アスファルトは、いかにも人工的な材料に見えます。工事現場で高温の状態でならされ、ローラーで固められ、道路として完成していく様子を思い浮かべる人も多いでしょう。
ところが、その黒い材料の正体をたどっていくと、意外にも自然界と深くつながっていることがわかります。
第47回雑学調査レポートでは、そんな「アスファルト」に関する雑学をご紹介していきます。
道路の材料と思われがちなアスファルト
アスファルトと聞くと、多くの人は道路の黒い舗装を思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、アスファルトは人間が完全に一から作り出した人工物ではありません。現在の道路舗装に使われるアスファルトの多くは、石油を精製した後に残る重い成分から作られていますが、自然界にもアスファルトは存在します。
つまり、アスファルトは「工場で作る黒い材料」であると同時に、「地球の中からにじみ出てくる天然資源」でもあるのです。
この事実だけでも少し意外ですが、さらに面白いのは、世界にはアスファルトが地表に大量にたまり、まるで湖のようになっている場所があるということです。
アスファルトの湖「ピッチ・レイク」
カリブ海の国、トリニダード・トバゴには「ピッチ・レイク」と呼ばれる有名な天然アスファルトの湖があります。
場所は、トリニダード島南西部のラ・ブレアという地域です。「ピッチ」とは、粘り気のある黒いタール状の物質を指す言葉で、ここでは天然アスファルトを意味しています。
この湖は、水でできた普通の湖ではありません。地表に露出した天然アスファルトの巨大な集まりです。『Britannica』によると、ピッチ・レイクは約47ヘクタールの広さを持ち、推定で約670万トンのアスファルトを含んでいます。
47ヘクタールというと、東京ドーム約10個分に近い広さです。そこに黒く重いアスファルトが大量にたまっていると考えると、かなり異様な光景だとわかります。

なぜアスファルトが湖になるのか
ピッチ・レイクのような場所は、地下から原油がにじみ出ることでできます。
原油には、軽くて蒸発しやすい成分と、重くて粘り気の強い成分が含まれています。地下からしみ出した原油が地表に出ると、軽い成分は空気中に蒸発していきます。すると、後には重く、黒く、粘り気のある成分が残ります。
この残った重い成分が、天然アスファルトです。
つまり、アスファルトの湖は「石油が地表に出て、軽い部分が抜け、重い部分だけが残ったもの」と考えるとわかりやすいです。
ただし、ピッチ・レイクは完全に死んだ化石のような存在ではありません。『Britannica』は、トリニダード島のピッチ・レイクについて、地下から新しい原油が供給され続けている例として説明しています。つまり、地面の下から少しずつ材料が補給されることで、長い時間をかけて巨大な天然アスファルトのたまり場になっているのです。
人が歩ける「湖」
普通、湖と聞けば水面を想像します。ところが、ピッチ・レイクは天然アスファルトの湖なので、場所によっては表面がかなり固く、人が歩くこともできます。
もちろん、すべての場所が安全に歩けるわけではありません。アスファルトは温度や場所によって柔らかさが変わります。表面は固く見えても、下の方ではゆっくり動いていたり、粘り気のある状態だったりします。
アスファルトは熱を受けると柔らかくなり、条件によっては弾力を持つ物質です。道路舗装でも、夏の強い日差しでアスファルトが柔らかくなることがあります。天然のアスファルト湖でも同じように、温度や内部の状態によって性質が変わります。
そのため、ピッチ・レイクは「湖」と呼ばれていても、見た目や性質は水の湖とはまったく違います。黒い地面のように見えますが、実際には地球内部から生まれた粘り気の強い炭化水素の巨大な集まりです。

アスファルトは古代から使われていた
アスファルトの歴史は非常に古いです。
現在では道路舗装のイメージが強いですが、人類は道路が近代化するずっと前からアスファルトを使っていました。
『Britannica』によると、アスファルトは紀元前3千年紀ごろ、現在のパキスタンにあった古代都市モヘンジョダロで、貯水施設のレンガ壁のすき間をふさぐ防水材として使われていました。
これはとても重要な使い方です。水をためる施設では、壁や床のすき間から水が漏れると役に立ちません。そこで、粘り気があり、水を通しにくいアスファルトが使われました。
また、中東でもアスファルトは道路の舗装や水利施設の密封に広く使われていました。つまり、アスファルトは古代人にとって「黒い接着剤」や「防水材」のような存在だったのです。
現代の道路に使われる前から、人類はアスファルトの性質をかなり実用的に理解していたといえます。
船のすき間をふさぐ材料にもなった
ピッチ・レイクのアスファルトは、船にも使われました。
『Britannica』によると、イングランドの探検家ウォルター・ローリーは、1595年にトリニダードのアスファルトを船のコーキングに使ったとされています。
コーキングとは、船の板のすき間などをふさぎ、水が入らないようにする作業です。木造船では、船体のすき間から水が入ると沈没の危険があります。そのため、すき間を埋める防水材は非常に重要でした。
天然アスファルトは粘り気があり、水を通しにくい性質があります。そのため、船のすき間をふさぐ材料としても役に立ちました。
この話が興味深いのは、アスファルトが「道路を固める材料」だけではなく、「水を防ぐ材料」として長く使われてきたことを示している点です。
道路舗装に使われたのは1815年
ピッチ・レイクのアスファルトは、1815年に道路の表面舗装に使われ始めたとされています。
ここでようやく、私たちが普段イメージする「道路のアスファルト」に近づいてきます。
ただし、現在の道路舗装は、単にアスファルトだけを地面に流しているわけではありません。一般的なアスファルト舗装は、砂利や砕石のような骨材を、アスファルトで結びつけて作ります。アスファルトは、石をまとめる接着剤のような役割をしています。
身近なたとえで言えば、チョコレートでナッツを固めたお菓子のような構造です。ナッツにあたるのが石や砂利で、チョコレートにあたるのがアスファルトです。
道路の強さは、アスファルトだけではなく、石のかみ合い、材料の配合、施工時の温度、締め固め方などによって決まります。
アスファルトは石油と深く関係している
アスファルトは、炭素と水素を主な成分とする物質です。そこに少量の窒素、硫黄、酸素などが含まれます。
これは、石油と同じく、もともと生物由来の有機物が長い時間をかけて変化したものだからです。
天然アスファルトは、古い海の生物由来の有機物が石油へ変化していく過程でできると考えられています。地下でできた石油や重い炭化水素が、地層の割れ目などを通って地表に現れると、天然アスファルトの堆積物になることがあります。

天然アスファルトはかつて重要な商業資源だった
ピッチ・レイクは、かつて大規模に利用された天然アスファルトの代表例です。
『Britannica』によると、トリニダード島のピッチ・レイクは、初期の大規模な商業用アスファルトの供給源でした。
しかし、現在では天然アスファルトの重要性は以前より下がっています。理由は、石油精製によってアスファルトを大量に得られるようになったからです。
現代社会では、原油を精製してガソリン、軽油、灯油、重油などを取り出します。その過程で残る重い成分から、舗装用や工業用のアスファルトが作られます。
そのため、天然の湖からアスファルトを掘り出すよりも、石油精製の副産物として安定的に得るほうが主流になっています。
まとめ
- トリニダード・トバゴには「ピッチ・レイク」と呼ばれる天然のアスファルトの湖がある
- 原油の軽い部分が蒸発し、重い部分が残ることでアスファルトの湖ができる
- ピッチ・レイクは場所によっては人が歩くことができる
- アスファルトは紀元前3千年紀ごろから使われていた
- アスファルトは「道路を固める材料」だけでなく「水を防ぐ材料」として長く使われてきた
- ピッチ・レイクのアスファルトは、1815年に道路の表面舗装に使われ始めた
- 現在の一般的なアスファルト舗装は、砂利や砕石などの骨材を、アスファルトで結びつけて作る
- アスファルトは石油と同じく、もともと生物由来の有機物が長い時間をかけて変化したもの
- ピッチ・レイクは、初期に重要かつ大規模な商業用アスファルトの供給源だった
アスファルトと聞くと、どうしても道路のイメージが先に浮かびます。しかし、世界には天然アスファルトが集まった湖があり、人類はそれを古くから防水や舗装に利用してきました。
身近なものの裏側には、意外な自然現象や歴史が隠れています。アスファルトもまた、何気ない日常の中にある、知るほど面白い素材の一つです。
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