宇宙の話というと、銀河やブラックホール、惑星探査のような壮大なテーマを思い浮かべるかもしれません。
しかし、手のひらに乗るほど小さな石からも、宇宙の歴史を知ることができます。
第55回雑学調査レポートでは、そんな「隕石」に関する雑学をご紹介していきます。
隕石はただの宇宙の石ではない
隕石というと、宇宙から地球に落ちてきた石というイメージがあります。
しかし、隕石の中には、太陽系が生まれたころの情報がそのまま残っているものがあります。特に小惑星から来た隕石の多くは、約45億年前、太陽系ができつつあった時代の物質を含んでいます。
つまり隕石は、ただ空から落ちてきた石ではありません。地球の岩石よりも古い記録を閉じ込めた、宇宙の「タイムカプセル」のような存在です。
さらに古い粒が見つかった
興味深いのは、一部の隕石には、太陽そのものより古い粒が入っていることです。
この粒は「プレソーラー粒子」と呼ばれます。日本語にすると「太陽以前の粒子」という意味です。
太陽は約46億年前に生まれました。しかし、プレソーラー粒子は太陽ができる前から宇宙に存在していました。つまり、隕石の中には「太陽系ができる前の宇宙の物質」が混じっているのです。
マーチソン隕石という有名な隕石
この話で特に有名なのが「マーチソン隕石」です。
マーチソン隕石は、1969年にオーストラリアのビクトリア州マーチソン付近に落下した隕石です。分類としては、炭素を多く含む「炭素質コンドライト」と呼ばれるタイプの隕石です。
炭素質コンドライトは、太陽系初期の物質を比較的よく残している隕石として知られています。マーチソン隕石は、生命の材料になりうる有機物の研究でも有名ですが、もう一つの大きな特徴が、太陽より古い微小な粒を含んでいることです。
その粒は「死んだ星」から来た
プレソーラー粒子は、もともと別の星で作られたと考えられています。
星は一生の終わりに、外側の物質を宇宙空間へ放出することがあります。巨大な星であれば超新星爆発を起こすこともあります。そうした星の終末で生まれた細かな塵が、宇宙空間を漂い、やがて太陽系を作る材料の雲に混ざりました。
その一部が、太陽や惑星になる前の小さな天体に取り込まれ、のちに隕石として地球へ落ちてきたのです。
つまり、マーチソン隕石の中の小さな粒は、別の星の一生の名残です。言い換えるなら、手のひらサイズの隕石の中に、太陽が生まれる前に死んだ星の痕跡が入っていることになります。

どれくらい古いのか
研究では、マーチソン隕石から取り出されたプレソーラー粒子の一部が、太陽よりも古いことが示されています。
特に注目された研究では、粒子の多くは約46億〜49億年前のものとされ、一部には55億年以上前のものも含まれているとされました。太陽が約46億年前、地球が約45億年前にできたことを考えると、これは非常に古い物質です。
さらに、研究者たちは、これらの粒子のもとになった星の活動が約70億年前の星形成の活発な時期と関係している可能性も指摘しています。
ここで大切なのは、「隕石そのものが70億年前にできた」という意味ではないことです。隕石を作った母天体は太陽系の形成後にできました。しかし、その中に閉じ込められた一部の粒子は、太陽系より前に存在していたのです。
どうやって年齢を調べたのか
小さな粒の年齢を調べる方法も興味深いです。
研究者たちは、プレソーラー粒子が宇宙線にどれだけさらされていたかを調べました。宇宙線とは、宇宙を飛び交う非常に高いエネルギーを持った粒子のことです。
この宇宙線が小さな鉱物粒子に当たると、粒子の中に新しい元素や同位体が作られます。長く宇宙線にさらされていればいるほど、その痕跡は多くなります。
これは、外に置いたバケツに雨水がたまる様子に少し似ています。雨の強さがだいたい分かっていれば、バケツにたまった水の量から、どれくらいの時間、外に置かれていたかを推定できます。
同じように、粒子の中に残った宇宙線の痕跡を調べることで、その粒が宇宙空間でどれくらいの時間を過ごしてきたかを推定できるのです。
なぜ隕石の中で残れたのか
普通、宇宙の細かな塵は壊れたり、別の物質に混ざったりします。長い時間をそのまま生き残るのは簡単ではありません。
それでもプレソーラー粒子が残ったのは、隕石のもとになった小天体の中に閉じ込められたからです。小天体の内部は、地球の表面のように風化や水の流れ、火山活動などで大きく作り替えられるわけではありません。
もちろん、隕石の種類によっては熱や水の影響を受けて内部の物質が変化している場合もあります。しかし、比較的原始的な隕石では、太陽系初期の物質や、それ以前の小さな粒が保存されることがあります。
「宇宙を研究する」と「石を調べる」がつながる
この雑学の興味深いところは、星の歴史を調べるために、望遠鏡ではなく石を使っている点です。
普通、星の研究というと、巨大な望遠鏡で遠くの銀河や星雲を観測するイメージがあります。しかし、プレソーラー粒子の研究では、研究室で隕石を細かく砕き、化学処理をして、ほんの小さな粒を取り出します。
そして、その粒の成分や同位体を詳しく調べます。
同位体とは、同じ元素でありながら、重さが少し違うものです。たとえば、同じ「炭素」でも、炭素12や炭素13のように種類があります。星の内部では核融合によって元素が作られるため、星の種類や進化の段階によって、同位体の割合に特徴が出ます。
そのため、粒子の同位体を調べると、「この粒はどんな星で作られたのか」を推定できます。
小さな隕石の粒を調べることで、太陽が生まれる前の星の活動までたどれるのです。

隕石は銀河の歴史も語る
プレソーラー粒子は、太陽系の歴史だけでなく、銀河の歴史を知る手がかりにもなります。
マーチソン隕石の研究では、太陽系が生まれる少し前の時代に、星が活発に作られた時期があった可能性が示されました。これは、天の川銀河の中で星の誕生がいつも一定のペースだったわけではなく、活発な時期とそうでない時期があったかもしれない、という考えにつながります。
つまり、隕石の中の微小な粒は、単なる鉱物ではありません。
それは、かつて存在した星の記録であり、太陽系ができる前の宇宙の記録であり、天の川銀河の歴史を伝える証拠でもあります。
まとめ
- 隕石は、太陽系が生まれたころの情報を残す宇宙のタイムカプセルである
- 一部の隕石には、太陽より古い「プレソーラー粒子」が含まれている
- プレソーラー粒子とは、太陽ができる前から宇宙に存在していた微小な粒子である。
- 有名なマーチソン隕石には、太陽より古い粒子が含まれている。
- プレソーラー粒子は、過去に存在した別の星の終末で生まれた塵だと考えられている
- マーチソン隕石の粒子の多くは約46億〜49億年前、一部は55億年以上前のものとされる
- 隕石そのものが太陽より古いのではなく、中に閉じ込められた一部の粒子が太陽より古い
- 粒子の年齢は、宇宙線にさらされた痕跡を調べることで推定される
- 原始的な隕石では、太陽系初期やそれ以前の物質が壊れずに残ることがある。
- 隕石を調べることで、太陽系だけでなく、太陽が生まれる前の星や銀河の歴史まで知る手がかりになる。
隕石は、地球の外から来た石であると同時に、宇宙の時間を閉じ込めた記録でもあります。
その小さなかけらを調べることで、私たちは太陽系の始まりよりさらに前の物語に触れることができるのです。
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参考文献
- NASA Astrobiology「Grains from before the Sun was Born」
- Proceedings of the National Academy of Sciences「Lifetimes of interstellar dust from cosmic ray exposure ages of presolar silicon carbide」
- Field Museum / Robert A. Pritzker Center「Presolar Ages」
- Natural History Museum「Meteorites: Windows into our solar system’s beginnings」

