毎晩のように見ることがある夢。楽しい夢もあれば、意味の分からない夢や、目覚めたあとまで妙に印象に残る夢もあります。
ほとんどの人が経験する身近な現象ですが、「そもそも夢はいつ見ているのか」「なぜ夢を覚えている日と忘れてしまう日があるのか」など、考えてみると不思議な点は少なくありません。
第132回雑学調査レポートでは、そんな「夢」に関する雑学をご紹介していきます。
夢を見るのはレム睡眠だけではない
「夢を見るのはレム睡眠のとき」と聞いたことがある人は多いでしょう。実際、レム睡眠は夢と深い関係があります。レム睡眠中に眠っている人を起こすと、直前まで見ていた夢を話せることが多いためです。
しかし、夢を見るのはレム睡眠だけではありません。レム睡眠ではない「ノンレム睡眠」の途中で人を起こした場合にも、「何かを見ていた」「誰かと話していた」「何かについて考えていた」といった体験が報告されています。
米国の『National Institute of Neurological Disorders and Stroke』も、夢の多くはレム睡眠中に起こるものの、一部はノンレム睡眠中にも起こると説明しています。
そのため、現在では「レム睡眠は夢を見る時間、ノンレム睡眠は夢を見ない時間」と単純に分けることはできません。
ただし、ここでいう「夢を見た」とは、研究参加者を睡眠中に起こして、直前に何らかの体験があったかを尋ねた結果です。研究者が夢そのものを直接観察しているわけではないため、睡眠研究では「夢の報告」を手がかりに調べています。
レム睡眠とノンレム睡眠は何が違う?
人の睡眠は、大きく「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」に分けられます。
ノンレム睡眠には、浅いほうからN1、N2、N3という3つの段階があります。
N1は、起きている状態から眠り始めるまでの浅い睡眠です。N2になると、より安定して眠った状態になります。N3は「深い睡眠」や「徐波睡眠」と呼ばれる段階で、脳波には大きくゆっくりとした波が目立つようになります。
一方、レム睡眠のレム(REM)は「Rapid Eye Movement」の略です。その名のとおり、眠っているにもかかわらず、閉じたまぶたの奥で眼球が素早く動くことがあります。脳波も、深いノンレム睡眠と比べると起きているときに近い活発な状態になります。

睡眠中は、これらの状態が一度ずつ現れるわけではありません。
『National Heart, Lung, and Blood Institute』によると、ノンレム睡眠とレム睡眠を含む睡眠サイクルは、およそ80~100分で繰り返されます。一般的には、一晩に4~6回ほどのサイクルがあります。
深いノンレム睡眠であるN3は夜の前半に多く、レム睡眠は夜の後半になるほど長くなる傾向があります。このため、朝方のレム睡眠からそのまま目覚めると、直前まで見ていた夢を覚えていることがあります。
ただし、朝に夢を覚えていることが多いからといって、「朝だけ夢を見ている」という意味ではありません。夜の途中にも夢のような体験が生じていたものの、起床するまでに忘れている可能性があります。
レム睡眠の夢とノンレム睡眠の夢は少し違う
レム睡眠とノンレム睡眠のどちらでも夢は報告されますが、平均的な内容には違いがあります。
レム睡眠から起こされた人が報告する夢は、比較的長く、鮮明で、物語のような展開を持ちやすいことが知られています。感情が強く、「いつの間にか場所が変わっていた」「現実ではあり得ない出来事が起きた」といった奇妙な内容も現れやすい傾向があります。2023年のレビュー論文でも、レム睡眠の夢はノンレム睡眠の夢より、平均すると長く、鮮明で、物語性や奇妙さが強い傾向があるとまとめられています。
たとえば、「知らない街を走っていたはずなのに、突然学校の教室にいた」「空を飛んでいたら、いつの間にか会社で仕事をしていた」といった夢です。
一方、ノンレム睡眠から起こされた場合には、映像中心の長い夢だけでなく、短い場面や考え事のような体験も報告されます。
「仕事のことを考えていた気がする」「誰かと話していた」「部屋の中にいた」といった、日常生活に近い内容になることもあります。

ただし、この違いは絶対的なものではありません。ノンレム睡眠でも鮮明で夢らしい体験は報告されます。また、研究によっては、夢の報告の長さをそろえて比較すると、レム睡眠とノンレム睡眠の違いが小さくなることも指摘されています。
つまり、夢の内容を聞いただけで「これはレム睡眠の夢」「これはノンレム睡眠の夢」と正確に判別できるわけではありません。
「今日は夢を見なかった」は、夢がなかったとは限らない
朝起きたときに「今日は夢をまったく見なかった」と感じることがあります。
しかし、この場合に考えられるのは「本当に夢のような体験がなかった」という可能性だけではありません。「夢は見ていたものの、起きたときには思い出せなくなっていた」という可能性もあります。
睡眠中の夢を研究するときには、参加者を決められたタイミングで起こし、「目覚める直前に何かを体験していましたか」と尋ねる方法がよく使われます。
この方法を使うと、「具体的な夢の内容を覚えている」という報告だけでなく、「何かを体験していたことは分かるが、内容は思い出せない」という報告も得られます。
2017年に『Nature Neuroscience』で発表された研究でも、「夢の内容を覚えている場合」「何かを体験していたが内容を思い出せない場合」「何の体験もなかった場合」を区別して調べています。
ここから分かるのは、「睡眠中に夢のような体験が起こること」と「目覚めたあとにその体験を思い出せること」は別の問題だということです。
そのため、朝起きたときに夢の記憶がまったくなくても、「一晩中、一度も夢を見なかった」とまでは判断できません。
なぜ「夢はレム睡眠で見る」と広く知られるようになった?
夢とレム睡眠が強く結びつけられるようになった背景には、レム睡眠の発見があります。
レム睡眠が科学的に報告されたのは1953年です。その後の研究で、レム睡眠中の人を起こすと、高い頻度で夢の内容が報告されることが分かりました。
このため、レム睡眠は長い間「夢を見る睡眠」と強く結びつけて考えられてきました。
しかし、研究方法が発達するにつれて、ノンレム睡眠中に起こした人からも夢の報告が得られることが明らかになります。2005年のレビュー論文でも、レム睡眠の発見後には夢がレム睡眠特有のものだと考えられていたものの、その後の研究によってノンレム睡眠中にも夢が起こることが示されたと説明されています。
つまり、レム睡眠と夢に強い関係があること自体は変わりませんが、「レム睡眠でなければ夢を見ることができない」という考え方は、現在の研究結果とは合わなくなっています。
夢を見る脳では何が起きている?
夢の研究は、「レム睡眠かノンレム睡眠か」という分類だけでなく、睡眠中の脳のどの部分がどのように活動しているのかを調べる方向にも進んでいます。
その代表的な研究の一つが、2017年に『Nature Neuroscience』で発表された研究です。
研究では、頭部に多数の電極を付けて脳波を細かく測定する「高密度脳波計」を使用しました。そして参加者をレム睡眠やノンレム睡眠の途中で起こし、直前まで夢を見ていたかを確認しました。
すると、レム睡眠とノンレム睡眠のどちらの場合でも、夢を見ていたと報告されたときには、脳の後方にある皮質の一部で低い周波数の活動が弱くなっていました。研究者らは、この領域を後方の「hot zone」と呼んでいます。
さらに、この領域の高い周波数の脳活動を調べることで、夢の中に「顔」「動き」「場所」といった特定の内容が含まれていることとの関連も確認されました。
この研究からは、夢が生じるかどうかを考えるうえで、「今はレム睡眠なのか、ノンレム睡眠なのか」だけではなく、脳の一部がその瞬間にどのような状態になっているのかも重要である可能性が見えてきます。
ノンレム睡眠中でも脳の一部は夢を見やすい状態になる?
ノンレム睡眠の夢について、さらに詳しく調べた研究もあります。
2018年に『The Journal of Neuroscience』で発表された研究では、14人の健康な参加者を対象に、高密度脳波を記録しながら夜中に繰り返し起こし、直前の体験について聞き取りました。
注目されたのが「徐波(じょは)」と呼ばれる脳波です。
徐波とは、ゆっくりとした大きな波で、ノンレム睡眠、特に深い睡眠で目立ちます。
研究では、ノンレム睡眠中に夢を見ていたと報告されたとき、何の体験もなかったと報告されたときに比べ、脳の中央部や後方で徐波の数が少なく、大きさも小さく、波の傾きも緩やかになる傾向が確認されました。
つまり、脳全体としてはノンレム睡眠に入っていても、すべての場所がまったく同じ状態になっているわけではないと考えられます。
一部の脳領域では深い睡眠に特徴的な活動が弱まり、そのような局所的な状態が睡眠中の意識体験と関係している可能性があります。
「レム睡眠だから夢を見る」「ノンレム睡眠だから夢を見ない」という二択では、睡眠中の脳で起きていることを十分に説明できないわけです。
深いノンレム睡眠でも夢を見ることはある?
ノンレム睡眠の中でも、N1、N2、N3では眠りの状態が異なります。
N1は眠り始めの段階です。この時期には、映像が浮かんだり、音が聞こえたように感じたり、考え事のような体験が続いたりすることがあります。
N2になると、睡眠はより安定します。人は一晩の睡眠時間のかなりの部分をN2で過ごしており、この段階から起こした場合にも夢の報告が得られます。
N3は最も深いノンレム睡眠です。脳波にはゆっくりとした徐波が強く現れ、外から声をかけられても目覚めにくくなります。『National Heart, Lung, and Blood Institute』によると、N3は夜の前半に多く現れます。
このような深いノンレム睡眠でも、目覚めたあとに夢や何らかの睡眠中の体験が報告されることがあります。
ただし、睡眠の深さは夢の報告しやすさと関係します。深いノンレム睡眠では、レム睡眠や浅い睡眠から起こした場合より、夢の報告が少なくなる傾向があります。
そのため、「深く眠っているときには脳の中で何の体験も起こらない」と考えるより、「夢の生じやすさや思い出しやすさは、睡眠の段階や脳の局所的な状態によって変わる」と考えたほうが、現在の研究結果を理解しやすくなります。
私たちが朝に覚えている夢は、一晩の睡眠中に起きていた体験の一部にすぎない可能性があるのです。
まとめ
- 夢はレム睡眠だけでなく、ノンレム睡眠中にも見ることがある
- レム睡眠の夢は、ノンレム睡眠の夢より長く鮮明で、物語性や奇妙さが強い傾向がある
- ノンレム睡眠では、短い場面や考え事のような夢も報告される
- 「夢を見なかった」と感じても、実際には夢を見ていて起床時に忘れている可能性がある
- 夢の発生には睡眠段階だけでなく、その瞬間の脳の局所的な活動も関係している可能性がある
- 深いノンレム睡眠のN3でも、夢や睡眠中の体験が報告されることがある
- 朝に覚えている夢は、一晩の睡眠中に起きた体験の一部にすぎない可能性がある
普段は「夢を見た」「今日は夢を見なかった」と何気なく話していますが、実際の睡眠中には、私たちが覚えている以上にさまざまな体験が起きている可能性があります。
夢はレム睡眠だけのものではなく、ノンレム睡眠中にも生じることが分かってきました。今夜目を閉じたあと、自分では覚えていないところでも、何か不思議な体験をしているのかもしれません。
参考文献
- National Institute of Neurological Disorders and Stroke「Understanding Sleep」
- National Heart, Lung, and Blood Institute「How Sleep Works – Sleep Phases and Stages」
- Nature Neuroscience「The neural correlates of dreaming」
- PubMed「Dreaming in NREM Sleep: A High-Density EEG Study of Slow Waves and Spindles」
- PubMed「Rapid eye movement sleep, non-rapid eye movement sleep, dreams, and hallucinations」
- PubMed「What are the neural mechanisms and physiological functions of dreams?」
- PubMed Central「What about dreams? State of the art and open questions」

