黒い車、黒い屋根、黒いアスファルトは、日なたで熱くなることで知られています。では、黒い服も同じように、着ている人の体を必ず熱くするのでしょうか。
第91回雑学調査レポートでは、そんな「黒」に関する雑学をご紹介していきます。
黒い服の表面が熱くなりやすいのは本当
夏の日なたで黒いTシャツを着ていると、服の表面が熱くなったと感じることがあります。これは気のせいではありません。黒い服は、白い服よりも太陽光を吸収しやすいからです。
私たちが物の色を見分けられるのは、物の表面で反射した光が目に届くためです。赤い物は赤く見える光を多く反射し、青い物は青く見える光を多く反射します。
白い物はさまざまな色の光を広く反射しますが、黒い物は多くの光を吸収します。光を吸収すると、そのエネルギーの一部が熱に変わります。そのため、素材や形が同じであれば、一般的には黒い布のほうが白い布よりも表面温度が上がりやすくなります。

NASAも、黒い舗装面は太陽光を多く吸収し、明るい色のコンクリートは光をより多く反射すると説明しています。
ただし、太陽光には目で見える光だけでなく、近赤外線などの見えない光も含まれています。服がどれくらい熱くなるかは、見た目の色だけでは決まりません。
2024年に発表された研究では、服の表面温度は、可視光だけでなく近赤外線をどの程度反射するかによっても変わることが示されました。つまり、同じ黒い服でも、染料、繊維、織り方、厚さ、表面の光沢などによって熱くなり方は異なります。
黒く見える服が、すべて同じ量の太陽光を吸収するわけではありません。
砂漠では黒いローブが着られている
黒い布が太陽光を吸収しやすいのであれば、強い日差しが降り注ぐ砂漠では、白い服のほうが快適に思えます。
ところが、中東や北アフリカの砂漠地帯で暮らしてきたベドウィンの一部には、黒くて長いローブを着る文化があります。「砂漠で黒い服を着たら、体まで熱くなるのではないか」と疑問に思う人もいるでしょう。
この疑問を調べた研究が、1980年に科学誌『Nature』へ掲載された「Why do Bedouins wear black robes in hot deserts?」です。
研究者たちは、砂漠の強い日差しの下で黒いローブと白いローブを使い、服と人の体の間で熱がどのように移動するかを比較しました。
黒いローブは白いローブより多くの熱を吸収した
実験では、黒いローブのほうが白いローブよりも多くの日射エネルギーを吸収しました。黒い布の表面が熱くなりやすいという点では、一般的なイメージどおりです。
ところが、ローブを着た人の体が最終的に受け取った熱には、黒と白で明確な差が確認されませんでした。黒いローブが多く吸収した熱は、そのまま皮膚へ届いていたわけではありません。皮膚へ到達する前に、服の外側へ失われていたと報告されています。
ここで注意したいのは、黒い服が白い服より涼しいと証明されたわけではないことです。
この研究から分かるのは、砂漠という環境で、体から離れたゆったりしたローブを着た場合には、黒い布が余分に吸収した熱が、そのまま体の負担にはならなかったということです。
黒いTシャツや黒いスキニーパンツにも、同じことが起こるとは限りません。

服の表面温度と体の暑さは同じではない
服の表面が熱くなっていても、その熱がすべて皮膚へ移動するわけではありません。
たとえば、熱いフライパンに直接触れれば、熱はすぐに手へ伝わります。しかし、フライパンから手を離していれば、同じ速さでは熱が伝わりません。衣服でも同じように、布と皮膚の距離が重要になります。
ベドウィンの伝統的なローブは、一般的なTシャツのように肌へ密着していません。体を広く覆いながら、布と皮膚の間に大きな空間を保てる形になっています。
布が皮膚から離れていれば、太陽光で温められた布の熱が直接皮膚へ伝わりにくくなります。そのため、ローブの外側が熱くなっていても、皮膚や体温が同じように上昇するとは限りません。

ゆったりしたローブの中では空気が動く
ローブと皮膚の間には、空気が入る空間があります。風が吹いたり、歩いたときに布が揺れたりすると、服の内側の空気が入れ替わります。
温められた空気が外へ出て、代わりに別の空気が裾や袖などから入れば、服の内側に熱がこもりにくくなります。また、温かい空気は上へ移動する性質があります。ローブの内側で温められた空気が上昇し、首元や袖口などから外へ出る可能性もあります。
このような空気の流れは「対流」と呼ばれます。黒い布が日射を多く吸収して温まっても、その熱を持った空気が外へ逃げれば、熱のすべてが皮膚へ移動するわけではありません。
ただし、1980年の研究で直接確認された中心的な結果は、黒いローブが余分に吸収した熱が皮膚へ届く前に失われていたという点です。黒いローブを着れば、どのような状況でも強い上昇気流が発生するという意味ではありません。
服の中の空気がどの程度動くかは、風の強さ、服の形、開口部の大きさ、歩き方、布の動きなどによって変わります。風がなく、服の開口部もふさがれている場合には、ゆったりした服でも熱がこもることがあります。
ベトナムの黒いアオザイでも似た現象が調べられた
ベトナムの民族衣装であるアオザイを使った研究でも、黒い服と白い服の違いが調べられています。この実験には8人の若い女性が参加しました。
実験環境の気温は約39度で、黒球温度は約52度に達していました。黒球温度とは、気温だけでなく、日差しや地面からの照り返しなども含めて暑さを表す数値です。
参加者は日なたでの歩行と、日陰での休憩を繰り返しました。黒いアオザイでは、胸の部分で測った服の表面温度と、布の内側の温度が、白いアオザイよりも高くなりました。ここまでは、黒い服が光を吸収しやすいという説明と一致します。
ところが、体の内部の温度を示す直腸温、心拍数、胸部の衣服内温度は、黒いアオザイを着た場合のほうが低いという結果でした。
研究者は、黒い布の外側と内側に大きな温度差が生まれたことで、皮膚と服の間の換気が活発になった可能性を挙げています。

ただし、この実験は8人の若い女性を対象に、特定の形をしたアオザイで行われたものです。この結果だけを見て、黒い服なら何でも白い服より体温を下げられると考えることはできません。
ベドウィンのローブとアオザイの研究に共通しているのは、服の表面温度だけを見ても、着ている人がどれくらい暑くなるかは判断できないという点です。
黒いTシャツでは同じ効果を期待しにくい
砂漠の黒いローブに関する研究結果を、普段着ている黒いTシャツへそのまま当てはめることはできません。大きな違いは、布と皮膚の距離です。
体にぴったり合った黒いTシャツでは、太陽光で温められた布が皮膚のすぐ近くにあります。布と肌の間に空気が流れる空間も少ないため、布の熱が皮膚へ伝わりやすくなります。
さらに、汗を吸ったTシャツが肌へ張り付くと、布と皮膚の距離はほとんどなくなります。服の中の空気も動きにくくなるため、ゆったりしたローブのような換気は期待しにくくなります。
同じ黒い服であっても、密着したTシャツと大きなローブでは、熱の伝わり方が大きく異なるのです。
日本の蒸し暑さでは汗が乾きにくい
環境の湿度も、服の暑さを大きく左右します。
人は汗をかくことで体温を下げています。ただし、汗をかくだけで体が冷えるわけではありません。汗が皮膚の上で蒸発するときに、体から熱を奪うことで冷却効果が生まれます。
空気が乾燥していれば、汗は比較的蒸発しやすくなります。砂漠は気温が高くても湿度が低いことがあり、汗による冷却が働きやすい環境です。
一方、日本の夏は気温だけでなく湿度も高くなることがあります。空気中に多くの水分が含まれていると、汗は蒸発しにくくなります。汗が皮膚や服に残り、体の熱をうまく逃がせなくなるのです。
汗で濡れた服が肌へ張り付けば、服の内側の換気も悪くなります。砂漠で機能した衣服の仕組みが、日本の蒸し暑い都市でも同じように働くとは限りません。
黒い服の暑さを左右する5つのポイント

服と肌の間に空間があるか
ゆったりした服では、布と肌の間に空気の層ができます。布が太陽光を吸収して熱くなっても、皮膚から離れていれば、熱が直接伝わりにくくなります。
さらに、服の内側で空気が動けば、温められた空気を外へ逃がせます。反対に、肌へ密着する服では、布の熱が皮膚へ伝わりやすくなります。
特に、汗で服が肌へ張り付いた状態では、ローブのような効果は期待できません。
空気を通しやすい生地か
風をほとんど通さない生地では、服の中に熱と湿気がこもりやすくなります。ある程度空気を通す生地なら、温められた空気や汗の水分が外へ逃げやすくなります。
ただし、通気性が高ければ高いほどよいとは限りません。生地の目が粗すぎると、太陽光が布を通り抜け、皮膚へ直接届く可能性があります。
夏の服では、風を通すことと、強い日差しを遮ることの両方が必要です。
生地が薄すぎないか
薄い服は涼しそうに見えますが、生地によっては強い日差しを内側まで通します。適度な厚さがあり、光を通しにくい服は、太陽から受ける放射熱を皮膚から遠ざける役割を持っています。
一方で、生地が厚すぎたり、空気を通さなかったりすると、体から出た熱や湿気を閉じ込めてしまいます。厚い服ほど涼しいわけではありません。
日差しを遮りながら、熱や湿気を外へ逃がせることが重要です。
風や服の動きがあるか
服の表面付近には、温められた空気の層ができます。風が当たると、その空気が周囲の空気と入れ替わり、熱が外へ運ばれます。
2024年の衣服表面温度に関する実験では、無風に近い状態では白い服と黒い服に表面温度の差が見られました。ところが、風速が毎秒約3メートルになると、その差はほぼ見られなくなりました。
毎秒3メートルは、髪や服が継続的に揺れる程度の風です。この結果からも、服の色による温度差は、風の強さによって変わることが分かります。
風がなく、服もほとんど動かない場所では、黒いローブと同じような放熱効果が得られない場合があります。
気温と湿度がどれくらい高いか
乾燥した環境では、汗が蒸発しやすくなります。汗が蒸発するときには体の熱が奪われるため、体温を下げる助けになります。
高温多湿の環境では、汗が蒸発せず、皮膚や服に残りやすくなります。服が濡れて肌へ張り付けば、服の中の空気も動きにくくなります。
黒い服が快適かどうかは、服そのものだけでなく、着る場所の気温と湿度にも左右されます。
夏に黒い服を選ぶときの見方
夏に黒い服を着る場合は、色だけで判断せず、服の形や生地を確認することが大切です。
体に密着しすぎず、首元、脇、背中、裾などに適度な余裕がある服は、内側に空気が入りやすくなります。歩いたときや風を受けたときに布が動く形であれば、温められた空気を外へ逃がしやすくなります。
生地の通気性や速乾性も重要です。汗を吸ったまま乾きにくい服では、布が肌へ張り付きやすくなります。水分を広げて素早く乾かせる生地なら、汗による不快感や張り付きを軽減しやすくなります。
ただし、「吸汗速乾」と表示されていても、服が体に密着していたり、風がまったくなかったりすると、十分に乾かないことがあります。
長袖が半袖より快適な場合もある
強い直射日光の下では、肌を多く出せば必ず涼しくなるとは限りません。
肌へ直接日光が当たると、皮膚が太陽からの放射熱を受けます。日焼けの原因になる紫外線も直接届きます。
通気性があり、体に密着しない長袖の服には、皮膚へ届く日差しを減らす働きがあります。そのため、日なたで長時間活動する場合には、ゆったりした長袖のほうが快適に感じられることもあります。
ただし、厚くて風を通さない長袖では、体の熱がこもる可能性があります。袖の長さだけでなく、服のゆとり、通気性、遮光性を合わせて見る必要があります。

猛暑の日は明るく軽い服が基本
砂漠の黒いローブに関する研究は興味深いものですが、猛暑対策として積極的に黒い服を選ぶ必要はありません。
米国疾病予防管理センターは、極端に暑い日には、ゆったりした、軽量で明るい色の衣服を着るよう勧めています。明るい色の服は、一般的に黒い服よりも太陽光を反射しやすいためです。
特に、普段のTシャツやスポーツウェアのように肌へ近い服では、表面が熱くなりにくい色を選ぶことに意味があります。黒い服を着る場合には、ぴったりした厚手の服を避け、風が通るゆったりした形を選ぶほうがよいでしょう。
服の色だけでは熱中症を防げない
服装は暑さ対策の一部ですが、服を選ぶだけで熱中症を防げるわけではありません。
帽子や日傘を使い、できるだけ直射日光を避けることが重要です。外を歩くときは日陰を選び、長時間の活動では定期的に冷房の効いた場所で休憩します。
喉が渇く前に水分を取り、大量に汗をかいた場合には塩分も適切に補給します。寝不足、体調不良、飲酒後などは、暑さへの対応力が低下することがあります。気温や湿度が高い日は、活動時間を短くする判断も必要です。
黒い服の表面が熱くなることと、着ている人の体温が上がることは、必ずしも同じではありません。しかし、服の形や風、湿度などの条件がそろわなければ、砂漠のローブで見られた仕組みは働きにくくなります。
夏の服は、色だけでなく、肌との距離、通気性、乾きやすさ、日差しの通しにくさを組み合わせて選ぶことが大切です。
まとめ
- 黒い服は白い服より太陽光を吸収しやすく、表面温度が上がりやすい
- 服の熱くなり方は色だけでなく、染料・繊維・厚さ・近赤外線の反射率にも左右される
- 砂漠の黒いローブは白いローブより多くの熱を吸収しても、体が受け取る熱には明確な差がなかった
- 黒いローブが吸収した余分な熱は、皮膚へ届く前に服の外側へ失われていた
- 布と肌の間に空間があり、内側の空気が動くことが体への熱の伝わり方を左右する
- 肌に密着する黒いTシャツでは、ゆったりしたローブと同じ効果は期待しにくい
- 日本の高温多湿な環境では汗が蒸発しにくく、衣服内の熱や湿気がこもりやすい
- 夏の服は色だけでなく、ゆとり・通気性・速乾性・遮光性を合わせて選ぶ必要がある
- 猛暑の日は、ゆったりした軽量で明るい色の服を基本にする
- 服装だけでは熱中症を防げないため、日差しを避け、休憩と水分補給を行う必要がある
黒い服の表面が熱くなりやすいのは事実ですが、それだけで着ている人の体まで同じように熱くなるとは限りません。服と肌の距離、風の通り方、生地の性質、気温や湿度などによって、体が受ける暑さは変わります。
夏の服を選ぶときは、色だけを見るのではなく、服全体のつくりを確認することが大切です。
参考文献
- Nature「Why do Bedouins wear black robes in hot deserts?」
- NASA Science「Wave Behaviors」
- PubMed「The different effects of black and white Vietnamese Aodai folk costumes on rectal temperature and heart rate in women walking intermittently in hot and sunny environment」
- PubMed「Clothing color effect as a target of the smallest scale climate change adaptation」
- Centers for Disease Control and Prevention「Protect Yourself From the Dangers of Extreme Heat」

