クマは冬眠してもほとんど筋肉が落ちない!?【体重が3分の1も減っても大丈夫】

クマには、見た目の迫力だけでは語り切れない面白さがあります。大きな体で森を歩き回る姿も印象的ですが、実は「動かない時期」のクマにも驚くべき特徴があるのです。

第34回雑学調査レポートでは、そんな「クマ」に関する雑学をご紹介していきます。

目次

クマの冬眠は、ただ眠っているだけではない

クマは冬になると巣穴にこもり、数か月にわたってほとんど活動しなくなります。これがよく知られている「冬眠」というものです。

『National Park Service』によると、クマは冬眠中、食べず、飲まず、排尿や排便もしないとされています。さらに、春に巣穴から出てくるころには、体重を最大で約3分の1失っていることがあります。

普通に考えると、これはかなり危険な状態です。人間なら、長期間ほとんど動かず、栄養も取らない生活をすれば、筋肉は急速に細くなり、骨も弱くなります。

ところがクマは、長い冬眠を終えても、歩いたり走ったりする機能をかなり保ったまま春を迎えることができるのです。

そもそも筋肉には「使わないと落ちる」という性質があります。寝たきり、ギプス固定、宇宙滞在のように体を動かさない状態が続くと、筋肉は必要ないものとして分解されやすくなります。

これは骨も同様で、重力や運動の刺激が減ると骨量が減り、骨折しやすくなります。

そのため『PLOS ONE』によれば、冬眠する哺乳類は冬の間、数か月間にわたる休眠と飢餓を経験するとされています。また、人間では、長い不活動や栄養不足は筋力量の大きな低下や代謝異常につながります。

しかし、冬眠中のクマでは筋力の低下が限定的で、運動能力が保たれるとされています。これは生き物の常識から考えると、非常に例外的だと言えるでしょう。

体重は減るが、筋肉と骨は守られる

冬眠中のクマも体重は減っていきます。しかし、その減り方は単純な「やせ衰え」とは異なります。これは、主に夏から秋にためた脂肪をエネルギーとして使いながら、筋肉や臓器の組織をできるだけ守っていると考えられています。

『National Park Service』によれば、クマは冬眠中に脂肪を分解して水分とエネルギーを得ます。さらに、尿の主成分である尿素を再利用し、筋肉量や臓器組織を保つためのタンパク質づくりに役立てているとされています。

この「尿素の再利用」は非常に重要だと言えるでしょう。人間の場合、体内でできた老廃物は尿として外へ排出されます。ところが冬眠中のクマは排尿しないため、老廃物をただため込んでしまうだけでは体にとって毒になります。

クマはそれを処理し、再利用する仕組みを持っているため、長期間食べなくても体の組織を保ちやすいのです。

そして、さらに興味深いのは骨です。『Scientific Reports』の研究によると、ほとんどの哺乳類では不活動によって骨量や骨の強度が低下するのに対し、冬眠中のクマは4~6か月の不動状態でも、骨量を失わないとされています。

クマの筋肉は「分解されにくい」状態になる

筋力量は、簡単に言えば「作る量」と「壊す量」の差で決まります。食べて運動していると筋肉は維持されやすく、逆に動かず栄養も足りないと、体は筋肉を分解してエネルギーや材料に使います。

2019年に『PLOS ONE』で発表されたニホンツキノワグマの研究では、冬眠前と冬眠後の骨格筋を比べたところ、冬眠後も筋力の低下が最小限に抑えられていることが示されました。研究では、タンパク質の分解や合成に関わる仕組みが変化しており、これが筋肉量の減少を抑えることに関係している可能性があるとされています。

さらに冬眠中の筋肉では、分解の仕組みだけでなく、エネルギー利用や筋線維の性質にも変化が起きていると考えられています。つまり、クマの体は冬眠に入ると、筋肉を守るための複数のスイッチを切り替えている可能性があるのです。

冬眠中のクマの「血液」に秘密がある?

さらに驚く研究もあります。2022年に発表された『PLOS ONE』の研究では、冬眠中のニホンツキノワグマの血清を、培養したヒトの骨格筋細胞に加える実験が行われました。

すると、冬眠中のクマの血清を加えた細胞では、総タンパク質量が増加したのです。

『Hiroshima University』もこの研究を紹介しており、冬眠中のクマの血清には、筋肉の分解を抑える何らかの因子が含まれる可能性があると説明しています。

ただし、その「正体」はまだ特定されていません。

また、この話はとても魅力的ですが、行われた実験は、培養されたヒト骨格筋細胞にクマの血清を加えるというもので、人間そのものに投与されたわけではありません。人間に投与して筋肉を増やす薬ができた、というわけではない点に注意が必要です。

そのため現時点で言えるのは、「冬眠中のクマの血液には、筋肉のタンパク質代謝に影響する何かがあるらしい」ということです。

それでも、その正体を突き止めることができれば、将来的に、寝たきりの人や長期入院中の人、高齢者、宇宙飛行士などの筋力低下を防ぐ研究につながる可能性があると言えるでしょう。

まとめ

  • クマは冬眠しても筋肉量の減少が限定的で、骨量も減少しにくい
  • クマは冬眠中でも、脂肪や尿素によって筋肉や臓器組織を守っている
  • クマの筋肉量がほとんど減らないのは、クマの「血液」に何らかの因子が関係している可能性があるが、その正体は特定されていない

クマの冬眠には、まだ解き明かされていない謎が多く残されています。特に、筋肉や骨を守る仕組みは、寝たきりの人や高齢者、宇宙飛行士の体を守る研究にもつながる可能性があります。

森の中で眠るクマの体には、未来の医学につながるヒントが隠されているのかもしれません。

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