昔のサッカーゴールには「クロスバー」がなかった!?【どの高さでもゴールになる】

サッカーは世界中で親しまれているスポーツですが、その形は長い時間をかけて少しずつ整えられてきました。今では当然のように見えるものでも、昔の試合ではまったく違う扱いをされていたことがあります。

第64回雑学調査レポートでは、そんな「サッカー」に関する雑学の第2弾をご紹介していきます。

目次

1863年のゴールは「2本の柱」だけだった

現在のサッカーでは、ゴールは2本のゴールポストと、その上を結ぶクロスバーでできています。ボール全体がゴールラインを越え、ゴールポストの間、かつクロスバーの下を通ったときに得点になります。現在の競技規則でも、ゴールポスト間は7.32メートル、クロスバーの下端から地面までは2.44メートルと定められています。

ところが、サッカーのルールが初めて本格的にまとめられた1863年の時点では、ゴールにクロスバーはありませんでした。イングランドで作られた初期の競技規則では、ゴールは「8ヤード離れた2本の直立した柱」で示されるだけで、その間にテープやバーを渡さないと明記されていました。

つまり、当時のゴールは現在のような長方形ではなく、上が開いた門のような形でした。今の感覚で見ると、かなり不思議な構造です。

ボールがどれだけ高く飛んでもゴールになった

さらに驚くべきことに、1863年のルールでは、ボールが2本のゴールポストの間、またはその上方の空間を通れば、どの高さでもゴールになるとされていました。もちろん、手で投げる、たたく、運ぶといった形でなければ、という条件はありました。

これは、現在のサッカーとはまったく違う考え方です。現代なら、クロスバーの上を越えたシュートは「枠外」です。しかし、初期のサッカーでは、ポストの間の空間を上へ延長したように考えられていたため、高く蹴り上げたボールでも得点として認められる可能性がありました。

このルールだと、低く正確に狙うシュートだけでなく、高く蹴り上げるプレーにも得点の可能性がありました。現在のように「クロスバーぎりぎりを狙う」「バーに当たって跳ね返る」といった場面は、そもそも存在しなかったのです。

なぜ最初はクロスバーがなかったのか

19世紀半ばのイギリスでは、地域や学校、クラブごとにさまざまな「フットボール」が行われていました。ある場所では手を使うことが認められ、別の場所では足で蹴ることが中心でした。ルールは今のように全国で統一されておらず、試合をするたびに「どのルールで行うのか」が問題になりました。

『FIFA Museum』によると、当時のフットボールは地域ごとの慣習に強く依存しており、移動手段の発達によって別の地域のチーム同士が対戦する機会が増えると、統一ルールの必要性が高まっていきました。

その流れの中で、1863年にロンドンのフリーメイソンズ・タヴァーンで会合が開かれ、The Football Association、つまりイングランドサッカー協会が設立されました。『FIFA』は、この会合で標準化されたルールを作ろうとしたことが、サッカーの発展に大きな役割を果たしたと説明しています。

つまり、初期のルールは「現代サッカーの完成形」ではなく、ばらばらだったフットボールを一つの競技としてまとめ始めた段階のものだったのです。クロスバーがなかったのも、今から見ると奇妙ですが、当時はまだゴールの形や得点の考え方が固定されきっていなかったためだと考えられます。

1866年に「テープ」が登場した

クロスバーそのものがすぐに導入されたわけではありません。まず登場したのは、木や金属のバーではなく、ゴールポストの間に張る「テープ」でした。

1866年の競技規則では、ゴールは8ヤード離れた2本の柱とされ、その間に地面から8フィートの高さでテープを張ることになりました。また、得点はボールがゴールポストの間を通り、かつテープの下を通った場合に認められる形へ変わりました。

ここで、現在のゴールにかなり近い考え方が生まれました。横幅は8ヤード、つまり約7.32メートル、高さは8フィート、つまり約2.44メートルです。これは現在のゴールの寸法と同じです。

ただし、この時点ではまだ「硬いクロスバー」ではありませんでした。あくまでテープです。風で揺れたり、張り方によって高さが微妙に変わったりする可能性があり、現在のような安定したゴール枠とは違っていました。

「テープの下を通ったか」を判定する難しさ

テープの導入は、得点の判定を明確にするための大きな前進でした。どれだけ高くてもゴールになる時代に比べれば、ゴールの高さに上限ができたからです。

しかし、テープには別の問題がありました。たとえば、強いシュートがテープ付近を通ったとき、ボールが本当にテープの下を通ったのか、それとも上を通ったのかを正確に判断するのは簡単ではありません。現在のような映像判定やゴールライン・テクノロジーは、もちろんありませんでした。

また、テープは固定された木製バーと違って、たわんだり動いたりします。試合中の風、張り具合、取り付け方によって、見え方や高さが変わることも考えられます。そうなると、ゴールかどうかをめぐる争いは完全にはなくなりませんでした。

この問題を解決するためには、上限を示すだけでなく、物理的にしっかり固定された横木が必要でした。それが、現在のクロスバーにつながっていきます。

1875年に「バー」がルール上認められた

1875年の競技規則では、ゴールに「テープまたはバー」を使う考え方が入ってきます。『Wikisource』に掲載されている当時の競技規則の変更点では、クイーンズ・パークFCの提案として、テープに加えてバーを認める内容が示されています。

ここで重要なのは、いきなり全試合でクロスバーが義務化されたわけではない点です。最初は、テープの代わりにバーを使うことが認められた段階でした。

それでも、この変更は大きな意味を持っていました。テープは「線を示すもの」でしたが、バーは「実際にボールを跳ね返すもの」です。バーがあることで、現在のサッカーでよく見る「クロスバー直撃」「バーに当たってノーゴール」「バーの下に当たって入ったかどうか」という場面が生まれます。

つまり、クロスバーの登場は、単なる道具の変更ではありませんでした。シュートの狙い方、ゴールキーパーの守り方、得点判定の感覚そのものを変える変更だったのです。

クロスバーは「枠内シュート」という概念を強くした

クロスバーがなかった時代には、ゴールは上に開いていました。ボールを高く蹴っても、ポストの間を通れば得点になり得ました。そこでは、今ほど「枠の中に収める」という考え方は強くありませんでした。

しかし、テープが張られ、さらにクロスバーが使われるようになると、ゴールは明確な長方形になります。選手は横幅だけでなく、高さも意識してシュートを打たなければならなくなりました。

この変化によって、シュート技術の意味も変わりました。強く蹴るだけでなく、低く抑える、隅を狙う、ゴールキーパーの届かない高さに正確に蹴る、といった技術がより重要になります。

現在よく使われる「枠内シュート」という言葉も、クロスバーがあってこそ成立する感覚です。ゴールに明確な上限があるからこそ、「枠の中」「枠の外」という考え方が自然に生まれるのです。

現代ではロープや柔らかい素材で代用できない

現在の競技規則では、クロスバーはゴールの一部として厳格に定められています。『The FA』が掲載しているIFAB競技規則では、ゴールは2本の垂直なポストと水平なクロスバーで構成されると説明されています。また、クロスバーが外れたり壊れたりした場合、修理または交換されるまでプレーは停止されます。修理できなければ試合は中止され、ロープや柔軟な素材、危険な素材でクロスバーを代用することは認められていません。

これは、初期のサッカーで使われた「テープ」とは正反対の考え方です。現在のサッカーでは、ゴールの形が正確で安全であることが、試合を成立させる前提になっています。

ゴールの形が少しでも不安定だと、得点判定だけでなく選手の安全にも関わります。特にクロスバーは、ボールが当たるだけでなく、ゴールキーパーや選手が接触する可能性もある部分です。そのため、素材や固定、安全性まで細かく規定されています。

まとめ

  • 1863年の初期サッカーでは、ゴールは2本の柱だけでクロスバーがなかった
  • 当時はボールがポストの間や上方を通れば、高さに関係なくゴールになり得た
  • 1866年にゴールポストの間へテープが張られ、ゴールの高さに上限ができた
  • 1866年時点で、ゴールの横幅8ヤード・高さ8フィートという現在と同じ寸法が使われた
  • テープは揺れたりたわんだりするため、得点判定にはまだ不安定さがあった
  • 1875年にテープの代わりとしてバーの使用が認められ、現在のクロスバーに近づいた
  • クロスバーの登場によって「枠内」「枠外」という現代的なシュート感覚が生まれた
  • 現在ではクロスバーは必須で、壊れた場合は修理・交換されるまで試合を再開できない

もし1863年のルールで試合をしていたなら、現代では「バーの上」とされるシュートも、ゴールになっていたかもしれません。

そう考えると、クロスバーは単なる横棒ではなく、サッカーの常識そのものを変えた存在だといえます。

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