昔の映画や漫画で、白黒の縞模様の服を着た囚人を見たことはないでしょうか。帽子からズボンまで同じ模様で、ひと目見ただけで囚人だと分かる独特な姿です。
あまりにも定番のデザインなので、深い意味はないように思えるかもしれません。しかし、あの縞模様が広く知られるようになった背景をたどると、当時の刑務所の事情が見えてきます。
第96回雑学調査レポートでは、そんな「囚人」に関する雑学をご紹介していきます。
白黒の囚人服は映画だけの衣装ではない
昔の刑務所が登場する映画や漫画では、囚人が白黒の縞模様の服を着ていることがあります。
今ではコメディーや仮装で使われることも多いため、映画のために考えられた衣装だと思う人もいるかもしれません。しかし、白黒の縞模様の囚人服は、実際の刑務所や囚人労働の現場でも使われていました。
スミソニアン国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館には、アメリカ南部の囚人労働施設を撮影した古い写真入り絵はがきが保存されています。
写真を見ると、囚人たちは黒と白の縞模様の服を着ています。一方、そばに立つ看守は普通の服装です。服を見るだけで、誰が囚人で、誰が看守なのかが分かるようになっています。
同じ博物館が所蔵する絵画「The Poet II」の解説では、集団で働かされる囚人が、逃亡を防ぐために縞模様の制服と足かせを着けていたことも紹介されています。
つまり、縞模様の囚人服は映画が生み出したものではありません。実際に使われた服装が、その後の映画や漫画にも取り入れられたのです。
縞模様の囚人服が広まったのは19世紀後半のアメリカ
縞模様の囚人服は、19世紀後半のアメリカで広く知られるようになりました。
カリフォルニア州矯正・更生局によると、1850年代から1860年代のサン・クエンティン刑務所では、囚人が逮捕されたときの服をそのまま着ていた時期がありました。
看守にも決まった制服がなかったため、囚人と職員の服装がよく似ていたといいます。
普段はそれでも問題がなかったかもしれません。しかし、誰かが逃げた場合には困ります。服装だけでは、逃げた囚人なのか、刑務所の職員なのかをすぐに判断できないからです。
さらに、刑務所の外で作業をしている囚人が、そのまま一般の人に紛れて立ち去りやすいという問題もありました。
その後、1870年代のサン・クエンティン刑務所では、縞模様の服を着た囚人たちの写真が残されています。カリフォルニア州の囚人服は、ニューヨーク州の刑務所制度を参考にしたと説明されています。
当時のニューヨーク州では、オーバーン刑務所で発展した「オーバーン方式」が大きな影響力を持っていました。
オーバーン方式とはどのような制度だったのか
オーバーン方式は、囚人を厳しく集団管理する刑務所の運営方法です。
囚人は昼間、集団で働かされました。夜になると、それぞれ別の独房に入れられます。
囚人同士の会話は禁止されていました。移動するときには列を作り、同じ歩幅で歩くことも求められます。
規則に違反した人に対しては、身体的な罰が使われる場合もありました。
ニューヨーク州公文書館によると、オーバーン方式はアメリカ各地の刑務所に広がり、刑務所運営の手本になったとされています。

ただし、オーバーン方式が縞模様の囚人服を最初に生み出したと断定できる資料は確認されていません。
オーバーン方式と縞模様の服には、全員の行動や外見をそろえて管理しやすくするという共通点があります。そのため、当時の刑務所が囚人をどのように管理していたのかを知る手がかりにはなります。
縞模様が使われた最大の理由は見分けやすさ
囚人服が縞模様だった大きな理由は、囚人を簡単に見分けられるようにするためです。
普通の無地のシャツやズボンでは、刑務所の外に出たとき、一般の人の服装と区別しにくくなります。
一方、全身に太い白黒の縞模様が入っていれば、遠くからでも目立ちます。街中ではあまり見かけない服装なので、逃げた人が囚人服を着たままであれば、すぐに気づかれる可能性が高くなります。
19世紀には、現在のような防犯カメラはありません。GPSを使った位置確認や、顔を自動で見分けるシステムも存在しませんでした。
そのため、目立つ服を着せること自体が、囚人を見分けるための重要な方法だったのです。
カリフォルニア州矯正・更生局の資料では、囚人と職員の服装が似ていた時代に、逃亡時の混乱が起きやすかったことが紹介されています。
スミソニアン博物館の資料でも、集団労働をさせられていた囚人が、逃亡を防ぐために縞模様の制服を着用していたと説明されています。
縞模様は、見た目を面白くするための飾りではありませんでした。誰が囚人なのかを、周囲にはっきり知らせるための目印だったのです。
縞模様の服は身分を示す印でもあった
囚人服には、逃げた人を見つけやすくする以外の役割もありました。
それは、着ている人が刑務所に管理される立場であることを、見た目で示すことです。
私たちは普段、服装を自分で選びます。好きな色や形の服を着たり、仕事に合った服装をしたりします。
服は、好みや職業、生活環境、その人らしさを表すものでもあります。
ところが、全員が同じ囚人服を着ると、外見の違いが少なくなります。一人ひとりの好みや個性よりも、「囚人という集団の一人」であることが目立つようになります。
服飾史を研究したジュリエット・アッシュの著書『Dress Behind Bars: Prison Clothing as Criminality』では、囚人服が刑罰施設の権力を目に見える形で表してきたと説明されています。
刑務所が決めた服を全員に着せることは、「服装を自由に選べない立場にある」と示すことにもなります。
囚人服は単に体を覆うための服ではなく、施設が着用者の生活を管理していることを表す道具でもあったのです。
囚人服には恥を感じさせる目的もあった
国際的な刑務所改革団体であるPenal Reform Internationalは、服装が人の尊厳や自己認識に関係すると説明しています。
自分で選んだ服を着ると、人は自分らしさを保ちやすくなります。反対に、本人が望まない目立つ服を強制されると、恥ずかしさや屈辱を感じることがあります。
特に白黒の太い縞模様は、一般的な服とは大きく違います。
周囲の人には、ひと目で囚人だと分かります。着用している本人も、自分が刑罰施設の管理下にあることを強く意識させられます。
歴史上、囚人服は着用者を目立たせ、恥を感じさせる目的で使われることもありました。
そのため、縞模様の囚人服には、逃亡防止という実用的な役割だけでなく、囚人という身分を強く意識させる心理的な作用もあったと考えられます。
縞模様は刑務所の鉄格子を表しているのか
白黒の縞模様について、「刑務所の鉄格子を表したデザインだ」という説明を見かけることがあります。
縦方向に並んだ線を見ると、たしかに鉄格子のように感じられます。そのため、もっともらしく聞こえる説明です。
しかし、鉄格子を表現するために縞模様が採用されたと確認できる歴史資料は、十分に見つかっていません。
少なくとも、現在確認できる資料から事実として言えるのは、縞模様が囚人を見分けやすくし、逃亡を防ぐために役立ったということです。
また、囚人という身分や、刑務所に管理されている状態を外見で示す役割もありました。
「鉄格子を表している」という説は、見た目から生まれた後世の解釈である可能性があります。
分かりやすい説明ではありますが、歴史的な事実として断定するのは避けたほうがよいでしょう。
現代では白黒の縞模様をあまり見かけない
現在の刑務所や拘置施設では、白黒の縞模様の服はあまり一般的ではありません。
使われる服装は、国や地域、施設によって異なります。青色や灰色の作業着に近い服を採用している場所もあれば、オレンジ色などの目立つ服を使う施設もあります。
上下が同じ色の制服を着る場合もあれば、一般的な運動着に近い服が用意される場合もあります。状況によっては、私服の着用が認められることもあります。
つまり、現在の囚人服には世界共通のデザインがありません。
Penal Reform Internationalも、映画やテレビで有名になった縞模様の囚人服を、現実の被収容者の多くは着用していないと説明しています。
同団体が紹介する事例を見ると、医療用の服に似た制服、作業着、運動着、私服など、さまざまな服装があります。
囚人服にも人権への配慮が求められている
現代では、刑務所の安全管理だけでなく、収容されている人の健康や尊厳も重視されています。
国連の「ネルソン・マンデラ・ルールズ」は、被収容者の処遇について定めた国際的な基準です。
第19規則では、私服の着用を認められていない被収容者に対し、その土地の気候に合った服を提供するよう求めています。
服には、健康を保てるだけの機能が必要です。清潔で、着用に適した状態を保つことも求められます。
さらに、被収容者を傷つけたり、恥を与えたりするような服装であってはならないとされています。

昔の縞模様の囚人服は、囚人を周囲からはっきり区別し、刑罰を受けている立場を目立たせるものでした。
一方、現代の国際基準では、収容されている人も人間として尊重しなければならないという考え方が重視されています。
この考え方の変化も、昔ながらの白黒の縞模様が使われなくなった理由の一つです。
映画や漫画では今も縞模様が使われている
現実の刑務所では使われる機会が減ったものの、映画や漫画、アニメでは、今も白黒の縞模様がよく登場します。
最大の理由は、とても分かりやすいからです。
登場人物が縞模様の服を着ていれば、詳しい説明がなくても、観客はすぐに「この人は囚人だ」と理解できます。
物語の中では、短い時間で登場人物の立場を伝える必要があります。そのようなとき、誰でも知っている服装や道具は便利です。
警察官の制服を見れば警察官だと分かり、王冠をかぶっていれば王様だと分かります。それと同じように、白黒の縞模様は囚人を示す視覚的な記号になっています。
特にコメディー作品や子ども向けの作品では、現実の刑務所で使われる地味な作業着よりも、太い縞模様のほうが画面で目立ちます。
仮装用の衣装としても分かりやすく、帽子や番号札と組み合わせるだけで、囚人をイメージした服装になります。
Penal Reform Internationalも、縞模様の囚人服のイメージが、長年にわたって映画やテレビなどの映像メディアによって広められてきたと説明しています。
実際の縞模様には、囚人を識別し、逃亡を防ぐという現実的な目的がありました。その見た目が非常に分かりやすかったため、現実の刑務所から姿を消したあとも、創作の世界では囚人を表す記号として残り続けています。
まとめ
- 白黒の縞模様の囚人服は、映画の演出ではなく実際の刑務所で使われていた
- 縞模様の主な目的は、囚人を一般人や看守と見分けやすくし、逃亡を防ぐことだった
- 囚人服には、個性を弱めて刑務所に管理される身分を示す役割もあった
- 縞模様が鉄格子を表しているという説には、十分な歴史的根拠がない
- 現代では人権や尊厳への配慮から、白黒の縞模様はほとんど使われていない
- 映画や漫画では、一目で囚人だと伝えられる記号として今も使われている
かつての縞模様の囚人服には、囚人を目立たせ、管理しやすくする役割がありました。一方、現代では安全だけでなく、収容されている人の健康や尊厳にも配慮することが求められています。
囚人服の変化は、単なるデザインの流行ではありません。刑務所が人をどのように扱うべきかという考え方の変化も、その姿に表れているのです。
参考文献
- Smithsonian National Museum of African American History and Culture「Picture postcard of a North Carolina Convict Camp」
- Smithsonian National Museum of African American History and Culture「The Poet II」
- New York State Archives「Corrections and Community Supervision, Department of」
- California Department of Corrections and Rehabilitation「Stitch in time: California prison uniforms」
- Bloomsbury「Dress Behind Bars: Prison Clothing as Criminality」
- Penal Reform International「Can a tiger change its stripes? Why we should consider what prisoners wear」
- United Nations Digital Library「United Nations Standard Minimum Rules for the Treatment of Prisoners (the Nelson Mandela Rules)」

