地球の中心は地表より2年半ほど若い!?【頭と足でも時間の進み方は違う】

地球の半径は約6400キロメートルあります。私たちが暮らしているのは、その大きな天体のほんの表面にすぎません。

では、足元のはるか先には、どのような世界が広がっているのでしょうか。

第75回雑学調査レポートでは、そんな「地球」に関する雑学をご紹介していきます。

地球の中心では時間がわずかに遅く進む

私たちは通常、地球上のどこにいても時間は同じ速さで進んでいると考えます。東京で1秒が経過すれば、富士山の頂上でも、海の底でも、地球の中心でも同じ1秒が経過するように思えます。

しかし、アインシュタインが発表した一般相対性理論によると、時間の進む速さは場所によって少しずつ異なります。

重力ポテンシャルが低い場所では、高い場所と比べて時間がわずかに遅く進みます。反対に、重力の影響が比較的小さい場所では、時間が少し速く進みます。この現象は「重力による時間の遅れ」や「重力時間遅延」と呼ばれています。

この考えを地球全体に当てはめると、地球の中心付近では、地表よりも時間が遅く進んでいることになります。

デンマークの研究者らが2016年に発表した論文では、地球が誕生してから現在までの時間を考えると、地球の中心で経過した時間は、地表で経過した時間より約2年半短いと計算されています。つまり、相対性理論に基づく時間の経過という意味では、地球の中心は地表より約2年半「若い」のです。

「地球の中心が若い」とはどういう意味なのか

ここでいう「若い」は、地球の中心が地表より2年半遅れて誕生したという意味ではありません。

地球の中心を作っている物質だけが、後から宇宙に現れたわけでもありません。また、地球の中心にある鉄やニッケルが、地表の岩石より新しい物質だという意味でもありません。

「若い」という表現は、時計が記録する経過時間が少ないという意味です。

仮に、地球が誕生したころに次の二つの非常に正確な時計を用意したとします。

一つを地表に置き、もう一つを地球の中心に置きます。そして、約45億年後に二つの時計を比べます。

研究による計算では、地球の中心に置いた時計は、地表の時計より約2年半少ない経過時間を示すことになります。中心の時計が故障したわけではありません。中心に置かれた時計が刻む時間そのものが、地表の時計よりわずかに少ないのです。

もちろん、地球が形成された当時から動き続ける時計を地球の中心に置くことはできません。そのため、約2年半という数字は、一般相対性理論と地球の重力に関するモデルを使って求めた計算上の値です。

重力ポテンシャルが低い場所では時間が遅れる

アインシュタインの一般相対性理論では、重力は単に物体を下へ引っ張る力として説明されるものではありません。

質量を持つ物体が存在すると、その周囲の空間と時間がゆがみます。地球のような大きな天体は質量が非常に大きいため、その周囲の「時空」をゆがめています。

この時空のゆがみが、私たちには重力として現れます。

そして、重力ポテンシャルが低い場所にある時計は、高い場所にある時計と比べて遅く進みます。

たとえば、高い山の頂上にある時計は、海面近くにある時計よりも、ほんの少し速く進みます。山の頂上は地球の中心から遠く、地球の重力による影響がわずかに小さいからです。

アメリカ国立標準技術研究所の説明によると、地表付近で高さが1キロメートル違う二つの時計を比べた場合、高い場所にある時計は100万年間で約3秒多く進みます。日常生活では気づけないほど小さな差ですが、非常に正確な原子時計を使えば測定できます。

地球の中心では重力が打ち消し合う

地球を球対称な天体として考えると、その中心では各方向からの引力が打ち消し合い、重力による加速度はゼロになります。

地球の中心に人がいると仮定すると、その人はあらゆる方向から地球の物質に引っ張られます。

頭の方向にある物質からは頭の方向へ引っ張られ、足の方向にある物質からは足の方向へ引っ張られます。右側や左側、前側や後ろ側からも同じように引っ張られます。

地球の中心では、これらの引力が互いに打ち消し合います。そのため、重力によって特定の方向へ加速されることはありません。

ここで、一つの疑問が生まれます。

重力が強い場所ほど時間が遅れるのであれば、重力の力がゼロになる地球の中心では、時間が速く進むのではないでしょうか。

しかし、実際には地球の中心の時間は地表より遅く進みます。

この疑問を解くためには、「その場所で感じる重力の強さ」と「重力ポテンシャル」を分けて考える必要があります。

時間の速さを決めるのは重力の力だけではない

地球の中心では、周囲から引っ張られる力が打ち消し合っています。しかし、地球の重力から抜け出しやすい場所になっているわけではありません。

むしろ地球の中心は、地球の重力が作る深い「くぼみ」の一番底に当たります。

重力による環境を、谷に置き換えて考えてみます。

谷の底に立っている人には、真横へ引っ張る力がほとんど働いていないかもしれません。しかし、谷の外へ出るためには、高い場所まで登らなければなりません。

地球の中心も同じです。

中心では上下左右からの力がつり合っているため、特定の方向へ引っ張られる力はありません。それでも、地球の外へ移動するためには、地球全体の重力に逆らって非常に大きなエネルギーを使う必要があります。

このような、重力による位置の深さを表す考え方が「重力ポテンシャル」です。

地球の中心は、地表よりも重力ポテンシャルが低い場所です。一般相対性理論では、重力ポテンシャルが低い場所ほど時間が遅く進みます。

そのため、地球の中心では感じる重力の力がゼロであっても、時間は地表より遅く進むのです。

「重力が強いほど時間が遅れる」という説明は理解しやすい一方で、厳密には「より深い重力ポテンシャルにある時計ほど遅く進む」と考えたほうが正確です。

1日当たりの差は約48マイクロ秒

地球の中心と地表の時間差は、短い期間では非常に小さなものです。

地球の年齢は、放射性元素を使った年代測定などから約45億4000万年と推定されています。アメリカ地質調査所は、地球の年齢を約45億4000万年、誤差を約5000万年と説明しています。

約45億4000万年で2年半の差が生まれたとすると、単純に平均した時間差は次のようになります。

1年間では、約0.017秒です。

100年間では、約1.7秒です。

1日では、約0.000048秒です。

0.000048秒は、約48マイクロ秒に相当します。1マイクロ秒は100万分の1秒です。

地球の中心と地表に時計を置き、現在と同程度の時間差が100年間続いたと仮定しても、二つの時計の差は2秒に満たない計算になります。

そのため、中心にいる人だけがいつまでも若く見えたり、地表の人と世代がずれたりするわけではありません。

ところが、地球の約45億年という非常に長い歴史を通して差が積み重なると、合計は約2年半になります。

1日ごとの差はほんの一瞬でも、それが何十億年も続けば、人間の感覚でも理解できる長さになるのです。

時間の遅れは実験で確かめられている

地球の中心と地表の時計を直接比べる実験は行われていません。しかし、重力によって時計の進み方が変化すること自体は、さまざまな実験で確認されています。

特に重要なのが原子時計です。

一般的な時計は、振り子や水晶の振動を利用して時間を測ります。原子時計は、原子が特定の状態へ移るときに生じる、非常に安定した周波数を基準に時間を測ります。

原子の変化は非常に安定しているため、原子時計は普通の時計よりはるかに正確です。

2010年には、アメリカ国立標準技術研究所などの研究者が、わずかな高さの違いによって二つの光原子時計の進み方が変化することを測定しました。研究では、1メートル未満の高さの変化による時間のずれが観測されています。

さらに『NIST』は、約30センチメートルの高さの違いでも時計の進み方に差が現れることや、その後の技術ではさらに小さな高低差による影響を調べられるようになったと説明しています。

これらの実験は、重力による時間の遅れが、計算上だけの不思議な考えではないことを示しています。

頭と足でも時間の進み方が違う

重力による時間の遅れは、山の頂上と海面のように大きく離れた場所だけで起こるわけではありません。

立っている人の頭と足の間でも起こっています

頭は足よりも地球の中心から遠くにあります。そのため、頭の位置は足の位置よりも重力ポテンシャルがわずかに高くなります。

その結果、頭の位置では足の位置よりも時間がほんの少し速く進みます。

ただし、人間の一生で積み重なる差は極めて小さく、体の変化や老化に影響するほどではありません。

頭だけが足より目に見えて早く老化することもありません。

それでも、十分に精密な時計を使えば、その差を物理現象として測定できます。私たちは普段まったく気づかないまま、体の場所ごとにわずかに異なる速さの時間を経験しているのです。

高い階に住む人はわずかに速く年を取る

高層マンションの最上階に住む人は、1階に住む人よりも地球の中心から少し遠い場所にいます。

そのため、最上階に置いた時計は、1階に置いた時計よりほんの少し速く進みます。

同じ理由で、高い山に長期間滞在する人は海面近くにいる人よりも、重力による効果だけを考えれば、わずかに速く年を取ります。

ただし、実際の時間の進み方には移動速度も関係します。

アインシュタインの特殊相対性理論では、速く移動する物体ほど時間が遅く進みます。飛行機に乗った場合は、高い場所に移動することで時計を速める効果と、高速で移動することで時計を遅らせる効果が同時に発生します。

どちらの効果が大きいかは、高度、速度、移動方向、飛行時間などによって変わります。

GPSにも相対性理論が使われている

重力による時間の遅れは、現在の生活を支えるGPSにも関係しています。

GPS衛星には非常に正確な原子時計が搭載されています。衛星は地表から約2万キロメートル上空を飛んでいるため、地表より地球の重力の影響が小さい場所にあります。

重力の影響だけを考えると、GPS衛星の時計は地上の時計より1日当たり約45マイクロ秒速く進みます。

一方、GPS衛星は非常に速い速度で地球の周囲を移動しています。特殊相対性理論によると、速く移動する時計は遅く進みます。この効果によって、GPS衛星の時計は地上の時計より1日当たり約7マイクロ秒遅くなります。

二つの効果を合わせると、GPS衛星の時計は地上の時計より1日当たり約38マイクロ秒速く進みます。

このずれを修正しなければ、GPSが計算する位置は少しずつ不正確になります。

GPSでは、衛星から送られてくる電波が届くまでの時間を利用して距離を計算します。電波は光と同じ速さで進むため、わずかな時間の誤差でも距離の大きな誤差につながります。

つまり、スマートフォンの地図に現在地が表示される仕組みの中でも、重力による時間の遅れが計算に入れられています

約2年半という数字が計算された経緯

地球の中心が地表より若いという考えは、物理学者リチャード・ファインマンも講演で取り上げていました。

その講演を記録した文章では、地球の中心と地表の時間差について「1日か2日程度」という数字が紹介されていました。

しかし、2016年に発表された論文「The young centre of the Earth」の研究者たちは、この数字を改めて計算しました。

簡単な概算を行っただけでも、差は数日ではなく数年になることが分かりました。さらに地球内部の状態を考慮した詳しい計算を行った結果、約2年半という値が得られました。

有名な科学者が述べた数字であっても、そのまま正しいと決めつけず、計算によって確かめることが重要だと論文は指摘しています。

この雑学は、一般相対性理論の不思議さだけでなく、科学では権威のある人物の発言よりも、観測、計算、検証が重視されることも示しています。

約2年半は完全に固定された数字ではない

地球の中心と地表の時間差を「正確に2年6か月」と断定することはできません。

地球は誕生した瞬間から、現在とまったく同じ大きさ、密度、内部構造を持っていたわけではないからです。

誕生直後の地球は非常に高温で、ほかの天体との衝突も繰り返していました。時間が経過する中で、重い鉄などが中心部へ沈み、軽い物質が外側へ移動したと考えられています。

地球の質量の分布や半径が変われば、中心と地表の重力ポテンシャルの差も変わります。

また、地球の年齢そのものにも測定上の幅があります。

そのため、約2年半という数字は、一般相対性理論と地球のモデルを使って得られた代表的な推定値として理解する必要があります。

重要なのは、差が正確に何日何時間であるかということより、地球の中心と地表では経過する時間が同じではなく、その差が地球の歴史全体では年単位に達するという点です。

まとめ

  • 地球の中心では、地表よりも時間がわずかに遅く進む
  • 地球誕生からの時間差を積み重ねると、中心は地表より約2年半若い
  • 「若い」とは誕生時期ではなく、経過した時間が約2年半少ないという意味
  • 時間の進み方を決めるのは、重力の強さではなく重力ポテンシャルの深さ
  • 地球の中心では引力が打ち消し合うため重力はほぼゼロだが、時間は地表より遅い
  • 中心と地表の時間差は、平均すると1日当たり約48マイクロ秒
  • 重力による時間の遅れは、精密な原子時計を使った実験で確認されている
  • 頭と足、高層階と低層階でも、時間の進み方にはごくわずかな差がある
  • GPSは相対性理論による衛星時計のずれを修正することで、正確な位置を計算している
  • 約2年半という値は地球のモデルに基づく推定値で、完全に固定された数字ではない

いつも同じように流れているように感じる時間も、地球という大きな視点で見ると、場所によってわずかに異なっています。

普段何気なく立っている足元にも、私たちの感覚だけでは気づけない物理の世界が広がっているのです。

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