ひよこは卵の中から「会話」を始めている!?【生まれる前から親子のコミュニケーション】

小さな卵を見ても、その中で何が起きているのかを外から知ることはできません。しかし、ひよこが生まれるまでの間、卵の中では想像以上に細かな準備が進んでいます。

第69回雑学調査レポートでは、そんな「ひよこ」に関する雑学をご紹介していきます。

ひよこは生まれてから鳴き始めるわけではない

ひよこと聞くと、多くの人は、卵から出てきたあとに「ピヨピヨ」と鳴く姿を思い浮かべます。ところが、ひよこは卵から出る前、つまりまだ殻の中にいる段階で、すでに声を出すことがあります。

ニワトリの卵は、ふつう約21日でふ化します。大学の農業普及資料では、ニワトリの通常のふ化期間は21日から21日6時間ほどと説明されています。また、別の大学資料でも、ニワトリの卵の正常なふ化時期は21日ごろとされています。

この21日間の終わりごろになると、卵の中のひよこは外の世界に出る準備を進めます。体の向きを整え、くちばしを空気のある部分に近づけ、呼吸の準備をし、やがて殻を破る段階へ向かいます。そのころ、ひよこはただ黙って待っているだけではありません。声を出し、音を聞き、周囲の変化に反応していると考えられています。

殻は完全な防音壁ではない

卵の殻は、外から見ると固く閉じた小さな部屋のように見えます。しかし、音や振動をすべて遮る壁ではありません。外の音は、空気、殻、卵の中の液体や組織を通じて、ある程度、胚に届きます。

もちろん、人間が部屋の中で音を聞くのと同じようには聞こえません。卵の中では、音は弱まったり、こもったり、振動として伝わったりします。それでも、発達が進んだひよこにとって、外から届く音は重要な情報になります。

研究では、ニワトリの聴覚系はふ化よりかなり前から発達を始め、胚が外からの音刺激に反応することが報告されています。たとえば、鶏胚の聴覚系は孵卵10日目ごろから発達し始めるとされ、発達中の胚は音刺激によって生理的な反応を示すことが報告されています。

つまり、卵の中は「何も聞こえない静かな箱」ではありません。むしろ、親鳥の声、近くの卵からの音、周囲の振動などが伝わる、小さな音の世界だと考えることができます。

ふ化の1〜3日前には、最初の声を出せる

ひよこの声は、ふ化した瞬間に突然生まれるものではありません。マックス・プランク動物行動研究所は、鳥の胚はふ化の1〜3日前に最初の声を出せると説明しています。特に、ふ化してすぐ歩き回れるタイプの鳥では、この早い発声が、ふ化のタイミングをそろえたり、親と子のやり取りに関わったりする可能性があるとされています。

古い研究でも、ニワトリの胚はふ化の数日前から声を出せることが示されています。『Gottlieb』の研究では、一部のニワトリ胚はふ化の3日前から発声を引き出すことができ、すべてのニワトリ胚はふ化の1日前には発声できると報告されています。

ここで大切なのは、これは「たまたま音が出る」というだけではない点です。ふ化直前のひよこは、体が完成に近づき、呼吸や筋肉の動きも外の世界に出る準備をしています。その中で声を出すことは、周囲との関係を作るための行動の一つと考えられています。

親鳥と卵の中のひよこは反応し合う

卵の中のひよこが鳴くと、親鳥がそれに反応することがあります。1983年に発表された「Prehatching interactions in domestic chickens」という研究では、自然に抱卵しているニワトリの行動が観察されました。その研究では、胚とめんどりがふ化の前日から発声を始め、ふ化が近づくにつれて発声が増えたとされています。さらに、胚が苦しそうな声を出すと、めんどりが声を出したり、巣の上で動いたりすることが観察されました。

その後、親鳥が反応すると、胚が静かになったり、別の種類の声を出したりすることも報告されています。研究者は、こうしたやり取りは、ひよこがふ化したあとに親鳥と行うやり取りと似ていると説明しています。

これは、とても興味深いことです。私たちは「親子のコミュニケーション」は、子どもが生まれてから始まるものだと考えがちです。しかし、ニワトリでは、その前段階がすでに卵の中で始まっている可能性があります。

卵の中の声は「ふ化のタイミング」にも関係する可能性がある

ひよこの発声は、親鳥とのやり取りだけでなく、兄弟姉妹との関係にも関わっている可能性があります。

自然の巣では、めんどりは複数の卵をまとめて温めます。卵は同じ日に産まれないこともありますが、ふ化はある程度まとまって起こる必要があります。もし1羽だけ極端に早く生まれたり、遅く生まれたりすると、親鳥の保護や移動のタイミングと合わなくなるかもしれません。

そこで注目されるのが、卵同士の音や振動です。マックス・プランク動物行動研究所は、ふ化前の最初の発声が、ふ化の同期、つまり「同じころに生まれること」に関わる可能性を紹介しています。

これは、まるで卵の中のひよこたちが「そろそろ出るよ」「こっちも準備できているよ」と知らせ合っているようにも見えます。もちろん、人間の言葉のような会話ではありません。しかし、生き物にとってのコミュニケーションとは、言葉を使うことだけではありません。相手の行動を変える情報を送ることも、立派なコミュニケーションです。

親鳥の声を聞いた経験が、ふ化後の行動に影響する

さらに面白いのは、卵の中で聞いた音が、ふ化したあとの行動にまで影響する可能性があることです。

2024年に『Royal Society Open Science』に発表された研究では、ふ化前の卵に母鳥の「cluck call(クラックコール)」と呼ばれる声を聞かせ、その後に生まれたひよこの行動を調べました。この研究では、ふ化前に母鳥の声を聞いたひよこは、ふ化後の音刺激への反応や、成長後に別のグループの囲いに入る行動に違いが見られたとされています。特に、ふ化前に母鳥の声を聞いたひよこは、対照群、つまり何もしないグループのひよこよりも、他グループの囲いに入る可能性が3倍高かったと報告されています。

この結果は、卵の中の音体験が、その場限りの反応ではなく、ひよこの社会的な行動にも関係する可能性を示しています。

つまり、ひよこにとって、卵の中で聞く音は「背景の雑音」ではありません。生まれる前から、世界を知るための手がかりになっているのです。

「ピヨピヨ」はかわいいだけの音ではない

ひよこの鳴き声は、人間にはただかわいい音に聞こえます。しかし、動物行動学の視点で見ると、声にはさまざまな意味があります。

たとえば、ひよこが不安なとき、寒いとき、仲間から離れたとき、親鳥を探すときには、鳴き方が変わることがあります。声の高さ、長さ、繰り返し方、強さなどが変われば、聞いている側の反応も変わります。

ふ化前の声も同じように、ただの音ではなく、状態を知らせる信号として働いている可能性があります。卵の中のひよこが苦しそうな声を出すと親鳥が反応するという観察は、その声が親鳥にとって意味のある情報になっていることを示しています。

このように考えると、ひよこの「ピヨピヨ」は、かわいらしさだけでなく、生きるための重要な道具でもあります。

卵の中で始まる学習

ひよこは、卵から出たあとすぐに歩き、食べ物をつつき、親鳥や仲間の近くにいようとします。これは、哺乳類の赤ちゃんのように長く親に抱かれて育つタイプとは少し違います。

ニワトリのような鳥は、ふ化したあと比較的すぐに動けるため、生まれる前からある程度、外の世界に備えておく必要があります。その準備の一つが、音を聞くことだと考えられます。

卵の中で親鳥の声を聞くことは、ふ化後にどの声へ反応すればよいかを知る手がかりになります。また、周囲の卵の音や振動を感じることは、自分が出ていくタイミングを調整する助けになるかもしれません。

人間でいえば、まだ外に出ていない赤ちゃんが母親の声に慣れていくことに少し似ています。ただし、ひよこの場合は、殻の中という限られた環境で、音や振動を頼りに外の世界を少しずつ学んでいるのです。

まとめ

  • ひよこは卵から出てから鳴き始めるのではなく、ふ化前から声を出すことがある
  • 卵の殻は完全な防音壁ではなく、外の音や振動は中のひよこに届く
  • ふ化の1〜3日前には、ひよこは最初の声を出せるようになる
  • 卵の中のひよこの声に、親鳥が反応することがある
  • ひよこの発声は、親鳥とのやり取りやふ化のタイミング調整に関係する可能性がある
  • 卵の中で聞いた親鳥の声は、ふ化後の行動に影響する可能性がある
  • ひよこの「ピヨピヨ」はかわいいだけでなく、生きるための情報伝達でもある
  • 卵の中では、ひよこが外の世界に出る準備をしながら、すでに周囲と関わり始めている

卵の中は、外から見ると静かで何も起きていないように見えます。しかし、その内側では、ひよこが少しずつ外の世界を感じ取り、生まれる準備を進めています。

小さな「ピヨピヨ」という声にも、ただかわいいだけではない、生き物としての大切な意味が隠れているのです。

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