 筋線維内に占める体積の割合
- 一つひとつの大きさ
- エネルギー代謝に関係する酵素の働き
- 関連するタンパク質の量
- 酸素を使ってATPを作る能力
- 内部構造
- 形やつながり方
ミトコンドリアは、細胞内で完全に独立した粒として固定されているわけではありません。互いに融合したり分裂したりしながら、形やつながり方を変えています。
複数のミトコンドリアが網目状につながる場合もあるため、単純に一個、二個と数えることが難しいこともあります。そのため、研究では個数だけでなく、体積や酵素活性、関連タンパク質の量などを使って適応の程度を評価します。

