あなたが普段聞いている自分の声は、周りの人にも同じように聞こえているのでしょうか。
多くの人は、録音した声を初めて聞いたときに、その答えに自信が持てなくなります。聞き慣れているはずの声なのに、録音を通すと急に別の印象へ変わってしまうからです。
第90回雑学調査レポートでは、そんな「声」に関する雑学をご紹介していきます。
録音した声が「自分の声ではない」と感じる理由
スマートフォンで自分の声を録音し、再生したときに「こんな声だったの?」と驚く人は少なくありません。普段より声が高く聞こえたり、薄く感じられたりして、まるで別人が話しているように思うこともあります。
しかし、多くの場合、録音機器が壊れているわけでも、声が急に変わったわけでもありません。
録音した声が違って聞こえる主な理由は、普段自分の声を聞くときと、録音した声を聞くときでは、音が耳に届くルートが異なるためです。
自分で話しているときは、口から出た音だけを聞いているわけではありません。声を出したときに頭やあごへ伝わる振動も、同時に聞いています。
一方、録音した声をスピーカーやイヤホンで再生した場合、基本的には機器から出た音だけが空気を通って耳に届きます。この違いによって、同じ声でも高さや太さ、響き方が変わって聞こえるのです。
自分の声は2つのルートで耳に届く
自分が話しているときの声には、主に次の2つの聞こえ方が混ざっています。
- 空気伝導
- 骨伝導
どちらも最後は内耳へ振動を届けますが、そこまでの通り道が異なります。
空気伝導とは
空気伝導は、一般的に私たちが音を聞くときの仕組みです。
人が話すと、口から出た声によって周囲の空気が振動します。その振動が耳へ入り、次のような順番で伝わっていきます。
- 耳介が音を集める
- 音が外耳道を通る
- 鼓膜が振動する
- 耳小骨が振動を内耳へ伝える
- 蝸牛が振動を電気信号へ変える
- 聴神経を通して脳へ情報が送られる

耳小骨(じしょうこつ)とは、中耳にある小さな骨です。つち骨、きぬた骨、あぶみ骨の3つからできています。
内耳にある蝸牛(かぎゅう)は、カタツムリの殻のような形をした器官です。蝸牛の内部には液体が入っており、音の振動によってこの液体が動きます。
その動きを感覚細胞が受け取り、電気信号へ変換します。脳がその信号を処理することで、私たちは音として認識できます。
家族や友人があなたの声を聞くときも、主にこの空気伝導が使われています。
骨伝導とは
骨伝導は、音の振動が頭蓋骨やその周辺の組織を通り、内耳へ伝わる仕組みです。
自分が声を出すと、声帯で生まれた振動は口から空気中へ出るだけではありません。首、あご、顔、頭蓋骨などにも振動が広がっています。その振動が内耳の蝸牛へ届き、自分の声の一部として聞こえます。
空気伝導では、鼓膜や耳小骨を通って音が内耳へ届きます。骨伝導では、頭蓋骨の振動によって内耳が刺激されます。

この仕組みは、骨伝導イヤホンにも利用されています。また、耳の状態によっては、骨伝導を利用した補聴機器が使われることもあります。
普段の自分の声が低く、太く聞こえる仕組み
自分で話しているときは、空気伝導の音と骨伝導の音を同時に聞いています。
骨や体の組織を通る振動は、空気中を進む音とは周波数のバランスが異なります。骨伝導が加わると、低い音の成分や声の響きが目立ちやすくなることがあります。
そのため、普段自分が聞いている声は、実際に空気中へ出ている声よりも低く、太く、豊かに感じられやすいのです。
たとえば、自分の声を頭の中で聞いたときには、落ち着いた声だと思っていても、録音すると少し高く感じることがあります。これは録音によって声そのものが変わったのではなく、普段の聞こえ方に加わっていた骨伝導の響きが含まれていないためです。
つまり、日常的に聞いている自分の声は、自分だけが聞いている特別な組み合わせといえます。ほかの人は、あなたの頭蓋骨を通った振動を同じようには聞けません。
録音した声に骨伝導の響きが入らない理由
一般的なスマートフォンや録音用マイクは、空気中を伝わってきた音を収録します。自分が話している最中に頭やあごへ伝わっていた振動が、そのまま音声データへ保存されるわけではありません。
録音した声をスピーカーや通常のイヤホンで再生すると、再生音は主に空気を通って耳に届きます。そのときは自分で声を出していないため、発声による頭蓋骨の振動も起こりません。
普段は空気伝導と骨伝導を組み合わせて聞いているのに、録音では主に空気伝導の音だけを聞くことになります。
この違いにより、録音した自分の声には次のような印象を持ちやすくなります。
- 思っていたより声が高い
- 声が細く、軽く聞こえる
- 鼻声のように感じる
- 発音の癖が目立つ
- 息継ぎが多く感じる
- 語尾の上がり下がりが気になる
- 話すスピードが予想と違う
声が急に変化したわけではありません。空気中に出ている声の特徴が、普段よりはっきり聞こえているのです。
録音した声は他人が聞いている声と同じなのか
録音した声は、自分が頭の中で聞いている声よりも、他人が聞いている声に近いと考えられます。
ほかの人は、あなたが声を出したときに頭蓋骨へ伝わる振動を聞けません。口から空気中へ出た音を、主に空気伝導によって聞いています。
録音された声も、本人の骨伝導が加わっていないという点では、他人の聞き方に近いものです。ただし、録音された声が、他人に聞こえている声を完全に再現しているわけではありません。
録音音声は、さまざまな条件によって変わります。
マイクの性能
マイクには、それぞれ得意な音域があります。
高い音を拾いやすいマイクもあれば、低い音を強く拾うマイクもあります。安価なマイクだから必ず不自然になるとは限りませんが、マイクの特性によって声の印象は変わります。
マイクの位置と向き
マイクを口の正面へ置くか、少し横へずらすかによっても音が変わります。
正面に近すぎると、息の音や「パ行」「バ行」などの破裂音が強く入りやすくなります。横へ向けすぎると、声が小さくなったり、高い音が拾われにくくなったりする場合があります。
口とマイクの距離
マイクへ近づきすぎると、声がこもったり、低音が強くなったりすることがあります。
反対に、離れすぎると部屋の反響や周囲の生活音が多く入ります。声が遠く、薄く聞こえる原因にもなります。
部屋の反響
壁、床、天井などが硬い部屋では、声が反射しやすくなります。
反射した音がマイクへ入ると、声が響きすぎたり、少し遠くで話しているように聞こえたりします。
スマートフォンやアプリの音声処理
スマートフォンや録音アプリでは、声を聞き取りやすくするために自動処理が行われる場合があります。
たとえば、周囲の雑音を減らしたり、音量を自動で調整したり、特定の音域を強めたりする処理です。便利な機能ですが、処理の内容によっては、実際の声とは少し異なる音色になることもあります。
再生する機器の違い
同じ録音でも、スマートフォンのスピーカー、イヤホン、ヘッドホン、パソコンのスピーカーでは聞こえ方が変わります。
小さなスピーカーは、低い音を十分に再生できないことがあります。その場合、声が高く、軽く聞こえやすくなります。
録音した声は「他人が聞いている声に比較的近いもの」ですが、そのまま完全に同じ音ではありません。
録音した自分の声が気持ち悪く感じる理由
録音した声に違和感を覚えるのは、音の違いだけが原因ではありません。
人は生まれてから長い間、空気伝導と骨伝導が混ざった自分の声を聞き続けています。その声を、脳は「これが自分の声だ」と覚えています。
ところが、録音した声では骨伝導の響きが含まれません。脳が予想していた声とは異なる音が聞こえるため、違和感が生まれるのです。
これは、自分の顔を鏡で見ることに慣れている人が、左右の向きが反転していない写真を見たときに違和感を覚える現象と少し似ています。
声そのものがおかしいのではありません。いつもとは異なる状態の自分を確認しているため、不自然に感じるのです。
自分の声を聞き分ける手がかりにもなる
2023年に発表された研究では、自分の声と他人の声を混ぜた音声を使い、自分の声をどの程度正しく見分けられるかが調べられました。
実験では、空気を通した音だけを聞く条件と、骨伝導による振動も加える条件が比較されています。骨伝導による振動が加わると、自分の声と他人の声を区別しやすくなりました。
一方、自分以外の身近な人と、別の他人の声を見分ける課題では、同じような改善は確認されませんでした。
この結果から、骨伝導による振動は、自分の声を自分のものとして判断する手がかりの一つになっている可能性があります。

録音した声を自分らしく感じにくいのは、気のせいだけではありません。普段の自己認識に使っている情報の一部が、録音音声には含まれていないためです。
自分の録音音声に慣れる方法
録音した声への違和感は、何度か聞くことで小さくなる可能性があります。
初めは「変な声だ」と感じても、繰り返し聞いているうちに、録音された声も自分の声として認識しやすくなります。いきなり長い会話を録音する必要はありません。
まずは10秒から30秒ほどの短い録音から始めると、負担を感じにくくなります。
読む文章を決める
ニュース記事、本の一節、商品の説明文など、内容を考えずに読める文章を用意します。
毎回同じ文章を読めば、録音ごとの違いを比較しやすくなります。確認できるポイントには、次のようなものがあります。
- 声の高さ
- 声の大きさ
- 話す速さ
- 発音の明瞭さ
- 息継ぎの位置
- 言葉と言葉の間
- 語尾の癖
- 「えー」「あの」などの口癖
最初から良い声か悪い声かを判断する必要はありません。「録音すると、このように聞こえるのだ」と確認するところから始めます。
録音してすぐに聞かない
録音直後は、言い間違えたことや緊張した感覚をはっきり覚えています。そのため、声そのものよりも失敗した部分が気になりやすくなります。
違和感が強い場合は、数時間後や翌日に聞いてみましょう。録音したときの感覚から少し離れることで、落ち着いて聞きやすくなります。
一度に直そうとしない
声の高さ、話す速さ、発音、口癖などをすべて同時に直そうとすると、何を意識すればよいのか分からなくなります。
最初は「少しゆっくり話す」「語尾まではっきり発音する」など、一つだけ意識する方法が適しています。
スマートフォンで自然な声を録音するコツ

録音した声が極端に不自然に聞こえる場合は、声そのものではなく、録音方法に原因があるかもしれません。
簡単な工夫で、聞きやすく自然な音に近づけられます。
スマートフォンを近づけすぎない
スマートフォンのマイクを口元へ近づけすぎると、息の音や口の音が目立ちやすくなります。
特に「パ」「ピ」「プ」「ペ」「ポ」などを発音したときには、口から出た空気が直接マイクへ当たり、大きな風の音が入ることがあります。
マイクの種類によっては、近づくほど低音が強調される「近接効果」が起こることもあります。反対に、スマートフォンを離しすぎると、声よりも部屋の反響や周囲の音が多く入ります。
まずは口から20~30センチほど離した位置を目安にして、実際の録音を聞きながら調整するとよいでしょう。
端末によってマイクの位置が異なるため、スマートフォンの底面や背面など、どこにマイクがあるのかも確認します。
マイクを口の正面から少し外す
息の音が強く入る場合は、マイクを口の真正面に置かず、少し横へずらします。口から出た空気がマイクへ直接当たりにくくなり、破裂音を抑えやすくなります。
ただし、大きく横へずらすと声が小さくなる場合があります。少しずつ位置を変えて確認することが大切です。
反響の少ない部屋を選ぶ
家具が少なく、壁や床が硬い部屋では、音が反射しやすくなります。浴室、廊下、家具のない会議室などでは、声が強く響くことがあります。
カーテン、カーペット、ソファ、布団、衣類などがある場所では、音の反射が比較的抑えられます。
専用の録音室がなくても、布製品や家具が置かれた静かな部屋を選ぶだけで、録音の印象は変わります。
周囲の音を減らす
エアコン、換気扇、冷蔵庫、パソコンのファン、道路の音などは、録音すると予想以上に目立つ場合があります。
録音前に数秒間静かにして、どのような環境音が聞こえるか確認します。無理にすべての機器を止める必要はありませんが、可能な範囲で静かな時間と場所を選ぶと、声を聞き取りやすくなります。
録音中にスマートフォンを動かさない
スマートフォンを手に持ったまま録音すると、指が端末へ触れる音や、持ち替えたときの振動が入ることがあります。
机の上やスマートフォンスタンドへ置くと、マイクの位置を一定に保ちやすくなります。机に直接置くと振動音を拾う場合は、柔らかい布などを下へ敷く方法もあります。
声の変化を比べるなら録音条件をそろえる
話し方の練習や声の変化を確認したい場合は、毎回同じ条件で録音することが重要です。
録音条件が違うと、声そのものが変化したのか、マイクや部屋の影響で聞こえ方が変わったのかを判断しにくくなります。
できるだけ次の条件を統一します。
- 使用するスマートフォン
- 使用する録音アプリ
- マイクの向き
- 口とマイクの距離
- 録音する部屋
- 録音する時間帯
- 読む文章
- 声の大きさ
- 座る位置や姿勢
毎回同じ文章を同じ場所で録音すると、話す速さや発音の変化を比較しやすくなります。
体調によっても声は変わります。寝起き、運動後、長時間話した後、のどが乾いているときなどは、普段と声の状態が異なる場合があります。
比較するときは、録音した日時や体調も簡単に記録しておくと役立ちます。
骨伝導イヤホンなら普段の自分の声に戻るのか
骨伝導イヤホンは、耳の近くにある骨へ振動を伝え、内耳を刺激する機器です。
通常のイヤホンとは音の届け方が異なるため、録音した自分の声を骨伝導イヤホンで聞くと、印象が変わる可能性があります。ただし、普段自分が話しているときの声を完全に再現できるわけではありません。
実際に話しているときは、声帯から生まれた振動が首、あご、頭蓋骨などへ広がっています。同時に、口から空気中へ出た音も耳へ届きます。
さらに、声の響きには次のような要素も関係します。
- 頭や顔の形
- 骨や組織の状態
- 声の出し方
- 口の開き方
- 鼻や口の中での共鳴
- 姿勢
- 空気伝導と骨伝導の混ざり方
骨伝導イヤホンで録音音声を再生すれば、頭蓋骨へ振動を加えることはできます。
しかし、自分がその場で発声したときに体の内部で生じる複雑な振動を、同じ状態で再現することは困難です。
そのため、通常のイヤホンより普段の自分の声に近く感じる人はいても、まったく同じ声になるとは限りません。

まとめ
- 自分の声が録音で違って聞こえるのは、普段と録音再生時で音が耳に届く経路が異なるため
- 話している本人は、空気伝導と骨伝導の両方を通して自分の声を聞いている
- 骨伝導が加わることで、普段の自分の声は低く、太く、豊かに感じられやすい
- 一般的なマイクは空気中を伝わる音を収録するため、骨伝導による響きは録音されない
- 録音した声は他人が聞く声に近いが、マイクや部屋、再生機器の影響があるため完全に同じではない
- 録音した声への違和感は、脳が普段聞いている自分の声を基準として覚えているために生じる
- 骨伝導による振動は、自分の声と他人の声を見分ける手がかりになる可能性がある
- 録音した声は、話す速さや発音、口癖などを客観的に確認するために活用できる
- 自然な声を録音するには、マイクとの距離や向き、部屋の反響、周囲の雑音を調整することが重要
- 声の変化を正しく比較するには、使用機器や録音場所、読む文章などの条件をそろえる必要がある
- 骨伝導イヤホンを使っても、実際に発声しているときの複雑な振動を完全には再現できない
自分だけが聞いている声と、周りの人へ届いている声には、思っている以上の違いがあります。
録音を聞いて驚くのは、その差を初めてはっきりと体験するからです。しかし、録音した声も、普段頭の中で聞いている声も、どちらも自分の声であることに変わりはありません。
聞こえ方が違うという事実こそ、耳と骨が生み出す声の不思議なのです。
参考文献
- National Institute on Deafness and Other Communication Disorders「How Do We Hear?」
- McGill University, Office for Science and Society「What is bone conduction?」
- National Library of Medicine, PubMed Central「Bone conduction facilitates self-other voice discrimination」
- Scientific Reports「Neural representations of own-voice in the human auditory cortex」
- Cleveland Clinic「Ear: Anatomy, Facts & Function」
- Shure「Critical Distance and Microphone Placement」
- Shure「Microphone Choice and Placement Secrets for Recording」
- Shure「How to Record and Mix Vocals」

