パンダといえば、両手で竹を持ちながら夢中になって食べる姿がおなじみです。何気ない食事風景に見えますが、じっくり観察してみると気になるポイントがいくつも見つかります。
第140回雑学調査レポートでは、そんな「パンダ」に関する雑学をご紹介していきます。
パンダには「6本目の指」のように働く部分がある
ジャイアントパンダが竹を食べる様子を見ると、前足で竹をしっかり握っているように見えます。人間が手で棒を持つ姿にもよく似ています。
この器用な動きを支えているのが、一般に「偽の親指」や「疑似親指」と呼ばれる部分です。
パンダの前足には通常の5本の指があります。それとは別に、親指のような位置で竹を支える部分があるため、「パンダには6本目の指がある」と表現されることがあります。
ただし、本当の指が6本あるわけではありません。偽の親指は、もともと手首にある骨が大きく発達したものです。

『Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute』によると、ジャイアントパンダは座って食事をすることが多く、この姿勢では前足を自由に使えます。そして偽の親指を利用しながら、竹の茎を前足に保持します。
「偽の親指」の正体は手首の骨
偽の親指の中心になっているのは、「橈側種子骨(とうそくしゅしこつ)」と呼ばれる骨です。
これは本来、指をつくっている骨ではなく、手首付近にある骨です。ジャイアントパンダでは橈側種子骨が大きく発達し、その外側を厚い肉質のパッドが覆っています。
この骨とパッドが組み合わさることで、5本の指とは反対側から竹を支えられるようになります。
『San Diego Zoo Wildlife Alliance』も、ジャイアントパンダには5本の指があり、それに加えて大きくなった手首の骨である「偽の親指」を使って竹を保持し、動かすと説明しています。
人間の親指とは仕組みが大きく異なります。
人間の親指は、ほかの指と向かい合うように動かすことができ、関節を使って細かく位置を変えられます。一方、パンダの偽の親指は、独立した1本の指として自由に動くわけではありません。
1999年に学術誌『Nature』へ掲載された研究では、CTやMRIを使ってジャイアントパンダの前足が詳しく調べられました。
その結果、橈側種子骨だけが単独で動いて竹を挟んでいるのではなく、周囲の骨と一緒に働く仕組みになっていることが示されました。橈側種子骨と反対側にある骨などが組み合わさることで、前足全体が物を保持するための装置として機能しています。
つまりパンダは、新しい指を1本増やしたのではありません。もともと手首にあった骨を利用して、親指に似た働きをする構造を発達させたのです。
パンダは偽の親指で竹を押さえている
偽の親指が最も分かりやすく活躍するのが、竹を食べる場面です。
パンダは5本の指だけで竹を握るのではありません。偽の親指を竹の反対側に当てることで、竹を前足の中に固定します。
たとえば、棒を片側だけから押しても安定しません。反対側からも支える場所があれば、棒を挟むようにして持ちやすくなります。パンダの偽の親指も、これに近い役割を果たします。
そのため、竹を口元へ運ぶだけでなく、竹の向きを変えたり、食べたい部分を口へ近づけたりできます。
1999年の研究では、橈側種子骨を含む前足の構造が、物を保持して操作するための一つの機能的な仕組みになっていると説明されています。人間のような本物の親指ではありませんが、竹を扱うという目的には十分役立つ構造です。
偽の親指は竹だけに使われるわけでもありません。
『Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute』では、同園で飼育されていたジャイアントパンダのメイシャンが、餌を取り出すパズル型の給餌器を偽の親指で持つ様子が紹介されています。
竹を食べる生活の中で発達してきた構造ですが、「物を保持する」という働きは、ほかの物を扱うときにも利用できるのです。
偽の親指がもっと長くならなかったのはなぜ?
竹をつかむために便利なら、「偽の親指がもっと長くなれば、さらに竹を持ちやすくなるのでは」と考えることもできます。
しかし、現代のジャイアントパンダの偽の親指は、人間の親指ほど長くありません。
この理由を考えるうえで重要なのが、2022年に学術誌『Scientific Reports』へ掲載された研究です。
研究チームは、現代のジャイアントパンダと古代のパンダ類の化石を比較しました。その結果、偽の親指には竹をつかむだけでなく、歩くときに体重を受けるという別の役割もあると考えられています。
ジャイアントパンダは、歩くときに足の裏を広く地面につける「蹠行性(せきこうせい)」の動物です。クマの仲間も同じような歩き方をします。
前足では手のひら側も地面に接するため、偽の親指がある場所にも体重がかかります。
もし橈側種子骨が大きく長く突き出していれば、竹はつかみやすくなるかもしれません。その一方で、地面に前足をついて歩くときには邪魔になる可能性があります。
つまりパンダの偽の親指には、「竹をつかみたい」という役割と「前足で体重を支えたい」という役割が同時に求められているのです。

現代の偽の親指には竹をつかむための「フック」がある
現代のジャイアントパンダの橈側種子骨を見ると、先端が手のひら側へ曲がった形になっています。
2022年の研究では、この曲がった部分が小さな「フック」のように働き、竹を保持するのに役立つと説明されています。
人間の場合は、親指そのものを曲げることで物を挟めます。一方、パンダには同じように自由に曲げられる親指がありません。その代わりに、橈側種子骨の先端が曲がった形になっていることで、竹を押さえやすくなっています。
さらに、地面側に当たる部分は比較的平らです。この形によって、歩くときにかかる力を広い範囲で受けやすくなっていると研究者は考えています。
現代の偽の親指は、「内側では竹をつかみやすく、外側では地面からの力を受けやすい」という2つの役割に対応した形だと考えられます。
「6本目の指」の歴史は約600万〜700万年前までさかのぼる
パンダの偽の親指は、最近になって現れた特徴ではありません。
2022年の研究では、中国・雲南省の水塘壩から発見された古代のパンダ類「Ailurarctos」の化石が調査されました。
この化石は約600万〜700万年前のものです。
Ailurarctosからは、大きく発達した橈側種子骨が見つかっています。研究チームは、この時代にはすでに橈側種子骨が物をつかむための偽の親指として機能していたと考えています。
しかも、この古代の橈側種子骨は、現代のジャイアントパンダより絶対的な長さでわずかに大きく、体の大きさに対する比率ではさらに大きかったと報告されています。
ただし、現代のジャイアントパンダに見られるような、はっきりとした先端のフックはまだありませんでした。
このことから研究者は、最初に橈側種子骨そのものが長くなり、その後、竹をよりしっかり保持できるように先端の形が変化したという段階的な進化を考えています。
偽の親指の存在は、パンダ類が竹を中心とする食生活へ適応してきた長い歴史を知る手がかりにもなっています。研究では、その起源が約600万〜700万年前までさかのぼる可能性が示されています。
人間の親指とパンダの偽の親指はまったく別の仕組み
パンダが竹を持つ姿だけを見ると、人間の手とよく似ています。
しかし、体の構造を見ると大きな違いがあります。
人間は、本物の親指をほかの指へ向けて動かし、物を挟みます。パンダの場合は、5本の指とは別に大きくなった橈側種子骨を利用し、前足全体で竹を支えます。
1999年の研究では、パンダの橈側種子骨は独立して自由に動く骨ではなく、周囲の骨と一緒に動く機能的なまとまりの一部だとされています。
そのため、「パンダにも人間と同じような6本目の指がある」と考えると、実際の構造とは少し異なります。
より正確には、「パンダには5本の指があり、それとは別に、6本目の指のように働く大きな手首の骨がある」と表現できます。
動物園では竹を持つ前足を観察してみよう
ジャイアントパンダが竹を食べているところを見る機会があれば、竹と口だけでなく前足にも注目してみると、その仕組みを観察しやすくなります。
パンダは竹を単に手のひらへ載せているわけではありません。5本の指と偽の親指の間に竹を保持し、食べやすい位置へ少しずつ動かしています。
『San Diego Zoo Wildlife Alliance』でも、ジャイアントパンダは5本の指と大きく発達した手首の骨を使って、竹を保持しながら操作すると説明されています。
竹を持つために役立つ先端のフックと、歩くときの体重を受ける平らな面。現在のパンダの小さな偽の親指には、食事と移動という異なる役割に対応してきた進化の歴史が残されています。
まとめ
- パンダには5本の指とは別に、「6本目の指」のように働く「偽の親指」がある
- 偽の親指の正体は、本物の指ではなく大きく発達した手首の骨「橈側種子骨」
- パンダは偽の親指と5本の指を組み合わせ、竹を前足に固定して器用に扱う
- 偽の親指は竹をつかむだけでなく、歩くときに体重を支える役割にも関係している
- 現代のパンダの橈側種子骨には、竹を保持しやすくするフック状の構造がある
- 偽の親指の歴史は約600万〜700万年前の古代パンダ類までさかのぼる可能性がある
- 「パンダには6本の指がある」ではなく、「5本の指とは別に、6本目の指のように働く手首の骨がある」と表現するのが正確
普段何気なく見ている、パンダが竹を持って食べる姿。その前足には、竹をつかむために発達した「偽の親指」という興味深い仕組みが隠されています。
しかも、この特徴は数百万年前のパンダ類にも見られた可能性があり、長い進化の歴史を現在まで残しているものでもあります。
動物園や映像でパンダを見る機会があれば、ぜひ竹を持つ前足にも注目してみてください。いつもの食事風景が、これまでとは少し違って見えるかもしれません。
参考文献
- Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute「Giant panda」
- San Diego Zoo Wildlife Alliance「Giant Panda」
- Nature「Role of the giant panda’s ‘pseudo-thumb’」
- Scientific Reports「Earliest giant panda false thumb suggests conflicting demands for locomotion and feeding」
- Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute「Celebrating National Panda Day」

