公園や道端で、スズメの姿を見かけたことがある人は多いでしょう。いつも見慣れている鳥ですが、注意深く観察すると、思いがけない行動に出会うことがあります。
第95回雑学調査レポートでは、そんな「スズメ」に関する雑学をご紹介していきます。
スズメの砂浴びとは?公園の土で見られる不思議な行動
公園や庭の乾いた地面で、スズメが体を低くして、翼や尾を激しく動かしていることがあります。
転んで暴れているようにも見えますが、心配はいりません。これは「砂浴び」と呼ばれる、スズメの羽のお手入れです。
砂浴びをするとき、スズメは乾いた土におなかをつけます。そして、体を左右に傾けながら翼を動かし、細かな砂や土を巻き上げます。
舞い上がった砂は、羽の表面だけでなく、羽と羽の間にも入り込みます。そのため、砂浴び中のスズメは頭から尾まで土まみれになります。

同じ場所で何度も砂浴びが行われると、地面に丸く浅いくぼみが残ることがあります。よく使われる場所では、テニスボールが入りそうな大きさになる場合もあります。
公園や庭で不自然に丸い穴を見つけたら、そこはスズメが使った「お風呂の跡」かもしれません。
スズメは水浴びと砂浴びの両方をする
鳥の入浴と聞くと、水たまりで羽をぬらす姿を思い浮かべる人が多いでしょう。
実際、多くの鳥は浅い水に入り、翼を動かして水を全身にかけます。これが水浴びです。
一方、スズメは水浴びだけでなく、乾いた地面を使う砂浴びも行います。
日本野鳥の会や姫路科学館は、水浴びと砂浴びの両方をするスズメについて、鳥のなかでも珍しい存在だと紹介しています。
スズメの全長は約14.5センチメートルです。日本では小笠原諸島を除く広い地域に分布し、住宅地や公園、農地など、人の生活に近い場所で暮らしています。
水浴びでは浅い水の中に体を沈め、翼を動かして水を浴びます。砂浴びでは乾いた土に体を押しつけ、砂を羽の間に送り込みます。
二つの行動は見た目も使う場所もまったく違います。
ただし、スズメが水浴びと砂浴びをどのように使い分けているのかは、まだ完全には分かっていません。
それぞれに別の役割がある可能性もあれば、いくつかの役割が重なっていることも考えられます。
水場があっても砂浴びをするスズメ
スズメは、水がないから代わりに砂を浴びているのでしょうか。
この疑問を考えるうえで参考になる研究が、2017年の『日本鳥学会誌』に掲載されています。
調査が行われたのは、東京都荒川区にある「あらかわエコセンター」の農園と、その周辺です。
農園の面積は約80平方メートルで、スズメは畑の乾いた土を砂浴び場として利用していました。
当時、農園の周辺にはスズメが水浴びをしやすい浅い水場がありませんでした。そこで研究では、長方形や円形の樹脂製の皿を置き、深さ1~2センチメートルほどの水を入れました。
スズメが水浴びと砂浴びの両方を選べる環境を用意したうえで、その行動を観察したのです。
観察期間は、2014年4~8月と、2015年3~8月でした。
2014年には、水浴びが25件、砂浴びが118件確認されています。2015年には、水浴びが48件、砂浴びが100件確認されました。
2年間の合計は、水浴びが73件、砂浴びが218件です。
近くに水浴び場が用意されていても、砂浴びは数多く行われていました。
この結果から、砂浴びは単なる「水浴びの代わり」ではないと考えられます。スズメにとって、砂浴びには水浴びとは異なる役割があるのでしょう。
水浴びと砂浴びを続けてする場合はどちらが先?
研究では、水浴びと砂浴びを続けて行ったときの順番も調べています。
その結果、多くの事例で、最後に行われたのは砂浴びでした。
2014年は、順番を確認できた19件のうち18件で、最後に砂浴びが行われています。
2015年は、28件のうち24件で、砂浴びが最後でした。
なかには、砂浴びをしたあとに水浴びをし、もう一度砂浴びをするスズメもいました。
研究ではさらに、日本野鳥の会神奈川支部が1976~2010年に記録した観察例も調べています。
水浴びと砂浴びの両方を行った9件のうち、7件は水浴びが先で、砂浴びが後でした。砂浴びが先だったものは1件、残る1件は順番が分かりませんでした。
荒川区での調査と過去の観察記録を合わせると、順番が分かった55件のうち49件で、砂浴びが水浴びより後に行われていました。
割合にすると約89.1%です。

人間の感覚では、体を水で洗った直後に砂まみれになるのは不思議に見えます。しかし、スズメにとっては、この順番に意味があるのかもしれません。
「約89%のスズメが砂浴びを後にする」という意味ではない
約89.1%という数字を見ると、「ほとんどのスズメが水浴びのあとに砂浴びをする」と考えたくなるかもしれません。
しかし、この数字はスズメの個体数を調べたものではありません。観察された行動の件数を数えた数字です。
荒川区の調査では、スズメ一羽ずつに目印を付けて区別していたわけではありません。
そのため、同じスズメが別の日にも訪れ、何度も記録されている可能性があります。
55件の行動が確認されたとしても、55羽の別々のスズメを観察したとは限りません。
したがって、「スズメ全体の約89%が同じ順番で入浴する」とは言えません。
この研究から分かるのは、観察された事例のなかでは、砂浴びを最後に行うケースが多かったということです。
水浴びのあとに砂浴びをするのは体を乾かすため?
研究では、スズメが水浴びのあとに砂浴びをする理由として、ぬれた羽を乾かしている可能性が示されています。
乾いた砂や土が羽の水分を吸収すれば、ぬれた体を乾かしやすくなると考えられます。
人間がぬれた手を乾いたタオルで拭くように、スズメは細かな砂を利用しているのかもしれません。
この考え方なら、スズメが水浴びと砂浴びを何度か繰り返したあと、最後に砂浴びをする理由も説明できます。
水浴びで羽がぬれたあとに乾いた砂を浴びれば、羽に残った水分を減らせる可能性があるからです。
ただし、この研究では、砂浴びの前後で羽の水分量を測定したわけではありません。
確認されたのは、水浴びと砂浴びの順番です。乾燥の効果については、その順番から考えられた仮説にすぎません。
そのため、「スズメは体を乾かすために砂浴びをする」と断定するのは適切ではありません。
現在のところは、「水浴び後の砂浴びが、羽を乾かすのに役立っている可能性がある」と考えるのがよいでしょう。
砂浴びにはダニや汚れを落とす役割もある
砂浴びには、羽を清潔に保つ役割もあると考えられています。
鳥の羽は、空を飛ぶためだけに使われるものではありません。
体温を保ったり、雨や風から体を守ったりする重要な役割があります。羽の状態が悪くなると、保温や水をはじく働きが弱くなる可能性もあります。
羽には、ほこりや汚れが付くことがあります。さらに、ダニなどの外部寄生虫が付着する場合もあります。
日本野鳥の会は、スズメの砂浴びについて、体に付いたダニを砂で取る行動だと説明しています。
姫路科学館も、水浴びや砂浴びには、羽に付いた寄生虫などを落とす目的があると紹介しています。
細かな砂が羽の間に入り込むことで、汚れや寄生虫が外れやすくなるのかもしれません。
砂浴びは、スズメが健康な羽を保つために行う日常的なお手入れの一つと考えられます。

砂浴びには複数の効果がある可能性
砂浴びの目的は、一つだけとは限りません。
汚れを落とす、ダニなどの外部寄生虫を減らす、余分な水分を吸収する、羽の並びを整えるといった複数の働きが考えられます。
水浴びにも、羽に付いた汚れを洗い流す働きがあるでしょう。
それでも水浴びの直後に砂浴びをするスズメが多く観察されているため、二つの行動は同じ役割だけを持っているわけではなさそうです。
水で落としやすい汚れと、砂で取り除きやすい汚れがあるのかもしれません。水浴びで羽を洗ったあと、砂浴びで水分を減らしながら、さらに羽の状態を整えている可能性もあります。
現在の研究だけでは、どの効果がもっとも重要なのかは分かっていません。
スズメ自身が目的に応じて使い分けているのか、決まった流れとして二つの行動を続けているのかも、今後の研究課題です。
スズメの砂浴び跡を見つけるポイント
スズメの砂浴びを観察したいときは、鳥の姿だけでなく、地面にも注目してみましょう。
見つけやすいのは、乾いた細かな土が露出している場所です。
公園の植え込みの近く、庭の一部、畑、花壇の空いている場所などが砂浴び場になることがあります。
地面に丸く浅いくぼみがあり、その周囲に細かな土が飛び散っていたら、スズメが砂浴びをした跡かもしれません。
同じようなくぼみが近くにいくつも並んでいる場合は、複数のスズメが利用している可能性もあります。

実際の砂浴びでは、スズメは地面におなかを付け、翼や尾を素早く動かします。
体を左右に傾けながら砂を巻き上げるため、遠くから見ると、土の中でもがいているように見えるでしょう。
羽や尾を激しく動かしていても、けがをしているとは限りません。少し離れた場所からしばらく観察すると、砂浴びかどうか判断しやすくなります。
砂浴び中のスズメには近づきすぎない
砂浴びをしているスズメに人が近づくと、行動をやめて飛び去ってしまうことがあります。
観察するときは、十分な距離を保つことが大切です。
追いかけたり、砂浴び場のすぐ近くに長時間立ったりするのは避けましょう。
双眼鏡やカメラのズーム機能を使えば、離れた場所からでも翼の動きや飛び散る砂を確認できます。
スズメが急に体を細長く伸ばし、周囲を見回し始めた場合は、人や外敵を警戒している可能性があります。
日本野鳥の会も、体を伸ばす姿を警戒のサインとして紹介しています。特に子育ての時期には追いかけず、遠くから見守るよう呼びかけています。
スズメが何度もこちらを見たり、動きを止めたりしたら、それ以上近づかず、静かに距離を取りましょう。
砂浴びの前後にも注目する
砂浴びを終えたスズメは、近くの枝やフェンスに移動することがあります。
その後、くちばしを使って羽を整えたり、体を震わせて砂を落としたりする姿が見られるかもしれません。
羽を一枚ずつくちばしで手入れする行動は「羽づくろい」と呼ばれます。
砂浴び中の動きだけでなく、その前後まで観察すると、スズメがどのような流れで羽のお手入れをしているのか分かりやすくなります。

水場が近くにある場合は、水浴びをしたあと、砂浴び場へ移動するかどうかにも注目してみましょう。
反対に、砂浴びのあとで水場へ向かう場合や、どちらか一方しか行わない場合もあります。
行動を決めつけず、実際の順番を記録してみると、研究観察のような楽しみ方ができます。
すべてのスズメが同じ行動をするわけではない
「水浴びのあとに砂浴びをすることが多い」という研究結果は、とても興味深いものです。
ただし、すべてのスズメが必ず同じ順番で行動するわけではありません。
東京都荒川区で行われた調査は、一つの農園とその周辺を対象にしています。
地域が変われば、気温や湿度、土の状態、水場の数なども変わります。
季節によっても、羽のぬれ方や土の乾き方は違うでしょう。水浴び場と砂浴び場の距離、砂の粒の細かさ、個体の年齢や体調などが行動に影響する可能性もあります。
同じスズメでも、その日の天候や羽の状態によって行動が変わるかもしれません。
研究論文でも、調査地域や観察した個体が限られていることが課題として挙げられています。
水浴び後に砂浴びをする傾向が、広い地域のスズメに共通するのかを確かめるには、別の地域や異なる条件での調査が必要です。
身近なスズメを観察するときも、「必ず水浴びのあとに砂浴びをする」と決めつけないことが大切です。
水浴びだけをするスズメ、砂浴びだけをするスズメ、二つを何度か繰り返すスズメなど、さまざまな行動が見つかる可能性があります。
まとめ
- スズメは水浴びだけでなく、乾いた土に体をこすりつける砂浴びも行う
- 水場が近くにあっても砂浴びをするため、砂浴びは水浴びの代わりではない
- 観察では、水浴びと砂浴びを続けて行った55件のうち49件で砂浴びが後だった
- 約89.1%という数字は、スズメ全体の割合ではなく、観察された行動件数の割合である
- 水浴び後の砂浴びには、ぬれた羽を乾かす働きがある可能性が考えられている
- 砂浴びには、羽の汚れやダニなどを落とし、羽を良好な状態に保つ役割もある
- 砂浴びの目的は完全には解明されておらず、乾燥や寄生虫対策など複数の働きがある可能性が高い
- すべてのスズメが同じ順番で行動するとは限らず、地域や季節、個体による違いも考えられる
いつも見慣れているスズメも、じっくり観察すると意外な姿を見せてくれます。地面に残された小さなくぼみは、知られざる日常を教えてくれる手がかりになるでしょう。

